星界の小章   作:ケンタ〜

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自前(ビスサル)

 私は移動壇に新しい目的地を入力した。

 するとすぐに移動壇が向きを変え、進んでいく。

 

「どこにむかってるんですか?」

発着甲板(ゴリアーヴ)だ」

「それってこの船から出るってことですよね」

「ああ。今回の誕生日会はクリューヴ王宮で行われるらしい。クリューヴ王宮(ラルベイ・クリュブ)は都市船アブリアルの外にある」

「どれくらい遠いんですか?」

「どれくらい……わからない」

「え、なんでですか」

 

 不思議な目をアマレが向けてくる。

 

「向こうも動いているんだぞ。ここは真空空間だ。常に恒星アブリアルの捻じ曲げた時空の溝に従って構造物は動き続けている」

「あっ、そっか。宇宙でしたね、ここ」

「まあ、軌道の高低差で言えば一〇〇〇セダージュ(一〇〇万キロ)くらいか。船に乗れば一時間程度で着くだろう」

 

 アマレが目を見開く。

 

「すごいですね……? そんな、一〇〇万キロを一時間て……」

帝国(フリューバル)(メーニュ)の性能もピンからキリまであるからな。アウポース男爵領(リュームスコル・アウポーサル)にあった短艇(カリーク)なんて、ちゃんとした交通艇(ポーニュ)に比べれば(エール)(スィヤス)くらい違う」

「蟻と像……蟻は見たことありますけど像はないですね……」

「比喩だから気にしなくていい」

 

 恒星間航行をする中で、惑星の可住化のための生物が運ばれることは多々あるが、像を運ぶというのはあまり聞いたことがない。やけに大きいしそれにどこかと強力だ。

 

 そんなこんなで、アマレと会話をしているうちに発着甲板(ゴリアーヴ)についた。

 

「やっぱりちょっと混んでますね」

都市船アブリアル(ここ)帝国(フリューバル)の機能の中心を担っている場所だからな」

 

 私は端末腕環(クリューノ)を見た。

 

「あれだな」

 

 そして向こうの列を指さした。

 

「あ。はい」

 

 移動壇(ヤーズリア)から降りて、発着甲板(ゴリアーヴ)の列に並ぶ。

 それなりの人が一緒になって船に乗っていた。

 

「さすがに王女(ラルトネル)の誕生日会となると人が多いな」

「そうです、ね……ていうか、みんなアーヴ……」

 

 見ると、そこにいるのはほとんどすべてが青もしくは緑から紫に収まる青系統の髪の毛をした、美麗な容姿をした人々だった。

 

「なんか場違い感が……」

「心配するな。ここにいるのはほとんどが士族(リューク)だ」

「りゅーくって……あんまりアーヴの身分階級わかんないんですけど」

「一番普通の階級(レーニュ)だ。つまりみんな普通の人」

「全然そう思えないんですけど」

 

 どうやら地上人からしたらアーヴは少しとびぬけた存在である、という認識がアマレにもあるらしい。

 

 列の前の方に来ると、今回自分が乗る交通艇(メーニュ)がすぐ向こうに見えた。

 

端末腕環(クリューノ)をお願いします」

 

 と、船に乗る前に、乗務員らしきアーヴ女性にそう言われる。

 

「はい」

 

 言われた通り端末腕環(クリューノ)を提示する。

 

「ご協力ありがとうございます。次の方」

「あ、はい。お、お願いします」

 

 頬に汗をにじませながら、アマレは端末腕環(クリューノ)を提示した。

 端末腕環(クリューノ)の表面に映し出された情報。それを乗務員がじっと見つめる。

 

「…………?」

 

 乗務員が眉をしかめた。

 

「申し訳ありません。情報が確認できません」

「えっ…!?」

 

 アマレが声を上げた。

 なんだと?

 

 まさかアーヴではなくアマレの言葉で表示されたか?

