星界の小章   作:ケンタ〜

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戦利品(レンボーニュ・ブリューラ)

 二時間ほど捜索して、見つかったのは以下のものだった。

 

 包装容器と箱に入れられていた記憶片(ジェーシュ)

 直方体型の機械

 紋章(アージュ)が印された何かの部品

 

 何か意味を成すであろう物品はこれしか見つからなかった。まだあるかもしれないが、まあ焦る必要はない。

 

 短艇(カリーク)の操縦室に戻って、それらの物品を宙に広げた。

 無重力の中で、物品たちはふわふわと私の周りで浮き上がる。

 

 物品について説明しよう。

 一番最初のものはすでに解説した通り。

 二番目、三番目のものが問題だ。

 

 直方体型の機械については、見たことがないものだった。

 表面はどうやら合成樹脂(ゲーニュ)のようだ。形はかなり平べったく、横と縦が二十ダージュ(二十センチメートル)、高さが十ダージュ(十センチメートル)といったところ。重さは同じ面積の容器に水をたっぷり入れたくらいだろうか。抱えて持って移動できるくらいだが、正直重力下では機械にお願いしたいくらいの重さだ。

 表の一面にはいろいろな釦がついていて、もちろん私には理解できない。他の面には細かく縦に切れ込みのような穴が開いていたり、何かの接続口のようなものもあり、何かしらの独立した機械のようだった。それで破壊に巻き込まれずに済んだのだろう。

 三番目は、たまたま破壊されずに済んだ板のようなものだった。

 ほとんど平面体で、厚さは一ダージュ(一センチメートル)もない。一方の面に紋章のようなものが印されており、もう一方の面は真っ黒だった。何かの部品か、それとも独立した何かか、それとも装飾品か。

 印された紋章には、見覚えがあった。

 

 アマレが着ていたごわごわの与圧服(ゴネー)の腕に貼られていた、あの腕章(アセース)と同じだ。

 紋章(アージュ)は若干横に長い。左上の切り取られた部分に、紺色を背景として何十もの白い星々が等間隔に規則正しく配置されており、残りのそれ以外の部分には赤と白の縞模様が横向きに走っている。

 おそらくはアマレが所属していた国か組織か機関の紋章だろう。

 そして、その紋章の上に、四つの赤い文字が乗っている。

 それはすぐに分かった。アルファベットだ。

 

 地上世界でも広く使われるアルファベットについては知識がある。もちろん意味は分からないが、母親に雑学として対応する音の種類は教えられた。

 当時は何の意味があるものか、と思っていたが、こんなところで役に立つとは。

 

「えっと、……ぬ、あ、す、あ……?」

 

 口から出たのは何とも珍妙な発音だった。

 

 一応、それを思考結晶(ダテューキュル)に翻訳させてみる。

 

『地球時代に支配的な宇宙開発を行っていた機関の名称です』

 

 なるほど、そう言う事か。地球産の機関がアマレがいたという星系にも引き継がれていると。アマレのいた星系は地球とのつながりが強かったらしいので、それもうなずける。

 

「じゃあ、この紋章(アージュ)はなんだ?」

『地球に存在していたと思われる国の(グラー)紋章(アージュ)です。五十の星は、その国の――――』

「いや、解説はいい」

 

 もう存在しない国のことを覚えても、今は仕方がない。

 

 紋章(アージュ)の方は判明した。多分、何かの装飾品か身分証明書か何かだろう。

 

 今度は直方体の機械に目を向けた。

 

思考結晶(ダテューキュル)、これ何かわかるか?」

『内部を走査します……。失敗しました』

「失敗?」

『内部への電波干渉ができませんでした。何かしらの要因により、電波がはじかれています』

「なるほど」

 

 船にのせられるほどのものならば、それもうなずける。通常宇宙はあらゆる放射線が入り乱れる世界だ。この船ならば電磁障壁が常時展開されているため、特に問題はないが、すべての船にそのようなものがあるはずはない。物品にも細心の注意を注ぐのが常だろう。

 

「のこりは……これか」

 

 宙に浮かぶ箱を、私は手に取った。

 その表面に印された文字を眺める。

 

