転生程度世界でもモブだった件   作:凍幻

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*時系列は第三部終了後あたりですが、第一部さえ読み終わっていれば支障ありません。
 なお綿あめについての作中言及は第三部二章七話ですけれど、絶賛好評の旨は作者様裏話を参照ください。


第三話「お菓子、いとおかし」

 私は何の変哲もない転生者。

 前世はサラリーマン、いやサラリーウーマンで、死因は悪性腫瘍。

 お腹痛いけどあの日が長引いてるのかなーと思いつつ、仕事が佳境だったので受診を先延ばしにしてたら大当たりでした。

 いくら医療技術が進歩しても、患者が行かないんじゃ話にならないよねー。

 転移が早かったらしく、半年は頑張ったけど完治せずで。

 まぁそれで死んだ後この世界に召喚されました。

 専門知識は無いし魔物と戦うのも嫌なので、事務系の仕事を斡旋してもらったのが約二ヶ月前。

 加護は家庭菜園に役立つものをと思って森の神様に決定したものの、ちょっと見通し甘かったかなーとは思う。

 だってレタスとか作ってる暇がない……!

 いえ、暇はあるの、暇は。ちゃんと週休二日制! ブラックな職場じゃないから安心して。

 でもね、一番苦労するだろうと思ってた食べ物が思ってた以上に充実してて、家庭菜園なんて素人仕事じゃ全然意味なくて。きちんと農業するには時間が足りないのでした。

 身の振り検討期間中お世話になってた食堂で色々食べることが出来てたのを、もっとよく考えるべきだったな。食に掛ける人間の情熱って凄いねー。

 過去の転生者の中にはプロの料理人も居たそうで、地球と食材が異なるのにかなりの料理が再現されてるんだって。そして私は、立派な買い食い派になってしまいました!

 しょうがないじゃん。自分で作るより、その、美味しいのがあるんだから。

 雇ってくれた職場の給料が結構良かったこともあって、外食費用がまったく苦にならないのも後押ししたのよね。

 他人のせいにするな? ごもっともでございますが今更変えられません、ごめんなさい。

 外食で食べ歩いてると少々お腹にお肉が付きそうだなーとも思うけど、お金があれば美容出来るって聞いてるから大丈夫だろうとも同時に思う。

 こころなしか周囲の人達が全員綺麗に見えるけど、みんな美容の結果なのかな。

 気にはなるものの、仕事休みの本日、出歩く目的はお菓子の購入!

 太りたくないけどお菓子は食べたい、あぁ矛盾するこの心をいかにせん。

 まぁ食べるんですけどね。

 先週買った分は既に食べきったので、今日はアパートから歩いて三十分くらいのところにある小さなお菓子やさんに来てみました。ここに来るのは今回で二回目。

 一ヶ月ほど前に来た時はクッキーが美味しかったけど、今日はできればそれ以外を買う予定。さて何があるかな?

 ドアのベルをガラコロンと鳴らしながら、私はゆっくりとお店に入りましたとさ。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

「あっ……いらっしゃいませ!」

 

 そう言って顔をあげ立ち上がったのは、若い女性。身長は私と同じくらい。前はおじさんが居たような気がするけど、どんな人だったかな。

 言葉はね、魔法で翻訳されているから誰とでも話すことが出来るの。なので異世界に来た実感湧かない人も居るとか。魔法便利ですなー。

 お客さんは私以外居なかったので、一言断ってから気兼ねなく商品棚を見やる。

 この世界でのお菓子屋さんは、クッキーが主力商品。日持ちするし、何より神様のお茶会はクッキーが基本らしいのでどこかしこも切磋琢磨してるそうな。

 神様の中にはクッキー自作する方もいらっしゃるんですって!

