暗夜の王と暁の姫 ~学校一の美少女に声をかけられたと思ったら、刃物を向けられた。   作:ななななななな7

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ヴァンパイアハンター協会

☆☆☆

 

頭が痛い。そして眩しい。

目を覚まして最初に思ったことはそれだった。

俺は無意識に右手を動かして光を遮ろうとし、左手で頭を押さえようとしたがそれは叶わなかった。

何故手が動かないのかと瞳を動かし状況を把握しようとするのではなく、混乱した俺は二度三度と反射的に手を動かそうと力を入れる。

けれど、一向に腕は動かず、その段階になって漸く首を横に動かし、自身の腕へと視線を向けた。

すると、腕はベルトのようなもので拘束されていた。俺は顔を戻すと天井に目を凝らす。すると頭上で無影灯が俺のことを照らしていることに気が付いた。

手術室。最初その言葉が脳裏を過ったが、ただ手術をするだけであれば患者の腕を拘束する必要があるだろうか?

 

それに、最後に見た光景。

俺は銃を持った人間に殴られた。ならば、俺はあの人たちに捕まったのではないだろうか?そちらの方が余程腑に落ちた。

 

俺がそこまで考えを巡らせたところでまるで状況を見計らっていたかのようにガラガラと物が動く音共に無影灯とは別の方角から光が差し込む。

そして光は人型の影によってその一部を遮られた。

 

誰かがこちらに向かって来ている。俺はそれが一体誰なのか、顔を確認しようと首を起こす。

すると、それに気が付いた人影の主、眼鏡をかけた柔和な顔の男は俺に向かって手を振って来た。

しかし、そんなことよりもその男の後に部屋に入って来た赤木さんの存在に俺は目を奪われていた。いつもとは違う黒のブレザー…いや、もっと分かりやすく言えば軍服のような服を着ていた。

 

「大丈夫かい?頭部を強打されたようだけど」

 

柔和な顔の男が俺の髪をかき上げて恐らく強く強打された場所を観ながら問いかけてくる。

それに対し、俺は短く「はい」とだけ答えた。

本当は目が覚めた時から変わらず頭にはズキズキと鈍い痛みが走っている。

けれど、そんなことよりも状況を把握しなければならない。そんな気がしてならないのだ。

 

「それよりも、ここは何処でなんで俺は拘束されてるんですか?」

 

柔和な顔の男は俺の頭部、痛みの発生源を少し強く触る。その行動によって頭部により強い痛みが走り思わず顔を歪めてしまうが、男は興味深そうにまじまじと俺の顔を観察すると手を離した。

 

「ここはVHSの支部だね。あっ、でもVHSっていってもビデオ・ホーム・システムとは何も関係ないんだ、ヴァンパイアハンターソサエティの略だからね!」

「ビデオ・ホーム…えっと、吸血鬼と戦う人達の基地ってことですかね?」

「うんそうだよ~、というか折角僕が君の心を和ませようと若い世代に合わせた渾身のギャグを披露したんだから笑ってくれないと困るよ~」

 

何処に笑う要素があったのか、そもそもビデオ・ホーム・システムとは何なのかも分からないのに笑えとは随分無茶を言ってくれる。けれど、生殺与奪を握られた状態でそうも言っていられず、俺は愛想笑いを浮かべて誤魔化す。

 

「それで、その、俺は何で拘束されているんでしょうか?」

「ああ、そのこと!それは…さて何処から話したものかな。

う~ん、君は何処まで自分の力について把握してるのかな?」

 

自分の力。

俺が扱う力、夜になると得る強大な膂力、血液操作の力。

これらは俺の父親がヴァンパイアだったことに由来すると母方の祖父に言われたことがある。実際、この目で吸血鬼を見た後であればその話も信じられる。

ただ、それを馬鹿正直に言う訳にはいかないだろう。

なんせ、先程の話によるとここは吸血鬼狩りの基地。

言ったが最後生きてここから出れなくても可笑しくない。

 

「えっと、物心ついた頃には使えたので、何故と言われましても…」

「そっか、まぁ、6歳で両親を亡くしてるならそれもあり得るよね。」

 

