星界の小章   作:ケンタ〜

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斡旋(ロルソボス)

「あの……働かせてください」

「え?」

 

 あの少女……アマレが突然そんなことを言ってきた。

 アマレは執務室(ガホール)で、さっきまで男爵と一緒に話をしていたはずだ。

 その間私はいろいろと業務に励んで、いろいろとやっていたのだが、その途中で廊下にアマレに出会っていわれたのがコレだった。

 

「え? あ……え、なんで?」

「あの、男爵様にも行ったんですけど、『採用担当者はわたしじゃない』と言われてしまって……それで、センレーニュさんに」

「え? あの、私も採用担当じゃ……」

「え? でも、男爵はそうおっしゃって……」

 

 わたしはとっさに端末腕輪を確認した。

 すると、何やら以下のような通知が届いていた。

 

『あなたを第一号家臣として人事採用担当に命じます』

 

「ああ……」

 

 しかも届いたのはついさっき。五分前だった。

 

「じゃあ……そう言うことで」

 

 もちろん私に拒否権はない。

 ため息とともに端末腕環(クリューノ)の表示を閉じる。

 

「あ、じゃあ、なんで私に聞いたとかじゃなくて、何で仕事をしたいかを聞いてもいいかな……?」

「ハイ……男爵が明日来る定期船に、帝都(アローシュ)への報告と依頼を出してくれるそうなんです」

 

 報告というのは、この子のことに関しての事か。依頼というのは……この子についての調査以来の事かな?

 たぶん、軍令本部情報局(リュアゾーニュ・スポーデ・リラグ)あたりだろう。帝国において情報を司る機関で最も信用に足るのはあそこだ。

 考える私をよそに、アマレは続ける。

 

「でも、そもそも片道二十日くらいかかるらしくて、事が起こるにももっとも時間がかかりますよね。その間、私は何もしないわけには行かないじゃないですか。だから、ここで働かせてください!」

「そういうことなら、断るわけには行かないな」

「ホントですか!」

 

 というか、断ったところで、この子は路頭に迷う事すらできない。この男爵領(リュームスコル)には人が住める空間はここを除いて存在しないのだから。

 

「でも、何の仕事を任せられるのか……」

 

 仕事をすると言っても、問題はそこだ。

 そもそもこの城館(ガリーシュ)の仕事は私一人で事足りている。ついさっき「人事採用担当」なる新しい仕事が追加されたが、それでも私の手には余らない。というか、もっと仕事があってもいいくらいだ。

 

「うーん、じゃあ、君は何ができるの?」

「えっと……逆に何か余ってる仕事はありますか?」

 

 まあ……あるには、ある。

 この所領には何もかもが足りない。仕事を作ろうと思えばいくらでも作れる。例えば、男爵の身の回りの世話など。

 それでもこの城館が保てているのは、それらの業務を全て機械によって行っているから。

 料理などは今はすべて機械によって行われているし、掃除も機械清掃員(クネク・コウィキア)で十分だ。だがなんだかんだ言って人間がやった方が味があるし、融通もきく。

 人間にできる仕事は人間がやったほうがなんだかんだ良い。

 

 私が受け持っている事務というのは、本当に人間がやらなければならない仕事で会って、そうでない者ならば幾らでも仕事を作り出せる。

 

「うーむ……」

 

 だが、その中でもこの子には何ができるのだろうか。

 その中でも、より人がやった方が良い仕事で、ある程度初心者でもできる仕事は……

 

「あ、それでしたら、私、宇宙船の整備とかできますよ」

「え、そうなの?」

 

 思ったより、しっかりとした『できること』が飛び出てきた。

 

「はい。もともとコロニー間の物資の輸送とか、船の整備とかをやってましたから」

「あ、じゃあ、それだったら……」

 

 確かに、船の修理などはより人間がやった方が良い。

 故障個所を突き止めて、その状態に対して臨機応変に対処する。

 まさに人間の仕事だ。

 わざわざ高級な機会にやらせるよりも、人間にやらせた方がよほど安心感があるし、柔軟性も効く。

 

