子供を集めたい。そう告げられた時は相手の正気を疑ってしまった。元いた世界じゃ未成年者の誘拐は重大犯罪だ。いや未成年でなくとも犯罪だけど、今日の場にそういった犯罪予告が出るなんて思ってなかったよ。
お巡りさん、こいつです! いや通報先は警官でなく衛士だっけか? その前に店員さんを呼ぶべきか。
色々考え逆に言葉が出なくなってる俺の顔を見て、テーブル前の彼、現役冒険者は即座に頭を下げた。
「あっ、ごめん。言い方がマズいなこれ。子供だとなお良いって感じ……いやそうじゃなくて、しがらみ少ない人間が、その」
「さっぱり分からん。前提条件から言い直してくれよ」
「うーんと。最近僕が入り浸ってる開拓村なんだけどね、ちょっと長くなるかも」
「まぁ良いよ。ここの支払いを持ってくれるなら」
アルコールを呑みながらの雑談。久しぶりに友人と食事で一杯だったのだが、いつもの冒険自慢より話したい事柄のようだ。この神都から出たがらない俺に外での出来事を教えてくれる貴重な友人は、我々転生者の中でも変わり者だった。
元いた地球じゃ暴力行為が忌避されてるので、彼のように冒険で殺し合いへ身を投じる人間は少なく、生き残る人間となれば更に少ない。本人は慎重に経験積んでるとは言うものの、魔物を殺さねば金を稼ぎにくいので、時に大胆さも求められるはず。ほんと生き残ってるの凄いわ。そんな相手との月一飲み会が少しばかり長くなるのは、話を色々聞けるということで楽しみな感じ。
ただ、途中でアルコールが切れると注文で話を途切れさせてしまいかねない。なので先に酒を多数注文しておいた。どれも高めの酒ばかりなことを恨めしそうに言われたものの、今回も順当に稼げたと一番最初に言ってたじゃないか。何を遠慮することがある、お前も一緒に呑むんだぞ。
酒が揃うまでは俺の近況で場をもたせた。とはいってもようやく魔法で手のひらに水滴を出せた程度の、ほんとに大した話じゃないんだが、それでも彼は羨ましそうに話を聞いてくれた。
魔力に馴染みのない我々転生者は、どうしても魔法習得に時間が掛かってしまう。みな魔法に強い憧れあるものの、自力で魔力を操作する際の微妙な感覚には四苦八苦するんだよな。
魔法で大成するのは厳しいよなぁと言い合ってたら、その大成した人が出たらしいことを思い出した。
「そういえば、少し前に邪神が討伐されたとかで盛り上がったけど、お前聞いてる? それに転生者が絡んでたとかなんとか。俺らは魔法習得で苦労してるのに、邪とはいえ神様に魔法届かせるなんてどんだけーって感じ。コツあんのかね、やっぱり」
「ああその話か。僕の話もそれ絡みでさ、いや討伐者が転生者かどうかじゃなくて、それで人手が欲しくなったってこと」
「どゆこと?」
この世界は人手が圧倒的に足りてない。邪神とその配下が暴れまくってて、人間はかろうじて生き延びてる感じなんだ。で、魔法だけじゃ対抗しきれないから異世界の技術を求めて召喚を始めたって聞いてる。
俺は一介の事務員だったから伝えられる技術なんて無く、静かに暮らせればいいので普通に事務職へ就いた。具体的には学舎の下っ端だ。召喚時の手伝いや御用聞きとかの本当に諸雑務。難しい案件は現地民が対応するので気楽なもんだよ。志を高くとか言われても、上昇志向をみんな持つなんて無いだろ。俺は手のひらから水を出せるだけでありがたく思っちゃう人間なんだよ、魔物を倒す英雄志願なんて無理っす。
対して目前の彼は、魔法世界に浮かれ自分の力を高めたいと飛び出してった人間だ。好戦的じゃないものの、最初に覚えた身体強化で武器を振り回した際の高揚感が忘れられないとか。
どこでも人手不足だから、開拓村の周辺で雑魚相手に戦うだけでもそれなりに食えるそうだ。どんな人間でも開墾作業と戦闘は同時に出来ないんで、魔物の索敵排除は無限に需要あるとか。とはいえソロ活動は無理無茶無謀だから、先輩冒険者に教えを請いながらとは以前聞いた。ほんと死なない程度に頑張ってほしい。
