性格の悪さを神様に買われて加護を得ました   作:フーツラ

2 / 44
第2話 和久津という男

「根岸パイセン、お久しぶりす!」

 

 ファミレスの向かいの席に座るなり、明るい声を上げたのは大学の後輩、顔はイケメンなのに若ハゲの和久津だ。本日は強風なのでいつも以上にハゲ散らかしている。対面に座っているだけで、ひどく残念な気分になった。

 

「それでパイセン、相談ってなんですか?まさかパイセンも」

 

 和久津は俺の頭をチラッと見る。

 

「いや、髪の相談じゃない。見た通りフッサフサだ」

「ぐはっ! あっ、血が。豊かな髪に反応して発作が!」

 

 和久津がわざとらしく腕で口元を拭った。自虐もここまでくればあっぱれである。

 

「和久津、あっちの世界のこと詳しかったよな?」

「ああ、そっちのことですか。まぁ、一応、僕もエクスプローラーですからね。それなりに、それなりだと思いますよ」

「なら、刻印も詳しいよな?ちょっとこれを見てくれないか?」

 

 俺はマフラーをほどいて首に現れた凶々しい刻印? を和久津に見せる。

 

「パイセン! トライバルを、入れた、わけではないんですよね?」

「自分でタトゥー入れておいて、相談するやつがいるか? 俺は何だ? 承認欲求の塊か?」

「すません! つまり、あっちの神様に加護をもらったってことですね?」

「だと思われ」

「しかし、全然見たことないやつですよ! その刻印! めっちゃレアだと思われ!」

 

和久津は興奮した様子でスマホを弄りだす。

 

「今エクスプローラー専用の情報交換サイト見てるんですけど、なかなかパイセンの刻印の情報ないっすねー。ちょっと掲示板に投稿するんで写真撮ってよいですか?」

 

 和久津は了解を待たずにスマホからシャッター音を響かせた。情報収集の為だ。仕方ない。

 

「で、どーいう刻印がメジャーなんだ?」

「例えば美の神の刻印なんかはメジャーですよね? アイドルグループもあるぐらいなんで」

「ああ、あれだな。テレビ出てるやつ。あの刻印、なんか意味あるのか?」

「パイセン、なんも知らないすねー。加護の効果はもはや常識になりつつあるんですよ!?」

「知らん。勿体ぶらずに話せ」

「くっ、相変わらず容赦なし。分かりましたよ! まず、どの刻印にも共通した効果の一つが身体能力の底上げです!」

「ほう」

「どんな神様に加護をもらったとしても、身体能力は1.5倍以上にはなるんじゃないですかね」

「和久津くん、握手をしようか?」

 

 右手を差し出すと、和久津も同じようにする。

 

「パイセン! 僕はこー見えてもエクスプローラー歴5年ですよ! 無印とはいえ、一般人とは比較にならないすからね! いざ、尋常に!」

 

 和久津の手を握り、ぎゅっと力を込める。

 

「あちょあわわわ……! 痛い! 痛いっす!」

 

 和久津が面白い声を出した。

 

「がぎょごごご! 痛い! 痛いって言ってるのに!」

 

 更に力を込める。

 

「いひゃいひょひいいい!」

 

 フッと力を抜いて和久津の手を解放する。

 

「ちょっとパイセン! 酷いじゃないですか!」

「ははは。すまんな。つい、楽しくて」

「ドS!」

「よく言われる」

 

 和久津は左手で右手を労わるように揉みながら、続ける。

 

「ちょっと真面目な話をしますけど、いいですか? パイセンには分からないと思いますけど、僕のダンジョン最到達階層は6階層なんです。これは初心者から中堅に差し掛かっているエクスプローラーってことなんです」

 

「続けて」

「無印、僕みたいに異界の神様の加護がない人間でもダンジョンに入ってモンスターを倒していたら身体能力は底上げされるんです。中堅エクスプローラーはダンジョンに入らない一般人に比べて身体能力が1.5倍程度だと言われています」

「んで?」

「パイセンはダンジョン入ったことありますか?」

「ない」

「にも拘らず、パイセンは中堅エクスプローラーの僕を遥かに超える握力をしていたんですよ! 分かります! これ! これが加護の力なんですよ!」

 

