転生程度世界でもモブだった件   作:凍幻

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今話は残酷な内容です。予めご了承ください。
 時系列は本編開始の約千年前。第四部を読んでないと意味不明なので更に注意。
 今話投稿にあたり、小説タグに「残酷な描写」を追加しました。
*2026年5月20日。同人誌頒布に向けあちこち手を入れました。


第十話「ムラサキ=デス」

 気付いたときには既に手遅れで、僕にはどうしようもなかった。

 周りから多数のうめき声が聞こえても、僕ごとき初級治癒術師じゃ治しようがない。中級や上級の人はここに居ないし、彼らとてどれだけ対応出来てるのか。

 最上級治癒術を修めているアデプト様ならと思いつつ、この街に居ない人を頼ることなど出来るはずもなく。そもそも何で僕ら街住人がほぼ全て倒れてしまったのか分からないのでは、彼らだって倒れるかもしれない。

 この紫色の空気はなんだ。最初は毒を撒かれたかと思ったんだけど、これほど広範囲かつ持続的な毒があるんだろうか。

 通常の毒なら、悪いところを治せばいい。身体に取り込んだ原因物質の除去は難しいので僕には僅かしか出来ないけど、身体能力を活性化すれば少しは症状進行を遅く出来る。現に受け持ちの兵士患者たちにはそうしたし、それが間違っていたとは思えない。

 でも原因と思われる空気がそのままじゃ、治しきれないよ。都市結界を抜けてくるこれを防ぐ手段が僕には無い。顔を布で覆ったけどさ、単なる布じゃやっぱり効果が無い感じ。

 それが証拠に、僕の身体は悪いところが増加中。さっき治癒術をかけた箇所もまた悪くなった。咳き込んで吐き出した液体の色は真っ黒。普通の血液は赤いけど、まるで腐ってるかのように黒く、異臭もする。身体の至る所が痛むし吐き気が治まらない。

 床布の汚れなどお構い無しに吐き続ける僕へ声を掛ける人間など、もう居ない。この広い部屋に横たわっている十数人の兵士たちはみな治癒術が使えなく、僕はただ一人彼らを治すべき立場の人間だった。

 僕以上に治癒術が使える人は街門前の前線へ向かったり領主館の避難者たちを診てるはずで、他所へ意識を向けようがないよ。ここの患者がみな重症になったからには、もっと重症だった人たちはどうなっただろう。もし治せてたら軽症者にも治療開始されてるだろうけど、辺りは静かなまま。見通しは限りなく昏い。

 あげく治癒術師も発症したんじゃ、誰も治せない。元々少ない僕の魔力は枯渇寸前で、自分さえ治療出来ないざま。僕は、非力だ。

 そうこうしてるうちに、たぶん伝令兵と思わしき人が近づいてきて、部屋の惨状を見るなりすぐに立ち去ってしまった。声さえ掛けられなかったということは、かなりの惨状に見えたんだろう。そして、他での状況も同じなのか。

 いよいよもってダメだな。せめて見苦しい最後にはしたくないと思いつつ、増していく苦痛にどれだけ抗えるかは分からない。せめて気を紛らわせられる物はと薄目を開けたら、机が見えた。ああ、記録を残すべきだったか。大人しく倒れてる場合じゃなかったな。

 普通の人は既に倒れ、僕以外の治癒術師は治療で忙しい。兵士たちは今も街の門前で魔物と戦っているはずだけど、動けている人数はかなり少ないはずで、突破されるは時間の問題。なにせこの症状を完治して再度戦列に行ける者が居ないんだからさ。

 戦いに不得手な街人に助力いただくことも無理。既に街のあちこちで倒れ伏してると前の伝令さんが言っていた。治癒の心得さえ持たないだろうし、とっくに限界を迎えてるはず。避難出来たのが何人なのか、それすら確かめようがないほどかもしれない。

