なんとか和久津に甲冑を着させて現在は第8階層で演技指導中だ。
「和久津、もっと足を引き摺るんだ」
「……パイセン。これに何の意味が」
「落武者になりきるんだ! お前は戦に敗れ、背中に矢の突き刺さった落武者だ! 頼りの刀もない。まさに絶体絶命」
「いや、戦とかいわれても」
「言ってもわからないか。なら、一度自分で見てみろ」
俺はビデオカメラで撮影した動画を和久津に見せる。
「ああ、なんか悲壮感が足りないっすねー」
「そう言うことだ! よし、やれ!」
「……はい」
その後15分程演技指導をして、和久津がなかなかの落武者っぷり発揮し始めた頃だ。
和久津の背後にリザードマンが現れた。まだ、和久津は気付いてない。俺はそっとビデオカメラを構える。
「ちょっとパイセン、何でビデオ回して……」
「ゲコゲコー!」
リザードマンが走り出し和久津に迫る。
「ひゃっ!」
突然発せられたリザードマンの雄叫びと慣れない甲冑に和久津は足を取られて地面に身を投げ出す。
リザードマンは狙いを和久津に定めて飛び掛かろうとする。
今だ!
俺は【土操作】で和久津の手前の地面に深い空洞を作り、地表部分だけ薄く残した。つまり落とし穴だ。
スポッ!
リザードマンの姿があっと言う間に見えなくなった。
「えっ」
「ゲコゲコゲコゲコ!」
唖然とする和久津と穴に落ちたリザードマンの表情をビデオに収める。
「何ですかこれ?パイセン」
和久津の言葉を無視して【土生成】でリザードマンを生き埋めにする。ビデオは回しっぱなしだ。そして3分。南無。
「わっ!リザードマンの結石!めっちゃくちゃレアなやつですよ!」
和久津がドロップしたリザードマンの結石を手に取り、小躍りを始めたところでビデオを止めた。
「取っとけ。今日のギャラだ。なかなかの演技だったぞ」
「いや、演技じゃないんですけど……」
和久津が眉を下げる。しかし、無視だ。
「よし、最初はリザードマンだけ撮るつもりだったが他のモンスターでも撮ろう」
「えっ! まだやるんですか!」
「リザードマンの結石いらないのか?」
「……やります。こうなりゃ自棄っす。是非やらせて下さい!」
「まずはゴブリンからだ。コボルトとオークも撮るぞ」
「了解っす!!」
和久津が諦めたところで、俺達は第1階層へと向かった。和久津が"OCHIMUSHA WAKUTSU"として世界的な人気を博すのはもう少し先の話だ。
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Youtobeに落武者チャンネルを作成し、"モンスター落とし穴チャレンジ"動画を編集・アップしているうちに一週間が経過してしまった。モンスターが穴に落ちる瞬間の表情をスローモーション再生するところが俺のお気に入りだ。
今は五条にリンクを送り、エクスプローラーサークル内で広めて貰っているところだ。中高生にもツテが有ればよかったのだが今はない。黛は年齢不詳で友達も少なそうなので頼れない。一応、リンクは送っておいたが。
「ふぅ」
企画から制作・展開まで一気にやったせいでなかなか疲れが溜まっているようだ。PCデスクに座って飲む缶ビールがやたらと美味く感じる。
後はバズれば言うことなしだが、こればっかりは読めない。もし落武者チャンネルが軌道に乗って収益化出来た場合、利益は俺と和久津で7対3ということになっている。もちろん俺が7だ。和久津には出演料としてモンスターのレアドロップを渡しているのでこれでも多いぐらいだ。
「うん?」
スマホが震えた。見ると「冒険しよう!」の通知。黛からだ。
"落武者みた"
"どうだった?"
"面白かった。リザードマンのが1番いい"
"1番最初に撮ったやつだな"
"和久津が迫真だった"
"だろう。あいつはいい役者になる"
"あと、コボルトの集団をトレインするやつ"
"ああ、穴に落ち切らずに和久津が殴られるやつな"
"なかなか落とし穴が来ないからどんどんコボルトが増えて楽しい"
"その辺は全部俺の匙加減次第だからな。いくらでも調整できる"
"私もやりたい"
"お前だと囮にならないだろ。モンスターに追われても悲壮感がないから駄目だ"
"違う。モンスター役。私が和久津を追いかける"
"それはアリだな。和久津にドッキリを仕掛けよう"
"楽しみ"
"まあ、もうちょっと先だな。今の投稿が一通りバズってからだ"
"わかった。拡散しておく"
"ツテがあるのか?"
"Twittorで呟く。フォロワー50万"
こいつ、そんな人気だったのか。少々侮っていたかもしれない。
"なるほど。頼む"
"頼まれた。あ、そういえば"
"なんだ?"
"魔剣、ゲットした?"
完全に忘れていた。