星界の小章   作:ケンタ〜

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来客への準備(ロダィエ・バロードリ)

 私は日記をつけることにした。

 今までにあったことを忘れないように。そして自分が生きていた証を遺すために。

 そして我がユリュア家の家風(ジェデール)に従うために。

 

 これを書いているのは、私が初めての仕事を終えたしばらく後である。こう書けば、日記を頭から読んでいる方々は時系列が分かりやすいだろうか。

 記憶に残ったことを思い出して飛ばし飛ばし書いているのでいろいろと分かりにくいところもあるだろうか、我慢して読んでもらいたい。

 

 あれからだいぶ時間が経った。私はかれこれ一か月ほど男爵(リューフ)のもとで働いている。

 仕事の内訳は、反物質燃料(ベーシュ)の輸送が五割、休暇が三割、他の雑務が二割、といったところだろうか。

 

 ほかの雑務については、これを読んでいる方々はよくわからないだろうと思うから、一応説明しておく。

 

 ほかの雑務とは、男爵(リューフ)がこなす、男爵領(リュームスコル)の書類仕事の手伝いだ。

 ほとんどは反物質燃料(ベーシュ)帝国(フリューバル)への販売である。

 

 ほかには、三十日に一、二回来る定期連絡船への定期報告。

 これらの書類仕事を、私は任された。

 おかげで、それなりに忙しくなった。

 

 それまでは反物質の輸送を一週間近くかけて行うだけのゆったりとした生活だったが、書類仕事はかなり忙しかった。

 必要な情報を収集し、書類を制作し、見落としがないか確認して、それを男爵(リューフ)に提出する。

 最後に男爵(リューフ)がそれを確認して、それから承認が行われる。

 

 かなり集中力をすり減らす仕事だった。

 

 何と言ったって、男爵領(リュームスコル)の利益に直結するのだ。間違ってしまって損害のひとつでも出せば、男爵(リューフ)に多大な迷惑がかかる。しかも承認しているのは男爵(リューフ)なのだから、責任が男爵(リューフ)に降りかかってしまうのだ。

 

 だが、まあ、今のところは何の変哲もなく仕事を行うことができている。

 

 それくらいだろうか、私が入ったばかりの時と変わったのは。

 

 ああ、そうそう。今はまだなのだが、もう少ししたら、この所領(スコール)燃料槽小惑星(ソブ・ベケーカル)がやってくることになっている。

 燃料槽(ベケーク)をため込んでおける小惑星、その名のとおりである。

 しかし、これはかなりの優れものだ。今までは軌道上にむき出しだった燃料槽(ベケーク)をこの中に詰め込めるだけでなく、この小惑星には推進器がついているのだ。

 つまりどういうことかというと、自分で動いてもらうことができるのである。

 という事は、私の仕事がなくなるのである。

 

 あれ、これって結構まずいのでは。私の仕事の五割を占めている燃料輸送の仕事がなくなるって結構まずいんじゃ?

 

 そう言えば、これから男爵(リューフ)との面会があるのを思い出した。

 もしかしたら今後の待遇の変更(控えめな表現)についての相談かも知れない。

 

 ま、まあ、未来のことを今から考えるのはよそう。

 私はそれなりにこの所領と男爵(リューフ)に尽くしてきたつもりだし、これ以上の悪い方向への詮索は男爵(リューフ)に失礼というものだ。

 

 燃料槽小惑星(ソブ・ベケーカル)へと話を戻そう。

 

 燃料槽小惑星(ソブ・ベケーカル)はかなり大型の物体だ。大きさとしては巡察艦半分程度にも匹敵する。

 男爵は今回、それを三つ発注した。まあまあ奮発したらしい。

 

 航行力はそれほどでもないのだが、そうだとしても自分で燃料槽を運んでくれるのが利点である。

 しかしこれがかなり巨大で、それに平面宇宙航行能力(メーンラジュ)ももちろん持たない。

 

