転生程度世界でもモブだった件   作:凍幻

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*時系列は第二部開始以降。第二部まで読み終わっていれば支障ないはずです。


第十二話「魔法は万能かもしれない」

 転生者たちへ色々説明した際、場が盛り上がるのはだいたい魔法の話をしたときだね。

 パッチン使えるの? 知ってる知ってる変身魔法シャラララ! 杖だろ杖!

 それを見て、私をはじめこの世界の人間は思うんだ――君らの世界に魔法ないはずだよね、と。

 文章で読んだ、あるいは絵で見た。知識を得た媒体は色々だけど、どうやら地球でも魔法の概念は昔からあるようで、いつか再現できるかもな夢物語が地球ではずっと紡がれていると何人にも教えてもらった。

 なかでも見た目が派手な炎や雷は、見栄えするから物語に登場させやすいらしい。一見地味な水関係も飲料水として大活躍だから定番となり、知見出来ずな精神作用でさえ概念としては負けず劣らず古参扱いと聞けば、地球での想像力はなかなかに凄いと関心するよ。お気に入りの魔法がこちらで開発されてなく、露骨にガッカリされたこともあったな。

 空想だから何でもアリとはいえ、さすがに神降ろしや隕石大降雨のような物騒な魔法はお断りだ。自身で完結出来ずな魔法は影響が大きすぎる。だいたい、神様の力だなんて人間の身には余るはずで、地球産物語でも破滅的な結末が多いと聞く。特殊条件が重なりマシなその後を迎える物語を参考にしたとて、奇跡前提な魔法だなんて作れるはずないよ。

 あるいは固有魔法に至るほど願えば――それこそ可能性の話だ。私たちが求めるのは、この世界で再現可能な技術。たかが個人の力で何もかもが解決するような、そんな結末あり得るはずもない。まあ面白そうな概念は研究対象になったりするけどね。

 この世界が逝去後の地球人を召喚し始めたのは、本来科学技術知識を求めてのことだったけれど、生存環境が異なれば出てくる発想もやはり異なるので、当該知識を提供出来ずな人間にも何かあるかもと、聞き取り調査をかなりの回数実施してる。

 私の仕事が、そのまさに調査の仕事で。本来は学舎の事務仕事なんだけど、調査に掛り切りとなった関係で本来業務からはとっくの昔に外されていたりする。うん、聞き取った内容が膨大で他仕事に手が回らないからだね。最初は科学技術だけを扱ってたはずが、他にも有益な情報あるのではと誰かが気付いたのが運の尽き。しかも精査必要な情報が山盛りだったため、関わる人間は少ないほうがいいとも判断されてしまった。結果、あっという間に知識習得テストの採点事務や進路調査の取りまとめなど書類仕事が私ほか数名に集約され、かなり忙しいことになった。

 一番最初は召喚時の手伝いだったんだよ。状況分からず泣き叫ぶ方々を黙らせるだけで済んでいた頃が懐かしい。え、当然に魔法使用ですが何か。そんな流血事態だなんてとんでもない、鎮静と消音だってば。野蛮人じゃあるまいし。

 慌ただしい最初の数時間を過ぎれば、だいたいはみな理性的になってくれるから大丈夫。それでも粗暴傾向な人は、まぁうん。一定期間ごとに対人訓練を行ってるとは伝えておく。事故は起こりうるからね。二度と手加減を間違えないようしなければ……

 それはともかく、最近は関連事務がますます増えてる気がする。安易にテスト回数を増やしすぎなんじゃないか。回答の正否確認のみならず、この世界の論理感と即座に照合せねばならない判断力を求められるのが少々面倒くさく思う。質問外の言葉は書き込まないでほしいよ。まったく。

 いやいるのよ、設問とまったく関係無い単語を書き込むやつが。こちらに分からないよう地元言語で書くのが小狡い感じ。召喚の際に極悪人が紛れ込まないよう術式は組まれてるんだけどね、犯罪の自覚なくやらかす人間の排除は完全とはいかない。

 まぁ断片だけでも人格傾向が分かればそれとなく以後の注意が出来るし、完全に隠されるよりはマシなのかも。それを考えると、新人職員には書類を押し付けられないからな。マルバツ方式ならすぐ違和感に気づけるが、知識習得度検定の本義とは相容れないから今後も記述式継続は決定事項で。今もこうやって違和感を見つけたりす……なんだこの記述は。

 小石を土にする魔法があれば習得したいです? なにこれ。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 少し時間をかけて、この妙な質問の意図を推理したく思う。

