転生程度世界でもモブだった件   作:凍幻

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*時系列は第五部開始までのどこか。カメラの初出は第四部で、度量衡のくだりは第五部参照となります。
*2026年5月20日。同人誌頒布に向けあちこち手を入れました。


第八話「胸の炎は転生しても消えさらない」

「我々は、ついにカメラを手に入れた。しかし自由に使えるわけではない。何故だ!?」

「そりゃ出来たばかりで本体の値段高いし、印刷費も結構するからね。異世界なんだし」

「そーは言ってもさー。きちんと再現されてるから色々期待しちゃうでしょうに」

「取材は付き合わないわよ」

「何で結論を先に言っちゃうの!? お願いだから一緒に行ってよぉ。あたし一人じゃ不安なんだってばぁ」

「インドア派に何を期待するのよ。それこそ外注したら?」

「モノホン見られるのに他人の写真で我慢せいとゆーの!? それこそ本末転倒じゃん!」

「だったら頑張って取材してねー。あたしの分は資料あるから引きこもっておくよ」

「ズッ友が冷たい件について」

「スラングはいいから頑張って☆」

「うにゃーん」

 

 テーブル越しに二人の女性が話し込んでいた。内容は、今後の行動方針である。

 情けない顔を晒してる髪型ショートの女性は目前のカメラを持ってあちこち取材旅行に行きたいのだが、もう片方のセミロング女性はそれをすげなく断っていた。事情を鑑みれば、断られるのも当然な話である。

 なにせここは地球じゃなくて異世界。魔物が跋扈する本物の異世界だ。何の力も持たない女性が単身で旅行するのは、なかなかにハードルが高い。

 そして何の取材をしたいかだが、各地の風景や出会ったあれこれを写真に収め、片っ端から資料化したいのだという。街の図書館に行けば風景画を収録した各地の紹介書や各種図鑑が閲覧できる。しかしショート女性はそれでは物足りないらしい。

 

「いやさー、やっぱり自前の資料は持っておきたいでしょ。あんたもそう言ってたじゃん」

「大丈夫。文字だけなら書き写すのはなんとかなるし。治療魔法で腱鞘炎を気にせず書けるのはいいねぇ」

「うがー、絵画資料は複写が面倒なんじゃー! コピー機欲しいよー。うう、創作意欲が減っていくにゃん……」

「はいはい。明日になれば復活する程度の減り方でしょ。そも自分たちで資料集めたいって言い出したのは、あーたでしょうに」

「それはそうにゃけれど、日本での手軽さが恋しいにゃん……」

 

 さめざめと泣く真似をしても、セミロング女性は一顧だにしない。打ち合わせのたび同じことをされてるので、いい加減飽きたともいう。

 彼女たちの求める資料は、この世界ではまだ一般的でないものばかり。二人で手分けしても収集が遅々として進まないのは仕方のないことだった。

 

「いっそのこと募集する? 同士求むって」

「あー、うん。やっぱり二人だけじゃキツイかもにゃぁ。できれば完成品を手に勧誘したかったんだけどさー」

「それが完成するのはいつでしょう?」

「まだ構想段階で遠いです……へにゃー」

 

 ショート女性が軽くため息を吐く。この世界、ボタンひとつで知識を仕入れられないため、欲しいものは地道な収集作業を要する。そのうえ少々特殊な内容ゆえ、他人に調査を頼むのもはばかられるのであった。なにせ彼女らが資料を集めている目的とは――

 

「はやく資料揃えて漫画の作画に取り掛かりてぇっすー!!」

「あたしは小説だけでもいいんだけど、漫画あると嬉しいよね。描きたい人、他にも居ないかなぁ……」

 

 そう、漫画小説の創作活動をしたいがためっ! 現代日本でなら漫画は手軽に嗜めるお気軽娯楽だが、この世界ではどこにも置いてなかったりする。なので二人は自給を考えたものの、色々あって実行に移せていないのだった。

 二人が召喚されたこの世界、今となっては元日本人でも日常生活でならあまり違和感ないほど技術が普及している。彼女らが召喚された当時はまだ召喚開始から数年しか経過してなかったので創作意欲を持ち得るほどの生活は送れていなかったのだが、最近になりカメラが開発され、それなら創作活動用の自前資料を集められると気付いてしまったのだ。

