転生程度世界でもモブだった件   作:凍幻

5 / 11
*時系列は第三部終了後。本編主人公コノエの存在が本格的に世間に知られ、それで悩む話となります。
 2025年7月13日付けで一部記述を変更。不死魔王討伐後に看破権能を知らないのは不自然なことから、この話時点では詳細未発表と加えました。


第五話「戦慄! 固有なしアデプト様ご降臨!」

「何も分からない……」

 

 俺は椅子に座ったまま、今回も頭を抱えた。いくつかの傍証と数少ない公式発表、僅かな類推。それが全てだ。

 入手困難なのは以前から分かっていたので改めて調査するに至り手を尽くしたのだが、やはり新規での情報は集まらなかった。過去随一の難易度に、ため息さえ出やしない。

 かつてここまで謎なアデプト様は居ただろうか。

 少なくとも俺がこの仕事に就いてからの二十年では居なかったと断言出来る。

 スラム出身者でさえ何らかの過去話は拾えたのだ。秘していても本人が活躍するほどに情報は集まっていく。

 なのにこのアデプト様は、コノエ様は、活躍と比して圧倒的に個人情報が少なすぎる。

 まるで、アデプト以前の経歴が無かったかのようにも思えてしまう。

 いったい彼の存在はどうとらえたら良いものか。

 窓の外では気持ちいい日差しが降り注いでいるものの、眼前にある暗雲は一向に去ろうとはしてくれなかった。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 何も分からないのは流石におかしいだろと思うが、噂に聞く異世界出身ならそういうこともあるのか。