 今回の召喚でも初日に頑張ったせいか以後はみな大人しかったので安心してたんだけど、魔法について類を見ない質問が出てくるとは思ってなかったよ。

 それで、小石を土に変えるとは元素変換が望みなのかな。だけど、この世界でも元素変換は不可能だ。魔法で一時的には可能なものの、永続性はほぼ無い。世界の理に反するじゃないか。そういや地球での科学発展は元素変換を求めた結果な話を聞いたことあったな。それを思えば不思議な問いとは言えないかも。

 しかしそれなら錬金と書くような。そちら方面の質問は割と受けたことあるけど、いずれも質問者は欲の突っ張った人達だった。もちろん色々オハナシさせていただいたよ。殺すだなんて、そんなもったいない。有効活用しないとね。

 話を戻すと、この質問にはそんな欲を感じない。わざわざ小さい石と平均未満で対象指定してるところがそれだ。儲けたいならより大きく希望するだろうよ。

 石を砕く個人戦闘力を求めたとて、普通の金属程度なら身体強化でへし折ることは可能だと説明を受けているはずで。金属より脆い石を指定するのは妙だ。いま思い出したけど、以前教えてもらった地球の歌には岩を砕いて戦闘力を示すなんて歌詞があったな。それはそれで勇ましいが、魔力なき世界ならではの歌だ。その線も薄い。

 金銭欲と戦闘力を候補から外せば、残るは実用面でなんらかの価値を見出してる可能性。大規模魔法なら土木工事に繋がりそうだが、小規模魔法はたいてい自身の利益なんだよな。

 さっぱり分からないので、事務長とも相談しておくか。これが文字通りの魔法専門話なら、該当講師に面談を頼みたいんだが。どうなるかな。

 他に奇妙な内容が紛れ込んでないことを確認したのち、私はスケジュール表を片手に立ち上がって歩き出した。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

「いえ、たいした話じゃないんです。ただ、個人的に畑をいじりたいなと思ってまして」

「森を人力で切り開いてると聞いたので、土木機械なしじゃ僕に開拓は無理だなと」

「経営規模はいらないんです。休日にちょっとだけ出来ないかなーと、そんな感じなんです」

 

 目前の男性と面談したのは、質問を確認した翌日になった。男性はあまり周囲と交流しておらず、忙しくなかったとのこと。連れがいれば学舎から街に出かけもしようが、一人での外出は勇気がいるようだ。街に魔物はいないんだがね。

 ただ、先の質問が個人面談になるのは予想外だったらしく、この部屋に入ってきた際は少し怯えているように見えた。

 私だってそこまでの話になるとは思ってなかったよ。どこかの講義が終わった際に立ち話で該当魔法の有無を伝えるだけで済ませたいと当初は思ってたものの、相談した事務長にも質問の本音が見えず要注意だねと色々忠告されてしまいこの場になってしまった。

 ちなみに魔法担当講師にも同席を依頼しようとしたところ、講義内容の見直しが忙しいらしく新規案件はお断りな状況だった。なので仕方なく、本当に仕方なく私単独で引き受けた次第。

 その講義内容、二十年以上同一の内容だったから今更見直しは不思議だと愚痴をこぼせば、誰も不都合訴えなかったしねと講師も同意の様子。引っかかりを覚えたので水を向けたところ、先日転生者から初のアデプトが出たものの、その知識に不足事項があったからとの発言が返ってきた。初耳だ。

 なんでも件の彼は、これまでの転生者同様に教育期間を順当に過ごした後、アデプトに志願したら訓練期間中ずっと学舎にとどまっていたらしい。これまでも転生者からアデプト志願者は出ていたが、訓練の過酷さに耐えかね一週間ほどで辞退するのが当たり前。

 私も昔は誰か成し遂げてほしいと期待していたものの、魔力なき世界の人間には魔力感知の第一歩から躓くものが多くて、いつしか所詮無理筋かと諦めてたよ。それなりに鍛えた我が世界の人間でさえ成し遂げるものは少ないというのに、転生者ゆえの無魔力状態からよくも上り詰めたものだと驚くばかりだ。

 しかし、同じ学舎内で訓練してたにもかかわらず、私は彼の様子を思い出せなかった。自分が忙しかったのは確かだが、噂くらいは聞いててしかるはず。いったい、どこに隠れてた?

