星界の小章   作:ケンタ〜

16 / 23
距離(グネーレラ)

 という事で、次の日。

 

 男爵城館(ガリーシュ・リュム)埠頭(ベス)に来ていた。

 

「あっ、あのっ、センレーニュさん……」

「どうした、アマレ」

「あの、これ、服装……合ってますか?」

「ああ……」

 

 恥ずかしそうに、私の側に立っていたアマレ。

 彼女はアーヴ式の服に身を包んでいた。

 

 今までアマレに着させていた服もアーヴ式ではあったが、あれは客人用のゆったりとしたもの。

 しかし今彼女が身に着けているものは、星界軍(ラブール)式に近いけっこうぴっちりとしたものだった。

 これは与圧服(ゴネー)を兼ねた(メーニュ)用の服だ。

 そのため彼女の体の線がある程度強調されている。それが恥ずかしいのだろう。

 

「似合っていると思うけど」

「いやっ、そう言う事じゃなくて……なんかすごい恥ずかしいんですけど……」

「すぐ慣れる。ていうか私も同じ格好をしているから問題ないだろう」

 

 私のほうは幼少期から全く同じようなものを着ているので、何も問題はない。

 

「ええ……。でもこんな格好してたら……なんか……」

「ずっともじもじしているところ悪いが、もうそろそろ出発の時間だ。ほら、すでに連絡艇(ペリア)が来ている」

 

 私は埠頭(ベス)の左側を指さした。

 普段は空いている第四埠頭(ベス・ゴーナ)に一隻の連絡艇(ペリア)が止まっている。今回私たちが乗り込む、男爵(リューフ)が呼んでくれた(メーニュ)だ。

 

「わっ、わかりました……」

「そんなに胸や腹を隠した方が恥ずかしいんじゃないのか。そんなに悪い体でもないんだから、しっかりした方が良いぞ」

「セクハラですよっ!!」

「うわっ」

 

 いきなりアマレが声を張り上げた。

 せくはら……聞き覚えのない言葉だが、何か彼女の琴線に触れてしまったようだ。

 

「すまない。とりあえず、行こう。申し開きは後でさせてくれ」

「…………」

 

 むっつりとした表情のアマレと一緒に埠頭(ベス)へと歩いて行く。

 

 すると、搭乗橋(ファレール)の前に立っていた一人のアーヴ男性が、こちらに礼をした。

 それに返して、こちらも礼をする。

 

「この度は、ボーフ伯国運輸(カソベールラシュ・ボム)をご利用いただきありがとうございます。私は今回の連絡艇(ペリア)の航法を担当いたします、ノムグナ・ボルジュ=モモカル・アスキュルと申します。ユリュア・ボルジュ=ティエノアル・センレーニュさま、ハミサラ・アマレさま、今日はよろしくお願いいたします」

「お、お願いします」

「よろしくお願いします」

「それでは、こちらへ」

 

 ノムグナさんに案内され、搭乗橋(ファレール)へと乗る。

 そこから見える連絡艇(ペリア)の様相は、この男爵家(リュムジェ)にあるものとはかなり違っていた。

 

 ものすごく洗練されている。

 ありていに言ってしまえば、かなり小型だ。

 『快速の連絡艇』ということは、できるだけ無駄をそぎ落とした(メーニュ)という事なのだろう。

 平面宇宙(ファーズ)での速度は質量によって決められる。そのために、この(メーニュ)はできる限り軽くつくられているはずだ。

 

 ノムグナさんによって扉が開かれ、私たちはそこに乗り込んだ。

 搭乗区画(ドルゾクル)は結構狭い。

 

 前の方におそらく操舵室(シル・セデール)につながる扉が一つ、そして後方の居住区画に繋がる扉が一つ。

 

 予想通り、私たちは後ろの扉へと案内された。

 

「それでは、ごゆっくりどうぞ。出発は三十分後となります」

 

 言って、ノムグナさんはさっさと操舵室(シル・セデール)の方へと行ってしまった。

 

 かなり慣れた様子だった。この仕事をして長いのだろう。

 雰囲気からして、年齢もそれなりに上なはずだ。

 

「けっこう、狭いですね……」

 

 アマレが居住区画を見渡しながらそう言った。

 

