性格の悪さを神様に買われて加護を得ました   作:フーツラ

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第1話 退職

「本件に関しては根岸君に一任しておりましたので……」

 

 課長のその言葉で全身の血が沸き立つのを感じた。無意識に拳を握りしめ、額の血管が脈打つ。

 

 ふざけやがって……。貴様の指示に従って入札額を引き上げたのに、敗退したら俺のせい……。

 口出しだけして責任を取らない、最低の上司じゃないか。

 

 俺の怒りは余所に、部長に対する課長の言い訳は続く。俺の血液はそろそろ蒸発しそうだ。

 

「なんとか別の案件でリカバリーさせますので。大丈夫です。なっ、根岸君?」

 

 グーパンチで返事しようかと思ったが、脳裏にパトカーと警官の姿が浮かぶ。

 なんとか堪え、無言で課長を睨むに留まった。

 

「なんだね! その態度は! 失敗して反省するどころか、逆ギレかね? 全くこれだから若いヤツは……」

 

 もう限界だ。どうなっても知らないからな。

 

「失礼します」

 

 俺は口をパクパクさせる課長を置き去りにし、自分の席に戻った。

 

 そしてあらかじめ用意していた退職届とパパ活に勤しむ課長の姿がプリントされたビラを手にとり、100人ほどいるフロアの端からビラを丁寧に配る。

 

「え、なにこれ、安藤課長?」

「安藤さん、娘さんいたっけ?」

「てか、全部違う女の子じゃない?」

「不倫? パパ活?」

 

 様々な声が社内に広がる。

 

「ちょっと根岸君! 何してるんだね!」

 

 課長が掴みかかってきたので振り解き、退職届を投げつけた。

 

「何してる? それは課長の方じゃありませんか? かわいい奥さんと息子さんがいるにも拘らず、毎週のようにパパ活。それも食事だけなんて可愛いやつじゃないですよね? 例えばこの子、Twittorで顔出ししてるんで、すぐ画像検索で引っかかりましたけど、大人専門って書いてましたよ。大人ってなんですか? 課長? 大人の安藤課長。答えてください」

 

「いや、それは……」

「まだありますよ」

 

 俺は自分の机に戻り、引き出しの中からゴシップ誌を取り出し、付箋をつけたページを開いた。

 

「この記事は出会い系詐欺女について書かれたものです! Aさんが新宿で暗躍する『玉タッチのマリ』という女性に騙された体験について赤裸々に語っています! で、注目してもらいたいのは写真のAさんが持っているビジネスバッグにつけられたキーホルダー。これ、安藤課長のものと同じですよね? もしかして、『玉タッチのマリ』に騙されたAさんって安藤課長のことですか!?」

「……そ、そんなわけ──」

「はーい。この雑誌、まわしてくださーい」

「や、やめろ!」

「ははは。この後課長がどんな風にリカバリーするのか楽しみですよ。では、私は有給をきっちり消化してから退職します。お世話になりました」

 

 はぁ。すっきり。

 

 俺は針の筵に立たされたような表情になっている課長を尻目に、荷物を持って事務所を後にした。

 

 

#

 

 

 俺は安ウィスキーをあおりながら、ぼんやりとテレビを眺めていた。テレビでは美の神に認められた者達だけ集めて結成されたアイドルグループが新曲とやらを披露している。

 

 美の神に認められた。これは比喩ではなく、本当に美の神に認められたのだ。その証拠はある。彼女達の首にある神の刻印を見れば明らかだ。

 

 くだらない。何が神だ。世界が変わって、いや、くっついてから碌なことが起こらない。

 

 グラスにウィスキーを継ぎ足し、チャンネルをニュース番組に合わせる。

 

 ニュース番組では新宿ダンジョンの到達階層が更新されたと大きく報じられていた。

 

 キャスターが世界の主要ダンジョンの到達階層が書かれたフリップを取り出し、早く日本もダンジョンを攻略して異世界との交流を始めなければいけません。と締めた。

 

 

#

 

 

 頭が重い。いや、首の後ろか。とにかく飲み過ぎた。スーツのまま床に寝てしまっていたらしい。今日が仕事なら慌てるところだが、なんせ有休消化中だ。ゲロ吐いても余裕だ。だがしかし、この酒臭い身体をなんとかしないとな。風呂だ風呂。

 

 シャワーを頭からかぶったまま、昨日の出来事を思い出す。

 

 ふふ。あの糞課長、今日も会社行ってるのかな。パパ活課長とか呼ばれてんじゃないか?

 もしかすると「玉タッチ安藤」かもしれない。いい気味だ。

 

 よし。すこし意識がはっきりしてきた。頭を上げて鏡を見る。

 

 うん? 変だ。汚れている。首が黒い。

 

 焦ってボディーソープをつけてこするが、その黒い何かが落ちることはない。冴えてきた頭で昨日のアイドルグループのことを思い出した。

 

「ははは。まさかこれ、神の刻印なのか?」

 

俺は慌てて浴室を飛び出した。

 

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