 が、見てみると、それはしっかりとアーヴのものに変えられて表示されていた。

 

「どういうことだ」

 

 私は後ろから乗務員に話しかけた。

 

「お連れさんですか」

「そうだ。彼女は私と同じアウポース男爵領(リュームスコル・アウポーサル)家臣(ゴスク)だ」

「申し訳ないのですが……」

 

 乗務員はアマレをちらりと見た。

 

「この方が、帝国国民(ルエ・レーフ)であることを確認できません」

「何……!?」

 

 乗務員は自らの端末腕環を《クリューノ》使い、アマレの表示した情報を精査させた。

 

「やはり…………帝都(アローシュ)思考結晶網(エーフ)に、ハミサラ・アマレという人の名前は確認できません。つまり、この方の身分が証明できないんです」

「馬鹿な…………」

 

 人事採用担当として、領民(ソス)帝国国民(ルエ・レーフ)になる過程は知っている。

 募集事務所(バンゾール・ルドロト)星界軍(ラブール)に入ることを希望するか、若しくはそこでどこかしらの領地(スコール)家臣(ゴスク)になることを望むか。

 国民(レーフ)になるにはそれだけだ。たとえ無人星系でその星系に募集事務所(バンゾール・ルドロト)がなかったとしても、貴族(スィーフ)が判断して了承し、家臣(ゴスク)として迎え入れれば国民(レーフ)として認められる、というのは帝国(フリューバル)の多岐にわたる慣習法(ダルファース)で定められていることだ。

 アマレを採用した、という情報は男爵領(リュームスコル)に月に数度来る定期船に運ばれて帝都(アローシュ)へ行っているはず。

 

 しかしその情報が届いていなかったのか?

 

「あの、私……」

 

 アマレが不安そうに乗務員を見上げた。

 

「どうすれば…………」

「申し訳ありません……そうでないことは分かっているのですが……身分の確認できない違法入都者として、身柄を拘束させていただきます」

「なっ……」

「えっ……!?」

 

 すぐに警備従士(べリア)らしき人がやって来る。

 

「待ってくれ……何かの手違いでは無いのか」

「申し訳ありませんが、規則ですので。こちらとしても確認作業を当局に依頼しますので、あまり抵抗なされ無い方がよろしいかと」

「センレーニュさん……」

 

 アマレが私を見る。

 不安に満ちた顔だった。

 

「すまない……言う通りにしよう」

「それでは、こちらへ」

 

 警備従士(ベリア)が歩いていく。

 それに従って、列から抜けてアマレと一緒についていった。

 

「あの……」

 

 歩きながらアマレは声を漏らす。

 か細い声だった。今にも途切れてしまいそうだった。

 

 それに答えたのは警備従士(ベリア)だった。

 

「一度別室へ移動してもらいます。そこから当局による確認が行われます」

「当局……」

 

 まずいことになった。

 まさかアマレの身分が証明できないとは。

 一体何が悪かった? もしかして私がなにか間違えたのか?

 こんなことになるとは……。

 

「こちらへお入りください」

 

 案内されたのは、小さな個室だった。

 

「まもなく当局が来ます。しばらくお待ち下さい」

 

 入ると、そう言われた。

 そして扉が閉じられる。

 

 四畳と少しの小さな個室の中。

 そこに、私とアマレだけが残った。

 

「あの……これ……私、殺されたりしませんよね」

「アマレ……君は意外と図太いな」

「いやあの、本気で……」

 

 せめて冗談だったら良かったのだが。

 

「あの、私、密入国者扱い、ですか」

「どうやらその容疑がかけられているらしい」

「あの、それって帝国ではどれくらい悪いことなんですか」

「国家反逆罪の次の次くらいだな。重罪だ」

「え゛っ……」

 

 聞いたことのない声が出たな。

 