 つまり、今の状況で多少なりとも余裕ある人間は僕くらいしか居ない。ここの患者たちは……割り切るしか無い。僕にはもう無理だ。

 うめき声のか細い合唱を聞きながら、ゆっくりと身体を起こして机に座る。僕の、死に場所。

 魔物に荒らされたら手紙なんて残らないと思いつつ。でも、何か残せればとペンを握る。

 原初様率いるかの首狩り部隊ならここにたどり着けるだろうか。ふと思い出した希望を胸に、残り僅かな魔力を回す。視力を維持するのも一苦労だけど、最後の仕事だしね。

 そうして僕は、書き始めた。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 この街は魔物の襲撃を受けた。詳しくは不明だけど、僕が知ったのは昨日だったはず。今朝方だったかも。時間の感覚がおぼろげでハッキリ書けないのを許してほしい。

 その最初は、夜明け前の薄暗い時間なのにいきなり街の領主様から原因不明の患者を見てほしいと要請があって叩き起こされたことで始まったんだ。市井のしがない初級治癒術師のもとに何でと尋ねたら、この街の治癒術師全員を招集中とのこと。

 僕より優れた治癒術師はこの街にも割と居るんだけど、その人達でさえ手に余る事態らしい。この時はまだどれほど危険な状態か分かっておらず、お手伝い出来るならと水を飲み頭をハッキリさせただけで僕の受け持ち場所へと飛び出したんだ。今から思うと外へ出た際、妙に空気を不味く感じて小さく咳き込んだのがそれだったんだな。

 案内されたのは街外れの兵隊詰所の一つ、その一階の一室。弱々しいランプが室内を照らす中、がらんとした部屋にずらりと対象者たちが横たえられていた。ベッドすら無く、みな床に寝させられていることに衝撃を受ける。続く状況説明で更に混乱してしまった。

 ここに居る人達は少し前に感知された異常魔力の調査に出た兵士の一部で、比較的軽症な方々だと。調査中次第に全身へ倦怠感が感じられ、脱力嘔吐と続き痛みを訴えはじめ、ついには身体を動かすのも難しくなってきてたって。

 もちろん帯同した軍医が治癒術を掛けており一時的には良くなったそうだけど、時間経過で再発してしまったとも聞いた。

 この詰所に戻されたのは、比較的軽症で歩けた者のみ。なのに僕がここに来るまでの僅かな時間でみな動けなくなったようだ。魔力を使い果たし身体強化さえ使えなくなってしまったか。

 そして残りの患者達はまだ街の外。僕より優れた治癒術師たちはそちらの、より悪化した人達を診る予定だとも言われた。

 冗談じゃない。軍医ともなれば最低限上級治癒術を使えるはずで、それで治らない患者を初級治癒術師に任せるだなんてどうかしてる。でも文句を言わず、僕は手早く手前の人から治癒術を掛けていった。逼迫事態なのが明確だったからだ。

 案内の人は最低限の内容を告げた後、即座に別な場所へと走っていった。あの人も発症したんだろうか。それすら聞けなかったほど慌ただしい。

 ここに並べられた人達が二十数人。更に重症者がこの数倍は居るのだろう。そうでなければ僕ごときまで治療に駆り出されないはず。その全員がいまだ治療中って何があった?

 魔力で探った感じだだと、病気じゃなさそうだけど毒とも違うよう思える。僕の知識には無い症状。どこが悪いでなく、全身が弱っていく感じ。相手の身体を活性化させてもみたけど、他の人へ処置してるうちに効果が弱くなっていた。これじゃ治しきれない。

 もちろん軍医始め他治癒術師は中級治癒術やそれ以上の既存治癒術を試したはずで。僕の非力だけが治せない原因じゃないけど、さりとて僕に出来ることは少ない。所詮は初級の効果しか与えられないし。

 かなりの長丁場になることを覚悟して、自分の魔力残量を確かめる。初級でも術を使い続けるには心もとない量でしかない。せめて二人いれば交代も出来るだろうけどと、そこで気付く。

 そうだ、さっき街外へ調査に出たとは聞いたけど、その首尾がどうだったのかは聞いてないよ。調査先に異変原因があったんだろうか。でもそれならそうと伝えられるはず。領主様が情報をまとめているだろうけど、分かったことは無いのか?