 俺が今探っているのは少し前アデプトに至った人物、コノエ様の情報である。

 害する目的ではない。俺の出身国に拠点を招致できないかと、彼にまつわるあれこれを探ってるんだ。

 彼がアデプトになってからの活躍は特段秘されることなく、普通に公開されている。

 依頼を受け災厄を二体ほふったことに加え、先日はかの不死魔王を消滅させたとも聞く。

 彼はまだ固有魔法を持たないと聞いていたのだが、千年もの間、誰も殺せなかった不死魔王を討伐し得たのはいかなる理屈ゆえか。

 詳細は、神様方々はじめ世界中の称賛を授与する大式典のおりまでには発表するとのことで、まだ事態は流動中らしい。

 大英雄である銀灯様でさえ千年殺せなかったんだからな。そりゃ色々慎重にもなる。

 これを成し遂げたのが新人アデプトな事実も、あちこち影響してるかもしれん。

 アデプト様といえど、妬みそねみはあるだろうからからな。少なくともコノエ様がアデプトに相応しい実力を備えているのは間違いないところだが。

 しかし、その華々しい活躍に対し、彼自身のことはほんの少ししか伝わってこない。

 身長は百七◯ほど。髪が白い男性なのは少し前見かけたから情報通りと確認できた。しかし後は伝聞がほとんどで。

 曰く固有魔法を持たずにアデプトとなった、曰く初の異世界出身アデプト、曰く既にメイドを雇っており仲良さそうにしている等など。

 彼の姿は確かに確認されているのだが、彼自身に関することはその程度しか漏れ伝わってこない。

 しかもそのほとんどがアデプトになった以降でしかなく、訓練中あるいはそれ以前の話は噂ですらほぼ皆無。

 いくら異世界出身だとしても、訓練最中はアデプト学舎の寮住まいだったろうとしても、それでも休日くらいは何かしらで街に姿を見せていたはずと俺は考えていたのだが。

 街の誰も訓練中の彼のことは見た覚えが無いという。もしや学舎から一歩も出なかったのだろうか。いやまさか。

 とはいえ俺がこの神都に居を構えてもう二十年ほどになるが、コノエ様に関する話をほとんど聞いたことなかったことを鑑みるに、少なくとも派手好きでないことは確かか。

 魔物討伐に成功すれば、訓練生であってもはしゃぐ姿が見られるものなのだが。不自然なほど姿を見せたことがないコノエ様の実在を疑ったこともあったな。

 最初に聞いた話は『諦めの悪いやつ』で、その次は『結果の伴わないやつ』だったか。

 努力しても上達しない訓練生として噂されてたのだが、内容を聞いて分かる通り噂した本人は既に訓練を途中で諦め学舎を去っている。他人を貶める訓練生など、そんなものだ。

 話が事実ならコノエ様が訓練に費やした年数は実に二十五年。俺の赴任時には訓練を開始してから既に五年が経過していたにも関わらずなかなか訓練が進まないとあれば、才能ある人間にとって揶揄の対象にもなろうとは思う。思うが、厳しい訓練に身を置けば他人のことを気にする余裕など本来ないはずで。

 自分が至れないやっかみだったのだろう。嘲笑と訓練に耐え抜いたコノエ様はすごいお方だ。

 そのお方を調査する俺はといえば、しがない小国から神国に派遣されたただの調査員。

 この神国からかなり遠く、もの好きでなければ異世界人などほぼ来ない小国が生まれである。

 調査事項は先程も言ったが神国で新規にアデプトに至った人物、ないし至れそうな人物の趣味嗜好を探ること。

 これは国上層部が興味本位で依頼したのでは無く、限りあるアデプト様を出来る限り自国招聘するにあたり、趣味嗜好から交渉条件を探るという表には出せないがかなり重要な仕事である。

 現在アデプトの総数は全世界でも僅か九千人ほど。人間世界全てをカバーできるほどの人数はおらず、しかも大多数は大国に集中している。

 情報の集まりが良く、金払いも良く、自分の欲望を満たせる余裕があるところに拠点を構えたいと思うのは俺でも分かる。

 そして、そんなアデプトが増えれば居住地はより防備が強固になり更に住みやすく――とまぁ、ますます小国へは行きにくくなるのも道理。

 いま故国に居てくれるアデプト様は長い交渉のうえやっと来てくれた人物であるが、一人で何もかも対処出来るはずもなく、増員はずいぶん前から喫緊の課題となっていた。

 とはいえアデプトになれる人物は誰もが我欲の塊で、そうでなければアデプトに至る厳しい訓練を続けられないとなれば、無事アデプトになった以降は欲するままに自らを満たそうとするのが通例だ。

 取るに足らない小国な我が国でそれを満たせるかといえば、かなり難しいのも周知の事実。

 なので新たにアデプト入りした人物を中心に何とか交渉するしか道はないのである。悲しいかな、活躍した人物に移籍交渉を出来るほどの予算は無いんだよ……

 アデプト様の居留地が目に見えて偏っているのは誰もが分かるものの、かといって俺達に出来るのはひたすら頭を下げての移籍願いしか無い。

 大半の方々は話どころか面会すら拒否。数少ない面会可能な方々も、事前に示された移籍条件が厳しくて実際に面談交渉へと至った回数はこの二十年で片手ほどしか無い。前任者も百年で二十余回だったな。

 これは彼らが意地悪してるわけでなく、事前にそうやってふるいにかけなければならないほどアデプト勧誘の話が多いってことだ。

 勧誘可能時期も限定されてるしな、短期間で受け付けるのは先方の事務方も大変だろうよ。

 だが時期を定めねば、それこそ勧誘合戦で身動きが取れなくなる方すら出てくるやもしれん。それらしいことは何回も聞いたことがある。

 あちらの度肝を抜くような条件をこちらから示せれば良いものの、故国のような小国には金銭面からちと荷が重い。

 大国なら我が国より移籍交渉に使える予算があるのだろうが、それだけで招致成功にならないのも一応知ってはいる。高額金銭を提示し移籍いただいたまでは良かったのの、翌年即座にオサラバされた話がそれだ。