 それによく考えれば、この男爵領(リュームスコル)にはマトモな整備士がいないし、何なら船は一度も人の手によって整備されていない。

 ちょうどいい役回りではないか。

 

「あ、でも、つくりとか結構違うんじゃないのかな」

「じゃあ、設計図とか仕様書ください! そしたら勉強して頑張って理解します! そうじゃなくても、外装修理とか、簡単なことでもやらせてください!」

 

 随分なやる気と健気さだ。

 

 こうなれば、もうこちらが断る理由はない。

 

「そしたら一回、やってもらってもいいかもしれない」

「ホントですか!? やったー!」

 

 本人も乗り気のようなので、さっそく着艦甲板……城館(ガリーシュ)としては埠頭(ベス)に案内することにした。

 自走壇(ヤーズリア)を呼び出して、一緒に乗ってそこへ向かう。

 

 この城館(ガリーシュ)には、合計三つの(メーニュ)がある。

 一つは連絡船(ペリア)、二つは短艇(カリーク)だ。

 短艇(カリーク)のひとつは改造されていて、私がいつも使っている輸送艇(カソーピア)。もう一つは何も手のくわえられていない、純粋な短艇。

 連絡船(ペリア)もただの連絡船だ。帝国から借り受けている、時空泡発生機関(フラサティア)つきの船。

 

 そして残り一つの空きがあった。これは非常時の来客用に使うものだ。

 

「うわー……広い……というかデカいですね……」

 

 甲板に入るや否や、アマレは圧倒されているようだった。

 

 視界の左右に、二つずつ埠頭が存在している。

 右ふたつには短艇(カリーク)、左のひとつには連絡艇(ペリア)が接舷してあった。

 

 それらすべては透明な壁で囲まれており、それを通じて埠頭内に収まる船たちを見ることができた。

 

「それじゃあ、とりあえずこの短艇をみてもらおうか」

 

 私は一番手前にある、何の改造も施されていない方の純粋な短艇(カリーク)を指さした。

 

 改造されている方の短艇(カリーク)はもちろん、連絡艇(ペリア)時空泡発生装置(フラサティア)という複雑な機械がついているし、これが一番適当だろう。

 

 その短艇(カリーク)が止まっている場所には『第二格納庫』と書いてあった。城館(ガリーシュ)としては埠頭(ベス)扱いだが、もともとの巡洋艦としては格納庫なのだから仕方がない。

 

「こっちだ」

「は、はい……」

 

 手招きして、短艇(カリーク)へとつながる搭乗橋を渡る。

 

 その間にもアマレはあたりを見回していた。

 

「こ、これが短艇ですか……」

 

 短艇(カリーク)を見上げて、アマレが感嘆の声をあげた。

 

「ああ……まあ、アーヴとしては普通の(メーニュ)と言いたいところだけど。これは五十人乗り級の城館(ガリーシュ)搭載短艇(カリーク)だ。みたところ、どうかな。整備できそうか?」

「うーん……やっぱり、ぜんっぜん違いますね……。どこから手を出していいのやら」

「じゃあ、設計図を渡すよ」

 

 端末腕環(クリューノ)を起動し、城館(ガリーシュ)思考結晶網(エーフ)に繋げる。そこから、短艇(カリーク)の情報を呼び出した。

 

「これをそっちの端末……に……あ、無理か」

 

 そもそもアマレは端末腕環(クリューノをつけていない。

 うっかりしていた。

 帝国では、アーヴでなくともみんなつけているものだから。

 

「あ、大丈夫です」

 

 アマレは、自分の左腕を指でコンコンとこづいた。

 すると皮膚の表面が開き、内部の魔改造画面が顔を出してくる。

 どこまで身体改造にこだわれば、自分の腕の中に思考結晶(ダテューキュル)を内蔵しようと思うんだろうか……。理解に苦しむ。

 

「規格は違うかもしれないですけど、一回送ってみてください」

「送る……そもそも規格が違うのに、できるのかな」

『無差別無線送信の型で送信を行います』

 

 思考結晶(クリューノ)が珍しく柔軟に提案を出して来た。

 たまに肝心な時だけ仕事をしてくれるな、コイツ。

 

「じゃあそれでやってくれ」

 