 それはアルファベットではない。アマレの文字だ。

 地球時代ではアルファベットはあらゆる文化圏に進出して用いられていたという。アマレの文化がその影響を受けながらも、独自の文字を持っていることは何もおかしくはない。

 

 箱の中から包装容器を取りだす。包装容器の表面にも、同じく文字が印されている。

 それも開いて、記憶片をあらわにした。

 

 中央にはめられているそれを、指で取り出す。

 

「……我々のものとは、やはり違うか」

 

 帝国(フリューバル)記憶片(ジェーシュ)の形式ではもちろん無かった。

 これを入れて再生するには、アマレの文化圏の再生機が必要になる。

 これに関しては、今はどうしようもない。

 

「よし」

 

 私は情報片(ジェーシュ)を包装容器にしまい、それを更に箱の中に閉まった。

 

 残りのものも、座席の下の物入れの中にしまい込む。

 そして空識覚(フロクラジュ)短艇(カリーク)に接続し、制御籠手(グーヘーク)をはめた。

 

「これより、帰還する」

 

 男爵城館管制(ブリューセ・ガリク・リュム)に一報を入れて、短艇(カリーク)を加速させた。

 

 

×

 

 

「それで、どうだろうか」

 

 アマレの部屋にて。

 彼女と共に椅子に座り、机に例の物三つを並べた。

 

「こ、これ……」

 

 すると、アマレは真っ先に、箱を手にした。

 朱色の本の表紙が印刷された箱。

 

「残って、たんだ……」

 

 それを手慣れた風に軽く振って、中から包装容器を取り出す。

 さらにそれを開いて、中の記憶片をあらわにした。

 

「君のものか?」

「はい、そうです」

 

 言って、彼女は自分の魔改造左腕を起動した。

 皮膚の一部がぱかりと開き、そこから画面がのぞいている。

 その画面の横には、小さな縦型の穴があった。

 

 右手で記憶片を手にして、彼女は穴に挿入した。

 

 何やら、わけのわからない文字が、画面のすべてを支配した。

 それは短艇(カリーク)の自己走査の際の画面表示を思わせる。

 

 しばらくして、画面から文字が一掃され、長方形に囲まれた何かを意味する文字列が大きく表示された。

 

 それがなくなると、画面にはいくつもの項目が表示された。

 項目には、地上世界(ナヘーヌ)でよく使用される形式の数字がそれぞれに振られている。

 

「これはなんだ」

「航行日誌です」

航行日誌(キリュースコス)?」

「はい。十年間の航行についてのデータたちです。船の状態とか、何が起こったかとか、どこを通っていたかとか……」

「それならば、君の船がどこを通ったのか、分かるのか?」

「はい、分かります。あと、船の設計図とかも入ってるはずです……」

「それはすごいな。君がどうやって平面宇宙(ファーズ)を通ったのかもわかるかもしれない」

「あ、でも……私が起きていた時まで、です。あくまで日誌なので……。映像とかそう言うのが残ってるわけじゃないんです」

「ああ、そう言う事か……」

 

 いや、だが、大きな収穫だ。

 バラバラになってしまった船のことが少しでもわかるのならば。

 

「えっ」

「どうした」

「……情報が……」

「情報が、どうしたんだ?」

 

 まさか……

 

「ごめんなさい……ぶっ壊れちゃってます……再生はできるけど、めちゃめちゃに文字化けしちゃってる……」

「なに?」

 

 アマレの左腕を覗き込む。

 私にはわからない。普通の文字が並んでいるように見えるが、どうやらうまく行っていないらしい。

 

「おかしいな、なんでだろ」

「……一つ聞いてもいいか? 心当たりがある」

「はい、なんでしょう」

「君の船の推進方式はなんだった?」

「反物質推進って記憶してます」

「君の船が壊れたときに、反物質が漏れ出したことによる影響かも知れない」

「あっ……」

 

 反物質……多くの場合反陽子は、物質と反応するときに膨大な熱量(オーラ)と同時に放射線をまき散らす。

 本来ならばそれらは電磁障壁などによってはじかれるか、専用の物質で受け止めるもの。

 

「あっ、ちょっと待って……じゃ、私の体って大丈夫……!?」

「大丈夫だ。もちろん検査したが、放射線はしっかりと君が着用していた与圧服(ゴネー)によって受け止められていた。君自身は何も問題はない」

 