それで、邪神が死んでも魔物は依然として存在を続けてる。なんか邪神は死んだんじゃなくてシステム化したなんて聞いたものの、それでどう変わったのかまではサッパリ分からん。相変わらず魔物退治が必要だってことだけ押さえておけば、一般人には十分なんじゃないかな。そう思ってたんだけど。
疑問符を浮かべてる間に酒が揃い始めたので、その中で一番高いのを互いに注いだ。酔っ払うと味わえなくなるかもしれんし、せめて一杯分の記憶くらいはしておきたい。
こんなに注文しちゃったのかとまたもや文句言われたけど、もう遅い。あとは流し込むだけだぜ。今夜のタダ酒は美味いな! 再度乾杯してから続きを促した。
「じゃあ邪神のアレで変わった話からなんだけど、先輩が言うには魔物の質が少し下がったらしいんだよね」
「出現した魔物が弱くなるはずないだろ。強くはなってもさ」
「個はそうなんだけど、群れの反応が弱いというか、魔物の統率が少しバラけた感じだって」
「んん? 指揮官が消えたってこと? 邪神って魔物全体を指揮してたんか。頭を潰しても体が好き勝手してる状態なんかな」
「たぶんね。まぁ群れ自体はあるんで対処は必要なんだけどさ、これまで巣作りして居座ってたデーモンが消えて魔物同士のバランスも崩れてるとかなんとか」
デーモンはかなり知能が高い魔物で、こいつが巣を作ると周囲の魔物が統率され一気に危険地帯となる。群れの討伐が困難になるだけでなく、人質をとったりするから並みの冒険者じゃお手上げなんだってよ。ジリ貧で開拓村全滅も有りうるから無茶苦茶恐れられてる。
でも邪神が消えて以降は何故か目撃情報が少なくなってるらしい。理由は調査中で、一箇所に集まっての一大反抗攻勢もありうるって噂されてるものの、居なくなった地域は大助かりなのか。なるほどと続きを促す。
「まぁそれで、今のうちに開拓面積を増やしたいって話があちこちで出始めてるんだ。ほら開拓村での収入源ってほぼ汚染樹を伐採してのあれこれだけだろ。需要が増えたんで、とにかく人手が欲しいんだってさ」
「それで幼女誘拐とはいただけない。お前も好きだね」
「馬鹿なこと言うなキミ。幼女じゃないよ子供だってば」
「どっちにしろ大人じゃないんだろ。労働力なら大人だろ普通は」
「普通はそうなんだけどね。僕が居る場所はちょいとテコ入れあってさ。なんと土の魔法使いが来てくれましたー! パチパチ」
「おお? それは、凄いことなん?」
「そりゃあもう。土を動かせるとですね、樹木伐採せずに根っこごと引き抜けるんだなこれが」
「すげぇ! 重機じゃんかそれ!」
「そう。彼は人間バックホーなんですよ、うおおん」
「ホウホウだね。汚染樹は焼却できないから火力発電は無理だしなーははは」
さすがに重機でもコンピュータ付きとまではいかなかったか。裏日本に多大な影響を及ぼすまであと百年は掛かるかも。転生者には電気の魔力が馴染みやすいなんて話もあったけど、電気だけじゃコンピュータにたどり着けんからなー。
ところで、地面を動かせるレベルの土関係魔法使いは希少だったかな? 魔法のある世界だから念動力に近い能力なんて基本だと思うんだけど。さてはて。少し考え込んだら、彼はそれにも答えてくれた。
「地面操作は範囲指定が難しいらしいよ。ほら見えないところだからさ。掘って壊したり消したりなら出来る人多いんだけどね、単純移動が難易度高いとは普通思わないよ」
「そういや日本でも道路工事で目的じゃないケーブルを掘り抜いたりしてたな。不法投棄ゴミが出てきたり」
「そんなニュースもあったよね。こっちではゴミは大丈夫だけど、なにせ地下は邪神の影響がまだ残ってるからさ、たかが伐採時の根っこ堀りでも一気には出来ないってボヤいてた。質量も、一本あたりトン単位になるしね。纏めて処理は無理みたい」
「あーなんかで見た。抜根作業は樹齢百年で千キロ、周囲の土ごとならその三倍を覚悟しろって」
「で、さ。汚染地の樹木は数百年単位、あるいはそれ以上のがずらりと生えてるんだよねーこれが。開墾進まないのは当然だったり」
聞くほどに大変としか思えなくなる。開拓村では過酷な労働が待ってるだろうに、それでも子供をとは本当に正気か?
