星界の小章   作:ケンタ〜

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心境(ソクルフリ)

 アマレは息をのんだ。

 目の前の一面に広がる星屑の海。

 その中心に、銀河が映っていた。

 

「あれが帝都(アローシュ)ラクファカールだ」

 

 そう言われて、アマレは思い直した。

 『まるで』、銀河系を横から見たかのようだ、と。

 

 幾つもの星々のような輝点たちが集合したその姿は、いつか学校で見た銀河の想像図そのまま。

 中心にいくほど光の密度は大きくなり、外側へ行くにつれて淡くなっていく。

 よく見ると、それらはほんの少しずつだが、互いに位置関係を変えて行っていた。

 まるで、自転する銀河の様相を、幾百万倍速でみたかのよう。

 アマレは開いた口がふさがらなかった――――あれ一つ一つが、この船の何倍も巨大な構造物たちだというのか。

 

 人類銀河の半分を支配する、巨大星間国家の中心。

 その衝撃は、予想をはるかに上回った。

 生まれも育ちも軌道都市であったアマレにとって、その規模の巨大さを地上出身の人間よりも、はるかに良く実感することができた。

 

 手の震えが止まらない……果てない真空空間よりも、悠久に広がる星々の海よりも、目の前のそれの方が、宇宙の広さをよりひどく実感させてくれる。

 私は何て小さいんだろう――――

 

「そろそろ、降りる準備をしよう」

 

 そう言って立ち上がるのは、ここ九日間の旅を共にした、上司ユリュア・ボルジュ=ティエノアル・センレーニュ。

 そっけなく言う彼は、アーヴ式のほんの小さなバッグを背負った。

 

「は、はい……」

 

 アマレの荷物はさらに少ない。彼女の持ち物は自分の左腕と、そこにはめたおしゃれな端末腕環だけ。

 緑色の宝石のようなもの――実際にはそれがコンピュータの演算部らしい――がはめられたそれは、環の部分にも繊細な意匠が凝らされていて、見るだけで気分があがりそうなものだった。すくなくとも、かつてのアマレの故郷でこんなものを手にしていれば、周りの同性からの羨望の的となったのだろう。

 

 だが、アマレはそれを見ると、ため息が出てきそうだった。

 これをくれたのは、上司であるセンレーニュだった。

 正直、最初にこれを提示されたときは、何かのプレゼントだろうかと思った。

 実際には業務上の品だったが、アマレの感性からすれば、そうにしては綺麗すぎたし、ものすごくうれしかった。

 しかし、問題はこれを手にした翌日のことだった。

 

 悲劇――というべきほどのものでもないかもしれないが、この腕環を見てため息が出るようになったきっかけは、二人でこの連絡艇に乗り込んだ時のこと。

 アマレはほんの冗談のつもりで、上司に一言言った。

 しかし、文化の違いか、上司センレーニュは、それを重く受け止めてしまったのだった。

 せめて怒り返してくれればよかった。もしくは、少しでもアマレが食い下がって、逆ギレでもすればまだよかったのかもしれない。そうすれば、少しでも誤解を解く可能性はあったのだから。

 

 今まで少し強引で、それでも気を使ってくれていた上司、センレーニュ。

 その時、彼は見たこともないような深い皺を眉間に寄せて、アマレに謝罪をして来た。

 アマレは驚きのあまり何も返せなかった。あろうことか、勘違いを含ませる冗談を言っておきながら、本当に勘違いされた時のことを一寸たりとも考えていなかったのだ。

 冗談ですよ、とも、本気で行ったんじゃないです、とも言えなかった。

 そうこう頭の中で混乱しているうちに、センレーニュは頭を下げて、更にアマレの側を離れて行ってしまった。

 それが決定打だった。

 