 星界軍(ラブール)与圧服(ゴネー)と違って、アマレが着ていた者は放射線もしっかりと受け止められるようにできていたすぐれものだった。それだから、あのごわごわとした動きにくそうな作りになったのだろう。

 

「よかった……」

「じゃあ、君のその記憶片(ジェーシュ)に関してはこちらで預かっておいてもいいか。復元が可能かもしれない」

「あ、はい。お願いします」

 

 もちろん限度にもよるが、軽い崩壊程度であれば復元も可能だ。

 

「じゃあ、こちらを見るか。この直方体が何か、分かるか?」

「これ、プロジェクター(映写機)ですね」

映写機(エウルリア)?」

「はい……こんなの、積み荷に乗ってたんだ」

「積み荷? なのに把握していないのか?」

「あ、はい……あの、実はあの船って結構急突貫で出発したので……。なにせ、戦争の中での脱出だったもので」

「ああ、なるほど。じゃあ、これは? 何かの装飾のようなものか?」

 

 最後に、アマレに紋章(アージュ)が印された板のようなものを提示する。

 

「いえ、それはタブレット端末です」

端末板(ダテューケス)……端末腕環(クリューノ)のようなものか」

「はい……これも電池切れみたいですね」

 

 アマレは板の黒い面を指で数度叩いた。

 

「えっと、充電器……」

 

 魔改造左腕を何やらいじると、彼女の腕のまた別の部分が開いた。

 

「充電器って……君の腕って一体どうなってるんだ?」

「そんな変な目で見るのやめてくださいよ……」

 

 開いた部分には、細い紐のようなものが束ねられて仕舞われていた。

 その端を手にし、それを端末板(ダテューケス)の横の部分に開いた小さな穴に挿入する。

 

「……ダメらしいですねぇ……」

 

 しかし、何も起こらない。

 

「内部がやられているのかもしれないな」

「はい、多分」

「では、こちらも私があずかろう」

「お願いします」

「……なかなか、うまく行かないものだな」

 

 謎を解明する可能性になったかも知れない記憶片。だが、それは今の段階ではあまり役には立たないらしい。

 

「そうですね……」

「アマレ、君も何か話せることはないのか?」

「えっ、と……」

 

 さっきまで私に合わせていた目を、アマレはついと外した。

 

「……いや、無理にとは言わない。だが……」

「すみません……まだ、落ち着いてなくって……」

 

 まだダメか。

 今は、彼女に仕事をしてもらって気を紛らわすしかないようだ。

 彼女が来てから、まだ十日も経っていない。

 

 その時、私の端末腕環に着信が来た。

 

男爵(リューフ)からか……すまない、行ってくる」

「あ、はい……じゃあ、ありがとうございました」

「ああ、それじゃぁ」

 

 私はもろもろの荷物を持って、アマレの部屋から退出した。

 

×

 

「それで、いかがいたしましたか、ラスィーフ男爵(リューフ・ラスィーム)

 

 男爵執務室(ガホール・リュム)の中で、私は男爵に一礼をした。

 

「………」

 

 ん? どうしたんだろう。

 

 顔をあげると、男爵(リューフ)が少々意外そうな目で私を見ていた。

 

「どうか致しましたか?」

「……いえ」

 

 そう言えば、男爵(リューフ)の目がいつものに戻っていた。あの時違和感を覚えたあの目ではなく、会った時と同じもの。

 

「貴方に、少しお使いをと思いまして」

「お使い、ですか」

「ええ。こちらへ、ユリュア殿(ユリュア・ラン)

 

 言われ、男爵(リューフ)の座る机に近づく。

 

「これを」

 

 手渡されたのは、記憶片(ジェーシュ)だった。

 

「これはなんですか?」

帝国情報局(スポーデル・リラグ)への調査依頼です」

「なるほど。アマレのことに関してですか。となると、私はこれから帝都(アローシュ)へ……?」

 

 男爵(リューフ)は首を縦に振った。

 

「快速の連絡艇(ペリア)を、隣の邦国であるボーフ伯国(ドリュヒューニュ・ボム)へ依頼しました。明日にでも我が所領(スコール)着くでしょう。帝都(アローシュ)へは、片道十日もかからないはずです」