 大国は大勢のアデプト様で順風満帆かと思いきや、大勢ゆえに赴任してるアデプト方々間の待遇調整に失敗したのだとか。

 アデプトの自我と密接に結びついた渇望、それを十全には満たせなかったとも言われたらしいが、先の話で聞いた移籍条件は金銭だったはずで、内容に齟齬があったりする。

 まぁ他にも色々と不満があったのだろう。移籍条件の事前調査が甘かった一例だ。

 逆に故国のアデプト様は交渉が上手くいった好例と言える。

 あの方は渇望を全面に押し出すほうでなかったものの、それでも称賛受けねば不機嫌になりがちな方で、各種活動後には必ず祝賀パーティを開催していた。

 それで、とあるパーティにて我が国の特産酒を献上したところ割と気に入ってくれたらしく、数をねだられた結果、移籍に至ったのだとか。

 その酒は特産も特産で、実は数年掛けてアデプト様の好みに調整した一品だったのが功を奏した形だ。

 俺の前任者が良い仕事をしてね。それまでのパーティで口にしたアルコールの種類と量から好みを割り出したと聞いたときは、俺も思わず唸ったよ。

 どうやって調べ上げたかは、ここでは言えない。他国が真似したら困るのでね。神々に顔を背けるような調査はしていないとだけ言っておこう。

 礼を尽くすため、むろん移籍後もパーティ開催と活躍への称賛を欠かしたことはない。今でも気に入ってくださってる特産酒がふんだんにあれば、我が国の財政でも賄えるほどのつつましいパーティで満足されるのが素晴らしいお方だ。

 あの方は決して酒飲みが渇望なのではないが、それでも我が国の酒を気に入ってくれたのは本当に幸運だった。

 なにせ彼らはアルコールなど即座に無効化出来るので――毒素分解はアデプトの必須技能である――普通の酒では満足出来ぬ方もいたりするのだ。

 移籍以降、毎年の出来に不満を抱かれたことはまだ無いものの、万が一の事態に備え特に良く出来た年の一部を国内外に避難させてもいる。

 先日コノエ様が救援されたシルメニアの街においても、特産の聖花が全滅寸前となりそれから作る聖花酒が入手不可能の事態になるところだったしな。

 国滅びてお酒ありな事態は決して好ましいものでないが、備えは大事。アデプト様へ我が国の態度を示すことでもあるから悪くない取り組みとも言える。

 そろそろ酒以外での繋ぎ止め策も考えねばならないが、それは国のお偉方に任せよう。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 まぁそんな感じで招致の話を述べたが、詳しくない人間には疑問に思うことがあるだろう。

 なぜ自前でアデプトを育成しないのか、他からの招聘には限界があるだろうと。確かにそれはそうなんだがね……

 小国でも自前でアデプト育成出来るならと思ったことは俺でさえ何十回となくあるが、今のところそれは不可能なんだ。

 何せ訓練施設は世界でたった十ヶ国だけしか設置不可能で。これはアデプトに到れるほどの加護は生命神様しか授けられず、その分体を降臨なさっているのが十ヶ所だけだからという悲しい事実のせいである。

 俺も幼い頃はもっと各地に降臨なさればいいのにと考えたこともあるが、その身を守れず邪神に蹂躙されたなら人類存亡の危機となってしまうことを知り、小さな自国の頼りなさを嘆いたものだ。

 まぁいくら大国になろうとも、アデプト訓練所とその前提である生命神様の居場所を他国に誘致するなど不可能なんだがね。

 同国内でさえ移動時の警護が問題となるのに、ましてや他国に移動などまず無理。

 何重にも結界を張ったうえで複数アデプト警護を要するお方を、いったい誰が旅程中守れるというのか。

 神様だから顕現場所自由だとはものの本で読んだがね、相手も邪なる神様だから何があるか分かるはずもない。

 移動先で満足な警護可能かという高い壁もあるからな。生命神様警護だけで複数のアデプト様に警護費用を出すなど、いくら経費が掛かってるのか想像すら困難だよ。

 嘆くばかりなら自分がアデプトになり自国救済をとならないのも悔しくも現実で、俺ではあの過酷なアデプト訓練についていくどころか、その前段階に達することすら叶わなかった。

