*色々あって後半部のメルミナ活動記述を何回か修正しました。あわせて後書きも修正。5月1日版が最終です。申し訳ございません。
【XX月XX日 会長様に呼ばれてレンガ保存食改良を指示された。普通に無理では?】
俺がこの商会会長であるメルミナ様に呼ばれたのは、とある日のことだった。立派なアデプト様の彼女が商会を立ち上げて早数年。アデプト訓練時代から色々動いていたらしいが、いかなアデプト様でも戦闘能力と商取引能力は別物。彼らへの各種依頼料は基本的にどれも高額ゆえ一般人と金銭感覚が異なってしまう方も多いというのに、このメルミナ様は少額取引を忌避しないどころか率先して引き受けることで信用を得てきた方だ。
今では中堅どころの商会として知られるようにもなっている。たった数年での成長とは思えないほどで、更に数年もすれば神国を代表する商会になるとも思う。
まぁただでさえ会長職として忙しいはずが普通にアデプトとしての仕事も怠ってないのだから、それはお忙しいことになってるんだがね。普通なら倒れてもおかしくないぞ。
彼女についての話としては、他にも遠視魔法での探知案件に他条件を絡める手腕が見事だとも聞く。俺は見たこと無いが、他国のお偉いさんが汗だくで会長室から出てくる姿は幾度となく確認されてるとか。強欲とまでは聞かないものの、かなり金銭面にはうるさいとは聞くので、そのあたりで色々あるんだろうな。俺にとっては給与を普通以上に支払ってくれてる気前の良い方なんだが。
その仕事だが、俺は農作物の改良やそこからの調薬作業などを任されてるぜ。いつどこが滅亡してもおかしくないこんな世界ゆえ、どの国でも食料増産には積極的だ。とはいえ増産のため専門家を雇うのは国や貴族の仕事のはず。メルミナ様のように素材開発までやろうとする商会は少し変わってると言えなくもないが、それでこの商会に雇われた身としては凄く感謝したい。貴族付きとか責任が重いからな。
今回わざわざ会長室に呼ばれたからには、少し面倒な案件なんだろうなと思いつつ、戦々恐々俺はドアを開けた。
それで、以前より増えた感のある書類の山を横目に会長様がいうには、生鮮食料品確保のみならず、食料の保存方法にも改良を加えたいそうな。異世界知識が少しずつ広まって、最近では缶詰なんて手法も開発された。理屈は覚えてないが、再現済みの手法があるなら普通にそちらを採用したら良いのでは? あぁ、まだ単価が折り合わないと。なるほど高価な機械が必要だったか。
しかして俺が呼ばれたのは、あのレンガともいわれる保存食を改良したいからとな。なんで?
長期保存に欠かせない薬の味が前面に出て美味しくなく、しかも乾燥で食感パサパサな、数千年レシピが変わってないあのレンガ保存食。保存薬の主成分である薬草の味を変えようとしたら保存期間が極端に短くなって、今じゃ誰も研究してないはず。それを俺が? なんの冗談だ。
しかし彼女は、その経緯は知ってるわと言いつつ再度俺にお願いしてきた。人類のためとか異世界知識がどうとか言ってたけど、何か変だ。確かにアレを美味しく出来たなら引き合いは多いだろうけどさ、国でもない一商会で開発する理由もまた無い。
最終的には引き受けたものの、かなり難しい案件だよ。さて何をすれば美味しく出来るかね。
【XX月XX日 調べるほどに厳しい。頭痛いな】