 だんだん熱くなってきた和久津がウザイ。

 

「そして加護による身体能力の向上とダンジョンでモンスターを倒したことによる身体能力の向上は別枠なんです! 例えば、加護の力で身体能力が1.5倍の人間がダンジョンに5年も潜って入れば更に身体能力は1.5倍になるんです!」

「お、おう」

「もはやチート! ずるい! せこい!」

「お、おう。なんだかすまん」

「それが、パイセン達のような刻印持ち、加護持ちなんですよ!」

 

 和久津がどこからかハンカチを取り出して、歯で引っ張っている。

 

「まぁ、貰ったもんは仕方ないよな」

「その余裕! が! 憎い! 憎い!」

「まぁ、落ち着けよ。さっきから取り乱してハゲてるぞ」

 

 和久津は薄くなった髪をバッとかき上げた。

 

「元からハゲてるんです! 元ハゲ!」

「元カレみたいになってるぞ」

「童貞なんですけど……」

「すまなかった」

 

 ヒートアップした和久津を落ち着かせ、話をまとめる。つまり、こういうことらしい。

 

 1.俺は異世界の神様の加護を得たらしい

 2.俺に加護を与えた神様はレアらしい

 3.加護により俺の身体能力は1.5倍以上になっている

 4.和久津は童貞

 

「パイセン!4つ目は余計です!」

「事実だから」

「悲しい事実なんで! 無視して下さい!」

「童貞は加護もらえないの?」

「そんなことはない!」

「まぁ、いい。それで、俺の刻印についてなにか書き込まれているのか?」

「いやー、そんなすぐに……」

「なにもなし?」

 

 しばらくスマホを睨んだあと、和久津は声を上げた。

 

「いえ……。ありますね。書き込み」

「なんだ?」

「これはアメリカのエクスプローラーからの書き込みですね。うーん、なんて読むんだろ? イル? ナチュード?」

「なんだそれ? 翻訳出来ないのか?」

「ちょっと待ってくださいねー、あーはい、出ました」

 

 自然と身を乗り出す。

 

「で、俺の神様どんなやつだ?」

「あの、英訳をそのまま読むだけですからね? 僕がパイセンのことをどうこう言っている訳ではないので!」

「なんだよ。まどろっこしい。分かったから早く言え」

「あ、はい。では。言います。性格の悪い、ひねくれた、気難しい、意地の悪い」

「えっ」

 

 どういうことだ?

 

「だから、性格の悪い、ひねくれた、気難しい、意地の悪い」

「誰が?」

「根岸パイセン、及び、加護をくれた神様」

「つまり俺は性悪の神様の加護を得たと?」

「ウイ」

 

 それはおかしいだろ。

 

「俺、拾った子犬の里親とか探したことあるんだけど」

「あー、それ聞いたことあります。迷子になってた子犬の画像をジモテ○ーに載せて、何故か里親からお金巻き上げた件ですよね?」

「あれは! 謝礼!」

「いやいや、現代の錬金術! とか言ってたじゃないですか!」

「少し黙ろうか。和久津君。命惜しくない?」

「恫喝!」

「まぁ、いいけど。ちなみに俺と同じ加護を持った人はいるの?」

 

 また和久津はスマホを弄り始める。

 

「あー、少なくとも日本エクスプローラー協会の会員にはいないですね。協会のサイトには日本のエクスプローラーが授かった加護の一覧があるんですけど、性悪の加護は載ってないです」

「アメリカにはいるのか?」

「どーでしょう。アメリカってネバダダンジョンが攻略されて既に異世界との交流が始まってますからね。もしかしたらあっちの情報かもしれないですよ」

「あっちって、異世界の?」

「ウイ」

「さっきからちょくちょくフランス語になるよな? ハゲの副反応か、それ?」

「そーいうとこですよ! 性格の悪さ! だから性悪の神様の刻印が首に刻まれたんですよ! 納得!」

 

 納得かあ。

 

 その後、和久津にダンジョンアタックへの同行をお願いし、解散という流れとなった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。