転生程度世界でもモブだった件   作:凍幻

2 / 11
*時系列はどこでも可。第一部さえ読み終わっていれば支障ありません。


第二話「お負けの転生」

 失敗したなぁと、たまに思い返すことがある。なんのことはない。加護の選択だ。

 僕ら異世界人が受け取れるそれは、現地人と異なり好きなやつを選べてしまう。

 ラッキー! 異世界チートじゃん!

 周りもざわめいてたし、聞き間違いじゃないことを知って素直に浮かれてた僕は馬鹿だった。

 あの時の選択は大失敗だったよ。

 よりによって生命神加護でアデプト選んじゃうなんてさぁ。それ死亡フラグ……!

 僕は駄目だったけど、果たしてあの加護もらって成功した人なんて居るんだろうか?

 まぁ、一年後の今も生きていけるなら大失敗ってわけじゃないけどさ、僕の選択は絶対大成功じゃない。

 僕は、ちょっとだけ自分の馬鹿さ加減を悔しく思うのだった。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 僕がこの世界に来たのは、一年とちょっと前のことだ。

 その直前はというと、高校卒業後すぐの空いた時間でバイク遠出をし、ちょっとだけスピードを出しすぎ雨道で転んでしまったんだっけな。

 ちょっとだよ、ちょっと! そんなに速度は出てなかったはず。

 でも雨の濡れた山道でバランス崩したのは、運転歴の短い僕には致命的だった。文字通り致命傷になった。

 盛大にコケて、地面か何かに身体をぶつけたんだろうと思う。

 滑ったと理解した直後、なんだか分からないけど身体が動かなくなって、次の瞬間経験したことのない痛みが僕を支配したんだ。

 息が出来ないというか、全ての意識が首に向いたというか、とにかく首が痛かった。

 どれだけ派手に転んだんだか。

 ヘルメットはちゃんと被ってたけどさぁ、衝撃が大きすぎて首をやっちゃったんだろうなぁ。

 痛みで叫んだはずの僕の声は自分でも確認できず、体のほうも全然動かずで。

 場所が山道だからか他に誰も通らなかったらしく、動けなくなった僕はそのまま死んだ――と思う。

 その後の記憶が無いってことは、そういうことなんだろうな。

 死んだ実感より直前の痛みのほうがよっぽど鮮明だよ。未だに時折首が痛む。

 そして、召喚されて突然痛みが無くなったことに何でと驚いたことも実によく覚えている。

 僕と同じタイミングで連れてこられたのか、あの時周囲には沢山の人も居たっけ。

 何人くらい居たかな。大勢としか覚えてないや。

 彼らのざわめきでふと我に返った僕は、その後の簡単な説明を混乱しながらも聞いた。

 痛みが治まれば、話を聞く余裕は普通にあったってことかな。何か叫んでるおっさん――あるいはお兄さん――も居たけど、僕はそうじゃなかったからね。

 そして聞いた話は、困惑な内容だった。曰く、高速大容量交通技術を求めて異世界人を無差別召喚したんだそうな。

 死んだ後での魂を呼ぶため、元世界には迷惑掛けてないって言うけどさぁ。

 死んで普通に成仏出来なかったってのは、ちょっと親に申し訳ないとか思わないでもない。

 じょーど、だっけか。話に聞いてたあの世とは違うみたいだし、僕は技術系とかまったく知らないので、正直何すればいいのって途方に暮れたんだよな。

 この世界に関する知識は、聞けば教えてくれた。何なら、理解したかのテストまであった。学生終わったのにテストなんてやだよね。

 仕方なくちょっとだけ勉強して、それから考える。

 僕はバイク事故で死んだ。運転技術はあるけど作るほうはさっぱりなので、こっち方面は全然役に立たない。バイクじゃ多量の荷物は運べないから尚更だし。

 しかも速さでいえば、魔法で自己強化すればバイク程度は簡単に追い越せるとか。魔法すげー!

 あれか、火トカゲよりはやーいとか言えちゃう訳か。いやそれヤバいやつ。

 高校までの知識も役に立たない。僕より頭のいい人達がいっぱい居る。じゃあ僕は、何をしよう?

 そうして僕は、悩んだ末に生命魔法の加護をもらった。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 アデプトになって怪我に悩まない生活ゲット!

 あの時は本気でそう思ってた。訓練がきついって聞いても、まさか死にはしないだろうって馬鹿な考えだったんだ。

 最上級の治癒魔法が使えて、不死じゃないけど長生き出来て。

 魔物と戦う義務はあるらしいけど、少なくとも治癒魔法の力は誰よりも強いって聞いた。

 事故にあっても、即死しなければなんとかなる職業。それがアデプトだって。

 おまけに、やりたいことは全部許されるって聞いたら、やらない理由が無くなってしまった。

 しかしてその実態は、戦うほうがメインな職業だったんだけどね!

