星界の小章   作:ケンタ〜

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アーヴの求職(バール・ブロベコス)

「ダーショさんは、すでに出払われています」

「は……?」

 

 朝一番に、私は受付に告げられた。

 

「え、……え? どこ行ったんですか?」

「さあ……あ、一言『若い奴によろしく』と言っていました。『大丈夫そうだから家に帰るねって伝えといて』って」

「は……??」

「あ、それと……代金はあなたが支払われる、と……」

「は?????」

「なので、代金は三スカールと六〇〇〇シェスカールになります」

 

 そんなわけで……私は、路頭に暮れた。

 

 残金、一スカールと四〇〇〇シェスカール。もうあと一晩も宿に泊まることはできない残金だった。

 

 ダーショ・ウェフ=クテーム・ロブジェールめ……。

 

 次会ったら何と言ってやろうか。

 

 言ってた事たぶん全部嘘だ。あんな人がカセール伯爵の想人なわけない。

 

 顔も名前も覚えているから、後で当局に通報してやろう。あんなもの泥棒以外の何物でもない。

 もしかしたらあいつこそが路頭に迷っていた変人だったのではなかろうか。それで、世間知らずの若者がいたからだまして一晩の宿をとろうとしたのかもしれない。

 

 され、これからどうしようか……。

 

 あと一晩も泊まることができない残金では……。

 たぶん、これじゃ、家があるカセール伯国に帰ることもできない。

 まあ、そもそも五スカールあったとしても、カセール伯国に片道帰るための値段にすらならないのだが。

 

 そもそも最初から、母親は私をただでカセール伯国に返す気はないらしかった。

 

 今、私に必要なのは働き口だ。

 

 いきなり帝都ラクファカール、それも都市船アブリアルで職が得られるとは思えないのだが、今はそれしか道がない。

 あの忌まわしきダーショのように、他人をだまして金をせびるなんてことはできない。

 

 私は端末腕環を起動した。

 

 そこに入っている、帝都ラクファカールの情報を呼び出す。

 ここに来る前に入れておいてよかった。これが無ければもうどうしようもなくなるところだった。

 

「求職窓口、検索」

 

 思考結晶(ダテューキュル)が一瞬で検索結果を出して来た。

 

 都市船アブリアルに、何か所かあるらしかった。

 

 検索範囲を増やして検索すると、この船の外に、そのようなものはいくらでもあるようである。

 

 ……やっぱり、間抜けだな……。

 

 帝都まで来て、まさか求職窓口を探すはめになるとは。

 

 いや、まずは求職窓口より、帝都にいるかもしれない知り合いを訪ねてみよう。

 

 我が一家は大したことのない一家でも、いくらかの分家はある。

 私の家が始祖ティエノア直系の一家で、その途中で分岐した家があるのだ。

 

 我が家がボルジュ=ティエノアルならば、他の家は、年代が古い順に、ボルジュ=ヤーシンとボルジュ=ワンイル、そしてボルジュ=マルロークの三つが存在していた。

 

 そのどれかは、たまたまラクファカールにいるかもしれない。

 

 そう思って思考結晶に分家への連絡を命じる。

 

『おかけになった番号は、半径一〇光秒以内に存在していません』

「ダメか……」

 

 半径一〇光秒にいないというのは、つまりラクファカールにはいないという事だ。ラクファカールの広さはさしわたし三〇〇セダージュ(三〇万キロ)。三〇〇セダージュが大体ちょうど一光秒だから、一〇光秒以内に存在しなければもうラクファカールのどこにもいない。

 

 親戚に泣きつく手段はとれないらしい。

 

 おとなしく求職窓口に行くしかないか……。

 


 

 数時間後、私は都市船アブリアル内のとある求職窓口で座っていた。

 

「では、ここにお名前をお書きください」

 

 目の前に浮かべられた立体映像に、自分の名前を書く。

 

 ほかの情報は、端末腕環から自動で送られるようになっている。

 名前を書くのは、あくまでも儀礼的な行為だ。

 

「情報を確認しますね……」

 

 受付の地上人女性が、私の端末腕環からの情報を読み上げた。

 

 特に何の面白みもない情報だった。

 当然である。昨日まで家ですねをかじっていただけの男だ。

 

「目立った資格が御座いませんので、技術系の仕事は難しいですね」

「そうですよね」

 

 そこはそもそも期待していないから大丈夫だ。

 

「あ、家臣(ゴスク)としてのお仕事の募集が御座います」

「……それは、どこでですか?」

「アウポース男爵領という場所です」

 

 つまり、ラクファカールの外……。

 

 いや、今更、母親のいう事を気にしてもしょうがない。

 