 戦いの絶えないこの世界でもお菓子が食べられて有難いです。感謝感謝。

 とはいえ、そのクッキー以外が棚に見当たらないのはこれいかに。

 チョコレートは最近出回り始めたって同僚に聞いていた。どうやってカカオ豆を再現したのか分からないけど、一般流通には乗ったって。まだまだ高級品扱いだけどね。

 なので、普通の一般店でチョコメインなお菓子を売ってるのは期待してなかったものの、皆無だとは思いませんでした。少しあてが外れたかな。

 棚に並んでるのは色とりどりのクッキー。豆添えやゼリー固め等など、色も形も綺麗だ。

 でもいまいち食指を動かされないというか。ラーメン食べたいのにカレー専門店に入ってしまった気まずさというか。何となくこれじゃない気分。

 私が何も言わず棚を見やってるので、店員さんが声を掛けてきた。

 

「あの、お気に召しませんでしょうか?」

「えっ!? ……いえ、ちょっと悩むなーと」

 少し言い淀んだその返答に満足しなかった彼女は、もしやと続けた。

 

「お客様は、もしかして異世界人のお一人でしょうか?」

「うぇっ!?」

「異世界からいらっしゃった方々は、この世界でたまに物足りなさそうな顔をされることがあるとお聞きしたことがありまして、もしやお客様もそうではないかと思い至ったのですが」

「……」

「申し訳ございません。当店で今作れるのはあいにくこのようなクッキーばかりでして。飽食な世界とは比べ物にならないかと思います。誠に申し訳ございません」

 

 彼女が深々と頭を下げたので、私は慌ててそれを否定した。

 

「いやごめん! ちょっとね、クッキー以外にどんなお菓子があるかなーって期待してた私が馬鹿でして。ごめんなさい」

 

 こちらも頭を下げて真摯に謝ったけど、ほんと失礼な話よねー。

 色々再現されてるから適当なお店でもそれなりにあるなんて、そんなこと無いのにね。

 改めて店員さんを見たら、彼女も少し困ったような顔をしてた。

 

「仕方のないことです。今の私にはクッキー以外が作れなくて……お父さんなら作れたんですが」

 

 ん? その、お父さんなら?

 失礼なことを言いかけた私に彼女は続きを口にした。

 

「あいにくと先日、仕入先の街で魔物に殺されてしまいまして。それでまだ未熟な私がお店を継いだんです」

「えっ……」

「最近砂糖の値段が上がってきてることもあり、恥ずかしながら他のお菓子は練習もなかなか出来ない状態なんです……」

 

 申し訳無さそうに彼女は言う。そういえばと、私は周囲を見やった。

 

「お客さんが私以外居ないのは、もしかして……」

「はい。そうなんです。品揃えが悪くなったせいで、別なお店に行かれる方が多く……」

 

 さっきから外に聞かれたくないような内容を私達が口にしてるのは、この店内に私達以外いないから。そして、話し込んでる最中も誰も入ってこようとはしていないから。

 閑古鳥なこの店は、店員さん曰く潰れかけということなんだろう。残念ながら。

 でも以前食べたクッキーは美味しかったので、いきなり潰れそうになるのは不思議。あと砂糖が高くなってるってどういうこと?

 クッキーであれクリーム菓子であれ、お菓子なら砂糖は普通に使う。ぶっちゃけ、お菓子なんて砂糖の塊といっても過言ではない。

 だからダイエットの天敵になるのだけれど、その砂糖が高くなってるって何か食糧事情がマズい事態になったの?

 地球でも麦輸出で有名なとある国が戦火になったら、いきなり全方位的に物価が上昇していた。麦輸入減少が飢餓に直結するのみならず、その国は化学肥料でも一大産地だったから広範囲に影響が及んだんだって。

 あれだけ流通網が発達してる地球でさえそうだから、この星で似たような事態が起こったらもっと大変なことになっているのかもしれない。

 良くない想像をした私を見て、店員さんは更に申し訳無さそうな顔になった。

 

「砂糖が高くなったのは、最近需要が増えすぎたのが切っ掛けでして……」

 

 ふんふん、生命神様が砂糖菓子の綿あめを美味しそうに食べた話が伝わって、あちこちでそれを売り始めた結果、砂糖の供給が一時的に足りなくなり高値が続いてると。

 想像よりはマシな内容だったものの、お菓子屋さん的には致命的な内容。

 綿あめに使う砂糖の量は、一回分なら実はたいしたことがない。スプーン一杯分程度かな。だから砂糖不足の切っ掛けには弱いようなと思いきや、一つ私が忘れてた内容があった。それは――

 

「そっかー。仕入先が商品を上白糖からザラメ糖に切り替え始めたのね。それで品薄を口実に値段変更のうえ、代替わりで不安だから仕入れ量を減らされてしまったと」

 