 そんな微妙な顔をした私に教えてくれた彼の様子だが、曰く外出すら惜しんで訓練してたため、訓練関係者以外との接触が極端に少なかったようである。

 あの過酷な訓練を熱心に行い、夜間や休日も自己鍛錬をし、享楽には一切手を出さず、欲望の具現化ともいえる固有魔法さえ発現させず、しかしアデプトに至ったと。その訓練期間は実に二十五年! なんだその変人は。

 およそ個人の欲が見えない。普通は何かを為すべく力を求めるのではないか。まるで訓練そのものが希望だったとでも言うのか。しかし二十余年も訓練に没頭したのなら、知識に漏れがあったとて、昔過ぎて講義内容を忘れた可能性もあるのでは。

 疑問を呈したところ、それは無いと即座の答え。話の出どころは教官様だから、ありえないと。それなら納得だ。教官様が間違えるはずない。

 とはいえ知識不足はいただけない事態。今回露呈した内容は、主に貴族の在り方についてとのこと。彼は階級社会に馴染みがなく、アデプト就任後いざ自前で仕事を受注しようとした際かなり戸惑ったらしい。

 社会制度はきちんと教えていたはずと、私も助手の立場から講義内容を思い出したものの、何が不足したのかさっぱり分からない。

 思わず首をひねった私を見て、講師も苦笑する。そういうわけで全部見直し対象なんだと。もしやそれ、私も手伝わされる話なのでは……?

 気付いた私は即座に話を打ち切って逃げ出した。講義内容総点検に駆り出されるよりは、転生者の質問に時間を割いたほうがいい。そのあと日程調整してこの面談に至った次第。総点検に付き合えないのは仕方ないよね、面談があるんだから。

 そうして迎えた面談で聞かされた内容は、些細すぎて逆に驚くような魔法の使い方だった。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

「ええと、つまり自分で耕す畑地の土壌改良に魔法を使いたいと。そういう内容ですか?」

「ああそうか、小石を取り除くのも土壌改良になるのかもしれないんですね? 素人はそのへんサッパリでして」

 

 すいませんと頭をかく男性は、僕は頭悪くてとも口にした。口調から判断するにそうは思えないが、過去になにかあったんだろう。この様子なら質問事項が犯罪に繋がることは無いとも判断出来たので、せかすことなくゆっくりと男性の話を聞いていく。どうしても時間掛かるが、それはそれ。つっかえながら話す内容をこちらで都度確認しながら二人で纏めた内容は、だいたい次の通りになった。

 まず男性がこの教育施設を出たあとの暮らしだが、他の大多数同様に街で過ごしたいそうだ。戦闘行為はやはり忌避感があるそうで、僕ごとき運動神経鈍い人間はすぐ殺されちゃうはずとも口にする。先日アデプトに就任した方は訓練期間二十五年ですよと話題提供したものの、僕は百年掛かっても無理だろうと、そんな感じで尻込みする。

 魔物という害意存在が居ない世界の人間は、ここまで危機感が薄く臆病になるのか。それが向こうの常識と知ってはいたし、書面でも同様の話を見ていたはずだが、実際に男性の臆病さを見聞きしたことで腹に何かが溜まる気がする。ただ、戦闘に適正ないからと安全な神都学舎に居続ける私自身も実はそうではないのか? ……実に苦いな。

 それはともかく、男が街で生活をするにあたって将来欲しいのは庭付きの家だそうだ。生前はマンションとかいう建物の一室が居室だったこともあり、自分で農作物を育てる場合には離れた場所に畑地を借りねばならず不便だったとぼやく。

 

「とかく移動時間が掛かりまして。早朝に収穫作業をしたくても、さすがに真っ暗な夜中に車を走らせるのは怖かったんですよ。自宅なら時間に余裕持てるだろうと思うんです」

「雑草は、この世界だと農薬があまりないからマルチ頼みなら対処出来そう。ビニールは無いけれど、布で代用できるといいな」

「問題は石取りなんですよね。地下茎の邪魔になって作物の形が悪くなるし、鎌に当たると刃毀れの原因になるし、それに……」

 

 数分間、そんな感じでくどくどとボヤかれたあと、耕作地の小石を見つけ次第粉砕あるいは除去したいのだと、そう希望を述べられた。きちんと話をしてくれたので、私も堂々と答える。ええ、そんな些細な魔法なんて無いです!

 正直に返したら、酷く驚かれた。農業用機械ないから魔法が一般的なんでしょうと、そうは言うものの規模が違うんだよね。

 

「普通は、畑の小石なんて拾ってる余裕ないんですよ。作物の生育は神様の加護あればある程度調整可能ですし、目的外の草も同様。確かに開墾時は樹木伐採に時間取られますけれど、資源化が不要なら大規模魔法で処理可能なんです。大石あった際も普通に破壊して除去出来ますし、欠片はまぁ放置一択。開墾なら畑地に仕上げるのが優先で、その後の小石なんて身体を強化すればだいたい粉砕出来ますし」

「粉砕!? えええ都度粉砕なんですか……誰でも出来るんですね。そうかぁ……」

 

 男性は思ってもみなかったと溜め息を漏らした。魔法ある世界だから、その魔法で一括処理してるはずと考えてたようだ。男性との面談前に、私も地球での農業状況を少し調べてある。