 治癒魔法に釣られて選んだ僕は、盛大な勘違い野郎だったわけ。

 いや、勘違いとも言い難い。強い治癒魔法なら、生命魔法の加護をもらうのが一番確実だって言ってたし……望みと一致しちゃったんだよなぁ。

 ちゃんと悪い内容も言ってくれてたはずだけど、美女に真正面から見つめられたらさぁ、分かるだろ?

 あと、美女が困ってるって聞いて、手助け出来るならと全く思わない人だけが僕に石を投げてほしい。

 少なくとも彼女にうなづいた人がもう一人は居るって聞いた! 僕だけじゃないよ。

 そいつが誰だったのか、まぁ今となっては確かめようもない。実は顔もよく覚えてないんだよね、これが。

 訓練始まったら、とても他人の様子なんて見る余裕なくてさぁ。自分のことで精一杯だったんだ。

 訓練が、死んだ怪我より痛いものだなんて思うわけないじゃんか!

 三日は我慢できた。この訓練はまだマシだって自分に言い聞かせてた。

 教官も最初だから軽くって言ってたような?

 最低でも十年以上訓練するんだから、最初の数日が軽いものだったろうことは馬鹿な僕でも分かる。

 頭では分かってるつもりだった。慣れれば少しずつ楽になるだろうって。

 でも四日目の朝、僕はベッドから起き上がれなかった。痛みが待っていることに耐えられなかったんだ。

 そうして布団の中で丸くなってた僕に、誰かが気付いたんだろうな。

 布団ごと担ぎ上げられ、あっという間に僕は教官のもとへ運ばれていった。

 もちろん抗議の声なんてあげられない。恐怖と、やけに首が痛く感じられて歯を食いしばることしか出来ずじまい。

 布団が剥ぎ取られた後も、僕は目を開けられなかった。

 うずくまって震えている僕に、教官が居るだろう場所からおごそかに声が降ってくる。

 

「……お疲れ様。訓練を終えていいよ」

 

 あぁ終わったんだって、そう思えても動くことすら出来なくて、僕はもう一回担ぎ上げられて訓練場を離れた。

 あいさつさえ出来ずの不甲斐ないやつとして、僕のアデプト訓練はこうして終わったってわけさ。

 今からでもあいさつくらい出来るだろう?

 無理ぃ! 彼女を間近で見たら、今度は失神しちゃうよ。遠くからなら、まぁなんとかくらいかな。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 アデプトは、曰く人類最後の砦だとか。

 魔物に脅かされるこの世界にて最強。ゆえに何よりも強くあらねばならないんだそうな。

 何をしても許されるとも聞いたけど、それは魔物と最前線で戦う義務と引き換えであって、高い治癒能力が備わってるのも、その過程で当然身に着けなければならない能力だからだ。

 そもそも前提を間違って考えてた。

 何でも治せるってことは、そうしなくちゃいけない戦いに放り込まれると同義だったんだよ。

 地球での医者は戦わないので、ここでも同じと勘違いしてた。地球と違うから異世界だってのにね。

 いくら今どきの若者な僕だって、ラノベくらいは読んでるしゲームだってやってるから違うことを分かってたはずだった。

 浮かれてたのか、あるいはここが異世界じゃないとどこかで思ってたのか。

 少なくとも、戦うって内容がどんな意味を持つのか実感が無かったのは確か。

 あと、魔法が訓練必須な技能だったことを軽く考えすぎたと思う。だってゲームの魔法使いは最初から使えてたじゃないか。

 知ってるゲームや小説では、訓練の様子なんて書いてあるの無かったしね。覚えればすぐ使えると思ってたよ。

 後で聞いたらそういう勘違いする人は多いみたいでさ、君にも説明あったはずって言われたけど。

 あと、基礎知識にも書いてあっただろうって。テストはどうしたんだって呆れられたけど。

 はい、テスト終わったら忘れてました! 学生ならほとんどがこんな態度じゃないのかなぁ。

 それでも、生命魔法の加護を選ぶのはどうかしてた。

 治癒能力を使いたいだけなら他にも道はあって、なのにアデプトの訓練を選んだ僕が馬鹿だってことさ。

 そんなこんなで内容を理解してれば回避できたはずの加護。

 あの訓練への参加者はかなり少なくて、きちんと訓練を終えた人は更に少ない。

 今現在アデプトは九千人居るって聞いたけどさぁ、みんな頭のネジ外れてるんじゃないの?