まずは過去の取り組みを調べた結果、やはり保存薬の改良が出来ず頓挫してたらしいことが分かってきた。大図書館に通い詰めありったけの文献を漁ったものの、どれもこれも否定的な内容ばかり。
神国のイリシア大図書館は世界一の蔵書量を誇るので、そこで手がかり得られないないなら他国でも見つからないだろう。実は既に改良版が出回ってないか心配でうちの流通部門にも念のため聞いてみたが、噂さえ無いと返ってきた。数千年あのままだからな、今となっては改良したいなんて誰も思ってないらしい。諦められたともいう。
会長が俺に話を振ったのは、保存薬の改良。あるいはその原材料薬草自体の改良を期待してなんだが、調べるほどに難しいとしか思えなくなる。
まず薬の主成分薬草だが、これに手を加えると出来上がった薬の効用が覿面に落ちてしまうことが分かっている。具体的には味の変更が出来ない。特有の苦味成分が長期保存を可能とするらしく、これを中和したら意味がなくなるのだ。これまで色々研究されたものの、有効成分から苦味だけを処理する方法は今のところ見つかっていない。
他素材での代用も、当該薬草ほどの効用を得られずじまいでダメ。じゃあ薬を抜いたら? 長期保存できませんよ。
うーん、現在の一大食料生産国な聖国で密かに開発してたりしないかなぁ。研究中なら文献にもなってないはず。
よし、会長に許可取って聖国の研究所を訪ねてみるか。現在あそこ以外で研究してそうな国は、ちょっと思いつかない。保存食改良に目を向けられるほど余裕ある国なんてほぼ無いし、まず他国の神様たちはみな慎重派だからな。
今の保存食も、味以外は問題ないんだ。率先して研究するほどじゃない。いや食感もよろしくなかったか。確かに評判悪いし俺もできれば食べたくないものの、栄養はあるし安く作れるしで、どの国でも在庫は山になってる。迷宮氾濫で要食料援助となったらまっさきに送られる筆頭食料。そもマズいから消費先がほとんど無いせいだけどな。
安く作れるのも重要なんだよなぁ。そうでなければ別なのに置き換わってるくらい評判悪いし。
これまで数千年も同一製法で作られてきたレンガ保存食を今更改良なんて話が出たのは、異世界知識が広まってきたせいかのかもな。砂糖菓子の開発や肥料改良はけっこうな恩恵で、美味しい食べ物が多くなった。それと比べれば、かなりマズい。改良出来るなら、したい人もそりゃ出るだろうよ。何でメルミナ会長様がそう思ったかは分からないが。
そういや、異世界知識による肥料改良の影響を調べてなかったか。すっかり忘れてた。聖国問い合わせはその後だな。結果が出るまでの報告書は、まぁ無難に書いておくか。
【XX月XX日 失敗ばかりで嫌になる。マズいままだ】
最近出回ってきた新しい肥料を取り寄せ薬草栽培をしなおしてみたが、収穫量以外では影響ないようだ。栽培促進で収穫したのを元にした試作品は、どれも味が変わってないよう思えた。というか、薬にした段階でマズいままだった。
肥料で作物の味に影響あるって話も、実はよく分かってない内容だ。野菜などでは確かに甘みが増したりするものの、時間かけて研究せねば理解出来ないんだろうな。
それで、俺だけでは違いが分からなく同僚にも試食をお願いしてみたが、誰も手を付けてくれず評価不能とあいなった。見てくれ変わってないから遠慮が先に立つのは当然か。試食くらいは手伝って欲しいんだがな。ところで今気付いたが、このままじゃ試作品を俺一人で食べ続けることになるんじゃないか。普通に嫌なんだけど!