 まず農地としての開墾は過去行われてたものの、転生者の時代になると――大多数の転生者はほぼ同一時代が出身である――対象地がほとんど残されてないくらいに土地が活用されているらしい。残された森林地帯は、景勝や保水環境等などその活用に何らかの制限が掛かってる場合がほとんど。

 数十億もの人口が居る地球は、しかし土地がこの世界の数十分の一しか無い。邪神とその眷属が居ないのは良いが、増えすぎた人口を支えるための土地が不足してるとは何か皮肉めいている感じもするな。

 星表面七割を占める海からの資源も一部で乱獲されているらしく、規制はあるものの監視が行き届かない関係で困ったことになってたとか。魔物皆無の羨むような状況を活かせない、その愚かな行為に色々思うところは当然あるが、この星でそんな状況になることは決して無いと確信してるので他人に相談したり働きかけたりはしてないよ。

 生命神様を始めとする神々が許すはず無いし、教官様も居るしな。これまで千年も道しるべであった彼女が、地球という異世界の状況を知ってそれでも二十数年召喚を続けてきた彼女が、必ずや不正状況にさせないと信じてる。

 なんか壮大な妄想になっちまったな。我ながら恥ずかしいよ。

 小さく咳をしたのち、私は考え込んでる男性にこちらから声を掛けることとした。だって魔法はすべてを解決するのではとか呟いてるが、万能なはずないだろ。まだ伝えてないことあるしね。そう、とっておきの内容があるんだ……!

 

「どうします? 身体強化魔法を使いたいなら、魔法講座を紹介しますよ。自己流での魔法習得はオススメ出来ません。失礼な言い方ですが、魔法に馴染みのない地球人はどうしても出力が弱かったり魔法習得まで時間かかったりしますので」

「あー、そうですね。どうも地球での感覚が抜けてない感じでした。手に職とは違うんでしょうけれど、自分の体を鍛える方向は全然考えてなかったので、魔法でそれが叶うなら取り敢えず講座を受講したいと思います」

 

 男性の返答を聞き、面談における当初の目的は果たせたと私は感じた。

 せっかくこの世界に召喚されたんだ。知識を吐き出すのみならず、自身でも存分に魔法を使って何かを成し遂げてほしいと思う。そう、アデプトになった男のようにね。

 少し先のことを考えつつ、いい感じに納得した男性へ飛び切りの情報を提供することにしよう。男性の望みがひっくり返るような、そんな情報だ。落ち着いてくださいねと、そんな前置きを口にしてから、真剣な表情でこう告げる。

 

「それで、お望みの庭付き家屋の値段なんですが、とても高いですよ」

「え……? えっ、えっ?」

「地球と違って魔物いますからねここ。防備ある都市は内部開発が進んでるからどこも土地に余裕なく、あっても高額取引対象ですよ。更に言えば魔法で寿命伸ばせるから、代替わりで空き家なんてまず出ません」

「あれれ? じゃあ庭付きなんて高級住宅……なの?」

「ええ、定職あっても購入となればそれこそ何年、いえ何十年もの年収を注ぎ込まねば厳しいかもしれません。ですから、身体強化を鍛える必要があって、なおかつ高収入を得たい貴方には、双方を満たす職を勧めたいと思うんです」

「手に職ないと厳しいのか……その職業は、なんでしょうか?」

「ずばりアデプト。アデプトになれば小石破壊は思うまま、高収入で豪邸すら購入可能。大丈夫ですよ、訓練終了まできちんと付き合ってくださいますから。先ほど軽く触れましたけど、実に二十五年もの訓練を終えられた方さえいらっしゃいまして、こちらから放り出すことは無いと断言します。そして……」

 

 嘘は一つも言わない。ただ、転生者が小石に躓く事態を学舎職員の私が見過ごせないだけだ。

 なにかに気づきそうな男性へ、私は目を見ながら頷いて見せる。教官様ならもっと上手く説明出来るから安心してほしいと。魔法使うなら教官様に習うのが一番ですよと、そう繰り返す。

 こうして少し後、男性は教育期間を経てとある所へ移っていった。彼に生命神様のご加護あらんことを! 学舎はいつもどおり平穏だった。




 前回の投稿から三ヶ月以上経過してしまいました。申し訳ございません。
 十年以上頑張った某ゲームを先日引退したので今後はもう少し時間が取れるはずです。
 今相談内容は畑地あるあるな話。私をはじめ凡人が魔法に期待するのも当然なのですが。
 しかし魔法の第一人者は教官だから……なんとか頑張ってほしいものですね。
 次回はまたしても未定! 冬に向けて頑張ります。

 あと読んだ足跡に顔文字『(o´∀`)b』でも何でもカキコくださると嬉しいです!
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