星界の小章   作:ケンタ〜

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食事中(レピューレラ・ラダシュ)

 

 と、その前に、わたしはまずアマレから預かった品の数々を調べた。

 この城館はもともとビルジュ級巡察艦(レスイー)だ。かつて巡察艦にあった機材のほとんどはそのまま残っている。

 その中には、思考結晶や機械類などを製造、修理できる場所も存在している。

 幸運なことに私はそれらの取り扱いに多少の覚えがあった。資格はないが、母親に叩き込まれた知識がある。

 

 しかし結果的に言えば、情報片(ジェーシュ)は残念ながら、何の役にも立たなかった。

 なぜならば、すでに放射線の嵐によってかなり複雑に分子配列が焼かれてしまっていたからだ。

 思考結晶(ダテューキュル)によると、専門家による復元が必要らしかった。少なくとも、今ここで再生することは不可能である、と。

 

 端末板(ダテューケス)についても同じことだった。こちらは金属製の表面に守られていただけマシだったが、少なくとも私の腕ではそれを元通りにすることは不可能らしい。

 だが、これは帝都(アローシュ)に行く理由にもなる。帝都であれば、修理屋の一つや二つ、あるだろう。

 

「……というわけで、アマレ。帝都(アローシュ)行く?」

「……あお、入ってふるふぁえにノックとかひてくえふぁへんか?」

 

 口の中に食べ物を一杯に詰めたアマレがもごもごと言った。

 

「食事中にすまない。とりあえず、これを」

「あお、ひょっほふぁっへふえぁへんか」

「……何言ってるかわからない」

「……」

 

 恨みがましい目で、アマレは口の中に入ったものを咀嚼し、飲み込んだ。

 

「あの、ノックぐらいしてください。女の子ですよ、私」

「すまない、うっかりしていた。だが、とりあえずこれを受け取ってほしい」

「なんですかこれ」

 

 怪しむような目で、アマレは私が差し出したものを受け取った。

 

「ブレスレット?」

「簡易型だが、端末腕環(クリューノ)だ」

 

 多分に装飾的な衣裳を凝らした、細い端末腕環(ダテューキュル)。その中央には緑色の模造宝石の見た目をした思考結晶(ダテューキュル)がはめてある。

 

「くりゅーの……あ、センレーニュさんもはめてるアレですか」

「そうだ。初期設定は自分でしてほしい。一応、君に伝わる言語に設定をしてある。それで、端末腕環(クリューノがあれば、自分の部屋に鍵をかけられる」

 

 これをさっき、記憶片(ジェーシュ)などを調べるついでで作って来た。

 見た目も一応こだわっておいた。私がはめているものよりかは少女にふさわしいだろう。

 

「あ、そうなんですか」

「次からはそれを使うといい。魔改造左腕よりも便利だろうし」

「……あの、魔改造左腕って呼び方なんとかなりませんか?」

 

 じとりとした目でアマレが見てくる。

 

「じゃあ何と呼べばいい? アーヴの世界でそんなものは見たことがない」

「MMPHです。マルチパーパス・マイオエレクトリック・プロスティセス・ハンドの略です」

「……? 古英語にはなじみがないんだが……」

「じゃあ、複合機能筋電義手です。これなら分かりますか

「ああ、なるほど。筋電義手(セーダ・クネク)か」

「なんで漢字で言うとすぐにわかるのに、色々とカタカナだけ伝わらないんですか……?」

「それは融通のきかない思考結晶(ダテューキュル)に行ってくれ」

 

 いまでも私は思考結晶(ダテューキュル)による翻訳を通じてアマレと会話をしている。伝わらないことがあったらそちらのせいだ。

 

「まあ、とりあえず、まず帝都(アローシュ)に行くかどうかを聞かせてくれ」

 

 彼女を訪ねたのはそっちが本題だ。

 

「帝都……」

 

 どうやら少し不安そうだった。

 

「なんか、怖いこととかありませんか?」

「怖いこと? 都会が怖かったりするのか?」

「いえ、別に……」

 

 アマレはためらいがちに目を泳がせた。

 

「あの……指導者の悪口を言ったら、無礼罪で処刑されるとか……ないですか?」

「……? 不敬罪ということか?」

「はい」

「あるわけないだ……いや、法自体はあるが……」

 

 帝国にまつわる不敬罪は有名な話だ……。

 

「あるんですか」

 

 すこしアマレが懐疑的な目になる。

 