 魔力を節約しつつ身体活性術と初級治癒術を何回か掛けてまわってたら、続報が届いた。街の門に多数の魔物が押し寄せてきており、街住民全員に領主館への避難が指示されたと。

 ついては誰か治った人間いないかとも口早に尋ねられたけど、十全にはと返さざるを得なかった。一応は症状を緩和させられたものの、患者本人の意識は誰も戻っていない。

 それでも動けそうならと伝令さんはみなを叩き起こしに掛かった。治癒術師としてはまだ様子を見たかったけど、魔物の襲撃に猶予はない。かろうじて数名ほど意識を取り戻してくれた。魔力切れからまだ復調してないはずなので、相当きつそうだ。

 再度同症状となった場合については、やはり身体強化を掛け続ければ症状進行が遅くなったと一応伝えておく。軍医からとっくに出てるはずの注意点だろうけど、それでも伝令さんはしっかりと頷いてくれた。

 さっきまで倒れてた人達が身支度して出ていったあと、少し明るくなった空を見あげる。せめて天気が良いならと思ったものの、即座に様子が変だと分かった。

 空が青くない。いや明け方は通常でも真っ青じゃないけど、色が禍々しかった。ぐるりと見回せば、辺り一帯の空が薄紫色に染まっている。特に街門の外側、兵士たちが向かったその方向は更に濃い紫色となっていた。

 なんだこれ? 見ただけで良くないものだと分かったが、普通の悪意なら都市結界が弾くはず。空気そのものを遮断は出来ないけど、これまで魔物の侵攻を幾度となく防いでくれた結界だ。

 少し前にアデプト様たちの首刈り部隊がやっと魔物の王たちを殺してくれて、人類はもう魔物の支配から解放されたはずだった。

 これも魔物の仕業なんだろうか。首狩り部隊は魔物国全ての王を殺して回った。別な魔物が王となっても、再びそれを殺し、ついには魔物の支配体制が瓦解するまで徹底的に戦ってくれていた。

 それが可能となるまで数千年が必要だった。いと尊き生命神様が十の分体に分かれ、初めてアデプトとなられた原初様が魔物と戦い始めても、どうにも倒せなかった魔物の王。

 彼女は僕ら人類のなかで一番強かったけど、魔物の王はそれ以上に強かった。理不尽に強くて、原初様お一人では勝てなかったんだ。

 どれほど悔しかったことだろう。やっとの思いで対抗出来る力を得て、しかし届かなかった魔物の王。アデプトでなければ上位魔物に抗すること能わずだから、彼女の後に続くべくアデプトへの志願者がかなり出たものの、訓練が厳しくてアデプトに至れたのはほんの僅か。更には訓練途中で死んでしまう者が続出したため、ある程度の実力がなければ志願すら許されなくなってしまった。

 過酷な訓練を生き延びアデプトとなられた方々に感謝を! 死を顧みず自身を鍛えてくれた彼女らのお陰で、僕らはついに魔物の支配から逃れられた。

 立役者となったのは、確かレナ……だっけ? そういや魔物が名前で呪うかもしれないから本名の発表をしばし控えているとか言ってたような。一回誰かが口をすべらせたのを聞いたっきりだったよ。

 以前は人質を差し出してたしね。その彼女さえ居なければと、周囲に圧力掛けて排除させる動きも当然にあったと聞いた。一応は解決したとも聞いたけど、まだ本人たちにはしこり残ってるだろうな。

 そしてこの空気は、新しい攻撃の一種としか思えなくなった。禍々しすぎて、邪神じゃなければ絶対にこんなの作れないよ! 僕が昨晩空気の変化に気付かなかったのは、その時はまだ濃度が薄かったことと、暗くて色が見えにくかったせいかな。歴戦の兵士たちなら当然気付いてて、とっくに対処してたはずなのに、それでも不調となったのは、誰もこれを防げなかったから……?

