性格の悪さを神様に買われて加護を得ました   作:フーツラ

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第33話 その先

 オフィスフロアの先は食堂、居住区、倉庫。そこを全速力で走り過ぎると、奥に幹部と一部の係の者だけが入ることのできる区画がある。厳重なセキュリティの掛かったその区画は指紋認証でしか入れない。

 

 目々野の右手人差し指をセンサーにかざすと分厚い扉の向こうでカチリとロックの外れる音がした。よし。【変身】では指紋までちゃんと目々野のものになっているらしい。背後に嫌な熱気を感じ、慌てて中に入って扉を閉めた。

 

「ふぅ」

 

 まるで自分がホラー映画の登場人物になった気分だ。恨めしい声を上げながら追ってくる怪物、播戸。いよいよ追い詰められた。映画なら俺みたいなキャラは真っ先にやられるだろう。

 

 この高セキュリティ区画の中には権田が強欲の限りを尽くして集めた宝物庫がある。もちろんそこは権田しか開けることができない。宝物ならマジックポーチにでもいれておけばいいと思うのだが、コレクターってのは違うらしい。ちゃんと飾らないと気が済まない。目々野の記憶によれば権田は一日一回は必ず宝物庫に籠るようだ。まあ、宝物庫を開けるのは全てが終わった後だ。今、俺が目指すのはその先。

 

 懲罰房。

 

 目々野を除くカオスサーガ全てのメンバーが恐怖する存在。小さなのぞき窓と空気穴しかない金属製の牢屋だ。任務に失敗したメンバーなどが懲罰としてここに入れられる。音もなく僅かな光が差し込むだけの空間ってのはまっとうな人間には随分ときついものらしい。勿論、目々野にはなんの効果もない。

 

 懲罰房の扉のセンサーに目々野の指をかざす。

 

 カチリ。

 

 金属音が響いた。中はひんやりとした空気とトイレ用の壺があるだけだ。一度入ってしまえばそう簡単には中からは開けることはできない。

 

「黛。後は頼んだぞ」

 

 俺は懲罰房の扉を閉めた。沈黙が広がった。

 

 

#

 

 

 シンとした空気に突然、纏わりつくような熱気が混じった。その熱気は徐々に勢力を強め、懲罰房の中が蒸し風呂のようになる。

 

 来た。

 

 足音が近づいてくる度に中の温度が上がっていく。

 

 さあ来い播戸。

 

 中を覗け。

 

 さあ。

 

 さあ。

 

 さあ。

 

「黛さん!」

 

 播戸の声が懲罰房の中まで響いた。

 

「えっ、その声は播戸?」

「黛さん! なんでこんなところにいるんだ!」

「カオスサーガに誘われて、断ったら拉致された。もう何日もここに閉じ込められてる」

「ボスはそんなこと一言も言ってなかったぞ!」

「しらない。そもそも、播戸は何故ここにいる?」

 

 少し間があって、播戸は躊躇うように話を続けた。

 

「レアなカオス系の加護持ちはここなら幹部になれるんだ。だから……」

「私もカオス系の加護持ち。飛び切りレアな。だから誘われた」

「でもなんで断ったの? 黛さんなら幹部になれるのに」

「権田の女になれって言われた。だから断った」

 

 播戸の雰囲気が変わる

 

「なんだってー!! そんな!いや、しかし……」

「ここから出して」

「ねえ? 本当に黛さんなの?」

「播戸の小学生の頃のあだ名は縄文土器」

「やめてくれよ! 黛さん! 小学生の頃の話は」

「信じた?」

「ああ。間違いなく黛さんだ」

 

 懲罰房の中の温度が急に下がった。

 

「出してあげるからちょっとだけ待ってて。黛さん」

 

 カチリ。第一段階完了。開け放たれた扉からの光が眩しい。播戸がきざったらしく手を差し出した。

 

「ありがとう」

 

 播戸の手を取って懲罰房から出る。娑婆の空気はうまい。

 

「当然のことをしたまでだよ。さあ、さっさとここを脱出しよう」

 