最初に感じた疑念をもう一回問う。大人でもきついのに、優秀な魔法使い一人が来ただけで、いったい子供に何をさせるんだと。はたして相手は、悩む素振りすらなくグラスで口を濡らしたのみですんなりと喋り始めた。
「色々あるんだけどさ、さっきも言った通り、開拓での樹木伐採って根っこ部分の掘り起こしが一番面倒なんだよね。大人の力を欲しがるのはそこを処理するためでさ。魔法で抜根出来るなら、後の処理は子供でも大丈夫なんだ。魔法でなら一日に一本は掘り起こせるって言われたんだけど、その速さだと地上部の処理が追いつかないんだよね。たかが一本って思うかもしれないけど、その一本一本がとにかくデカいからさ、かなりの人数が必要になるんだ。大人のほうが基礎体力高いのは事実なものの、少し魔力鍛えたら器用さと小回りも欲しいし、それに」
「お前の性癖か」
「違うってば。ここが重要なんだけど、開拓村じゃ農作物を作れないから、食べる量は少ないほうが都合いいんだ。同じ仕事ができるならさ。そう言えば分かるよね」
「なん…!」
そこは考えたことなかった。魔物の襲撃あるとは聞いてたが、塀で囲めば農作業できるなんてのはあまりに甘すぎたか。西部劇や北海道開拓物語を基準に考えてたけど、確かに魔物の脅威度はそれ以上だ。神都から出ないとどれだけ怖い世界なのか想像足りないな。
そして、いくばくかの安全が確保されても、村単位を養えるほどの耕作面積を結界なしで守り切るのは不可能に近いことにも思い至る。最初から結界を用意しろ? 用意できるほど裕福なら開拓村に甘んじてないよ。
更に開拓地の本質は、汚染樹を除去して人類の居住地を新たに確保することだ。結界に守られながら開拓なんて英雄様でも出来っこない。だから食料は輸入で、作業効率同じなら年齢若いほうがいいってことか。いやしかし、ちょっとそれは……
「まぁ憤慨するのは当然だと思うよ。日本じゃ児童福祉法や労働基準法もあったしね。でも明治時代、あるいはその前江戸時代じゃ丁稚奉公は逆に当たり前で、この世界もみんなが大人になるまで遊ばせておく余裕は無いんだ」
彼は、自分を落ち着けようとしてか、自分のコップを一気にあおった。そして少し乱暴にテーブルへ置いた後、次のに手を出そうとする。俺は慌ててそれを静止し、彼と自分のになみなみと注いでやった。俺自身のコップもいつの間にか空になってたよ。
彼は反論を待っているのか、一口飲んでその口を閉じた。俺は即座に何かを言おうとしたものの、そうやって開けた口からはアルコール臭しか出てこなかった。言葉が、出てこない。
なので、取り敢えずアルコールを流し込む。更にもう一杯、酒を呑む。苦いなー。酒に苦味を感じるなんて久しぶりだ。ゆだった頭がそれで少し冷え彼の言葉を考える余裕がやっと出てきたので、もう一回考える。
俺は今まで転生者の立場で色々考えてきた。連れてこられた立場の先輩として、後輩たちが困らないようお手伝いしたかったからだ。立場が同じゆえ楽が出来たし、自分に関係なさそうなところは後回しにしてた。現実味が薄かったのも影響してる。知らないことは想像しえないからな。誤魔化しの一手ともいう。
でも彼は違う。この世界に溶け込もうとあちこちを訪ね、この世界のために力を振るってきたのだろう。開拓村の話だなんて、他の転生者からはほとんど話を聞かない。地球じゃ暴力は忌避行為だし、日本人なら特にそうだ。魔物との戦いが殺し合いになると明確に理解した上で、その最前線な開拓村へ行くのは恐怖でしかないよ。だから俺みたいに神都にて生活してるのが大半だって聞いてる。言葉が通じるから他国に出かけた話はちらほら聞くものの、転移門の通行料が高くて気軽には行けないし、どうしても細かい文化の差が気になって馴染めないんだとか。神都が影響受けすぎってことなのかね。
そうやって出かけた先でさえ、結局は都市部しか訪ねてないと聞く。魔物が突然襲ってくる環境ってのは、日本で言えばヒグマが近隣に居るようなもんで、たかが熊を一匹見かけただけでパニックになってる祖国の現状を鑑みれば、魔物を弾く結界なしの環境はそれ以上の、いわば紛争地なみの危険度に感じてしまう。
そこを居留地とし、それでも生き残って話をしてくれる彼なんだが、なにも地球での論理を捨て去ったわけじゃないだろう。いくら魔法で力を得ても、知能や論理と引き換えじゃない。そのことを忘れちゃいけない。
で、だ。彼の話は、現代日本人としては若干受け入れがたいものの、俺の親や更に親世代なら十分に通用する話で、なにも間違っちゃいないはず。児童福祉が通用する世界なんてのは本当に贅沢品なんだ。あーやだやだ。せっかくの異世界なのに、いまだ元世界の常識に囚われてるなんて情けない感じする。二度目の人生を楽しめてないじゃん!