男は訳知り顔でうんうんと頷く。

「えっと…」

 

その様子に俺は思わず、言葉を詰まらせる。

何故この男が俺の経歴を知っているのか。ここが非日常の中とは言え、自身の過去を知られているという事実に横たわっているにも関わらず頭の血がスッと下がっていくのを感じた。

 

恐怖を覚えるな、と言う方が難しいだろう。だってそれは剣や魔法とは全く別のそれこそ国家権力などの俺の日常を侵略できるだけの力を持っているということなのだから。

いつでも、俺をこの非日常に引きずり込める下地が出来ているということなのだから。特に彼らは常識の外側にいる組織だ。陰謀論でしか聞かないようなことをしてきても可笑しくない。

 

「にしても驚いたよ。まさか人間と吸血鬼の半純血なんてものが存在したなんて…僕は君と言う存在に興味が湧いているんだ。」

「そ、そうですか?」

「あっ、そうだ。僕はジャック博士さ!君はモルモットじゃないからちゃんと自己紹介しないとね!」

 

歳は25くらいの青年と言った見た目なのに、そう言って浮かべた笑顔は大きいカブトムシを捕まえた子供くらい晴れやかなものでそのアンバランスさに気味の悪さを感じてしまう。

 

「僕はジャック、ジャック博士さ。よろしくね!夜視明人君!」

「よ、よろしくお願いします。」

 

虫籠の中を少年のように覗き込むように寝台の上に拘束されている俺と目を合わせてくる。正直、苦手なタイプだ。

 

「それでさ、率直に聞くんだけど君の両親の馴れ初めってどんなだった?吸血鬼は性欲がないに等しいし~、そもそも同じ吸血鬼ならまだしも食料同然の人間に欲情するなんて考えられないんだけど一体何があったんだい?」

「さ、さぁ、そこまで深くは…」

「そっかぁ、残念だなぁ。あっ、もしかして君が真臓を宿していないのと何か関係があるのかな?真臓と真血が無ければ吸血鬼特有の不死性も発揮されないし…。でも、半純血である君なら兎も角、純血の吸血鬼に真臓が無いなんて考えられないよね。そもそも、夜視君の父親に関する情報を辿ったら数百年は生きていたしなぁ」

「あ、あの…」

 

 

ジャック博士は俺を置いて勝手に話を進めていく。

「君知ってる?吸血鬼から見た人間って人間から見た豚や牛に近いんだって!君は半純潔だけど、人間には欲情するのかな?どうなの?」

「えっと…」

 

こちらが問いを投げる暇が無い。それでいて自分の興味のある話しかしないため一向に話が進まない。いや脱線してしまっている。

このまま状況を理解できないまま取り返しのつかないことになりはしないだろうか?そんな不安が脳裏を過る。

それにこの博士今にも人体解剖を始めそうな勢いなのだが…。

 

そう思っていると、再度扉が開き外の光が部屋内部に入ってくる。

 

「待たせたねジャック君。姫様」

 

出来るだけ力を入れて首を持ち上げると、深い皺が刻まれた白髪のお爺さんが中に入ってきた。そして、お爺さんを見ていた俺と俺のことを一瞥したお爺さんの目が合う。

瞬間お爺さんは害虫を見るように眉間の皺をより濃くし厳しい表情を作った。

彼は一体何者なのか、そう思うよりも先に背中に冷たいものが走り反射的にのけ反る。

 

赤木さんがこちらに手を伸ばそうとするのを横目に捉えながら俺の瞳はお爺さんを捉え続ける。目を離してはいけないと警鐘が鳴り続けているのだ。

 

「あ、あの、夜視君の処遇はどうなるんですか?」

 

赤木さんがお爺さんに問いかける。

すると、お爺さんは俺に向けていた時は違い表情を崩し、温和な雰囲気を纏うと口を開いた。

 

「処刑となるそうです」

 