 おもいっきり溜め息を吐く。店員さんに落ち度ない内容で仕入れを絞られたら、たまったものじゃないよね。

 綿あめに使うザラメ糖って普通のお菓子に使う白砂糖とは異なるものなのを忘れてた。

 出回っている砂糖の量は減っていないけど、質の違いかー。それに信用が絡むと、個人では手に負えない問題となってしまう。

 思わず腕組みをする。おまけに頭が横へ下がっていく。

 

「もっ、申し訳ございません。お客様に変なことばかり言って失礼しました!」

「いえ。転生者が切っ掛けで問題が起こるなら、人ごとじゃないです。私もお菓子好きな転生者ですから尚更にどうにかしないと」

 

 慌てて彼女が謝ってくるのに合わせ、私の口からも何か出ていってしまった。

 あーもう、何を言ってるんだか。さっさと見切り付けて別なお店開拓すればいいでしょうにね。

 私はサラリーウーマンでお菓子職人じゃない。でも話を聞いてるうちに、この店員さんに親近感が湧いてしまっていた。だからなのだろう、ちょっとした苦い思い出が浮かんでしまった。

 

「お菓子は好きだけど、実は私も作るのはどうにも下手くそで……振られたのもそれでだったし」

 

 生前、私にも彼氏は居た。でも私はどうにもお菓子が上手く作れなくて、それが原因で振られてしまっていた。何で失敗するのか分からないと言われたこともある。ちゃんと計量して、書いてあるとおりにすれば大丈夫だろうとも。

 それが出来ないから失敗してるんでしょうがっ!

 たぶん私の感覚は、他人と少しズレてる。書いてあるとおりの分量が計れていない。

 炊飯器の水量もたまに玄米目盛りと読み間違えるから、手のひらを浸して帳尻合わせるほど。

 私の手の厚みが四センチほどなので、手の甲が隠れるあたりが私にはちょうどいい感じだった。こちらには炊飯器無いから二度と使わない知恵だけどね。

 それはさておき、そんな私でも作れるお菓子が一つは存在していた。

 元彼に振られる切っ掛けとなったお菓子だけど、砂糖不使用だからこんな状況でも作れるはず。

 少しだけためらった後、意を決して口に乗せる。

 

「ねぇ、クッキーが作れるなら焼き菓子は問題なく作れるんですよね? あと砂糖はダメでも、小麦の入手に問題は無いのですよね?」

「えっ、ええ。はい」

「豆類も大丈夫……ですよね。これらを見れば問題は無しと」

 

 再度棚のクッキーを見れば、ナッツらしき少し大きめの豆が乗っかっている。ならば作れるはず。

 

「あの、何を?」

「砂糖を使わないお菓子があるんですけど、検討していただくことは出来ませんか。凄くマイナーで、もしかすると美味しくなくて、硬めのお菓子。私は好きなんですが、どうにも受けが悪くて……そんなお菓子です」

 

 言ってて支離滅裂ーぅ! 好きなのに受けが悪いって、売り物にならないでしょうにね。

 店員さんは恥ずかしそうにした私を見てもそれを流して逆に目を輝かせた。

 

「興味あります! 砂糖使わないお菓子って面白そうですよね。名前はあるんでしょうか」

「ええ、はい。麦せんべい――です」

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

「硬いばかりで美味しくねーじゃん。つかさー、ほんとに食べ物なの? こんなのよく食べられるな不味い」

 

 私の故郷で食べられてるそのせんべいは、麦とピーナッツで出来ていた。

 せんべいは煎餅と書き字のごとくお米で作るのが一般的だけれど、寒い地方で米が満足に作れなく、仕方無しに麦を固めてせんべい代わりにしたのが元々の始まりなんだって。

 正確にいえば故郷のは別県でのアレンジ版だからそのものじゃないけれど、誤差の範囲で勘弁してもらいたい。

 まさか異世界に来てまでケチを付けられたりは……ま、まさかでしょ。うん。

 話を戻すと、この麦せんべいは素材を膨らませない堅焼き煎餅の一種で、天日干しが必要な普通のせんべいとは違うってこと。

 パリッとした普通のそれも美味しいんだけど。中身が詰まっていない分、私は食べてて物足りないかな。

 でも近年、麦せんべいの売り上げは右肩下がりだってことも私は聞いていた。

 なんでも硬くて食べにくいから敬遠されてるって。

 柔らかい食べ物がもてはやされている現代では、確かに食べ慣れないものになってしまったのだろう。地球温暖化の関係もあり今では寒冷地でも美味しいお米が作れるし、わざわざ麦でせんべいを作る意義も減ってしまった。

 昔は貴重なお菓子なのに、今ではほとんど見向きもされないそれ。

 でも私は、麦せんべいが大好きだった!