 俺の加護は物作成に関わるものでしかなく、いくら身体を鍛えても人間の枠を超えるにはあまりにも才能が無かったんだ。

 これでも国では重要人物、その娘の子、の中の一人だった。しかも長男じゃないから武術で身を立てるのは可能だったんだがね。幼少時に兄弟同様手ほどき受けた結果は散々だった。

 他の技能もいまいちで、加護の関係か農機具作りはマシだったものの、それを生業とするのは生まれの問題が邪魔をしてなれずじまい。

 幼少時から色々訓練できたのは普通より恵まれてたと言えるが、非才の身でアデプト訓練に挑むには時間と金銭が不足してたのさ。

 同じく非才の身と言われながらコノエ様はアデプトに至れたが、たぶん彼には秘匿の才能があったのだろうとしか思えない。

 言い訳に聞こえるかもしれないが、少なくとも俺が同じく二十五年でアデプトになれるとは到底思えないのだ。

 もっと時間を掛ければだって? それが許されるならばな!

 才能あると見込まれた人間でさえ中途断念が多いのに、立場ある人間が見込み薄い訓練に十余年、あるいはそれ以上を費やすのは時間がもったいなさすぎる。

 さっさと別な職業となったほうが国に貢献できるはずだから。俺はそう決めてこの神国に来た。

 正直、端で見てて訓練を志願せず良かったと思わないでもない……あまりに過酷なのでね。

 そんなこんなでここ神国にてアデプト様の色々を調べているのだが、もちろん俺一人で調べきるのは不可能だから、他にも数人が情報収集の任に就いている。俺含め表向きの職業は先程の特産酒メインな商店だ。

 もともとの身分を隠してたりもしていない。聞かれれば普通に答えるし、何か必要があれば式服で出向いたりもする。そのうえで、アデプト招致に繋がる話題を仕入れているんだ。やましい内容じゃないだろ?

 そも情報収集を専業とするには、調査対象者が少なすぎるという前提を思い出してほしい。

 確かに訓練へ挑む人間は多いんだが、最初の一ヶ月をすぎる頃にはかなり人数が減っているし、最終的にアデプト訓練を終えられる者など年に数人しか居ないのでね。数人が神都住民として日々を過ごせばだいたい事足りてしまうんだ。

 訓練卒業時の時期不明なままただ待ち呆けることなど、訓練施設を要するこの神国の指導者であっても出来ようがない。

 ましてや故国から遠く離れて情報収集に当たるとなれば、担当が少人数になるのもご理解いただけることだろう。

 コノエ様以外の方々なら、それで十分に話が集まっていたのだ。

 有名どころで言えば、最近はメルミナ様か。スラム出身で金銭にうるさく、自分で商会を立ち上げてしまった方だ。

 金銭執着が強いのでそこからスラム出身な情報にたどり着けたはいいが、それが渇望に繋がっていない稀有なアデプトのお一人で。彼女の神威武装がレンズになったと聞いた際は、渇望を見誤ったことで調査結果を精査せざる得なかったほどだ。

 もちろん当初の見込みである金銭面交渉も早々に見切りをつけていた。拘りが強すぎて我が小国では到底支払えないと判断したし、事実その後の活躍で報奨金額高騰も判明したため完全に交渉不可能者となってしまった。

 特定の土地に執着しない性質とは思えたんだがな。商会での活動範囲が広すぎて渇望の源泉特定が難しく、しかも出身なはずのスラムではなく開拓地を視座に入れているのは何故なのか。

 単なる探し物でアデプトに到れるとも思えずで、類推される渇望とこれまでの実績の噛み合わなさが特徴とも言える。

 その他では、アーキノルカのフォニア様。彼女は百年前天蓋竜に滅ぼされたアーキノルカ出身の竜人で、かの国の王女様だ。青い髪に青い翼の女性であり、固有魔法は断絶の盾とのこと。