一気に火照りを感じたので、左手で自分の額や頬を数回叩く。漏れ出た声は濁った音をしてた。彼はそれを聞いても笑わず、俺のコップに氷と酒を足してくれた。
「キミが転生者にあれこれしてたのは間違ってないよ。どのみち僕らは異邦人だし、帰属意識なんてのは意識して変えられるもんじゃないよね」
「サンキュ。しかし恥ずかしいな」
「そう言えるだけ善良ってことだろ。僕だって神都に居続けたら似たような思考してただろうし」
「そうか?」
「そうだろ」
ひとしきり頷きあって、ちょっと落ち着いた。今後は俺も色々見聞きしておこう。それだけを心に留める。どうせ俺には関係ないし!
……いや、ここまでシリアスに考えててそれはないだろ。そうは言われてもなー。何が出来るんよ。だって俺は下っ端だよ? 雑用しかしてないモブだし、視野は狭いし、魔法だって飲料水どころか湿らせ程度しか出せないし、どうしろっつーねん。
そういった世界の闇を照らすのは、目前の彼や、あるいは邪神退治に貢献したって聞くアデプトへ成り上がった人間くらいなもんよ。アデプトなんつーマゾ御用達な訓練を乗り越えた人間が転生者に居るとは思えないんだけど、噂じゃどうも本当らしい。
今度、伝記の第一巻が出るって宣伝されてたんで、そのうち図書館から借りてみるかね。買ってまでは読みたいと思わないけど、何を血迷ってアデプト訓練に挑んだのかはちょい気になる。俺みたいにほどほどの楽しみを得るだけじゃダメだったのかね。
そんなことより酒だよ酒! 相手の話はとりあえず分かったから、後は奢りのこれらを呑み干すのみ。ウキウキで注ごうとしたら、それで、とまだ続きがある感じを相手は見せた。
「そこでキミにお願いがあるんだけどさ。学舎に伝手あるなら、少し頼まれてほしいんだ。これの関係で」
「えぇ……お前の人集めに学舎は関係ないだろ。スラムで募集でもすればいいじゃん。あそこ汚いけど、人だけは居るからさ」
魔物の襲撃で家どころか都市すら失った人間が、ここ神都には住み着いている。日本でも原子力関係で故郷に帰れない人々が居るように、彼らもまた魔物生息地となった故郷に帰るのが困難な人らだ。あと瘴気が薄れないと立ち入りさえ厳しいこともあって、その点も放射能汚染と似ているところ。
帰れないのが確定なら他の地で再起をとは個人的に思うものの、傷病あるとどうしても厳しいよな。加えてこの神都にはアデプト訓練所があって、新たにアデプトになった人が旅立つ際、ご慈悲を受けられるかもとの期待が彼らを他地へ行きにくくしてるとも聞いてる。
一回、好奇心でご出立の様子を見に行ったんだけどさ、遠くから見ただけで引き返したよ。臭いが凄かったし、光景も日本じゃお目にかかれないレベルの何か。生前の仕事で山谷に行ったことあるけど、あの比じゃなかった。山谷が分からない人は、どうかそのまま生きてほしい。切実にそう願う場所だよ。
でも開拓村に誘うなら、ああいったところから引っ張ってこないと人はなかなか集まらない。この世界の人間基準でも、都市結界の無い場所はやっぱり敬遠される場所なんだ。都市結界に守られ安全だけど底辺暮らし。あるいは死の危険マシマシだけど一応は食っていける生活。故郷を失った人間は、どっちがいいんだろうね。俺? 関わりないからセフセフ。安穏な生活サイコー!