 ちなみに二人の召喚時期は二年ほどズレている。知り合ったのは教官が顔を見せるお祭りの時で、片方がついうっかり呟いた一言が隣に漏れ、それ以来なんやかんやと休みの都度お茶を飲む関係が続いていた。

 趣味が趣味だけになかなか同好の士と出会えず、長いこと二人だけの内容として楽しんでいたはずが、カメラの出現で欲望が抑えられなくなって冒頭の会話に至る。

 これでも抑えていはいたのだ、抑えては。ただ抑えるだけではどこかで噴出するのは致し方なく、それが先程のタイミングだっただけである。待望のカメラを入手できてテンションあがったのは、逆に当然ともいえた。

 しかし実際に漫画を描くとなれば、色々と面倒事が待ち受けている。

 この世界は、まず漫画という文化に馴染みがない。絵画もまだ写実系が一般的であり、漫画で使われるデフォルメ系は怪訝な顔となるのが普通の反応。そんな見慣れない絵柄かつ動いているかのような連続絵だなんて、斬新すぎて理解に苦しむというもの。

 小説での続き物は既にあったが、それとて嗜めるのは上流階級くらい。各街の支配階級ともなれば教官の英雄譚を始め種々の物語を文字で楽しめるほど勉学に励めるが、一般民はそこまでの余裕を持ちにくいのだ。

 ちなみに印刷技術は既に存在するので、けっこうな量の書物が出回っている。印刷所も複数あり何某かの原稿を持ち込んで製本いただくだけなら個人でも頼めるが、売り物になるかは別な話。

 この世界は言語が一種類しかないため、ある程度の読み書きはほとんどの人間が出来るものの、大抵の場合求められるのはニュースや報告など実務的な内容ばかり。空想の翼を羽ばたかせるような完全虚構的物語の類は、魔物の脅威に怯えつつではかなり普及しにくいのだった。

 加えて情報の伝達速度が遅いことも影響がある。街間距離が数十キロ以上ともなれば、一つの話だけでも伝えるのに相当な時間を要してしまう。魔物の脅威がある以上、地上を移動するのは危険が伴うし、転移門はあれど費用面から頻繁とはいかない。

 魔物襲来などに備えた高速連絡網は構築されてるが、それは緊急性あってのこと。普通の物品でさえ毎日運べるとは限らない世界では、実務的内容から外れた物語という娯楽品の類は常に後回しなのが現状だった。

 街の住民なら比較的余裕を持てる。なにせ魔物の襲撃を跳ね返せるから街が成り立つのであって、それが長期間続けば少しずつでも蓄えは出来ようというもの。なので各種娯楽にも手を伸ばせるが、いつ何時魔物が街を丸ごと吹き飛ばすかもしれない世界なだけに、遊興傾倒な生活は全体的に忌避気味。某庄助さんな行動なんてとんでもない!

 貧乏人は言わずもがなで、持ち得る余裕はほんの僅か。そしてこの世界、その貧乏人はかなりの割合で存在するのだった。

 生命神様の分体が顕現なされてる裕福なここ神都であってもスラムが存在するほどといえば、その深刻さが分かるだろうか。もっとも、神都は百年前の天蓋龍襲撃で滅んだ他国の住民を積極的に受け入れた経緯が前提にあり、資本主義で落ちぶれた人間が多いのではない。ここは転生被召喚者が勘違いしやすいところ、厳重注意内容である。

 スラムで生活したくないなら開拓村にて働くのも可能だが、どの村も瘴気を防ぐ結界塔が無いため――作れるほど蓄えができれば街となっていく――魔物と戦いながら貯蓄するのはこれも容易でない。

 なので物語を、ましてや続き物な話を楽しめるほど心と時間に余裕ある層はかなり限られてしまうのだった。

 一冊に収まった短編漫画なら流通しやすいかもしれないが、それとて未知数。驚かれるか、あるいは拒否されるか。実際のところはまだ分からない。

 逆の作る側、いわゆる作家たちについては、この世界にもきちんと存在している。英雄譚が流通しているとは、すなわちそれを取りまとめた人間が別途いる証左である。先程述べたように物語の需要は多いと言えずとも一定数にはなるのだが、作家たちがみな創作活動を仕事として続けられているかといえば微妙な感じ。