 あんな訓練に耐えられる人が僅かでも居るから後の人たちもみなやらされてるって考えると、溜め息しか出ないよ。

 救いは、この世界基準で見てもあれが異常だってこと。死ぬよりきつい訓練は、本当に過酷だった。

 もう一回いうけど、死んだ痛みよりきついって普通は想像出来ないよ。

 最初に走り込みを指示された時は、体力作りくらいはと思ったんだけどなぁ。

 今まで無かった魔力で自分を僅かだけど強化できた際は純粋に嬉しかったし、体力づくりも基本と言われれば、地球でもそうだったしなと納得した。でも、何で殺す必要まであるんだよっ!

 走り込み途中でへばった僕を、容赦なく教官は攻撃した。

 

「立って。魔物は待ってくれないよ」

 

 必死で起き上がろうとする僕を見下ろしながら急かしてきた教官の声は、どこまでも平坦だったなぁ。

 僕がとりわけいじめられてたんじゃなく、教官は訓練生誰でもそんな態度。

 あちこちで血反吐を吐きうめいている人たちが居ても、彼女は治癒と攻撃をずっと繰り返してたっけ。

 魔力で体を強化して、走る間も攻撃をかわして、出来なければ地面にはっ倒される。

 走っては倒れ、治癒されたら走り、めちゃくちゃに逃げ惑って日が暮れて。

 今でも思い出すと首が痛む。いや首を切られたりしてないけど、恐怖と首痛はセットの感情になってしまったんだ。

 治癒魔法が使えるようになれば自己暗示も出来ると思うけど、かなり先のことだろう。

 あぁ、訓練での怪我は全部治ってるよ。アデプトになれば最上級治癒魔法使えるって話は本当だったんだ。

 だからと言ってあんなスパルタは……うん、批判するだけの力は僕には無いかな。

 流した血の分だけ翌日は体が軽くなって、補うための食事を全部吐いても、ひたすらに走らされる。

 あれを三日耐えた僕は相当に偉いと思う。なお平均は一週間だって。僕の倍だよ、倍!

 悔しいけど、それで僕の価値が減るわけじゃない。耐えられなかったらみんな平等だよ! ……だよね?

 そうして見事に落ちこぼれた僕の行く末やいかに!

 ……さっきも言ったけど、アデプト訓練に耐えられる人はかなり少ない。で、辞めた人たちの受け皿は当然に用意されてるってさ。

 訓練を辞めた後、これを聞ける状態まで僕が回復したのは、なんと一週間くらい経ってから。

 心の治療も出来る世界なのに病んじゃうって、再度思うけどよっぽどな訓練だよね……

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 まぁそんな感じで再就職すべく僕は今、穏やかに治癒魔法の修業を続けている。

 あんなに殺気立ってたりしない、普通の修行だよ。

 とはいえ、いざ魔力操作しようとすると殺されるんじゃないかと勝手に緊張してさ、一年経った今でも魔力操作に慣れたとは言い難い状態。

 魔力を発動さえすれば加護の分修行の進みが早いとは今の師匠の言葉だけど、どうなんだろうなぁ。

 なお、アデプト訓練を続けてたら、続けられていたら、同じ一年で中級魔法を使えるくらいになるとか。

 なんて素敵な訓練なんだろう! もちろん嫌味だよ、こんちくしょう!

 ののしっても、それで僕の魔法が強くなるわけでなし。地道に修行すれば、いつかは治癒魔法使いになれるだろう。たぶん。

 僕と一緒に召喚された人たちはどうかと言えば、ほとんどが修行中だけど、勝手に冒険へ出て死んだ人も少しだけど居るそうだ。待ちきれなかったのかな。

 それを聞いて、ちょっとだけど羨ましいと思う気持ちがある。

 せっかくの異世界、早くラノベのように楽しんだり冒険したいよなぁと、心の何処かで僕も思ってる。

 でも僕は痛いのが嫌いだし、この世界でもっと嫌いになってしまったから、もう冒険は出来ないと思う。

 死ぬのは体験済みでもその前の痛いのが嫌って、笑いたければ笑え。もう僕は、決めたんだ。一市民で満足するって。

 ちょっとだけ治癒魔法が使える程度の器量で良しとするんだ。

 死後のおまけな人生なんだもの、楽しんだほうが勝ちだろうって人は言うかもしれないけどさぁ。

 痛みに負けた僕の人生は。ああ、似たような言葉があった。たしか、お負けの転生ってやつだっけか。

 死後も囚われた、勝てなかった人生に相応しいや。

 地球では高卒十八歳。加えてこっちの世界で一年ちょっと。まだ若いはずの僕は、こうして人生に見切りをつけた。

 なんだか楽しくなって空を見上げると、この国の空は今日も青く、なんなら雲もほとんど見えなかった。

 お負けに相応しい涙雨を、僕はどこにも見ることが出来なかったのだった。




 マ◯ナス人生オー◯ストラ「お負けの◯生」から。楽曲コードは確認出来ませんでした。

 あと読んだ足跡に顔文字『(o´∀`)b』でも何でもカキコくださると嬉しいです!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。