これはさっさと他国の研究情報を聞いたほうがいいな。一人で薬改良に取り組むのつらいわ。まずは先方に連絡してだが、こちら研究中なのを知らしめることでもあるから、会長に判断を仰いでおこう。彼女がどう判断するかは、ちょっと見通せない。
【XX月XX日 聖国でも成果なし】
問い合わせることについて、危惧じゃなく逆に推奨されたのは少しビックリした。その場で聖国への出張まで了承されるなんて展開が早すぎる。そんなに期待してるなら、開発人員増やしてほしいんだけどな。
でもって聖国まで来たのはいいけど、今は誰も研究してなかったわ。事前に回答あったとおりだな! 書面では伏せていた新事実などあるはずも無く、当然の結果を確かめただけだった。
なにせ異世界人を召喚してる国は、わが故郷の神国しか無いからな。他の国は以前からの魔法による改良方法なので、成果ないだろうことは最初から予想済みだった。
じゃあなんで訪問したんですか? 俺の気分転換だよ! 数ヶ月も成果ないからさ、頭痛いんだよ。会長への定例報告も内容が無さすぎて地味に書くのきついし、今回の訪問でも成果なしだから開発中止にしてくれないかなぁ。
あー、帰りたくない。酒でごまかされてくれないかなぁ。一応は高い酒を土産に買っていくか……五本くらいあれば大丈夫だろうか。そう思いたい。
【XX月XX日 土産効果なし。泣く】
会長様への報告に先立って土産の酒五本を渡したら、喜んではくれたものの開発中止を言ってはくれなかった。絶対ぜったい必要だって主張するんだけど何でだよ。
力説しすぎたのか、喉が渇いたとか言ってその場で呑み始めようとするし、怖くなって逃げさせていただきました。ご相伴出来るはずないだろ、会長はドワーフなんだぞ。お強いに決まってる。
あと、会長様が仕事途中で酒に手を出すなんて、これまで聞いたことがない。その辺はきっちりされてるはずだが、開発中止はよほどお気に召さない事態なんだろうか。側近さんに様子を見てもらっておこう。
翌朝の再度呼び出しは、まぁ覚悟してた。しかし美味しかったわと普通に告げられたのはともかく、顔色も普通で特段変化ないのはいかなドワーフでも強すぎると思ったよ。度数高いやつだったんだが!? 俺じゃ一本でも酔いつぶれるのを、五本全部、しかも一晩で飲み干した?
唖然としてたら、アデプトなんだもの普通にアルコール分解出来るわよと。デスヨネー!
それで、と。改めて詳細報告を求められたので、俺は怖くなって正直に回答した。顔が笑ってるんだもの、絶対逃げられないよ。保存薬主成分である薬草の改良はまず無理。新肥料も味には影響なし。聖国でも無期限研究停止中。どうにもなりません。終わりにさせてください。
それを聞き会長様はしばし考え込んだものの、でも、と言葉を続けた。絶対食べ続けてるのよね、と。誰がです?
聞き直そうとしたら、少し早口で、それでも頑張ってちょうだいってさ、なんか真剣に頼んでくるんだよ。待ってる人でもいるんですかね。えっ、ほんとに待ってる人いるんですか!?
待ってなどいないはずって返答だったけど、それって誰かを念頭に置いた内容ですよね。保存食を必要とする人って、スラムの関係者とかかな。
メルミナ会長様はスラム出身だと聞くし、そこの栄養状態を改善したいなんて話を聞いたことがある。開拓村の後押しもされてたし、非常時の食料在庫として保存食を必要とするのは分かる。
異世界知識で色々と美味しい新食品が開発されてもいるから、その時になってあの保存食が出されたら味の落差に泣くかもしれないのも分かる。というか俺は既に泣いた。
それでも? 彼女は開発出来ない俺が泣くのを絶対に理解くださらないらしい。どうして……
【XX月XX日 いっそアルコール漬けにしてみた。普通に酔っ払っただけ。泣く】
【XX月XX日 今日もいい天気、なのかも。視界が暗い。泣く】
【XX月XX日 俺はレンガを食べてるのであって、保存食を? 保存食って美味しい?】
【XX月XX日 xxxx!?】
【XX月XX日 ウキャキャ】
【XX月XX日 見かねた同僚が何かしたらしい。数ヶ月の記憶が無い。泣く】
【XX月XX日 会長様からの提案で、ヒントを求め異世界料理を食べ歩く日々。今日もダメで泣く】
【XX月XX日 新鮮な魚の味。保存したらこの味は出ないってさ。そうか保存しなければ!】
【XX月XX日 保存を求めてると一蹴される。何かされたようだ】
【XX月XX日 麦せんべいなるお菓子を食べた。固くとも麦の味に泣く。どうして保存食は】
【XX月XX日 見舞いでチョコレートをいただいた。甘さの暴力に泣く。苦くないんだよ!】
【XX月XX日 こんど泣ける料理を紹介してくれるって。泣く前提なのに気付いてまた泣いた】
【XX月XX日 香辛料を知った! しかしダメだった。泣く】
先日、カレーなる物を食べた。香草をふんだんに使い、辛味を楽しむ料理なんだそうな。何か色が強すぎて恐る恐る食べたけど、あんがい美味かったな! 辛いは辛いんだけど、こう、体が燃えてくる感じがいい。辛さには泣いたけどな!