 印刷業が成立するほどには書物の需要があるものの、いかんせん発売先が同じ街の内、売れに売れて同国内程度では売上も頭打ち。専念するとなれば、収入が別途なければ厳しいだろう。

 日本でも文豪と言われる人たちがどんな生活を送っていたか思い出してほしい。今では有名な作家たちでさえ、赤貧にあえぐエピソードは割とある。この世界もそんなものだ。

 違う点をあげるなら、同じ創作行動でも画家の数だけは多いかもしれない。最近ではカメラが発売されたもののまだ一般的とは言えずで、数千年もの間、人の姿を記録し続けられたのは画家の腕前あってこそ。

 カメラ普及とともに肖像画仕事は減っていくと思われるが、そのぶん別な仕事が入るかもしれない。地球でだって芸術家は減少傾向にありつつも皆無にはなってないのだ。何かは残るのだろう。

 他の芸術といえば、音楽もある。さすがに大人数での演奏は大都市くらいでしか聞けないものの、個人演奏者なら割と普通に居たりする。転生者たちが元世界での曲再現を試みてる関係で、楽器もずいぶん種類が増えた。しかし歌詞については元言語で聞きたい派と現地語で聞きたい派が混在してるため、紆余曲折ある模様。

 なお地球での著作権をこの世界でどう扱うかも、法律家中心に話し合いを続けているがまだ結論出ていない内容の一つ。異世界情報の真偽確認はひたすら面倒なのだった。

 かように芸術の種類は様々だが、他人の理解なくばいずれ破綻するのはどれも同じだ。なので自前で稼げねば、パトロン制度はどうかと疑問に思われよう。比較的余裕のある貴族たちが援助すれば、創作活動に専念しても生活できるのではと。

 地球における中世ヨーロッパの芸術家には多かったと聞く。こちらでも貴族が居るので同様にと思われるかもしれないが、彼らが芸術方面に理解あったとしても、あいにく本腰入れる話にはなりにくいのがこちらの現状だった。

 明確に地球と異なる点として、貴族ら上流階級ほど武威に傾倒していることがあげられる。日本の戦国武将だって武威重視の傍ら芸術を愛でていたのでは? いや、求める武威が違いすぎる。たかが人間同士の争いに求められる武威では、まったく足りていない。

 只人が狼に勝てるか、熊を踏みにじれるか、肉食恐竜を群れごと一蹴できるか。それらに勝てても音速戦闘機を真正面から叩き落とせるか。地球では戦術レベルどころか戦略兵器になりうるような、そんなモノが魔物として襲ってくるのである。いくら鍛錬してもしきれないというもの。

 そして、戦うことは貴族の義務である。力不足で戦えぬ一般人を守るのは貴族なら当然のことだからして、鍛錬以外に余暇を注ぎにくいのもこれまた当然のこと。なすべきことに備えるはずが、芸術にうつつを抜かすのはあり得ないのだった。ましてや娯楽方面など考えられもしない話。

 さほど戦えぬ貴族も中にはいるが、その場合は別途守護手段を用意するので問題にならない。もしもの代価は自分のみならず民の命だからして、怠けようがないではないか。

 とはいえ、楽しくおかしく面白くと、人間である以上笑いは必要とされている。街をあげての推奨はされないものの、潤いとして細々と娯楽作品は作られ続けている。しかし悲しいかな、必要とされるのはある程度でしかないともいう。

 余裕なき一般開拓村貧乏人に対しても――スラムは例外として――一応娯楽は提供されている。村々を回って話を伝える吟遊詩人が、唄にてその役目を果たしてくれていた。

 遠方での出来事や過去の英雄譚などを定期的に唄い上げてくれる彼らの貢献は、娯楽の乏しい開拓村では称賛されるほど。唄だけなら真似るのに特段の道具を必要としないのが実に素晴らしいところ。まさに貧乏人向きの娯楽と言えよう。

 ただ、その内容は一度の訪問で唄いきれる程度の短い物語が主流である。いかんせん魔物絡みで次の機会を互いに確約出来ないため、続き物は評判が芳しくないのだった。

 エピソードが多い英雄教官の物語でも一番人気は天蓋竜との戦いであり、長編物語ではない。そも魔物退治は長くなるような話とならないので、長編を求めるならラブロマンスがいいと思われるのだけれども。

 何故か教官はそちらの噂が皆無なので誰も恋物語を書かないのだった! あぁ……

 閑話休題。その他にも、一般民衆に受けが良いよう英雄と言われるアデプトたちを主役に恋物語を作った場合、その本人から不興を買う恐れが無きにしもあらずなのを忘れてはならない。

 褒め称えるだけならともかく心情を入れるとなれば、本人が良くても周囲がどう取るかは分からない。しかもアデプトは殺されない限り普通は死なないので、死後の創作だなんて誰も望まない話。この世界、求められる英雄話は本人が生きていてこそ!