 硬いけど甘く、ベタつかない。日持ちするし、食べて満足感がある。

 しかもしかも、不器用な私でも真似して作れるのが更に魅力的だった。型枠用に鉄板必要だけど、それさえあればいつでも同じく作れるのよ。凄い!

 小麦を水で練りピーナッツの欠片を混ぜ合わせ焼けば、だいたい出来上がる。

 砂糖や調味料を混ぜなくてもいいのは――入れたのもあるそうだけど――お菓子作りが下手な私にとってありがたいお菓子だった。

 だから彼にお菓子作ってと言われた時、自作のそれを出したのだけれど。

 故郷の味だから食べてみてよって差し出したのに、返ってきたのは拒否の言葉。

 何でそんな酷いこと言うの!?

 硬いのは重々承知。砂糖不使用で、豆の甘みしか無いのも承知の上。

 でもね、不味いと言われるのはどうしても納得できなかった。

 慣れ親しんだ味を彼へ無理に押し付けたのかもしれない。でもさぁ、食べ物じゃないって言われてショックだったよ。

 それが切っ掛けでギクシャクして、最後は彼と別れてしまった。

 私にも苦手な食べ物はあるし、お菓子どころか実はほとんどの料理も満足に出来やしない。

 だから就職後に外食が多くなってしまったけれど、それでも作ってくれる人へ敬意を忘れたことは無いよ私は!

 もうちょっと気遣い出来る人だったらなぁというのは、ずいぶん寄り道が過ぎたかな。

 そんな私がこの世界でお菓子に不満を持つとしたら、硬い麦せんべいを食べ慣れている私にとってこの世界のクッキーはどうにも"柔らかすぎる"こと。

 ほら普通のクッキーって膨らませてサクサクに作るでしょ。ギッチギチに固めて作る堅焼きとは食感がかなり違うのよ。

 スポンジケーキなら柔らかいの一択なんだけどなー。転生した今でもお菓子に硬さを求めるとは正直毒されすぎかとは思う。

 とはいえ、とっさに思いだすのは、やっぱり故郷の味なのよね。

 聞くと、彼女も堅焼きクッキーなら作ったことあるって。ラッキー!!

 さすがプロと感心してた私に、でも彼女は首を横に振った。

 

「そのレシピに、私はお金を払えません。来月には全て売り払って開拓地に行くほどなんです」

 

 ここしばらくお客さんが来なさ過ぎて、借地代が賄えてないと彼女は言う。

 この世界でも貧困はある。彼女が言う開拓地とは、お金の無い人たちが行く最後の地だ。

 地球と違い、この世界では魔物が居る。人間同士の戦争は無いけれど、魔物で国が滅ぶことは割と簡単にあるという。

 ついこの前も、とある街が滅びかけて結構な人数が死亡したとニュースになっていた。

 そしてそれは、普通のニュースでもあった。この世界はそれほど危険に満ちている。

 故郷から脱出した人たちを受け入れるにも限りがあって、物乞いよろしく日々を過ごすか、あるいは開拓地で一から出直さざるを得ない人も中には居るらしくて。

 つまり彼女は、この店の経営がそれに匹敵するほど厳しいと打ち明けたのだ。

 

「ですからそのレシピは、別なお店に提供したほうがよろしいかと思います」

「なんでよ! いい、これは私の投資なの。貴方のためだけじゃなくて、私があの味をもう一度食べたいの! それにこの煎餅は、既に繁盛してるお店じゃたぶん扱ってはくれない。だって、硬いんだもの」

「どうしてでしょう。お客様は美味しいと思うのですよね?」

「……それは、この世界も飽食になりつつあると思うから。異世界料理は美味しいよね? 今から砂糖不使用なお菓子を作ったってと思わなくもないし」

 

 あっ、呆れた顔をされた。だよねーと思いつつ、そう思った背景を正直に告げる。

 今私たちが暮らしてる街はかなり大きく、簡単には滅びないと聞いている。聞いてる限りでは。

 絶対の保証は無い。歴史によればたった半月ほどで三つの国が、それも大国が滅んだこともあるって。

 だからなのか、異世界技術の広まりはそれはもう素早くて、熱心に広めすぎて――特に食べ物事情が変わりすぎてしまったと思うの。

 同意なき転移で郷愁抱くのも分かるけど、こう、加減してほしいなーと思わざるを得ないほど。

 美味しいのは正義。でもね、砂糖のように流通の歪みをもたらすほどとなれば、絶対正義とは言いにくいな。

 彼女のように売上が落ち込んで困る人が出るなんて、誰も想像してないんでしょうね。

 かくいう私も今日になるまで知らなかったんだけど!