 播戸が黛の華奢な手を引いて歩き出した。

 

「カオスサーガを裏切るの?」

「ああ。本当に大事なものを手に入れたから、もうカオスサーガに用はない」

「嬉しい」

「さあ、急ごう!」

「うん」

 

 我慢の時間は続く。

 

 

#

 

 

「播戸! その女はなんだ!」

 

 高セキュリティー区画を抜けて食堂に差し掛かったころ、怒気を含んだ声が播戸の足を止めた。

 

「ボス。いや、権田。俺はカオスサーガを抜ける。死にたくなければそこをどけ」

 

 その言葉を聞いてみるみる権田の顔が赤く茹で上がっていく。クソ。もう回復しやがったのか権田のやろう。

 

「今ならまだ許してやる! その女はなんだ? そいつは根岸じゃないのか?」

「しらばっくれるな権田! お前、奈々に手を出そうとしたそうだな!」

 

 熱い! 急に播戸の身体が薄く炎に覆われた。そして、突然の名前呼び。こいつはヤバい奴。あっけに取られて権田が黙り込む。

 

「そもそも根岸がここに忍び込んだのも奈々を奪う為だと考えれば納得できる!」

「播戸! お前は何を言ってるんだ? 正気か?」

「播戸、あいつ私のお尻触った」

 

 播戸の纏う炎が一気に膨れ上がった。

 

「権田。お前の命は今日までだ」

 

 権田の顔が完全に赤く染まった。【金剛】完了。そっと播戸から距離をとる。巻き添えはご免だ。

 

「何を言っても無駄なようだな。先にお前から殺してやる!」

 

 ドンッ!

 

 踏み込みの音だけが残り、次の瞬間には播戸の身体がくの字に折れ曲がった。やはり権田は移動系のスキルを持っている。

 

「ぐはぁ」

「くっ」

 

 播戸が蹲ると同時に権田も腕を抑えながら飛び退いた。さっきまで赤かった拳が黒く焼け焦げている。【金剛】でも防げない炎。やはり播戸の加護は厄介だ。だが、権田を倒すにはまだ足りない。

 

「播戸、あいつ私の胸を触った」

 

 播戸の身体から炎が消えた。

 

「2回触った」

 

 播戸の纏う空気が変わった。

 

「正確に言うと、揉まれた」

 

 ボンッ!

 

 播戸を青い炎が包み込んだ。今までとは熱量の桁が違う。まさに覚醒。浅ましい心をもちながら激しい嫉妬によって目覚めた伝説の戦士。

 

「権田。お前は触れてはならないものに触れてしまった。死すら生ぬるい!」

 

 ドンッ!

 

 速い! 先程と同じシーンが演者を入れ替えて再現される。これが覚醒した播戸の力なのか。

 

「ゲハッ」

 

 青白い炎を纏った拳が【金剛】を突き破る。

 

「グフッ」

 

 播戸に殴られる度に権田の身体が黒く炭化していく。

 

「ウゲァ」

 

 不味い。このままでは権田が持たない。

 

「もうやめて!」

 

 精一杯の声を張り上げると、播戸の動きが止まった。

 

「これ以上やると、播戸が人殺しになっちゃう」

 

 播戸の纏う炎が消え、権田が崩れ落ちた。まだ辛うじて生きているようだ。

 

「私は大丈夫だから」

「奈々!」

 

 播戸が駆け寄り、黛の身体を抱きしめた。

 

「すまなかった! 俺がずっとそばにいればこんなことにはならなかったのに」

 

 こいつ、軽く尻を触ってやがる。幸せの絶頂か。セリフと行動のアンマッチが酷い。こんな奴に付き纏われて黛も災難だったな。速やかに退場を願おう。

 

「奈々、もういいぞ」

「遅い。20回ぐらい殺しそうになった」

 

 播戸が黛の身体を離した。そしてゆっくり振り返ろうと。

 

「なーいない」

 

 大鎌に刈られた播戸の首はゆっくりゆっくり回転しながら地面に落ちた。最後に播戸が目にしたのはどちらの黛の姿だったのか俺は知らない。

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