「やばくないですか…………実際私密入国したようなもんじゃないですか。いきなり他の星系から飛び込んじゃいましたし」

「それについては問題ないはずなんだが…………実際星界軍(ラブール)では何も言われなかったし、そもそも星間国家ではない多星系からの来訪者は歓迎されるのが常だし……」

「何かの手違いとかですか」

「そうあってほしいものだが……おかしいな。きみはれっきとした帝国国民(ルエ・レーフ)のはず」

 

 うーん……。

 

 帝国(フリューバル)の手違い、という線が一番大きい気がするのだが、しかし帝国がそのような間違いをするものだろうか……。

 帝国国民(ルエ・レーフ)の数は十億ほどだが、そう言ってもいくらなんでも登録の手違いなどということが……。

 

「あの、殺されないですよね」

「なんでずっとそこばっかり気にするんだ……?」

「やっと逃げてきたのに密入国で死刑はやです……死んだお父さんとお母さんに顔向けできません」

「重いな……。一応君の過去は聞いたが、なんでそこまで明るく振る舞えるか気になるぐらいだ」

 

 むっ、とアマレが口を尖らせた。

 

「そういうのってあんまり口にしないほうが良いんですよ。気にしないようにしてるんですよ、気にしないように。思い出したら三秒で泣けるんで。いまもちょっと言われて泣きそうです」

「それはすまない……が、なんと言葉をかけていいかわからない……」

 

 するとアマレは手をひらひらと振る。

 

「良いですよ、別に気にしなくて」

 

 言って、彼女は笑顔を作った。

 

「まあ、まだ死んだと決まったわけでもないですし」

「そうか……悪かった」

 

 私を前に取り繕っているのだろう。

 崩壊した軌道都市(ヴァーシュ)に人が生きる望みなど無いということは私でもわかる。何を隠そう、軌道都市を滅ぼして、百万の人々を死に至らしめた歴史を持つアーヴの一族に私も名を連ねているのだから。

 

「そしたら、センレーニュさん。センレーニュさんのお父さんとお母さんのこと、聞かせてくださいよ」

 

 話題を変えようとしたのだろうか、アマレはそう言った。

 それだったら乗らない理由はない。

 

「もちろん構わない、が……私に父親はいない。母親だけだ」

「え……」

 

 口から漏れた音を戻そうとするかのように、アマレは慌てて口を手で塞いだ。

 

「す、すみません、複雑な家庭事情があるとは思わなくって」

「いや、アーヴは皆こうだ。普通は片方の親しか持たないものなんだ」

「え……? どういうことですか。みんな結婚したら離婚するんですか」

 

 アマレが目を見開く。

 

「いや、そもそもアーヴは結婚しない。結婚という制度がアーヴには存在しないんだ」

「え、じゃあセンレーニュさんはどうやって生まれたんですか……単一生殖ですか」

「のようなことをする人もいる」

「え゛っ……!?」

 

 再び彼女らしからぬ声が出てくる。

 

「が、私の場合は違う、と聞いている。母親の想人(ソーフ)が居て、その人に遺伝子をもらって母親の遺伝子と結合させ、それで私が生まれたらしい」

「遺伝子の結合って……言い方ロマンチックですね」

「ああ……」

 

 はるほど、そういう事か。

 たしかに、地上世界出身ならば普通はそちらを考えるだろう。

 アマレももしかしたらそうやって生まれたのかもしれない。

 

「性行為をする場合もある。大抵は女性の側が遺伝子を欲しがった時か、恋が極まった時にするものだが……」

「あっいや……あの、そこまで聞いてないですっ。言わなくていいですから」

「性行為をする場合もあるが、アーヴの殆どは人工子宮(ヤーニュ)を用いて子をつくる」

「えっ、人工子宮…………」

 

 アマレは思い至るところがあるように呟いた。

 

「そこは別に珍しくもないだろう」

「まあ……はい。でも普通は、その……自前の、っていうか……えっと……」

 