 生活空間は共有していたから、そのあとセンレーニュは戻って来た。寝泊まりする部屋は一緒だし、家具も共有だから物理的な距離は常に近い。

 だが、それからもセンレーニュの雰囲気は変わらなかった。

 彼はアマレに目も合わせなかった。アマレに対して、センレーニュ自身から話しかけることもなかった。

 そして、狭い空間をうまくやりくりして、多くの時間を、センレーニュはアマレからできるだけ離れるように使っていた。

 

 アマレは最初、自分の言葉のせいで、センレーニュに嫌われてしまったのではないか、と思った。

 だが、それはセンレーニュの気遣いだったことに後から気が付いた。

 

『異性と九日間同じ空間にいるって、そりゃ警戒もしますよ』

 

 たしか、最初はそんなことを言ったのだと思う。

 それは冗談交じりだった。

 しかし、これを聞いたセンレーニュは、そんな可能性は毛頭考えていなかったらしい。

 それを彼は真に受けて、アマレを警戒させないように、自ら距離を取っていたのだ。

 それに気が付いたのは、旅が始まって三日経ってからのことだった。

 

 そして九日が過ぎた。

 センレーニュは、アマレに『帝都』のことを色々と説明してくれた。

 しかし、どこかぎこちなかった。

 そもそもセンレーニュは何を考えているのか最初からわからない人だったが、そっけない人ではない。アマレはそう思っていた。

 なにせ、アマレにとっては命の恩人なのである。

 好意を寄せる理由こそあれど、嫌う理由などどこにもない。それに救出されてからの数日間は、センレーニュのおかげでずっと賑やかで、気を紛らわせることができた。

 感情が読めないながらも、その心のうちはきっと感情豊かで、ただそれを外に出すのが下手なだけなんだろう。

 そう、アマレは思っていた。

 

 だが、帝都の説明をするとき……センレーニュは、まるで音声を読み上げる機械かのように淡々とアマレに話すのだ。

 そこにほとんど感情をこめていなかった。いや、意図して感情を入れないようにしていた、というのが正しいのか。

 

 私と、心理的な距離を取ろうとしている。

 私が、ああやって言ってしまったせいで。

 私は、センレーニュさんのことを信頼できる人だと思っていたし、よければ友達のような関係になりたいとも思っていた。

 

 でも、そういえば、そのようなことを口に出すことは一回もなかった。

 一回もセンレーニュに対して好意を口で伝えたこともなかったし、自分からセンレーニュさんに何か気持ちを返すようなことをしたこともない……。

 

 それなのに、私はあんなことを言った。

 

 私の、驕りだった。

 

 センレーニュさんへの好意は全く伝わってなかったし、そもそもそれ以前に、センレーニュさんが自分のことをどう思っているかも、確かめたことはない……。

 

 私の一方的な感情が生んだ、最悪の行動だった。

 

 謝らなければ、弁明をしなければ……。

 

 が、センレーニュはほとんど自分の側にはいなかった。あれだけ毎日のように、自分を気にかけてやってきてくれていたセンレーニュさんが……。

 

 いや、それにかこつけて理由をつけて、九日間ずるずるとやってきてしまっていた自分がいるのはわかっている。

 でも……どうしても。

 これ以上が怖くて、何も言えない自分がいる。

 だって、センレーニュさんは帝都の説明を自分からしてくれた。私に話しかけて説明してくれたんだし、嫌われているという事はないはず。

 いや、そもそも、私の発言を慮って距離を取ってくれているだけで、私のことを嫌うとかそういう次元じゃないはず。

 

 アマレは大体そのような思念を、自らの頭の内に纏わせていた。

 

 人間は何かの理由をつけて、物事を回避する天才であることに気が付いて、それが結局時間の無駄と多くの場合悲惨な出来事を招く悪癖であるとわかったのは、しばらく後のことだった。

 

みんな、何が気になる? 今後の展開を考えるのでよければ教えて

  • アーヴの世界のこと
  • アマレのこと
  • 男爵のこと
  • センレーニュのこと
  • んなことよりこのまま続き気になる
  • パンケーキ食べたい
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