具材は根菜や各種肉で、普通に流通してる物ばかり。これなら個人でも作れそうかと思ったものの、味付け素材の香草を最低でも十数種類も組み合わせると聞いてビックリだよ。気軽には作れないな。
配合を変えれば全然違う味になるらしく、どうすればいいのかあちこちで研究が始まったとも聞いた。今のうちに使われそうな薬草香草を色々育て始めたほうがいいかもな。会長様にご注進してみるか。
あと、これだけ強い味になるならあの薬草味を打ち消すかもと思い至ったので、粘り強い交渉のうえ少量だけ配合済みの香辛料粉を分けてもらった。
いや、俺ごときでは交渉にならないので、上に出てもらったよ。自慢じゃないけど俺は下っ端なんですー。ほんと自慢にならないわ。
ところが、これが成功しなかった。
食材に混ぜたところ、確かに味は少しマシになったものの、別な問題が出てしまったんだ。
それは匂い。いや臭いのなんの。数メートル離れても即座に分かる強烈なそれが他の食料にも移ったら、文句が出ること間違いなしだ。専門店ならともかく、普通の倉庫では保存出来ないぞ。俺の部屋も臭わなくなるまでしばらく掛かったほどだ。
それと、後で気付いたが香辛料を揃える費用も馬鹿にならない額だった。自分が植物を扱えるから比較的安値で揃えられそうだと考えていたが、他で作る際の値段も気にしないといけなかったんだよ。開発後もしばらくはうちの商会が独占販売とは思うが、それでも安く作る努力は怠っちゃいけない。高価だと、まず会長様が了承しないしな……
【XX月XX日 強い香辛料で味覚が変だ。しばし休めると思ったら会長様に治療されたうえその費用も請求された。安くしてもらったが気遣いに泣く】
【XX月XX日 改めて異世界は恐ろしい場所だと思った。こだわりが凄い】
保存食改良アイデアがまるで思い浮かばず憔悴してた俺に届いたのは、異世界人からの聞き取り内容だった。少し前に食べたカレーが切っ掛けで異世界人にも少しだけ伝手が出来たため、向こうでの食料保存状況を色々まとめてもらったんだ。
ちなみにカレーの香辛料粉は金属缶やアルミパウチで保存だとか。パウチって金属を使った布? 想像すら出来ないわ。金属の缶詰やガラス瓶詰めの話は以前聞いたことあったが、さすがに再現困難な容器は諦めるしかない。香辛料粉は自分でも扱いたいんだけどな。
その他にも、燻製や日干しなんて方法もあったらしい。まぁ普通だな。魚類の長期保存には適してると文献にもあったような。あと真空容器? 空気を抜くって何? ダメだ理解できないのもある。異世界とは難しいものなんだな。
そしてっと……おぉ? 焼き菓子風保存食なんてものもあったのか!?