そんな感じで婉曲に断りを入れたものの、今回の募集は行政側にも連絡入れたほうが無難だからと言われてしまった。
「その、スラムからであっても、子供ばかりとなれば誘拐じゃないかと騒がれる危惧が」
「スラムの人間を全員把握してるかな。一つの村ぶん程度なら、大した人数じゃあるまいし、そのままで良いんじゃ」
「出来れば三桁。他の村も巻き込んでその上も考えてる」
「はぁ? 笛吹きかよ。お前、どこに連れてく気だ」
「だから開拓村だよ。少食料な労働力で、読み書きすら怪しい、躾の行き届いてない子供たちを多数受け入れたいって話。使い潰すんじゃないよ、教育関係者も雇う予定だし、出来ることはやっておきたいと思ってる。あと連れてく際の転移門費用だけど、こちらは偉い人が各所にお願い中。冒険者に書類作成は無ぅ理ぃ」
「そこまで用意を……なんだそりゃ。お前、開拓村に孤児院作る感じなのか。児童労働になるけど……でもなぁ、スラムの孤児院に居るよりは、か」
「子供らなら、まだ傷病者が少ないしね。故郷に思い入れあるのも少ないはずだから、神都から出るのに支障あるとは思ってない。都の孤児院を空にするつもりで募集掛けたいし、その孤児院へ挨拶するのに行政側を通しておきたいってことなんだ。挨拶は大事。そうだったよね」
「まぁ……な。しかし、それで集まるかね。感情のまま怖いって言われそうだけど」
都市結界が無いと聞いて、それでも行きたがるとは思えない。俺がそうだからだ。だが彼は別な見解があるようだった。
唇を湿らせながら、俺達は話し続ける。
「それは邪神が死んだお陰でさ。さっきも言ったけど、魔物の統率が乱れて安全の範囲が広がったし、それで汚染樹の需要が増えて食料に少し余裕持てそうだから、とかく食事が十分なのをアピールしたいかな。孤児院はどこも経営がカツカツで飢えてるって聞いてるんだ。かもしれないの襲撃危険度と、目前の食事との比較ならあるいは。あと開拓村なら清潔な家屋も提供できる。やっぱり衣食住は基本だよね」
「お前、さっき食料輸入は少ないほうが良いって言ってたじゃんか。潤沢に用意出来るって矛盾してるだろ?」
「そりゃ余るほどには用意出来ないけどさ、最初の一ヶ月を頑張れる程度には準備するよ。少なくとも孤児院よりはマシにする。あとは作業を頑張るしかないけど」
「うーん。間違ってはいないようだが……まさか、保存食を準備なんかしないだろうな。あれはマズいんだぞ。俺ならパスしちゃうね」
「それこそまさか。あれに頼ったら数日で逃げ出しちゃうよ。村あげての計画だからさ、事前の計算はしっかりやってるって」
食事、食事か。孤児院でも横取りはあるって前に聞いたかも。あの環境で礼節に到れるとは思えないし、食事を与えても働く場所無ければ堕落する。両方与えるなら、開拓村へ連れてったほうがマシになるのかもしれん。スラム環境の劣悪さは、意図して放置されてるって噂もあったよな。マシな環境へ、開拓村へ向かうように、と。本当かどうかは分からんが、開拓村への転移門使用料は少し安いとも聞くし、色んな思惑が絡んでるんだろうな。
ところで、脅威が減れば急いで開拓進める必要も無いのでは? 地道に汚染樹を伐採して、のんびりしてはダメなんかね。労働力募集の前提、汚染樹需要予測に疑問を投げかけると、彼も少し困った顔をした。
「確かに予測でしかないんだよね。統計資料なんかもこれからの話だし、裏付けと言えるだけの証拠は全然無いんだけどさ。商人たちの話を聞いてると、瘴気由来の物品を欲しがってる感じだってのが村での結論。表立っての話じゃないけど、それらしい噂はあったし」
「へぇ。ちなみにどんな話?」
「地上に瘴気が撒き散らされるのは、たいていダンジョン氾濫でなんだけど。その氾濫の首謀者が居なくなったから、これから氾濫が起きないかもしれないって予測。広大な土地にある汚染樹だとて、供給が途絶えれば?」
「供給いうなし。しかしそうかぁ、氾濫が無ければ有限になるかもなのか……それにしても気が早くね? まだ色々検証中なんだろ」