 そして最後に、国々間での交流が数十年前まであまり活発でなかったことをあげておく。とある出来事が切っ掛けで統一単位がメートル法に決まるまで、各国は全て独自の単位を使用していた。

 生命神様の下、国が異なっても上層部の方々はきちんと交流あったが、単位が違えば下々の物流は滞りがち。転移門があっても使用料を払ってまで他国に行きたいとはなりにくく。交易にあまり関係ない娯楽類はやはり扱いが低くなるのであった。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

「そういえば、ペンは見つけたんだよね?」

「あー、ちょっと違くて。こっちのペンは付けペンが主流だからすぐに好みのが見つかるって思ってたんだけど。結局、ペン先は新規で作ってもらいました! 高かったです」

「色々妥協できないと大変だねぇ。私は結局ガラスペンにしちゃったな。文字だけならこれで十分だし。ちなみにおいくらで?」

「ちょっと言えないくらい。一点ものじゃ意味ないから、予備で同規格のを三桁揃えるのは容易じゃなかったっす」

「ひゃー。消耗品だと、そういやそうなのかも。それにしても一気に買いすぎじゃ」

「百本で十パー引きに負けました。あの工房、なかなか商売上手だったっすよ。雲形定規を頼んだら、T型定規もおまけしてもらったぞい」

「あら、けっこう道具が揃ってそうね。私も覗いてみようかな。あとホワイト系はどう?」

「それもバッチリ。基本は絵画用なので粘度が少し高いけど、薄めて使えばいける感じ。実はペン先、それにも対応してもらったので高くなったんだ」

「それはそれはご愁傷さま。となれば、だいたい道具は揃った感じ?」

「うん。慣れるのに少々時間掛かるだろうけどね。紙もB版とA版両方買えたし、ようやくです。でもトーンが無いので、凝った作画は厳しいかも」

「えっ、スクリーントーンは無いの? って当たり前か。あんな薄くて糊付きな紙は作るの難しそうだものね」

「なんだよねー。それでも、ほとんどの道具は以前のに近いのを揃えられのでヨシです。先人とメートル法に感謝!」

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 先の話どおり、実はこの世界、奇妙にも規格がメートル法で統一されている。なんでも数十年前にようやく統一されたそうだが、その頃はまだ召喚された人間が居なかったはずなのでメートル基準となった理由が分からない。

 迷い人なる偶然の来訪者なら居たらしいものの、現地人に聞いても関係がハッキリせず少々薄気味悪い感じ。

 偶然の一致にしては単語も一緒なので謎は深まるが、翻訳の魔法的都合はあるだろうし、元日本人には馴染み深い単位なこともあるしで、便利に使えるならまぁいいかと二人は気にしないことにしていた。これを嘆いたのは某国人くらいです。

 また漫画に使う道具も、ペン先だけは拘りあるので今回新規注文となったが、インクはそれなりに使えるし、鉛筆や消しゴムも既に再現されていたりする。紙質は若干悪いが現代日本と比べるのはさすがに酷。白度は十分なものの、滑らかさが足りてないのだ。今後機械化が順調に進んでいけば高品質紙も作れるようになっていくことだろう。

 他の筆記用具の開発状況をいうと、万年筆は開発中らしい。カートリッジの制作に手こずっているほか、メンテナンス性がいまいちで市販には至ってないようだ。この世界ではプラスチックを始めとする石油製品が作れないので、代替品をどう作成するかの試行錯誤が続いている。なお開発はかなり急かされており、毎週のように試作品が某所へ運ばれていくと風の噂。付けペンで書類地獄はつらいのです。

 ペンといえば現代では欠かせない筆頭のボールペンも、やはり開発の見通しが立っていない。ペン先に使う微小金属球の量産が今のところどうにもならずで、万年筆より完成は遅れることだろう。

 同じ金属球でも自動車用ベアリングまではどうにかしたものの、精度を求めたうえ更に小さくとなれば製作難航もやむなし。地球でも、国によっては自作困難で輸入に頼ってるところがあるらしいので、さもありなんだった。

 なお地球におけるベアリングのシェアは、なんと日本企業が全体の三割を持っていたりする。だから工業製品をばんばん作れるんですね。モノづくり万歳!