なになに、豆類素材を粉砕して乾燥粉にし、練り込んだのち調味か。粉にするのはカレーの香辛料と同じだな。乾燥果実を歯ごたえアクセントとしてあえて欠片状に入れ、繋ぎにはハチミツを使うと。ハチミツが天然保存料になるから、それで覆う感じか。別途の保存料は、市販品ならほぼ使用してるものの、不使用でも個別包装と冷暗所保管なら比較的長期の保存が可能ともある。
こちらの食料は麦が主食だからな。麦粉の焼き菓子はクッキーとして普通に作られてるが、豆粉の焼き固め料理はどうだったか。少なくとも俺の記憶にはないが、素材変更あったとて、調理方法は似てるはず。なお麦で作った場合は、栄養が偏りやすい? そのへんはおいおい研究するか。
素材が豆類というだけで、とても再現困難には思えない。異世界人の召喚が始まってからもう二十年近く経過してるのに、誰も再現してないのは不自然だが……
そこまで考えて、ハッと気付く。ああ、異世界人はこの世界での保存食なんて食べないよな、と。
基本的に保存食は非常時の備えだ。だから魔物の襲撃があった際には重宝されるものの、彼ら異世界人はほとんどそんな事態に会わない。以前の世界では居なかった魔物という存在を怖がってなのか、危険を避けようと街外へ出たがらないんだ。
元が魔力無い世界なので、長じてからの魔力鍛錬は面倒だといって戦闘方面に進む人間は更に少ないとも聞く。腕力自慢はいたそうだが、単純な力だけじゃ魔物には勝てない。絶対に魔力が必要となるんだがね。やれやれ。
それはさておき、彼らの知識から再現されてる食事は、かなり美味しい。先日のカレーしかり、チョコレートや砂糖菓子しかり、実に美味だ。そのうえ街にしか居ないのであれば、ことさら保存食に手を伸ばそうとはしないだろうよ。街に住んでも保存食を食べるだなんて、そんなスラムの人間じゃあるまいし。
そんな感じで、見落とされた知識なんだろうこれらは。学舎では多岐にわたる知識を聞き取りしてるはずだが、内容が膨大すぎて発表されてないことも多い。
中には有害な知識もあるらしく、時に慎重な扱いを求められる異世界知識だが、食料関係ではほぼ縛りなかったはず。なのに抜け落ちてたのは、やはり保存食が他より優先順位低いからだろうなぁ。
残念ではあるが、まだ誰も再現してないのはこれ幸い。ありがたく参考にさせてもらうとするか。薬草での保存薬を使わずとも長期保存可能なら、確実に味が改善される。
それで、最後に書いてあるこの味噌漬け保存って何だ? 保存というか過程、豆の発酵食品に毒魚の卵巣を漬け込むと数年で毒が消える……? 食料に困ってる世界とは聞いてないが、よほどの事情なのだろうか。毒素分解の理由不明!? もしや異世界とは毒まで食べようとする世界なのか……実に恐ろしいな。
【XX月XX日 試作品完成! けっこう美味い! 後は保存期間だな。包装紙は会長様に相談しておこう。俺が頼まれてたのは中身で外側じゃないからな】
【XX月XX日 調べてもらった結果、包装は既存紙でも良さそうだとのこと。それは良かったが、会長様には呆れられた。開発は全部でしょうに、と。中身だけで精一杯だったんだが……】
【XX月XX日 一週間経過! まだ腐敗してない。ヨシ!】
【XX月XX日 二ヶ月経過。腐敗なし。経過見てたら作り置きがかなり減ってたので追加した。美味しかった】
【XX月XX日 気付いたら最初の試作品を食べきってしまってた……記録のし直しついでに少し味を変えた。同僚にも好評だが、会長様には嫌味を言われた。解せぬ】
【XX月XX日 再度二ヶ月経過したので、会長様にも召し上がっていただいた。なんかニヤニヤしてたような?】
【XX月XX日 規定保存期間過ぎても問題なく、これで開発完了となった! やった、やりとげた!】
振り返れば開発開始後数年が経過していた。最初の一年はほんとどうなるかと頭を抱えていたが、焼き菓子形態を知ってからはかなり順調だった。試食に参加する人間も増えて細かい改良を加えられたのが良かったな。
保存期間の確認は実際に保存せねば不明ということで、レンガ保存食と同等の期間を経過させたことから確認に手間取ったものの、特段の問題なく終わって幸いだった。
高温、低温、湿度などその他の条件も問題なく、値段も保存薬を使わないことで若干高め程度に収まった。何より味が違う! これなら売れそうねと会長もご満悦だ。