それだけ告げると腰に下げていたのであろう刀を抜きこちらに向ける。

殺される。俺のような素人でも分かるほどの濃密な殺気。

死にたくない!視界が真っ赤に染まり見知らぬ景色が視界に広がり、体は勝手に動いた。

舌を強くかむ。鼻腔を抜ける鉄の匂い、口内に広がる血液の味。

俺はそれ()を操り、拘束を切る。

 

そして立ち上がろうとして無数の銀閃に手首、肩、太もも、アキレス腱を斬られた。

何が起こったのか分からない。風が吹いたかと思うと、切り裂かれた。そう形容するしかない程の早業。それを成したであろうお爺さんは今俺の後ろに立ち、俺の首に剣を当てていた。

けれどお爺さんが俺の首を落とすことは無かった。

 

「…姫様、どういうつもりですかな?」

「分かりませんか?それ以上ここで刀を振るえば私が貴女を攻撃します。剣一さん」

 

いつの間にか赤木さんの右目が山吹色に変わっている。部屋に太陽の温もりが溢れる。

何が起こっているのか詳しいことは分からないが、どうやら赤木さんが俺のことを庇ってくれているらしい。

 

「何故?と聞いても?」

 

剣一と呼ばれたお爺さんは首を傾げながら赤木さんに問う。

すると、彼女は剣一を睨みながら、語気を強め答えた。

 

「あなたは!今!人間を殺そうとしたんですよ!」

「違いますよ姫様。半分でも吸血鬼が混じっているのならそれは吸血鬼です。上層部がそう判断しました。」

「違います!半分でも人間であるのならそれは人間です。」

 

当事者である俺を蚊帳の外にして睨み合う二人。これで俺の命運が決まると考えると、気が気じゃない。

どうにか、この状況から脱する糸口が無いか目で探すが、そう都合よくそんなものは落ちていない。

 

「じゃあ!折衷案で赤木君が面倒を見るというのでどうかな?危険なら駆除すれば良いし。身体検査したけど夜にしか吸血鬼としての力は発揮できないみたいだしさ!

それより、精密検査して彼の体とかを調べたら吸血鬼研究がまた一歩進む気がするんだよ!いや、これからのヴァンパイアハンターの未来の為に是非彼には僕のモルモ…研究の協力者になって欲しいんだけど!」

 

落ちてはいなかったが、どうやら糸口は向こうからやって来てくれたみたいだ。ジャック博士は目をキラキラと輝かせながら嬉々としてそんな提案をしてくる。今、モルモットって言っていた気もするが、危ない薬とか投与されたりしないよな?何とかなりそうな状況に安堵の息が零れると共にそんな不安が首をもたげた。

しかし、そんな不安よりも剣一が渋い顔をしていることの方が問題だった。

 

「ジャック博士…それは姫様が背負うリスクが高すぎる。それに私の一存で決められることでも…」

「分かってるよ。ちょっと上に確認取るね」

 

そう言うとジャック博士は白衣のポケットからスマホを取り出すと慣れた手つきで操作し、誰かに電話をかける。

部屋には絶句した剣一と目を丸くする赤木さんがいた。

やはり上層部の人間にこんなに気軽に連絡を取る人間はそういないのだろう。というか、ヴァンパイアハンター協会については良く知らないが、こんなに簡単に上層部とコンタクトを取れるものなのだろうか。

けれど、そんな俺の懸念を他所にジャック博士は連絡が付いたのか、現在の状況と自身の提案について説明する。

 

「え?リスク?それじゃあ他の子も付けるよ。え、赤木君に変わるの?仕方ないな~。赤木く~ん」

「変わりました。はい…………はい、ならヴァンパイアハンター協会を抜けます。

 

はい、本気です。ええ、ご再考ありがとうございます。」

 

それだけ言うと、赤木さんはジャック博士にスマホを返す。

改めて自身のスマホから電話の向こうにいる相手と話すジャック博士。その顔は自分の都合がいい方に話が転がったのかニンマリと口角を上げている。

 

「ありがとうございま~す。大丈夫だって夜視明人君これからよろしくね?」

 

状況は今だ完全には掴めていないが、どうやら、首の皮一枚繋がったらしい。

 

俺は体の力が一気に抜け、その場に寝転がるのだった。

 

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