 くしくもお二人はコノエ様の同期とも聞いた。それ以上の関係であるとは聞いたこと無いが、コノエ様の趣味嗜好を探るには覚えておいたほうがいいだろう。

 フォニア様に話を戻すと、訓練終了後は即帰国したため活躍内容の詳細は知らないものの、それでもこの神国に噂が届くほど活躍なさっている。

 最初から移籍不可能とみて特段情報を集めなかったが、追いたてられたかのように鍛錬なさっていた話は聞いている。

 本国との関係で事情があったのだろう。外部事情がアデプトに強制力あるとは聞いていないが、本人が強く願うなら話は別で。もともとの身体能力を加味しても訓練期間が十年と短いのはかなり無理なさったはず。

 まぁ優秀すぎるがゆえに故国には招致出来ないんだがね。しかも王女様だぜ。移籍するとなればどんな条件が飛び出すか恐ろしすぎる。

 彼女ら二人は移籍交渉断念の例だが、それでも出身地が分かれば過去を探ることはある程度可能。

 そう、普通はアデプトに挑む動機が多少は見えてくるはずなのだ。

 なのにコノエ様は訓練中ずっと寮住まいで街への出歩きをせず、異世界出身ゆえに過去も探れずで。十日毎の休日に何をしてるのか確認したら、ずっと槍の訓練をしていたとか。

 異世界は料理種類が豊富とも聞いたが、食べ歩きもせずとは普通におかしい。何度見ても非常食しか口にしてないのは、もはや味覚異常者かと思ったほどだ。さすがにあれを交渉材料とするのは間違ってるはず。

 あれを常用してた世界出身だとも考えにくく、実際アデプトになった後で普通に食事してる姿は確認出来た。

 その段階で交渉に望めてたらなぁとつくづく思う。今となっては魔王討伐者など高嶺の華だ。

 先ほどメルミナ様への交渉を断念したように、コノエ様はもはや我が小国には扱えない存在となってしまった。

 それでも調査は継続中で、継続せざるを得ない。異世界出身という生まれが特異すぎるゆえに。

 この世界が十七魔王より開放されて既に千年。かの銀灯様を始めとして過去のアデプト様はみなこの世界の土地に由来を持っている。

 スラム出身なので生まれ場所を特定しがたいメルミナ様という例外はあるものの、それでも趣味趣向は全員この世界由来で。交渉条件が未だ不明であっても、この世界の範疇ならそれを十分理解出来るはずと断言出来る。

 しかしてコノエ様にはその前提がない。俺には理解できない渇望がコノエ様をアデプトへと至らせ、今後の異世界出身者もそれでアデプトとなるならば、何を持って移籍交渉に望めば良いのだろうか。

 数十年ほど前に始まった異世界召喚。知識を求めて他世界賢者を呼ぶ試みはある程度成功し、ここ神都では、その成果が誰にでも分かるように見て取れる。

 油で走る機械なんて、確かに以前の世界には無かった物体だ。個人技に頼らず誰でも使える機械とやらは、この世界を豊かにするだろう。

 どれだけの人間が開発に携わっているかは分からない。

 異世界出身の人間全員が有用な知識を持ち得てるはずもなく、冒険者になったり街で普通に生活していたりする。

 俺自身でも何人もの異世界出身者と話をし、前世界での生活や出来事などを聞いているのだが、ことアデプトについては誰もが口を揃えてこう述べる。

 曰く、正気の沙汰じゃないと。

 彼らの世界は魔物がおらず、戦闘行為が忌避されているそうだ。様々な理由で人間同士が殺し合うこともあるというが、それでもこの世界からすれば十分に平和な世界だと聞く。

 なので、いくら特典があるとしても戦いを義務付けられた職業はなりたくないと言うのだ。

 アデプト特権を知り挑戦した人間は過去数人居たらしいが、俺の記憶にも記録にも痕跡が残っていない。

 調査対象となる一ヶ月の期間を超えられなかったのだろう。戦いを忌避してるならそうもなる。

 となれば、コノエ様はもしや戦闘狂だったのかもと疑念がよぎる。自ら進んで鍛え、そして強大な敵に挑むことそれ自体が望みだったと仮定すれば、今の戦果もあり得るのかもしれない。