 都市結界を越えてくるのはただ事じゃないし、かなり危険な内容だけど。でも単なる治癒術師にしかすぎない僕に出来ることはほとんど無い。僕は防御魔法すら覚えてないんだ。

 本当に気休めだけど、一応は手元の布で口元を覆った。あと患者たちにもしてあげなければ。段々と紫色が濃くなっていくよう感じる。

 そうやって不安を抱えながら処置を終え、しばし休憩した。やはり空気の色が濃くなっていくようだ。窓や扉の向こうから入り込んできて排除できない。風の魔法なんて僕は使えないんだよ。

 何も出来ぬまま、ごろりと床に寝転んだ。眠れはしないけど目を瞑っておく。見えないから大丈夫。空気の味が苦い。耐えるしか無いのか。

 かなりの時間が経ってのち、さっきとは別の伝令さんが来たので無理やり起きた。やはりこの空気を吸っての体調不良が街中いたるところで続出してるらしい。かくいう僕も先程から咳き込み始めてしまった。自分に治癒術を掛けるのは久しぶりだな。

 その伝令さん曰く、王都に助力を求めたので今しばらく持ちこたえてくれとのこと。そしてこの空気の正体が未だ不明なことも併せて教えられた。

 ここの患者たちも避難先へ。言いかけたそれは、実施不可能だった。兵士は総出で門外の魔物に抗っており、住民は自力での避難を強いられているとのこと。ここの兵士のように動けなくなった者も既に多数おり、彼らを助けることすら叶わぬとも。

 それだけを言い残し、彼はよろよろと消えていった。たぶんもう二度と会えない。

 街の様子も絶望的。治癒術師を今朝方全員招集したのが仇となり、今更街に戻って避難中の街人へ治癒術を施すことが出来なくなってしまったのか。一度発症し、他人から治癒術を受けられなかったら、自力での避難は無理。呪いあれ邪神!

 そして、あまりにも症状の進行が早すぎる。そうは思ったけど、この紫色な空気の広まりが速まっていればそれも当然か。除去分解出来ずの謎な気体が街を死に至らしめる。

 僕にも分かってる。初級どころか上級治癒術でも一時しのぎにしかなってないのだろう。この空気をどうにかしない限り、僕らは弱っていく一方だ。

 空気を必須とする僕ら人間は、こんなにも弱い。原初様のように強くなられた方々は僅かに居るけど、人間の総数に対してあまりにも足りていない。

 これからも足りることはないんだろうな。だって訓練で死ぬんだよ? 治癒術でさえ初級どまりな僕には、最上級治癒術に加え攻防兼ね備えた戦闘術をも取得する訓練がどれだけ過酷なのか想像すらできない。

 聞くところによれば、どう訓練すれば到達できるのか、それすらまだ模索中だとか。人間の限界を超えるには過酷な訓練が必要だけど、個々人の差はあまりにも大きくて、結果として試練の体をなさなかったこともしばしばあると言う。

 原初様がやった訓練を全部乗り越えられたなら確実にアデプトへ至れる。それは分かるけど、どう鍛えればそこまで強くなれるのか、それを誰も示せていない。数千年掛かっても、誰も。当の原初様でさえだ。

 死の一歩手前まで心身を追い込んで、偶然の発露を期待する? そんなこと凡人には出来ようもない。現にいま死へ向かっている僕がいきなり治癒術の腕をあげられるなんてことは起きず、愚痴を書き連ねることしか出来てないんだ。

 本当なら治癒術師は領主館に集結して避難者治療に当たるのが最善なんだろうけれど。もう僕は動けない。

 実はね、少しでも生きながらえるため、回復範囲を狭めようと片足ぶった切ってしまったんだ。もう痛かったのなんの。治癒術の訓練で自傷行為させられたことあったけど、初級の訓練に四肢切り落としなんて無かったよ!