 いや、なんだ自前の子宮って……とアマレが小さく呟いた。

 

「アーヴにも自前の子宮(ヤーニュ)はあるが。稀に奇怪な体験をしたくて自分の子宮で子をつくるものもいる」

「いや、別にそういう情報大丈夫ですから……でも、人工子宮で子どもつくるときも、確かにありますね……子ども作れない女の人もいますし」

「まあ、とどのつまり、結婚制度を持たない上に男女関係なく自分で子どもを作れるアーヴには、親は片方しかいないのが普通だ。だから、父親の娘、母親の息子、という言い方があったりするんだ。分かってくれたか?」

「うーん、変な感じですね……なんかあまりにも普通の人間とかけ離れてるっていうか。しかも遺伝子もいじるんですよね」

「ああ、いじる。帝国法(ルエ・ラゼーム)により、遺伝子には数千の塩基配列の指定がある。それにより、地上出身(ナヘヌード)のホモ・サピエンスの子を遺伝的なアーヴとして生むこともできる」

「う〜んなんか……生命の冒涜って感じがします」

「言ったら悪いが、こっちからしたら君の左腕のほうがそう感じるな。もちろんわざわざ切り落としたわけじゃないのだろうが……」

「あ、これですか」

 

 アマレの左腕の皮膚一部がパカリと開き、そこから画面が見えた。

 

「私、生まれたときから左腕がなかったので」

「遺伝子異常だったのか?」

 

 アマレは頷いた。

 

「聞いた話によると」

「だったら、そんな大それたことをするよりも、遺伝子に手を入れて治せばよかったのに、と私の価値観では思ってしまう」

「私達からすれば、どんな理由があっても遺伝子改造は禁忌なんです。まあ、アーヴの世界に来てからはゆるぎまくりですけど」

 

 アマレは開いた魔改造腕を閉じた。

 

「それで、まだお母さんのことを教えてもらってませんけど」

「ああ……そうだった。…………」

「どうしたんですか?」

 

 うーむ……。

 

「私の母親…………」

「もしかして、あんまりいい思い出が……」

「…………今思えば、母親の教育は悪くはなかったのだが……正直、親らしい人かといえば全くそうではなかった」

 

 目を閉じる。

 すると、すぐにでも瞼の裏に、あの母親の顔が思い浮かぶ。

 

「常に眉間に皺を寄せているような人だった。私を愛していることは十二分にわかるのだが……しかし母親からの教育は、わりかし恐怖でしかなかった」

「えっ……DVってやつですか」

「でぃーぶい……どういう意味だ」

「家庭内暴力ってやつです」

「いや……まあ、それがなかったわけでもないが……」

「あったんですか…………」

「まず、私は『母親には絶対服従』という概念を叩き込まれた。母親が何を言ったとしても、必ず従えと……嫌でも絶対に従え、というのがまず大前提として私の遺伝子には叩き込まれた」

「えっ、遺伝子レベルで刻まれてたんですか!?」

「いや……比喩だ。後天的にでも刻まれるくらいにすごかった、という意味だ」

「いや、アーヴが言うと冗談に聞こえないですよ」

「まあともかく、私は完全なる母親の子として育てられたんだが…………まあ、人としては悪い人ではなかったし、たまに私情が入らないでもなかったが、基本的には客観的に正しいことを言う人だった。理不尽なときもあったが」

「かばいきれてないですよ……」

「まあ、私もそれを受け入れてはいたわけだ。母親のことは嫌いではなかったし、まあ耐えられないわけでもなかったから、このまま母親の子として生きようと思っていた。だがそんなある日、私は家を追い出された」

「え゛っ……。すみません、センレーニュさんのお母さんには悪いんですけど、もうただのヤバい人ですよお母さん」

「まあ、私も……うん、驚いたのだが」

 

 危ない、危うく他人に母親の悪口を言ってしまうところだった。

 ここでも私の遺伝子には母親の恐怖が刻まれている。

 