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 かくして作画環境をほぼ整えた二人が向き合うのは、各種資料の収集作業とあいなった。

 イエス本物資料! ノー捏造!

 この世界、偽情報は驚くほど少ない。神様が実際におわす世界なので、他人を騙すなんて行為は重処罰対象なのだ。なるほど現地人なら自重しているだろう。しかし元地球人なら? 元世界では騙す行為が日常化していたことで、こちらに召喚された後もやらかしてしまう人間はかなりいるらしい。

 軽い気持ちで些細な冗談を言ったつもりが思わぬ事態となり処罰された話なんて、当人にしたら困惑な内容だろうと思われるが、それなりの頻度で聞く話だ。きちんと教室で習ったはずなのにと処罰者のほうが納得いかない様子なのもセットでよく見られるのは少々悲しい事態。

 都度処罰され、悪意で嘘をいう転生者は少しずつ減っているものの、新たに召喚された人間がまたやらかすので根絶は難しい。そして、そんな転生者たちが書いた内容に真実でない内容が含まれていないとは、誰も言い切れないのだった。

 地球人召喚が開始されてから既に二十数年。初期の転生者たちは既に全世界へと足を伸ばしており、エッセイや小説、旅行記などはもう書かれていたりする。機会があればイリシア神国にあるイリシア大図書館に赴いてみるといいだろう。数はまだ少ないが、冊子にまとめあげられたそれらを読むことが出来る。

 しかし物語ならともかく、旅行記に嘘があるか?

 手書きのみならず印刷所で製本された冊子も中にはあるため、一見して何の問題もないよう思われるのだが。実はこれらの冊子、残念なことに監修を受けたものはほとんど無いのである。

 不思議に思うことなかれ。この世界、そもそも公的監修機関がどこにも無いのだ! あえて言えば学舎がそれか。世界に十ヶ所ある生命神様の分体居留地、十大国に設立されたアデプトの訓練所及び関係機関が学舎だ。場所によっては異なる名称もあるが、ここ神都は知識を重んじる分体様が降臨なさっているため学舎で相違ない。

 その中には研究チームがおり、しかるべき手続きを経れば内容承認されることが可能であるものの、ぶっちゃけ面倒な手続きを嫌って転生者が申請することはほとんど無かったりする。

 地球と各国との比較を書いた書物は何故か召喚開始前からあり、それを基にした簡単ガイドペーパーの類もいくつかあるので、改めて申請するだけの価値を旅行記に見出してないのかもしれない。

 かくして、好き勝手に書き綴った内容の冊子が出来上がる。内容に嘘があったとて、それを処罰する検閲機関もまた無い。図書館も所蔵するに当たって問題ないかと目を通すのだが、転生者特有の言い回しがあったりすると見逃しは避けられない。

 少し前に神国学舎の図書室で見つかった手記紙片も、そんな微妙な内容の一つらしい。今後の精査が待たれるところである。

 逆に先程の国別比較書は、対応国が少ないものの神国学舎の研究棟で精査されたお墨付きの逸品だそうだ。統一前の度量衡も掲載されているので今となっては若干変更が必要かもしれないが、その他の点は何ら問題ない。

 なおこの書物、著者不明ながら今も話題にのぼるほど有名な書物である。なのに図書館では閲覧申請しても原書どころか写本すら読むことが出来ない妙な代物でもあった。何故と司書に尋ねても、そういうものなのだそうだ。理由は今もって誰にも分からない。

 それはさておき、取材旅行が難しいなら図書館くらいでしか資料は揃わない。

 金銭を用意すれば転移門で街間旅程は組めるものの、その外へも行きたいとなれば戦闘能力を鍛えていない人間には無謀の一言。護衛を雇っても、移動が徒歩頼みなこの世界では、いざという時どうにもならなすぎる。希少な自動車で移動しても魔物は容易に追いついてくるので、人間の基礎能力が足りないとかなり悲惨なことになるだろう。

 それなりに戦える人間であっても、死は常に隣な世界。魔力をろくに練られない人間が他の街のみならず人間の居ない場所をも歩きたいだなんて、正気の沙汰ではない!