 だけどこのお菓子、私は美味しいと思うし物珍しさで需要あるかもしれないし砂糖使わないから経営にも優しいし作るのは比較的簡単だし――あ。

 ハッと気づいて彼女を見れば、思い切り苦笑してた。やらかした!

 互いに固まったままたっぷり十秒は過ぎた後、さてと彼女がいう。

 

「両面焼き用鉄板なら。ええ、確かに持ってます。小さめですけど、確か tai-ya-ki とか言われてお父さんが注文しちゃった物が。これも転移者由来の食べ物でしたよね」

 

 タイヤキ違う! せんべい! でもなんでタイヤキ!?

 思ってもみなかった鉄板の存在に驚愕しながら、かろうじて頷く。鉄板は鉄板だし……

 

「普通のクッキー生地を入れてしまい暴発してそれっきりでしたけれど、ベーキングパウダーを使わなければ貴方のいうそれを作れますでしょうか」

 

 まっ、前向きだー! 私は嬉しくなって両手をあげた。

 

「そう! タイヤキ用なら両方使うと厚みがありすぎると思うから片方を窪み無しにすればいけるいける! 豆はあるよね、私はピーナッツ派だけどって何で受け入れることに急変更してくれたの!?」

 

 ここまで演説ぶっておいて何をと言われかねないものの、ちょっとだけ正気な言葉を口にする。

 曲がりなりにもプロな彼女が客の妄言に付き合う必要なんて無い。未知なお菓子だとしても美味しいかどうかは作ってみないと分からないはず。

 

「そうですね。ここまで熱心に語る方がいらっしゃるなら、絶対に美味しいんだろうなと。私も食べてみたいなって、そう思い直したんです。それに――流行りの砂糖菓子に対抗したい気も少し」

 

 まぁクッキーしか作れない状態が続けばどのみち廃業ですしと彼女は続けた。

 新作を試すなら今しかないでしょうとも言ってくれた。

 確かに売れるかどうかは分からないけど、少なくとも私は買う。同僚も買う、いいえ買わせる。

 それなら少しは続けられると思う。何なら私の給料を注ぎ込んでもいいし。

 固定客、最低一名のご案内よろしくね!

 ちょっとニヤつきながら手を出せば、彼女もしっかりと握り返してくれた。

 

「では作り方をご指導ください。この後のご予定はいかに?」

「もちろん今からで問題なし! いえ、先に職場へ明日休みの連絡はしておくべきかも。まさかとは思うけどね」

 

 お菓子作りに熱中して欠勤し結果クビになったら洒落にならなすぎる。ただでさえ彼氏から振られる原因だったし。

 えっ、私……そんな因縁あるお菓子のレシピを提供するの?

 今更ながら元彼との麦せんべいでのいきさつを話したら、幸いにも彼女は笑ってくれた。

 食べ物に敬意を持てない人が居るなんて信じられません。別れて正解ですよとも言ってくれた。

 本当に嬉しい。心が軽くなった気がする。せんべいの中身は軽くしないけどね。

 その後彼女が作ってくれた麦タイヤキせんべいの出来栄えは、私でさえ満足のいくものだった。さすが本職!

 翌日から売り出したら、物珍しさもあり普通に好評を博したとか、しなかったとか。

 その結末もいずれお話しできるといいな。私はそう思った。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

「ところで、タイヤキって何で魚の形なのでしょうか?」

「縁起物の形だったかな。それより、ここのタイヤキ鉄板は天然物と養殖物のどっちかな?」

「お菓子に養殖物って何です!?」




 麦せんべいは知ってる限りは全て円形なので、こんな奇妙奇天烈ではありません。
 機会があったら味わってみてくれると有難いです。硬いけど。

 あと読んだ足跡に顔文字『(o´∀`)b』でも何でもカキコくださると嬉しいです!
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