「さて、本日の議題は"闇クラン・カオスサーガをいかにして潰すか"だ」
ここは最近、落武者チャンネルの編集用に借りた新宿の事務所だ。新宿ダンジョンから近いので撮影も楽だし、今日みたいにエクスプローラー達を集めるのにも便利だ。
「あの、パイセン? 闇クランってあの闇クランですか?」
「和久津の言う闇クランが何かは知らないが、俺は協会未承認でほぼ犯罪組織とイコールの闇クランのことを言っている」
「すいません。帰っていいですか?いえ、帰ります。帰してください。帰るしかないんです」
五条が慌てて腰を浮かせる。
「五条。お前は直ぐに帰りたがるが、想像力が足りないぞ。五条が今このタイミングで帰ったとしよう。そして数ヶ月後、和久津の変死体が発見されたらどう思う? あの時、私が何か違う行動をしていれば和久津は死ななかったのではないか? そう思いながら残りの人生を過ごしたいのか?」
「……」
「いや! 殺さないで下さいよ! どんだけ危険なことをさせるつもりですか!?」
「大丈夫。死ぬのは一瞬」
黛がぼそりと言った。
「死神ちゃんさんが言うと笑えないっす!」
今回の作戦会議の参加者は黛、和久津、五条だ。この三人には本番でも動いてもらう想定だ。
「よし。二人の参加が決まったところで先ずはカオスサーガについてだ」
「ちょっ! パイセン! まだ参加するともなんとも……」
黛がすっと和久津の首筋に大鎌を当てる。
「和久津。黙って。そんなに死に急ぐことはない」
「……」
「よし。二人の参加が決まったところで先ずはカオスサーガについてだ。カオスサーガってのはカオス系の加護持ちを集めている闇クランだ。俺も黛も過去に勧誘を受けている。俺に関してはもはや拉致されかけた」
「えー!! 完全に犯罪組織の発想じゃないですか! 警察案件っしょ?」
和久津が騒ぎ出す。
「流石に奴等もそこまで馬鹿じゃない。狙われたのはダンジョンの中、つまり日本政府の管理外でだ。メンバー3人に襲われたがもちろん返り討ちにした。現在は3人ともスパイとしてカオスサーガの拠点に潜入させている」
「スパイってどうやって裏切らせたんですか?」
五条が不思議そうにしている。思ったより五条は乗り気のようだな。
「3人の内2人に関しては記憶を抜いて弱みを握った。もう1人は単純に今より好条件を提示しただけだ」
「好条件? すか?」
「ああ。カオスサーガの次の組織での高待遇を約束した」
「あの、すみません。次の組織ってなんですか?」
「五条。お前わかっていて聞いているだろ? カオスサーガを潰して拠点を奪い取る。それを新しい組織で運営するんだよ」
「ちょっとパイセン! それだと僕達が犯罪者みたいじゃないですか!」
「和久津。言葉には気をつけろ。奴等、カオスサーガの拠点はダンジョンの中にあるんだ。つまり、法律の範囲外。俺達が何をしたっていい。全く問題がないんだ! 完全に合法だ!!」
黛が頷いている。こいつはちゃんと分かっているので安心だ。
「そう迷いなく言い切るパイセンが怖いっす」
「二人とも分かってもらえたようだな。では、具体的な作戦について議論を進めよう。先ず……」
その日の会議は日付が変わる頃になってやっと終わりが見えるのだった。
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カオスサーガの拠点は山梨県の山中にあった。新宿から車で1時間半といったところだ。都内からこんなにも近いのに発見されていないのは意外だが、それはダンジョンの入り口が出来た位置に関係している。
カオスサーガが拠点としているダンジョンは産廃業者の敷地の中にあるのだ。その産廃業者の名前は権田商会。カオスサーガの表の顔だ。そして権田商会の社長、権田実(52)がカオスサーガのクランオーナーでもある。
権田商会/カオスサーガのメンバーは約100人。末端の出入りが激しいので数は流動的だ。そのメンバーのほとんどはカオス系の加護持ち。しかも若い。10代も多数在籍している。そしてそれには理由がある。権田商会が不良少年少女の受け皿となっているのだ。
カオス系の加護持ちは一般社会では敬遠される。例えば窃盗の神様の加護持ち。こんな加護持ちをわざわざ雇う会社は少ない。行き場を失うカオス系の加護持ち。そこに権田商会は手を差し伸べる。最初は権田商会の社員として。そして徐々に闇クランのメンバーとして。
カオスサーガでの仕事はメンバーの加護によって異なる。単純に自分達のダンジョンで魔石やドロップアイテムを集めるメンバーもいるし、自分の加護を生かして別の仕事をするメンバーもいる。例えば窃盗の加護持ちはその特殊能力"盗みを働いている時は存在感が薄くなる"を生かしてダンジョン内外で盗みを働く。大企業からの産業スパイの依頼もあるというから驚きだ。
若いメンバーの多いカオスサーガだが、中には幹部と呼ばれる存在が3人いる。一人は三毛猫社に現れた富沢(45)。奴はカオスサーガの古参で暴食の神様の加護持ちだ。奴が加護を意識しながら何かを食べると周囲は吐き気を催し、最終的に気を失ってしまう。自分の周りでは自分以外が食事をすることを許さないという非常に迷惑な加護だ。
もう1人は目々野(24)。怠惰の神様の加護持ち。何もしたくない気持ちが高まると言霊が生まれ、本人に代わって厄介事を片付けてくれる。目々野はもうこちらに転んでいるので問題ない。
不確定要素はもう1人の幹部と権田だ。もう1人の幹部は最近入ったばかりらしく、目々野にも他の二人の記憶にも殆ど情報がなかった。
で、問題は権田だ。権田は強欲の神様の加護を持つ。強欲の加護は最強最悪の加護の一つに数えられている。強欲の加護で知られている能力は一つ。敵対する相手の使ったスキルを一つだけ奪うことができるのだ。
権田が今までどれほどのスキルを奪ってきたのかは分からない。だが、目々野の記憶を見る限りカオスサーガは幾つもの闇クランと敵対関係にあり、中には抗争の末に潰したクランもあるのだ。かなりのスキルを保有していると思った方がいい。
「ん、来たか」
和久津と五条それぞれから準備完了の連絡が入った。
「準備はいいか?」
「うん」
黛はいつも通りに平坦だ。
「危なくなったら一人で逃げろよ」
「危なくなったら全員ナイナイするから大丈夫」
「そうか。任せる」
「任せて」
さて、作戦開始だ。