「なるほど……」

 

 もう決定事項ということか。

 それにしても、ボーフ伯国(ドリュヒューニュ・ボム)か。アウポース男爵領(ここ)に来るときの客船(レビサーズ)で出会った、ラムケーム氏のギュームさんは元気だろうか。手紙を出してくれるとかなんとか言っていたが、今のところまだ来ていない。

 

「それで、お受けしてもらえますか?」

「ええ、もちろんです、男爵(リューフ)

「…………」

 

 あれ、男爵の目が、またあの目(・・・)に変わった。

 

「あの……どうか致しましたか?」

 

 私は意を決して聞いた。

 

「……いえ、何でもありません」

「そ、そうですか……」

 

 彼女がそう言うなら、もう詮索することはない。

 一度否定した女の事実を再度掘り返すほど、私は無能ではない。

 

「それと、もう一つ」

 

 男爵(リューフ)が言う。

 

「あの少女、アマレも一緒に同行させてください」

「アマレも、ですか? 彼女は……」

外星系(キーヨース・ロト)からの迷い人(ラムゴーガ)です。帝国創建以来、アーヴが訪ねる側から尋ねられる側になったことは指で数えられるほど少ないものです。帝国情報局(スポーデ・リラグ)に調査する以上に、皇帝(エルミトン)に謁見する価値すらあの子にはありますわ。そうは思いませんか?」

「確かに、そうですね」

「それに、もしかすれば、帝国(フリューバル)の新たな領地(リビューヌ)となるかもしれません」

 

 帝国(フリューバル)は今まで、孤立した人類社会を見つけた後に、逃したことは一度もなかった。

 もちろんそれに対して『侵略』ととらえ反骨精神を持つ地上世界(ナヘーヌ)も少なくない。

 しかしアマレのいる星系(キーヨース)は、戦時下にある。

 帝国(フリューバル)は内乱状態にある星系(キーヨース)を放っておかない。その戦争を終わらせるために、介入する。

 それがもしかしたら、アマレの助けになるかもしれない。

 

 そう思っての発言だろう。

 

「もちろん、彼女の思いをたしかめるのが前提ですが」

 

 男爵(リューフ)は最後にそう付け加えた。

 

「分かりました、ラスィーフ男爵(リューフ・ラスイーム)連絡艇(ペリア)は具体的にいつごろに来るのでしょうか?」

「……」

男爵(リューフ)?」

「……いえ……明日の午前三時ごろに来る予定です。それまでに、もろもろの準備を済ませておいてください」

「了解しました。お話は以上でよろしいでしょうか?」

「ええ」

 

 男爵(リューフ)が首肯するのを見て、私も一礼をする。

 

「それでは、失礼いたします、ラスィーフ男爵(リューフ・ラスィーム)

 

 そして、私は執務室(ガホール)を去った。

 

 ……何か、男爵(リューフ)の様子がおかしかったような。

 あの目……。

 もしかしたら、男爵(リューフ)は体調が悪いのかもしれない。

 

 しかし、そんな中で、私やアマレ……数は少ないが男爵家(リュムジェ)家臣(ゴスク)の全員をこの所領(スコール)から遠ざけようとしている。

 なぜだろう。

 もしかしたら、男爵(リューフ)は少し静かな空間が欲しいのかもしれない。

 私が男爵家(リュムジェ)に来るまで、男爵(リューフ)は一人でこの諸侯を回していた。そんな中で私が来て、そこからアマレ、サンシャーヌ技師協会と、ずいぶんとこの所領(スコール)はにぎやかになった。

 だから、少し安静に思案する時間を欲しているのかも。

 

 だとしたら、私がこれ以上男爵(リューフ)のお気持ちを探るのは野暮というものだろう。

 

 とりあえず今は、その気持ちを尊重するために、アマレに話を聞きにいかなければ。










あとがき

原作には(たぶん)存在しないアーヴ語解説

端末板(ダテューケス)
脳髄(なづき)(datych)+板(éth)=datycéth

みんな、何が気になる? 今後の展開を考えるのでよければ教えて

  • アーヴの世界のこと
  • アマレのこと
  • 男爵のこと
  • センレーニュのこと
  • んなことよりこのまま続き気になる
  • パンケーキ食べたい
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