連絡艇(ペリア)だからな。そこは仕方がない」

 

 部屋の規模は、男爵城館(ガリーシュ・リュム)にある居住区画を少し広くしたくらいか。

 一人部屋であればそれなりに広いが、二人で済むとなるとまあまあ狭い。

 

 今、私とアマレはそれぞれに用意された寝台に腰かけている。

 そして奥の方にはおそらく水回りに繋がる扉があった。

 

「まあ、九日程度だ。そこは我慢しよう」

「えー……」

「なんだ、その目は」

「あの、アーヴがどうか知らないんですけど……異性と九日も同じ部屋にいるって、なんか……いやです」

「一応同意しただろう事前に。説明もしたし、そのうえで良いかどうかも聞いて……」

 

 するとアマレがいきなりむっとした。

 

「やなもんは嫌なんです。ていうかセンレーニュさん、今まで行ってなかったんですけど大柄だし顔つきも怖いです。女の子はどうしたって警戒しますよ」

「はっきり言うな……。意外と強情だなアマレ」

「アーヴって気にしないんですか? こういうの」

「こういうの、とは?」

「大人の男の人と未成年の女の人が一緒にいるってことです」

「……?」

 

 いまいちピンとこない。それのどこが問題だというのだろうか。

 

「アーヴが、というか……まさか君が気にするとは思ってなかったから、私も気にしていなかった」

「いや、違くて。私がいたところでは、成人前の子どもと他人の大人が一緒にいたら危ないんですよ」

「なんでなんだ?」

「いや、なんでって……危ないじゃないですか。もし大人が子供に手を出そうとしたら……」

「手を出す……?」

「え、ピンとこないですか。男の人がやろうと思えば、どうとでもできるじゃないですか」

「なんだと? 馬鹿な。私がそうすると思っているのか?」

 

 私はかなりの衝撃を受けた。

 腹から感情が今までめったに感じたことのない沸き上がってくる。

 一瞬それに戸惑う。

 なんなんだろう、これは。

 そしてようやく自覚した。

 哀しみだった。

 

「私は男爵から君の面倒を任された身だ……そんなことはするはずがない」

 

 喉から自分でも驚くほど落ち込んだ声が出た。

 

「私はそんなにひどい上司だったか?」

「えっ……」

 

 アマレが衝撃を受けたような顔をした。

 

 彼女が男爵領(リュームスコル)に来てから、できるだけ彼女に対してできることをしたと思っていた。

 だが、その実、彼女に拒絶されそうになっている。

 別に彼女からの好意を求めているわけではない。恩を着せるつもりもない。

 しかし、ほんの少しでも信頼されていると思っていたのに。

 上司としてでもなく、少なくとも友人として。

 

 これは私のおこがましい押しつけなのだろうか。

 私は今まで友人と言えるものをそれほど持ったことがなかった。

 だから今回、アマレのことを友人と勘違いをして、信頼されていると私は驕ってしまったのか。

 いや、友人どうこうではなく、私がアマレの心理を知ろうとしなかったせいかもしれない。彼女が何を思っているのかなどを知ることもなく、一方的に考えを寄せてしまった。

 

 だがまさか、彼女に信頼されるどころか、強姦する可能性すら感じられていたとは。

 

「……すまない、アマレ。弁解させてくれ。私は君に対して手を出すことなどしない。君の生活を邪魔しないと約束する。だから……どうか、私がこの旅に同行することを許してくれ」

 

 思わず目を伏せる。だが、空識覚で彼女の表情が分かってしまう。

 眉根を寄せて、私のことを見下ろしている。

 私に対する困惑の表情。

 それに耐えられそうもない。

 額から頭環(アルファ)をはずす。

 その瞬間、一気に知覚が閉じて、私が認識できる世界は自分の目の前だけになった。

 

「あ、あの……センレーニュさん」

 

 伺うような、たどたどしいような声で、彼女は口を開く。

 それがいったいどのような感情がこもった声なのか、私にはわからなかった。

 

「なんだ……?」

「そ、その……べつに、そう言うつもりじゃなくて。ごめんなさい。言い過ぎちゃって」

「いや、いいんだ」

 

 考えてみれば、嫌がったのは彼女の文化故だ。

 その文化に配慮もせず、無理に同じ一つの部屋で過ごそうとしてしまった私の落ち度だ。

 