「それでなんやかんやあって、たどり着いたのがアウポース男爵領(リュームスコル・アウポーサル)だった」

「なんやかんやにたくさん事情が含まれてそうなんですが」

「すまない、もう思い出したくないんだ……」

「あっ、はい………」

 

 アマレはすんなり引き下がった。

 

「まあ……いきなりある日、『ラクファカールへ行け』と言われて、数日分のお金と一緒に帝都(アローシュ)への連絡船へ放り出されてな……」

「あ、言うんですね」

「まあ、そこで驚いたんだ。母親と離れて別段悲しくもない自分に。自分は完璧な母親の子だと思っていたのだが……母親の育て方は奇妙なことに、私を母親に依存させる育て方でもなかったんだ。本当に奇妙な話だ。母親のことを恋しくは思っているが、別段すぐに会いたいというわけでもない……」

「…………あの、感傷に浸ってるところ悪いんですけど……ごめんなさい、ぜんっぜん分かんないです。アーヴってなんなんですか? 面白びっくり箱かなんかなんですか? 普通に育児放棄とかですよね?」

「アーヴの帝国法(ルエ・ラゼーム)は家庭内のことにはとことん無頓着なんだ」

「それにしたって限度があると思うんですけど……ていうかセンレーニュさん、ちょっと目が死んでるとか、ごめんなさい、会った時から思ってたんですけど、なんか理由がわかった気がします」

「まあ……私も心当たりがないでもない。だがそれがアーヴのやり方というものだ。事実私はそれなりにうまく行っているし」

「子どもは親の満足するための道具じゃないと思うんですけども……申し訳ないんですけど、センレーニュさんのお母さんってちゃんとセンレーニュさんのこと考えてたんですか」

 

 少し咎めるような口調だった。

 

「それは断言できる。母親は私のことを愛していて、私がしっかりとした人間に育つことを望んでいた。ただ少し親としては不器用だっただけだ。まあ、地上世界(ナヘヌード)の基準からしたら家庭内暴力かもしれないというだけで」

「激しくなにかが間違ってる気がするんですけど……」

「そういうアマレの世界には、家庭内に介入する法があったのか? そちらのほうが私としては珍しいが。子育てのやり方を公権力が制限しても良いものなのか? 国が意図して子どもあり方を規定しているような感覚がするが」

「あ、う〜ん……確かに言われてみればそうかも知れないですけど……それでも、最低限ですよ。子どもを大事にして、ちゃんと育てる。それだけです。絶対に傷つけちゃいけないし、もしそんなことをしたら親は親権を取られます」

「親の権利を? いくら公権力でもやりすぎじゃないか? そうしたらその子はどうなる?」

「もう片方の親に養われるか、施設に引き取られます」

地上世界(ナヘヌード)は両方の親がいる前提で家庭が経済的にも成り立っていると聞く。それで子の未来は大丈夫なのか」

「う〜ん……痛いとこつきますね……すいません、あんまり考えたことなかったです。でも、ずっと親に虐げられるよりは、マシなんじゃないかと……」

「親の親権を奪ったほうが子どもの未来がマシだと判断される程度が甚だしいときのみ、ということか」

「ん〜まあ、たぶん、はい。あ、里親に引き取られるってこともありますよ」

「そのほうが幾分か安心だな……アーヴの世界では、子は親が育ててこそ完成すると考えられる」

「なんか、道具っぽくてあんまり……子どもには子どもの個性がありますし」

「それはもちろんそうだ。しかし、重要なのは家風(ジェデール)の継承だ」

「じぇでーる…………?」

「その家の文化を、今まで引き継いできた歴史を、親から子へと受け継ぐんだ。それが家風の継承(ロンジョス・ジェデール)。その家の誇りも一緒に、子は家の将来そのものを引き継ぐ。帝国(フリューバル)が続く限り、子も、その次の代も続いていくのだから、これを軽んじることはない」