 過去、英雄志願は何人も居た。みな世界を憂いて戦うことを決意した立派な方々だ。

 しかしアデプトに至れた人間は、ほんの僅か。世界のためとは言うものの、それを自らの意思となし得なければアデプトになるなど不可能の極み!

 他のためでは駄目なのだ。自らの渇望でなければ、いつしかアデプトに至ることが呪いと化してしまう。

 理不尽な訓練を強いる他者への恨み、痛みを与える教官への恨み、そして強いられた弱い自分への恨み。

 そんな負の感情が、訓練生を弱くする。順当に訓練を辞められるならいつか落ち着きもするだろうが、調子を崩したあげく無様に魔物へ突貫し果てた人間も中には居たのだ。

 容赦なく過酷なアデプト訓練を乗り切れる人間とは、ある意味自身を呪っている人間と言えるかもしれないな。

 祝福とは言い難い。いくらアデプトへ至った暁には何もかもが許されるとしても、訓練時の痛みは自分自身が享受するのだ。

 痛みに耐えかね心折れるもの多数ななか、自身を痛みに縛り付けるとあれば、それはもはや自身への呪いと言ってもよかろうと思うのだ。

 あぁしかし、コノエ様がアデプトに至れた渇望とは本当に何なのか。

 固有魔法の未取得とは、すなわち渇望がないのと同義。

 先の仮定通り戦闘狂だったとしても、それが渇望足り得るほど強固な望みなら固有魔法に到れるはずなのだ。

 アデプトになれずとも固有魔法を取得した人間は少なからず居る。

 コノエ様を知るまで、固有魔法の取得はアデプトになる最低条件だと思っていたほどだ。

 それが見事にひっくりかえされ、アデプトに至れる前提が分からなくなってしまった。

 アデプトの訓練を耐えぬくには強固な自我が必要で、それは固有魔法に至るはずでもあり、しかし実際にアデプトと成られたコノエ様は不死魔王を倒した大英雄にも関わらず未だ固有魔法を発動しておらず、それは渇望に至るほどの我欲が無いも同然で……

 あぁもう分からん!

 いっそコノエ様が異世界の神様だったなら悩まずに済むものを。あいにくと彼は人間であると断定されているがね。

 だからこそ生命神様の加護が授けられ、そしてアデプトに至った。なのに自身を訓練に縛り付ける呪い、固有魔法が発動していない。

 自身を呪わずしてアデプトに到れるほどコノエ様の出身世界は魔境だというのだろうか。

 やはり戦いそのものが渇望だったのでは……

 いつか二人目の異世界出身アデプト様が出現し渇望の比較が出来るその日まで、俺は悩み続けるのであった。




 当該国の存在は原作に著述ありません。筆者の妄想によるものな事ご了承ください。
 そして固有魔法なし、つまり渇望なくアデプト訓練を終えた人間の出現に、各国のスカウトたちは戦慄したのではとも思うのです。移籍交渉の手がかりないのでお手上げ状態。
 神国自体も同様のはずで、今は居てくれてもいつまでなのか分からないアデプト様の情報知りたくて右往左往してるはずかなと。
 教官はそんなコノエを褒めたたえるけれど、この世界基準ではアデプト訓練終了より固有魔法開眼のほうがよっぽど容易いんですよね……あな恐ろしやコノエ様。

 あと読んだ足跡に顔文字『(o´∀`)b』でも何でもカキコくださると嬉しいです!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。