「そりゃそうだけど、人間の数も有限だしね。開拓が進めば早めに結界を設置出来て損にならないし、ただ来るのを待つだけよりは無難な計画だと思うんだけど」
「冒険者が無難、ねぇ。まるで反対な言葉を聞いた気がする」
「そうそう、冒険は一に安全、二に安全。無謀と勇気は違うでござるよニンニン」
「うわダッセェ言葉。まぁでも分かった。ちょっと事務方に話を繋いでみるわ。俺なんかじゃ大した繋ぎにならないけど、無いよりはマシだな」
とりあえず事務を受付してくれる人に聞いてみるか。俺の顔を知ってるから誰かしらには繋いでくれると思う。なお受付じゃ、いきなり内容をぶちまけず、話す相手を紹介いただきたいと尋ねるのがポイントだ。ここを履き違え受付で大騒ぎするやからのなんと多いことか。受付だけで全部対処出来るはずないだろまったく。
過去の苦い記憶を思い出した俺に、彼は心底ホッとした顔を見せた。
「あぁ助かった。どうしても転生者は行政側に話を通しにくくてさ。行政に強いキミが居てくれてほんと助かったよ。感謝かんしゃ」
「普通に話をすればいいだろ。なんで転生しても行政に苦手意識持ってるんだ」
「それはそれ。意識の持ち越しだからしょうがないでしょ。普段行かない場所だから慣れないよ」
「いや、誰でも用事あれば来て良いんだが。まぁこれから慣れてもらうし」
「うぇっ?」
思わせぶりな俺の呟きに、彼は敏感に反応した。よしよし、俺だけが苦労するのは割に合わん。お前にも苦労してもらうぞ。そう告げると、彼は勘弁してくれよと答えてきた。
「僕が行く必要ないでしょ。キミが繋いでくれればいいからさ」
「こういうのは本人込みで行くのが一番なんだって。突っ込みあった際答えられないと二度手間になるんだからな。それに正直、俺だと適当な態度が透けて良い返事貰えない気がするんだ。俺スラムに良い感情持ってないし」
「そうなの? 福祉もやったことあるんだったよね。だからキミに頼もうと思ったんだけど」
「だからだよ。俺の手に余る問題だからな、半端に関わると後が怖い。あそこ残業続きできつかったし」
月八十時間を超えてたからな。ダイエットには良い職場だったけど、異世界でまでは関わりたくない。そんな俺に対し、積極的に子供へ関わろうとする彼は凄いわ。冒険者の立場からはみ出してるんじゃないか。
押し問答の末、一緒に行くだけならまぁ何とか。この場ではそれだけを約束させて、酒に手を伸ばす。奢りだからな、飲み干すのが作法よ。あぁでも、子供が好きかどうかは聞いておこう。そうでなければこれだけ計画は出来まい。果たして彼は、即座に答えた。
「まぁね。僕は子供が好きだと自分でも思うよ」
子供が好きで、子供をいっぱい集めて、アメとムチで働かせる男。そのうち異名が付くことだろう。その日が楽しみだぜ。俺はニヤケ顔で彼と何回目かの乾杯を交わした。
第十三話での娘が不憫すぎて色々検討したところ、開拓村が求めない限り自分からは行かないだろうとの結論になってしまいました。
神都の住民が色々伝えても、あなた達も行かないくせにと反発するだろうし、子供な自分は非力だから求められないはずと不信感あるよう思うんですよ。
開拓村のほうも貧乏なので食料事情を考えれば誰でも迎えるとはならずで、行けばいいのにでなく、行く意義さえ見いだせない虚無感。
個人的には孤児院を開拓村へ移せばと思ったものの、ダンジョンが発生したら全滅なので都市から移せず、食料供給可能なのは更に首都くらいしか無さそうで途方に暮れたんですが。
仮定に仮定を加えたら、なんとか誘えそうな形にすることが出来ました。
あとはスラム中へ大々的に宣伝し、片っ端から引きずり込むだけ……しかし対象外な傷病者と揉めるかもしれないため、実現性は若干低めかも。
じゃあ個人的に子供限定でナンパし続ければ全部解決! そんな話だったかなこれ。
二次創作でも原作同様のハッピーエンドをなるべく書きたいと思ってます。思ってはいます……