 痛みは増したけど、もう少しだけ書いていられる。この手紙、誰かの手に渡ってくれるかな。伝令さんはもう来ないだろうし、無駄に終わるのかも。

 王都からの助けは間に合わないと思う。確かにアデプト様方なら治癒術使えるし戦闘能力もあるだろうけど、こんな聞いたことのない空気を浄化できるとは考えにくい。しかも街を救うとなれば、数千人を一気に治療するわけだろ。個人の魔力じゃ足りないよ。

 じゃあ複数人で、それもどうか。アデプト様方は人類の希望だけど、その数が少なすぎる。この紫色空気に感染して複数人が一気に倒れたら取り返しのつかない損失だ。

 今戦ってる兵士さんありがとう! お陰でここまで書けた。でも残せる内容は少ないね。まず治癒術では対症療法しか出来なかったこと、他には空気の成分は不明なことか。何も分からないよ! あとは、僕の身体の様子だけど、全身が悪いというか、なんか腐りはじめてるのかなこの感触。

 中身が液体に変わっていく感じする。倦怠感じゃなくて、筋肉が動かなくなったのかも。内蔵が弱って呼吸もままならない。さっき吐き出した液体は益々黒くなったようで、とても臭い。気持ち悪い。さっきも轟音が……揺れる。痛い。誰か助け……

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 その手紙が見つかったのは幸運に助けられてだった。建物が崩壊し、瓦礫が存在を魔物から隠したのだろう。書いたと思わしき故人は既に人間の形を留めてなかったが、彼は確かに記録を残し得たのだったった。

 しかし発見されたのは、実に三年もの年月が経過してから。件の紫色空気をすぐには排除出来なかったがゆえ。

 救援も、出来うる限りの早さで一回派遣されてはいたものの、アデプト以外の兵士たちが即座に不調を訴えるほど空気が汚染されていたことで撤退を余儀なくされ、一人残ったアデプト隊長も原因である紫色気体を吐き出していた地底洞窟の奥地、その核を破壊するまで丸々半年を要するなど、この件はとにかく時間が掛かったのだ。

 それもこれも紫色気体での影響がとてつもなく悪辣だったから。後日『瘴気』と名付けられたその気体は、人類の身体を内側から腐らせ死に致らしめたのだ。身体腐敗自体は治癒魔法で対処出来るが、瘴気に触れ続けるとまた発症し、予防しようとしても耐性を獲得出来ず対症療法しか不可能と分かったのは、それこそ後日の話。

 この時期人類は、十七カ国あった魔物国の頭を潰してやっと一矢報いたばかり。即座にかような毒を撒き散らされることなど、誰も予想していなかった。

 いや、知ってる限りの対策は施していた。魔物の逆襲に備え都市結界の強化を図ったり、各地にアデプトが駆けつけられるよう連絡網を整備したりと、みな精力的に動いてはいたのだ。

 なのにやすやすと邪神はその対策を乗り越えてしまった。都市近くにこの洞窟、通称ダンジョンを形成して瘴気を発生させ、その拡大と共に魔物を襲撃させれば、守護の兵士など簡単に蹂躙できる。

 確かにアデプトは強くなった。いまや魔物の王さえ殺せるほどの力を得ていたが、その強さはしょせん個人の力。広範囲な気体処理など普通は無理で。浄化の力とてどこまで対応出来るというのか。しかも発生源の瘴気核はダンジョンの奥深くに設置されるため、そこにたどり着き核を破壊するにはかなりの時間を要してしまう。

 ダンジョンを物理的に踏破するだけでも罠を乗り越え中の魔物を討伐せねばならないことに加え、奥へ向かうにつれ瘴気濃度が高くなっていくとなれば、この地に足を踏み入れられるのはアデプトだけ。

 普通の治癒術師は戦闘能力をそこまで備えておらず、普通の戦闘巧者は常時治癒術行使が出来ない。両方を兼ね備えた人物でも、長期間のダンジョン探索に疲弊し奥までたどり着くことが難しい。実に悪質な仕掛けだ。