「いや、もし適応されれば貴族(スィーフ)の半数、士族(リューク)でも三分の一が処罰の対象になるとかで、今まで一度も施行されたことはない」

「え……?」

「安心していい。それに、帝国(フリューバル)士族(リューク)でもない国民(リューフ)領民(ソス)に、忠誠をもとめることなどない。何を想像しているのかは知らないが、帝国はそんなに窮屈な場所じゃない」

「そうなんですか……? 人種隔離政策とか、強制招集とか、ないですか……?」

「何を考えてるんだ……?」

「独裁国家に対する個人的なイメージです」

「君の世界にはいったい何があったんだ? それに帝国(フリューバル)はなにも独裁国家じゃないぞ」

 

 この地上人(ナヘヌード)帝国(フリューバル)に対する想像はかなり度を越しているらしい。

 

「それに、帝国(フリューバル)は人間であるのならば、誰に対しても扱いを変えることはない」

 

 まあ、一つだけ例外があるが。

 アーヴ以外で空識覚器官(フローシュ)を有する人間。帝国(フリューバル)はそのような者に対して、国民(レーフ)となることを禁じている。

 つまり、生まれながらにアーヴでないのに、アーヴと同じものを持っている人間。

 たとえば、アーヴでもない人間が遺伝子改造でそれを得てしまえば、帝国(フリューバル)はそれを許さない。

 なぜならば、空間を担う種族はアーヴを置いてほかにいない、というのが帝国(フリューバル)の主張だからだ。

 アーヴ以外で空間を知る空識覚器官(フローシュ)を持つことを帝国は許さない。

 だがそう言う者に対しても迫害などすることは断じてないし、いち領民(ソス)として生きるのなら何か文句を言うこともない。

 その中でも色々と複雑な事情があるが、今は関係ないことだ。

 

「どうする、来るか?」

「……うーん……」

「さっき説明したとおりだが、行けば君の故郷のことを知ることができるかもしれないんだ」

「やっぱり、ちょっと不安……」

「……もしかすると、君の故郷(ムロート)を救う事もできるかもしれない」

「えっ」

 

 まあ、これはあまり言いたくなかった。なぜならば、確定事項ではないからだ。

 

「決まったことではないのだが……。帝国(フリューバル)は、孤立した、つまりは星間国家に属さない星系(キーヨース)を見つけると、それを帝国に編入するんだ。その中で、もし、その星系が内乱状態にあった場合はその戦争に介入する。そうすることで、君たちの星系を救える可能性がある」

「私の星系を……」

「どうするかは君次第だ。私一人で行ってもいいのだが、あいにく君の星系(キーヨース)について何も知らないし、情報局(スポーデ・リラグ)に提供できる情報もない。だが君が行って情報局に何か話すことで、事態が好転するかもしれない」

 

 われながら、かもしれないかもしれないとしか言っていないのが愚かしいのだが。

 

「……わかりました」

 

 意を決したように、アマレは言う。

 

「い、行きます」

「そうか、それはよかった」

「いつ、出発ですか」

「明日の十五時に出発だ。それまでに、荷物を整えておいてくれ」

「はい……わかり、ました」

 

 まだ不安が残る様子だったが、強い意志は垣間見える。

 

「じゃあ、また」

「はい、ありがとうござい、ました」

 

 それを背に、私はアマレの部屋から退出した。

 

 これで、アマレのことが何かわかるかもしれない。

 そう思うと心が少し楽になる。

 

 それにしても、もう帝都(アローシュ)に行くことになるとは。まだ二ヶ月も経っていないというのに。

 前回はほとんど帝都(アローシュ)に滞在することはできなかった。今回は、色々と見ることができるかもしれない。

 

 ……それに、前回はいろいろと災難があった。

 もしあの時のダーショ氏のアイツに出会ったら、一発殴らせてもらおう。

 










あとがき


ダーショ氏のアイツとは、このシリーズの初期に出てきたセンレーニュから金を騙し取って一泊したアイツのことです。

それとアマレにしゃべらせるときはカタカナ気にしなくてもいいので楽で楽しいです。センレーニュにしゃべらせるときは、日常の中でのカタカナを頑張って漢字にしなきゃいけないので頭を使います。それとルビ作業が地獄です。

みんな、何が気になる? 今後の展開を考えるのでよければ教えて

  • アーヴの世界のこと
  • アマレのこと
  • 男爵のこと
  • センレーニュのこと
  • んなことよりこのまま続き気になる
  • パンケーキ食べたい
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