 この世界の人間からすれば、ごく当たり前な意見である。それを二人とも理解しているが、インドア派だからと鍛錬をサボってきた結果なので自業自得。折しも元地球人でさえ鍛錬すれば超強いアデプトになれると証明されたばかり。全然鍛えてない軟弱者は頭を疑われるほどとなってしまっていた。

 あまり外へ出ず机仕事をしてたって、腰痛や肩こり腱鞘炎など身体不調は付き物。いくら魔法で簡単に治せるとしても、基礎能力を高めて出来る限り防止しておきたいのは承知しつつ、それでも身体を鍛える話にはなりにくい二人であった。

 そうして、しばらくまったりと座っていた彼女らだが、漫画を描きたいショート女性が考えをまとめるためか質問を述べた。

 

「ねぇ。街の外へ行かなければ、やっぱり図書館で資料は足りるかな?」

「そうじゃない? あのイリシア大図書館の蔵書量は世界一らしいよ。絵画資料ならたくさんあるし、それらしく描くなら大丈夫でしょ。そもそも、あーたの漫画に風景資料はほとんど必要なかったじゃん」

「それを言うなぁ! ちょっと別系統なやつを描ければと思っただけなんだ……やはりゴウからは逃げられないのか」

「逃げるも何も、染み付いて逃れられてないじゃん。あーたと出会った際に何を言ってたか、忘れてないよ」

「ぎゃぁぁ! 忘れてぇ!」

「いーや、思いださせてあげる。着飾った教官の姿を見たあーたは、こう言ったんだよ。『ティーエス教官凌辱本書きてぇ』って。凛々しいからこそ映えるって言ったの、あーたじゃんか! こっちの魔物は凌辱しないから本当かどうか確かめたくて取材したいって発想も、この世界基準なら頭おかしいよね」

「あんたも性転換は即座に同意したでしょ! 同類だよ! 掛け算オフィスラブなら資料足りるって許されざるよ手伝って!」

「同類じゃないですー。純愛こそ至高。古事記にもそうありますんでー」

「ぎ、ギリシャ神話はどっちでもいけるし! なんなら性転換や凌辱の発祥元だし! こっちでも英雄譚なら必須だよね!」

「そうかなー? まぁ、いずれあーたにも分かるでしょ。純愛の良さを」

「純愛って、腐ってる人間に言われたくねぇよ!」

「凌辱こそ世界に反してるでしょ。愛がなければ世界は黄昏れるのよ」

「じゃあ、じゃあ! 愛で凌辱なら……?」

「それだ!」

「じゃねぇよ! 異種や異性じゃないと凌辱は映えないよ!」

 

 この不毛な言い争いは、しばらくのあいだ続く。この世界にも特定性癖が根付くのか、それは誰にも分からないのであった。なむ。




 初手で教官転換ものはマズいですよ……しかし日本人は昔から英雄を(略
 この世界、物語はあると図書館短編で明示されてますが、漫画はまだ無いと考えました。
 現代日本では無茶苦茶流通してるものの、コマ割り形式絵物語はコミック・ストリップにより始まって以後まだ二百年にもなってないので、表現方式としてはかなり新参者なのです。
(鳥獣戯画うんぬんでなく、コマ割り形式としては、です。是々非々は別途談義ください)
 この世界での印刷機作成時期は不明。機械式は最近開発とありましたので、それ以前は印刷コストが高かった可能性もあり、どこまで書物が流通してるのか怪しい感じ。その他、文中に書いた諸事情を加えて考慮すると、娯楽品にはなってなさそうとの判断です。
 なので安価に提供できれば需要が見込めると思うものの、愛がサイツヨな世界ですから。
 提供するなら、最初から愛情込めて性癖全開にしないのは無作法というもの……!
 ほんとでござるか?

 あと読んだ足跡に顔文字『(o´∀`)b』でも何でもカキコくださると嬉しいです!
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