モンスターハウスに入ると背後の壁がズズズと動いて入り口が閉じられた。これでモンスターがいなくなるか俺が死ぬまで入り口が開くことはない。
前面の壁には一つ、亀裂が入り脈動を始めた。もうすぐリザードマンが壁から出て来る筈だ。
俺はリュックの中から今回の作戦の要を取り出し、左腕で抱えて胸の前で抱いた。ショートソードだと取り回しが悪いので右手にはナイフだ。
そしていよいよ、壁から一体目のリザードマンが出てくる。
「ゲコゲコゲ!」
卑怯者! 俺にはそう聞こえた。人間を見たら襲い掛かってくる筈のリザードマンが動けないでいる。
次から次へと壁の中からリザードマンが出てくるが、どいつもこいつも怒りに満ちた表情を浮かべるだけで襲ってこない。
「ほら、どうした! かかってこい!」
「ゲコゲコゲーコ!」
その子を離せ! 俺にはそう聞こえた。その子とは俺の左腕に抱かれるグリーンイグアナだ。
一体のリザードマンが俺に飛びかかって来そうになるが、グリーンイグアナにナイフを当てるピタリと動きを止めた。
「ハハハハ! 貴様ら、このトカゲの命が惜しいのか?」
「ゲコゲコゲゲゲコッゲ!」
その子が何をしたんだ! 俺にはそう聞こえた。別にこのグリーンイグアナが何か俺にしたわけではない。俺に買われただけだ。
「このトカゲの命を助けたかったら、お前ら全員、壁の中へ戻れ!」
「……」
リザードマン達が顔を見合わせている。怒りの表情が困惑に変わったのが分かる。
「早くしろ!!」
俺は壁の亀裂をナイフで差しながら怒鳴った。リザードマン達が話し合いをしている。例えばここで俺がリザードマン達に向かって自害しろ! と言った場合には奴等はヤケクソになって襲い掛かってきたかもしれない。
しかし、俺が求めたのは壁に戻れ! だ。これはリザードマン達にとってハードルの低い要求の筈だ。亀裂の向こう側に上司がいたとしても、なんかヤベー奴がいて仕方なかったんすよーみたいな説明でなんとかなる筈だ。
「お前達、俺のことをナメてるだろ」
ナイフの先をグリーンイグアナの首へ付ける。
「ゲコッゲ!」
分かった! 俺にはそう聞こえた。そして一体ずつ壁の中へと戻っていく。
最後の一体がチラッとグリーンイグアナに視線を送った。
「ゲコココゲ」
元気でな。俺にはそう聞こえた。そして壁の中に戻り、亀裂は綺麗に塞がった。後は宝箱が出るのを待つばかりだ。
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どれぐらい待っただろうか。3分。いや、実は30分経っていたかも知れない。
全く音のしない空間の中でただ宝箱の出現を待つ。たまにグリーンイグアナの体をなでる。ひんやりとして気持ち良い。
今回の作戦"はちゅうるいのともだちもわるくない"では2つの検証を行った。
一つは俺の加護がモンスターのドロップだけでなく、宝箱にも効果があるのか。もう一つはモンスターハウスのクリア条件がモンスターを全滅させることではなくモンスターが部屋からいなくなることなのではないか? ということだ。
実は二つ目の検証については過去に実例があったので多分大丈夫だとは思っていた。モンスターハウスについて調べていた時、モンスターハウスの全てのモンスターを【転移】させてもモンスターハウスから出られたという事例があったからだ。
しかし……宝箱が現れない。何も出現しない場合はすぐに入り口が開く筈なので、今は宝箱待ちの筈だ。
もしかしてこのままモンスターハウスから出られないのでは? そんな考えが頭に浮かぶ。仕様の隙を突いたことで嵌ってしまった場合、俺が死ぬしかモンスターハウスが開かない可能性もゼロではない。まぁ、そうなったら【土操作】で悪あがきをするが。
そんなことを考えている時だった。部屋の中心に魔法陣のようなものが浮かんだ。そして消えると同時に宝箱が。色は金。
金箱だ!
思わず拳を握った。宝箱は現在確認されている限りでいうと木箱→銅箱→銀箱→金箱の順に中身のレア度が上がるらしい。更に上の宝箱もあるかも知れないが、今のところ金箱が最上位だ。
「よし! 開けるぞ」
俺はグリーンイグアナに声をかけ、宝箱を開ける。中には真っ黒な短剣が入っていた。柄も剣身も光を吸い込むような黒だ。短剣を金箱から取り出すと宝箱はスッと消えた。
そして背後の壁がズズズと開いてモンスターハウスから解放された。
「誰かいないかー! 助けてくれー!」
何か声が聞こえるが無視する。
「落とし穴に落ちてしまったんだー! 助けてくれー!」
ダンジョンには自己修復作用があるのでそのうち落とし穴は塞がる。別に俺が助けてやる必要はない。
「誰かー! おーいー!」
早く魔剣を鑑定して貰わなければ。俺は転移石へと急いだ。