ただ、これで俺の役目は終わりと思いきや、今後これの普及に傾注せねばならなくなったのは、どうしてだろうなぁ。
あれか、料理の腕も上がってしまったせいか。だってよ、他人へあれこれ指示するより自分で焼き加減を工夫したほうが面倒くさくないと思わないか? 俺は思った、それだけだよ。
おまけでクッキーなど他の焼き菓子類を食べても焼き加減が気になるようなってしまったのは、仕方ないけど残念だ。
他人とお茶会に行っても確認しちゃうんだぜ、喜ばれないよ。一人では更に食べたくないしな。あぁ、一緒に食べてくれる人間は誰か居ないものか。俺は販売計画書を前に、なんとなく溜め息を吐いた。
【XX月XX日 販売計画の決裁が下りない。なんで?】
【XX月XX日 タイミングが悪いらしい、近いって何がだ?】
【XX月XX日 辺境伯領で大規模迷宮氾濫があったため、対処に会長様も赴いたと聞いた。改良保存食を持っていったとも聞いたが、美味しく食べてくださってるだろうか。自信作とはいえ、なんだか不安だ】
【XX月XX日 今回の大規模迷宮氾濫対処はまだまだ時間が掛かるようだ。会長様も千里眼で迷宮核を探されてるそうだが、核が広範囲に移動するので、ここ神都を中継点として転移門であちこち行かねば探せないらしい。早く鎮圧出来ますように。そういえば本日は新しいアデプト様が正門から出られるめでたい日だったが、それどころじゃないかもな】
【XX月XX日 会長様が疲れた様子でやっと帰ってこられた。今回の大規模迷宮氾濫では、かれこれ一ヶ月以上出向いてたことになる。書類がずいぶん溜まったらしく、しばらくは籠りきりになるんじゃないかな】
【XX月XX日 書類整理に掛り切りだった会長様が、今度は汚染地の魔物討伐を請け負ったとか。なお書類持参で出向くらしい。会長職は大変だ】
【XX月XX日 保存食の販売計画は優先順位が低いようだ。開発した人間としては残念だが】
【XX月XX日 先日の討伐依頼で何かあったんだろうか。会長様の機嫌が凄くいい。何というか、浮かれてる?】
【XX月XX日 最近出歩き気味な会長様が、今度は学舎に籠もられたとか。書類決裁が滞っていると側近さんが嘆いてた】
【XX月XX日 例の改良保存食は、販売計画の決裁が下りないままだ。なのに生産状況を聞かれてしまった。答えると、なんか会長様の顔がほころんでいるよう感じた。何だろう】
【XX月XX日 少量生産を継続? 一般販売は? 尋ねても会長様は口を濁すばかり。意味が分からない。普及はどうなった】
【XX月XX日 そろそろと思ってた販売計画は、未だそのままだ。本業に専念したいが、少量生産は絶対継続しろって何だろうか】
【XX月XX日 香草育成が最近忙しい。カレー研究に大わらわだからか。みんな好きだな!】
【XX月XX日 改良保存食は、少量生産の日々が続く。売れるのだから、そろそろ一般販売を……ダメ!? そういえば商品名も付けてもらえてないぞ】
【XX月XX日 開発終えてから一年が経過。一般販売決定がいつになるのか、誰も分からない】
保存食への言及箇所チェックに手間取り、長らくお待たせしました。待ってない? oh…
当話での保存料の苦味はミョウバン参考です。異世界でも同じかは不明。
神様はレンガ保存食を食べたことなく(作者様感想返信参照)マズいと分かってないそう。バッドエンドで思い出部屋に二人きり閉じ込められたなら改良型を分け合ってたかも?
また作者様裏話によれば、メルミナさんは改良保存食が話題になればコノエが会いに来てくれると夢見ており、四年かけ開発させたとのこと。しかしその後一般販売はさせてない模様。どこでも売ってたらコノエが会いに来ないのですよねー。
第二部時点で絶対出来てるはずが、仕事一緒なら手料理優先なの乙女心可愛い。
なおコノエが外への扉を開けたあの日、ちょうどメルミナさんは神都に戻られてたそうです。
(第四巻発売記念特典栞参照)
やっとコノエに会えるかと思いきや、あの出迎えが必要ということで扉の向こう階段の下で彼を待つしかなく、そのままお流れに。
その原因がテルネリカさんで、コノエに色を付けたのも彼女……おのれ!
次話は、また時間いただきます。ネタが思いつかない(汗)。
あと読んだ足跡に顔文字『(o´∀`)b』でも何でもカキコくださると嬉しいです!