 これを読んでいる人なら平面宇宙航行(ファーゾス)についてご存じかと思うが、万が一何も知らない地上人がたが呼んでいる時のために、一応補足しておく。

 通常宇宙(ダーズ)とは、我々が普段生きる宇宙、つまり広大な四次元時空の事である。

 対して平面宇宙(ファーズ)とは、我々の生きる通常宇宙(ダーズ)とは違う、二次元的な方向しか有さない、全く別次元の宇宙の事である。

 我々はこの中を進むことで、隣の星系に数日や数時間で行くことができる。

 

 それで、どうやって平面宇宙(ファーズ)に行くかというと、(ソード)を通って行くのである。

 

 (ソード)とは、通常宇宙(ダーズ)平面宇宙(ファーズ)をつなぐ時空の穴。ここを通ってのみ、我々は時空の狭間を行き来することができる。

 

 それで、その門は、ただで通ることはできない。通行料を支払う必要がある。

 

 時空泡発生装置(フラサティア)、というものが必要になる。

 

 これはその名の通り、時空泡(フラサス)を発生させることができる装置。

 時空泡(フラサス)とは切り取られた四次元時空であり、これを船の周りに展開することで、平面宇宙(ファーズ)に入ることができる。

 三次元空間の中の圧縮された六次元連続体のように、時空泡(フラサス)は平面宇宙の中で、とても小さな四次元時空の泡として存在することが許されるのだ。

 ちなみに時空泡(フラサス)なしで門に突撃するとそのまま船が壊れる。良い子はまねしない方が良いと思う。

 

 更に、平面宇宙の中では、時空泡(フラサス)よりさらに小さな四次元時空、時空粒子(スプーフラサス)というものが漂っている。電子数個分の質量しかもたない、とても小さな平面宇宙側の存在。

 これは端的に言えば熱量(エネルギー)の塊だ。

 

 通常宇宙(ダーズ)側の(ソード)が、例えば恒星や中性子星に飲み込まれたときや、事象の地平線の彼方にあるとき、膨大な熱量の圧力にさらされた門は、その熱量を通常宇宙から平面宇宙へとばらまく。

 

 それはほんの小さな四次元時空、時空粒子(スプーフラサス)となり、平面宇宙の中をさまようのだ。

 

 この時空粒子(スプーフラサス)は、実は(ソード)から発生するものだけでなく、船が展開する時空泡(フラサス)から常に漏れ出していってしまう。

 平面宇宙の中に最初からある時空粒子(スプーフラサス)時空泡(フラサス)が出会った場合は融合してくれるのだが、融合する時空粒子(スプーフラサス)よりも、漏れ出していく時空粒子(スプーフラサス)の方がどうしても多くなってしまうのだ。

 

 つまり、時空泡(フラサス)は常に小さくなる方向に向かっていくことになる。

 なので、常に時空泡発生装置(フラサティア)から時空泡(フラサス)の大きさを保つように燃料(ベーシュ)を供給していなければならない。

 

 これが平面宇宙に対して支払う通行料となる。

 もちろん、時空泡(フラサス)が大きくなればなるほど、漏れ出す時空粒子(スプーフラサス)の数は多くなるから、よりたくさんの通行料が必要になる。

 

 端的に言えば、より大きい船や物ほど、平面宇宙(ファーズ)を通るのに難があるというわけだ。

 そして更に、時空泡(フラサス)には限界質量というものがある。

 

 この限界質量を超えてしまうと、大きい泡が小さい泡に分裂するように、時空泡(フラサス)も分裂してしまう。この時の分裂は予測できないことが多い。つまり、間違えれば船が船体ごと引きちぎられる可能性だってある。

 

 まあ、何が言いたいかというと、重いものを運ぶときには、平面宇宙(ファーズ)では何かと難があると言うことだ。それに重ければ重いほど普通に時間がかかる。

 

 だから、大きなもの、今回の場合は小惑星燃料槽(ソブ・ベケーカル)は、分解された状態で運ばれることになっていた。

 そうなるともちろん組み立てる必要がある。

 

 もちろん私や男爵(リューフ)はそれを組み立てる技能を有しない。

 つまり、どういうことかというと、一緒に技師がやってくるのだ。

 

 つまり、来客である。

 私が家臣(ゴスク)になってい以来の、初めての来客が、もうすぐこの男爵領(リュームスコル)に来ようとしていた。

 


 