「なんか……すごいですね。あんまり家系とか意識したことなかったかも……」

「私の家……ユリュア家は地上世界(ナヘヌード)の者を祖先に持つボルジュの家だが、それでも千年間続いてきた。アマレ……君のハミサラ家も人の家なのだから、そういうのはないのか?」

「いえ全く……かなり昔に主星からコロニーに移り住んだってこと以外はぜんぜん。家風とかそういうの考えたこともないですし」

「家と子の結びつきが弱いのか」

「そうかも知れないですね……普通に子どもが家から出ていって一人暮らしでずっと自立、ってこともありますし、あんまり家庭内うまく言ってない人とか特に……」

「ふむ……じゃあ、分家とかの関わりなどもないのか……」

「分家……そんなの創作か超金持ちだけの話かと思ってました」

「いや、別にユリュア家が裕福というわけではない。この家には分家が三つある。私はボルジュ=ティエノアル(borgh tienoar)だが、八百年ほど前に分かれたボルジュ=ヤーシン(borgh yachinr)、つい四百年前に分かれたボルジュ=ワンイル(borgh wanyir)、ほんの二百五十年前に分かれたボルジュ=マルローク(borgh marloecr)がある。ほとんど顔を合わせないのだが、今でも年に一度の交流が我々にはある」

「え、二百五十年前がほんのって……なんか感覚バグって来たんですけど…………参考までに、どなたが宗主を?」

「宗主というか、そんな厳格なものはないが、一応私の家が中心となっている。しかし一番経済的な力が大きいのはボルジュ=ヤーシンだ。それなりに起業に成功して豊かな財を築いているらしい。ボルジュ=ヤーシンの現在の当主はバロールという男のアーヴだ。ボルジュ=ワンイルはエーフという女性のアーヴ。この家は一番芸術面で秀でていて、名のある音楽家などを輩出している。その面からの財もあるようだ。ボルジュ=マルロークはボールノスという男のアーヴ。この家は分家の中で最も多くの者が星界軍(ラブール)に所属し、そうでなくても誰かの家に仕える事が多い奉公人気質のある家だ。だからその分の収入も多いらしい」

 

 …………そう考えると……内の家は何も無い。

 いたずらに重ねた歴史と、始祖ティエノアの直系の家というだけだ。当の時期当主である私もこの体たらく。

 

「こう考えてみると、ボルジュ=ティエノアルには何も無い。今考えれば、母親もそれに焦っていたのかもしれない」

「でも……千年って、相当すごいですよ」

「一応、帝国創建以来の貴族(スィーフ)士族(リューク)に次ぐ歴史ではある……が、それだけだ。同じようなボルジュの家は他にいくらでもある」

「そんなことないですよ……だって、私を助けてくれたじゃないですか。すごいことですよ。他の星系から来た人を見つけた人なんて。もしかしたら歴史に残るかも……」

「ありがとう。そう言われると少し救われたような気がする」

 

 が、別にそれも珍しいことではない……。

 新しい星系(キーヨース)は、今この瞬間にも平面宇宙(ファーズ)探検屋(ハースィア)によって見つかり、新しい貴族が封ぜられている。

 さっきも、ハイド星系(キーヨース・ハイダル)などというものが見つかったというのを星界軍(ラブール)で聞いたばかり。

 

「まあ、私も何かになろうと焦っているわけでもない。ともかく、今は目の前のことで精一杯だ…………当の助けた君をこんな小部屋に閉じ込めてしまったのだし」

「あっ……そうでしたね……じゃあ、これからどうす――――あ」

 

 噂をすれば、か。

 

 その時、扉が音を立たてて開いた。

 

 そこには、胸に星界軍の紋章をつけた男のアーヴの姿。

 