 地中は邪神が掌握してるため、出現まで時間掛けて準備されるのも厄介なところだった。ダンジョンを一箇所でも出現させれば、発生した瘴気は都市結界を越えて近くの人類を死滅させられるうえ、影響が固着した場所は半永久的に人類の住めない箇所となり、アデプトが対処に赴いても瘴気核が破壊されるまでそこに長期間留めておける物理罠の側面をも持つ、複合的な代物。

 なおかつ、件の瘴気核は破壊を避けるため洞窟内を逃げ回る性質が付与されていた。時に数百キロにも及ぶ広大な洞窟の中、逃げる瘴気核を探し求めろだと!? これを考えた邪神に呪いあれ!!

 そしてダンジョン出現最初期は、まだ治療薬が存在していない。今でこそ治療薬エリクサーが流通しているが、作成には万融薬が必要で、その万融薬を作るのに膨大な量の瘴石が求められることを思い出してほしい。瘴石は、瘴気が固体に変化したもの。つまり撒き散らされた瘴気が固体になるまで放置された成れの果てなのだ。

 あちこちにダンジョンが出現し、瘴気の性質が分析され、エリクサーが開発されるまでこの後長い年月が掛かる。地上の汚染が進み、街といわず国が滅び、ついに瘴気を閉じ込める封鎖結界が開発されるまでこれも長期間。この二つが開発されたことによりアデプト以外も関われるようになったが、それは屍の山脈を積み重ねた果てに勝ち取った掛け替えのない武器であり、只人にはある意味絶望の象徴となってしまった。

 ダンジョンが近くに発生した場合、たいていは瘴気で死ぬ定めが確定したゆえである。

 エリクサーはその生産に多大な金銭労力を要するため、千年後も通常入手が不可能なほど希少薬のままだ。異世界技術でもこの解消には至らなかった。封鎖結界のほうは、これもまた只人の習得が不可能のまま時が過ぎていく。

 一生を掛けても得られぬほど高価な薬と、境界の神から加護を得ねば習得出来ぬ結界魔法では、いくら焦がれても一般人にはほぼ届かないのだ。予防薬も一応出来てはいるが、それとて発症を完全には防げずで、助け無ければ死あるのみ。

 そして、紫は死を想起させる色となった。

 人類を恐れさせ、神々も心を痛めるダンジョンと瘴気の問題は、千年が経過し邪神が意思を失った今でも解決していない――




お詫び:今回二次創作なのにキャラ死亡となりました。描写酷くてすいません。
 原作には詳細な描写ほとんど無いけど、だからこそ原作では描写不可能な世界の残酷さを描いておきたいという私のワガママがこんな感じに。
 これでもマイルドな世界が無茶苦茶厳しいですよね。以下補足になります。

 第一部を数回再読してやっと気付いたのですが、都市結界は瘴気を通すようです。
 なぜならシルメニアにて都市結界破壊前にテルネリカが瘴気を浴びているからです。
 また千年前時点でも結界はあったと第四部2章10話に記述ありますが、それでも本編開始時点で瘴気汚染があるからには都市結界の改良は難しいかあるいは不可能と判断しました。
 更に第三部1章3話では瘴気治療薬が当の瘴気由来物質でないと作成不可能な旨もあるため、エリクサーの開発がダンジョン発生以後だとも分かります。
 これらから、凡人モブでは瘴気汚染イコール死亡だと理解せざるを得ませんでした。
 何か思うところありましたら、顔文字でいいからカキコいただけるとありがたく思います。
。・゚・(ノД`)・゚・。

 なおサブタイトル元ネタですが、ムラサキは紫で読みがシ、デスも死でシ。
 シ=シのコンピュータ破壊コマンドもじりなのでした(古
 あと本当はニアイコールと思われますが、縦書き変換困難でイコールとします。すいません。
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