 それで、私は一つの仕事を仰せつかった。

 男爵閣下(ローニュ・リューム)のいうところによると、

 

「私の第一の家臣(ゴスク)として、客人をもてなしてください」

 

 だそうだ。

 

「あ、はい」

 

 と答えた。

 もちろん断れるはずもないので。

 

 考えてみれば、ようやく家臣(ゴスク)らしい仕事だ。今まで何かしっくりこないなと思ったらそう言う事だ。

 私の考える家臣は、皆何かとぴっしりとしていて、貫禄があるものだった。

 なぜかと考えてみたが、私が出会ったことのある家臣(ゴスク)は皆主人の顔代わりとしてわたしたちに接しているのだという事に気が付いた。

 

 だからこれが私の初めての、『家臣(ゴスク)らしい』仕事になるのである。

 

 が、困った。

 毎日何かしら困っているような気もするが、まあそれは置いておこう。

 

 私は生まれてこの方誰かをもてなしたことなど一度もない。

 というか、考えてみれば自分が仕える男爵(リューフ)に対してのもてなしぐらいやれという話だが、ずっと私がもてなされてばっかりだ。これでは石潰しもいいところだ。

 

 ということで、私はいろいろと勉強せざるを得なかった。

 

 男爵城館(ガリーシュ・リューム)にある思考結晶の情報を引っ張り出して、家臣(ゴスク)らしい振る舞いについていろいろと勉強した。

 もちろん男爵(リューフ)に教えを乞うわけにもいかない。男爵(リューフ)は日々仕事で忙しいのだから。

 なので、もらった休日の時間をその練習に費やした。

 

 貴族の家臣(ゴスク)としてふさわしいふるまい、気の使い方、身だしなみの整え方、行儀作法……。

 

 だいたい一週間くらい練習したところで、それを男爵(リューフ)に確認しに行った。

 

「ダメです」

「え?」

 

 ダメだった。

 

 自分が身に着けた行儀作法を用いて色々と男爵(リューフ)に施しをしてみたところ、ものすごくダメだったらしい。

 

 ていうか初めて男爵(リューフ)にダメって言われた。

 

「どうしたのですか? なぜこんなことを?」

 

 すっごく心配な顔をされてそう聞かれた。

 

「あ、いや、その……来客が来るという話だったので、色々と行儀作法を……」

 

 その時の私は結構な衝撃を受けていた。なにせ、かなりうきうきして男爵(リューフ)に報告しに行ったからである。

 それで向けられたのは、怒りの表情でもなく、嗜める表情でもなく、

 

「……?」

 

 という、疑問の表情だった。

 

「あ、あの、すみません……。で、出直します」

 

 と、いたたまれなくなったので、私は男爵執務室(ガホール・リューム)から撤退した。

 

 何がいけなかったのだろうか。

 自分の中ではかなり完璧に物事をこなしたはずである。

 それとも、そもそも私が見た情報が間違っていたのだろうか?

 と、後ほど情報源を確認したのだが、これがちゃんと帝国のお墨付きをもらった行儀作法の本だった。

 

 本来アーヴはそのような振る舞いかたを親から教わったりするのだが、地上出身の士族は知らないことも多い。

 私は生粋のアーヴといっていいくらいのアーヴのつもりなのだが、例のごとく母親はちゃんと教えてくれなかった。ので、この本がぴったりだと思っていたのだが……。

 

 ……どうするんだ……。私は途方に暮れた。

 

 自室で寝台の上にうつぶせになって私は絶望していた。

 

 結局、そのあと、男爵(リューフ)にいろいろと言われると思ったのだが、ビックリするほど何もなかった。

 輸送の仕事が終わった後に会食する、という謎の決まりごとが出来上がったりしていたため、何度か会話や食事をすることもあったのだが、その時にも男爵(リューフ)はそのことに全く触れてくれなかった。

 

 結局、そのまま何も聞かずに、技師たちを迎え入れる日になってしまった。

 

 

 







 原作には(多分)存在しないアーヴ語

客人に banodori 語源は『客人(まろうど)』
ceutes banodhoti(一人の客人ごとに)というフレーズのアーヴ語の、『客人ごとに』であるbanodhotiを抜粋して原形化して流用。
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