 すると、すぐに『送信しました』の画面が表示される。

 

「あ、来ました。今電波規格を分析中です。あ、できました」

 

 どうやら簡単にできてしまったようである。

 まあ、もともとは〇と一の数字の羅列でしかないから、そんなものか。

 

 すると、彼女の左腕の魔改造画面に、映像が映し出された。

 

 短艇(カリーク)の立体設計図だ。

 よく見ると、アーヴ語ではなく、アマレの世界で使われているであろう文字で書かれている。

 男爵から翻訳資料でも貰ったのだろうか。

 そうだとしても、彼女の魔改造腕の思考結晶(ダテューキュル)端末腕環(クリューノ)と比肩するくらいの性能があるらしい。未知の電波型をこれだけ早く分析できるとは。

 

「そしたらじゃあ、いろいろと見てもらうか」

 

 私は搭乗橋につけられている整備用の足場に乗った。

 手招きをして、アマレもそこに乗らせる。

 

 画面を操作すると、足場が動いて、短艇の周りをゆっくりと動き始める。

 

「なるほど……」

 

 そう言うアマレは、魔改造画面と短艇(カリーク)を交互に見て、さっそく知識を吸収しているようだった。

 

 もうすこし回転速度を遅らせるように、足場に指示を出す。

 

 たっぷり時間をかけて、短艇の周りを一周した。

 そこで私はアマレに聞いた。

 

「何かわかったか?」

「は、はい……」

 

 心なしか、少し顔が興奮しているのか赤かった。

 

「やっぱり、設計図と一緒に見ても、見たことのない設計です。あちこちにたくさん感知器が意味わからないくらいについてますし、同じくらいに姿勢制御系がめっちゃあります。ただの短艇とは思えないくらいの性能なんですけど……。ていうか、最高加速力一〇G(二〇標準重力)ってなんですかこれ? 処刑用ですか?」

「あ、いや、別にアーヴとしては普通の加速度なんだけど……」

「ええ……。いろいろとおかしいですよ、この短艇」

「じゃあ、無理なのか?」

「無理とは言ってないじゃないですか」

 

 むっとした表情をアマレは向けてきた。

 

「とりあえず、二日間時間をください。この船の構造を把握して見せます」

「二日間? それで大丈夫なのか?」

「舐めないでください。これでも将来は宇宙船設計技師を目指してたんです」

 

 決意のこもった目で、彼女はビッと短艇(カリーク)を指さす。

 

「きっと完璧に、この短艇の整備くらいはこなして見せます」

「そうか、それならば、大変心強い。それでは、お任せしたい、アマレ技師」

「はい、任せてください、センレーニュさん!」

 

 自慢げに、アマレは胸をぽんと叩いて見せた。

 

「よし、じゃあこの契約書に名前と印鑑の方を……」

「あ、そういうのちゃんとやるんですね、銀河帝国なのに……」

 

 とまあそんな感じで、二人目の家臣、アマレ技師が我がアウポース男爵領(リュームスコル・アウポーサル)に加わった。





ハミサラ・アマレ

種族(フェーク):ヒト
年齢:情報なし(リラグダニ) ただし自分では自分のことを十代だと思っている
身長:一七〇ダージュほど
所属:情報なし(リラグダニ)

真っ黒の髪、長い睫毛。肌は少し焼けた小麦の色。
どこかの星系からやって来た、謎の女の子。
どうやって来たのか、なぜやって来たのか、どこからやって来たのか、いまいちはっきりしない。
彼女が所属していたというタハマガーラ星系は、人類のゆりかご太陽系の近傍にあったらしく、さらに戦時下にあったという。
現在は食い扶持のためにアウポース男爵領の艇整備技師となり、故郷の情報を探し求めている。

彼女が喋っている言語は、アーヴの言葉と起源を一にするものだが、思考結晶を除いて本人含め誰も気づいていない。

好きな食べ物はカレーライス。困ったことにアーヴでその食べ物の名を知るものはいないらしい。

ちなみに最初は男爵のことをセンレーニュの子どもだと思っていた。













アマレの口調が敬語に変わっているのは、センレーニュが年上及び上司であると認識したからです。礼儀正しい子
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