警備隊(ベレラシュ)より依頼を受けてきた、星界軍(ラブール)のカシュナンシュ・ウェフ=ゴース・エールだ。両名とも、これより星界軍へと身柄を移行させてもらいます」

「えっ……!? カシュナ……むっ」

 

 言いかけたアマレの口が塞がれる。

 そして、小声でアマレの耳のそばでことばが紡がれる。

 

「すまない、こちらで手違いがあったようだ。しかし、一旦星界軍(ラブール)に来て貰う必要がある」

 

 その目が、私の方にも向く。

 何があったのだろうか。

 

「いいか?」

「ええ……ですが、一体何があったんですか」

「その説明はすぐにでも。しかしともかく星界軍《ラブール》に来て貰う必要があるのです」

「アマレ……どうする?」

 

 口を塞がれ、アマレはもごもごと口を動かす。

 

「は、ふぁい、わたひはだいじょううでふ」

「それでは、これをつけてもらいます」

 

 アマレの口を塞いでいた手が離れる。

 代わりにカシュナンシュの手には見慣れないものが。

 アマレが興味深そうにそれを見る。

 

「これ……手錠……?」

「心苦しいのですが、どうか」

 

 アマレ、私の順で、人生始めての手錠がつけられた。

 

 そのまま、小部屋を出させられる。

 

 と、警備従士(ベリア)たちが厳しい顔でこちらを見ている事に気がついた。

 怪しむ顔だ。彼らの中では我々が密入国者とその仲間と確定したらしい。まあ手錠までつけているのだから犯罪者以外の何物でもないのだが。

 そして、その先に、何やら厳重な警備がついた移動壇(ヤーズリア)が置かれていた。

 いつもの、手すりのついた板、のようなものとは違う。それは一目で見れば箱だった。

 動く小部屋のようなもので、おそらくは中に入れるようになっているのだろう。

 

 厳しい顔でカシュナンシュが口を開いた。

 

「ここに乗れ」

「あっ、は、はい」

 

 おそらくは演技なのだろう。

 それに従って開かれた扉から入る。

 一緒にカシュナンシュも乗ると、それは直ぐに出発した。

 

 そして、カシュナンシュが溜息をついた。

 ガチャリ、と音がする。

 

「あっ……」

 

 私とアマレの手錠が音を立たてて外れた。遠隔操作が可能らしい。

 

「申し訳ありません、ユリュア殿、ハミサラ殿」

 

 心底申し訳ないという顔で、カシュナンシュがこちらに目を向けた。

 

「手錠を」

「あ、はい」

 

 外れた手錠をカシュナンシュに渡すと、それを腰帯(クタレーヴ)に仕舞った。

 そして改めて口を開く。

 

「今回の出来事は、実は意図されたことであるということをお伝えしなければなりません」

 

 それはおそらく、アマレの身分証明の話だろう。

 

「では、アマレが密入国者と言うことは間違いだったと」

「はい。我々の方で、わざとハミサラ殿の個人情報を参照できないようにしておりました」

「よ、よかった……」

 

 アマレが安堵の息をついた。

 

「で、でも、なんで?」

「まずは、このような手荒な方法を取ってしまったことをお詫びいたします。しかし……」

「しかし?」

「こうでもしなければならない事情があったのです」

「それってなんですか」

 

 アマレが乗り出して尋ねる。

 カシュナンシュは口ごもった。

 そのことを告げても良いのだろうか、という様子だ。

 しかしすぐに決心の付いた様子になって、彼は言い放った。

 

皇帝陛下(スピュネージュ・エルミタ)が、お会いしたいと」

「えっ……!?」

 

 アマレの喫驚が小部屋に響いた。

みんな、何が気になる? 今後の展開を考えるのでよければ教えて

  • アーヴの世界のこと
  • アマレのこと
  • 男爵のこと
  • センレーニュのこと
  • んなことよりこのまま続き気になる
  • パンケーキ食べたい
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