 加えて、彼女にこのような気まで使わせてしまったとなれば。

 ラスィーフ男爵(リューフ・ラスィーム)家臣(ゴスク)の名折れだ。

 

「…………」

 

 アマレはそのまま黙りこくっていた。

 

 ……これまでも私はアマレに対して押しつけがましかったのかもしれない。

 

 彼女の故郷(ムロート)はどうなっているかもわからず、戦時下の中で、命からがら逃げ伸びてきた。

 そして、見たこともない我々の異なる文化の中で過ごしていたのだ。彼女が抱える精神的負荷はかなりのものだったはずだ。

 私もそれを分かっていたはずだ。

 アマレも日に日に元気になって行っているように見えたが、あれは気丈にふるまおうとしていただけなのかもしれない。他人を安心させるために。

 それにかこつけて、私は色々と彼女に対してさらなる重荷を着せてしまったのかもしれない……。

 

 考えれば考えるほど、自分がみじめになって来た。

 

 彼女が嫌がるのを抑えて説得し、こんな連絡艇(ペリア)にまで乗せてしまった……。

 

「アマレ……」

 

 私はうなだれながら言った。

 

「は、はい」

「君さえよければ、今からでもこの旅は無かったことにしてもかまわない」

「えっ」

「君に負担をかけすぎてしまっていた……。君が嫌ならば、この(メーニュ)から降りてもいい。もちろん生じる違約金は私が払う」

「い、いや……」

 

 息を詰まらせる音がする。

 

「だっ、大丈夫ですっ!ついて、行きます。だから、そんなこと言わないでください」

 

 彼女の気遣い……。

 

「分かった。色々と、不安をかけてしまって済まない」

「っ……」

 

 私は顔を上げた。

 きゅっと結ばれた口元。眉に皺を寄せて、私を見る目。

 

 ……しまった。言い過ぎた。

 

 これ以上は、私は話すべきではない。

 訳は分からないが、彼女は私の言葉に対して不快感を抱いている。

 これ以上の私からの弁明は、ただの感情の吐露だ。よけい、アマレに負担をかける。

 

「少し、席を外す」

 

 少ししてから、私は言った。

 寝台からゆっくりと立ち上がる。

 そんな私を、アマレは上目遣いに見た。

 

「すこし操舵士(セーディア)と話してくる。その間、色々と自由にしていてくれ」

「っ……はい……」

 

 そのまま、私は外に出た。

 

「ふう……」

 

 搭乗区画で、ため息をついた。

 

 まさか、私があんな風に思われていたとは。

 

 今まで接していた人が少なすぎて知らなかった。私の格好が、威圧感を与えていたなんて。

 それに、思ったより私はアマレに信頼されていなかった。

 それどころか悪い気を起こす可能性があるとすら思われていた。

 

 アマレの方は、逆に私がここまで深く衝撃を受けるとは思っていなかった様子だ。

 アマレの認識が、私にもあると彼女も思っていたのだろう。

 

 おそらく、アマレの文化圏では、上司や部下の関係でも、たとえ職務上の事情でさえそれなりの距離を取るというのが当然なのだ。

 更に、男女の間の垣根が大きい。これは、色々な地上世界(ナヘーヌ)でもよく見られること。

 アマレが悪いわけではなく、これは文化の違いだ。そしてそれに配慮できなかった私の落ち度だ。

 銀河遍く星系(キーヨース)を支配するアーヴでも、すべての文化を受容するようなものではない。アーヴでさえ、ただのひとつの文化に過ぎないのだ。

 

 もっと、それを自覚せねば。アウポース男爵領(リュームスコル・アウポーサル)の人事採用担当としても、私個人としても。

 

 ともかく、もっとアマレとは距離を取らなければ。

 

 







あとがき

原作には(たぶん)存在しないアーヴ語解説

搭乗区画(ドルゾクル) dorzocrh
語源は『乗る所』
dore(乗る)+ zocrh(所)⇒dorzocrh

みんな、何が気になる? 今後の展開を考えるのでよければ教えて

  • アーヴの世界のこと
  • アマレのこと
  • 男爵のこと
  • センレーニュのこと
  • んなことよりこのまま続き気になる
  • パンケーキ食べたい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。