 帝都にある貴族や皇族の家で働くなんてことも、自分では不可能だ。

 

 もしかしたら、母親が私に帝都に行かせたのは、家から出ろと言いたかったからなのかもしれない。

 ならばこの際、帝都での仕事にこだわる必要はない。

 

 どうせ追い出されたのならば、好きにやってやろう。

 

「詳細を聞かせてもらってもいいですか?」

「はい、帝都(アローシュ)から客船(レビサーズ)で二十日日ほどの場所にある領地(リビューヌ)です。そこで、家臣(ゴスク)の募集がかけられていますね。そして、できればアーヴがいい、ということです」

 

 何とも珍しい募集要項だ。

 家臣という職業は、どちらかというと地上人がなることが多い。

 

 地上人よりかは長生きなアーヴを家臣として採用したかったのだろうか。

 

「アウポース男爵……」

「ご存じですか?」

「いえ、聞いたことはありません」

「そうですか。ビュセーク・スューヌ=アナレーム・アウポース男爵(リューフ・アウポーサル)・ラスィーフという貴族の治める領地です。かなり最近の領地で、この前創設された貴族家らしいです」

 

 なるほど、新興の家か。それで新しい家臣を探している、と。

 

「ほかにも何かありますか?」

「そうですね。他には……フェブダーシュ男爵領(リュームスコル・フェブダク)ワローシュ伯国(ドリュヒューニュ・ワロク)で家臣の募集が行われていますね。あ、失礼、フェブダーシュ男爵領は女性の地上人のみでした。ですので、すぐにご案内できるのはアウポース男爵領(リュームスコル・アウポーサル)とワローシュ伯国の二つだけですね。この二つは、事前審査などなしですぐにご案内できます」

 

 事前審査なしとは。よほど雇用主が人に興味がないのか、それとも人材が足りないのか。

 というか、ワローシュ伯国などは伯国なのだから、有人の領地のはずだ。それなのにこんなところ(帝都)にまで募集を行って人を集めようとしているのはなぜなのだろう。

 

「じゃあ最初に紹介してくれたのでお願いします」

 

 なんとなく、私はそちらを選ぶことにした。

 

「わかりました。手続きを行いますので少々お待ちください」

 

 受付がいろいろと機械に向かって操作を始める。

 

 すぐに終わり、こちらへ向き直った。

 

「承認手続きが終わりました。即日から男爵領に向かう事も出来ますが、いかがいたしましょう? もちろん、道中の交通費などは我々が受け持ちます」

「では、それで」

 

 願ってもない申し出だった。

 

 今は一晩すら越せるかどうかというところなのだ。これで少なくとも、私は二十日間は生き延びれるという事になる。

 

「出発は標準時十三時三十分、第八発着場からです。情報を端末腕環にお送りいたしますので、ご確認ください」

「ありがとうございます」

「これで以上ですね。それでは、行ってらっしゃいませ」

「どうも」

 

 私は一礼をして、求職窓口の建物を後にした。

 

 以外にあっけなかった。仕事というものはこうも簡単に得られるものか。

 

 私がいた伯国の地上世界では、多くの民が『シュウカツ』というものに苦しみ、血眼になって職を探していると聞いたのだが、帝国はそうでもないらしい。

 広大な帝国にとっては、人の手数は常に足りないのだろう。

 

 私は端末腕環の時計に目をやった。

 

 今は標準時十時二十三分だった。第八発着場の場所をたしかめると、ここから歩いて一時間程度の場所にある。

 

 どこかで昼食を食べてから、向かうとしよう。

 残りの母親からもらった数スカール足らずの金は、もう使いきってしまおう。私はもはや追い出された身なのだから。









ダーショ・ウェフ=クテーム・ロブジェール
人種:アーヴ(黎明の乗り手の子孫)
年齢:二百歳ほど
身長:一六〇ダージュ(一六〇cm)ほど
所属:退役軍人




単位解説

アーヴたちは「ダージュ」という単位を長さの規定として使っている。
一ダージュはちょうど一センチメートル。そこから一万倍、そして一万分の一になる(つまり、四桁)ごとに単位が変化する。
それらを表す接頭辞はダージュの前につけて使う。


ドリアル 1000兆km
ト    1000億km
ゼサ 1000万km
セ    1000km
ウェス  100m

ダージュ(規定) 1㎝

シェス  1nm(ナノメートル)
ソワフ  1Å(オングストローム)
コス   10Y(ユカワ)
ペタ   0.01Y

また、重さを表す単位、ボーも、1ℊを規定として、上記のように四桁ごとに変化する。使う接頭辞はダージュと同じ。

一ボーなら一グラム、一〇ウェスボーならば一〇〇キロ、と言った感じである。
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