「グギャー」
第二階層へ降りてしばらくすると、剣を構えたゴブリンが現れて俺たちを威嚇した。この階層のゴブリンは慎重なようで、一直線にこちらに駆けてくるようなことはなく、じりじりと距離を詰めてくる。
よく観察すると、かすかにゴブリンの瞳に知性を感じる。武器を扱えるってことは、知性があるということなんだろ。これならいけるかも知れない。
俺はゴブリンに向かって声を掛けた。
「ゴブリンてのは随分と醜い生き物なんだな! 神様も冗談が過ぎるな」
「ギギギ!」
雰囲気から馬鹿にされているのに気付いたのだろう。ゴブリンは眉間に皺を寄せる。
「はははは! 怒ってるのか? 生意気なやつだ!」
「ギィィィィ!!!」
「ちょっと! パイセン! なんで無駄に煽ってるんですか?」
和久津が後ろから疑問の声を上げる。
「いーから見てろ。オラ! 来いよ!」
「ギァァァァア!」
ゴブリンは怒りに任せて剣を振り回してくる。
「なんて単純なやつ」
ゴブリンの剣をするりと躱し、即座に反転してバットを振るう。バットは頭の芯を捉え、パンッ! と吹き飛んだ。崩れた体は地面で煙となり、小さな魔石と一緒に小瓶が残った。
「おおお! 初級ポーション! 運がいいですねーパイセン」
赤い液体の入った小瓶を拾い上げ、ポケットに押し込む。大分いっぱいになってきた。
「ゴブリンからポーションが落ちるのは珍しいのか?」
「珍しいですねー! ドロップ率1パーセントもないんじゃないですかねー」
「なるほど。もうちょっと試してみるか」
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「ポーションのドロップ率は50%ってところか」
俺はポケットの小瓶を和久津に渡しながら言った。
「異常っすね。これがパイセンが授かった特殊能力ですか」
「まだまだ検証が必要だけどな」
俺達、いや、俺はずっと第二階層でゴブリンを狩っていた。
しかし、ただ狩っていたのでない。ゴブリンを倒す前にさんざん罵倒して煽ってから倒していた。性悪の神様が喜ぶようなムーブをしたってことだ。
するとどうだ。通常は1%もないポーションのドロップ率が50%に迫っている。単純にドロップ率だけがアップしているのか、それとも俺の運が上がっているのか。その辺の検証は難しくて行えてないが、非常に有効な特殊能力であることは間違いない。
「しかし、ずっと性悪ムーブは辛いものがあるな」
「いや、全然辛そうに見えなかったですけど!むしろ嬉々としてやっていた!」
「シンガイダナ」
「棒読み!」
和久津のツッコミがダンジョンに響き渡る。
「和久津、初級ポーションっていくらぐらいで売れるんだ?」
「協会認定ショップでの買取なら一本1万5千円ぐらいですね。店頭に並ぶと4万円ぐらいしますけど、買取価格はそんなもんです。個人売買なら3万前後だと思いますけど、ツテがないと無理っす」
「和久津、一本2万8千円でどうだ?」
「いきなり商談! しかも微妙に安くて断り難い値段設定!」
「和久津が自分で使ってもよし。エクスプローラー仲間に売ってもよし。誰も損しない。パーフェクトな提案だ」
既に初級ポーションは10本ある。さあ、和久津、買え。
「パイセン! 悪い顔になってますよ! 口角が歪に上がってます!」
「どうするんだ?」
「わかりましたよ! 買いますよ!」
「気持ちのよい取り引きだったな。さぁ、今日はもう帰ろう」
「ううう。了解です」
ダンジョン初日で28万の稼ぎか。エクスプローラーは悪くない。いや、最高じゃないか。天職を見つけたかもしれない。
俺は足取り軽く、新宿ダンジョンを後にした。
#
初めてのダンジョンから無事に帰還し、酒を飲みながら現状を整理する。
名前:根岸三郎
性別:男
年齢:29
装備:ユニ〇ロのスーツ
:金属バット
:革靴
加護:性悪の神様
→身体能力アップ1.5倍以上※たぶん2倍ぐらい
→性悪ムーブでモンスター討伐時のドロップ率アップ?運がアップ?
ダンジョン:新宿ダンジョン第二階層
スキル:なし
うーん。
現状をしたためた紙を見ながら唸る。改善点は明確だな。先ずは装備だ。やはりスーツ姿に金属バットはマズイ。不良リーマンだ。明日エクスプローラー向けのショップに行こう。
加護についてはとりあえず不満はない。ドロップ率が爆上がりなので普通のエクスプローラーより効率良く稼げる筈だ。
しかし、いつも和久津に売りつける訳には行かないのでエクスプローラーの交友関係を広げる必要がある。なるべく協会認定ショップには売りたくない。エクスプローラーが集まる飲み屋でも開拓しよう。
さて、一番の課題はスキルかもしれない。こっちの世界とあっちの世界がくっ付いた影響は大きく3つ。ダンジョン、神様、スキルだ。現状、俺はもちろんスキルを持っていない。スキルの取得方法は2つ。生まれ付き持っているか、スキルオーブを使うかだ。
あっちの世界とくっ付いてから生まれた子供には稀にスキルを持っているやつがいるらしい。稀といっても5パーセントぐらいいるらしいので今の子供は油断ならない。もうアラサーの俺がスキルを得るにはスキルオーブを使うしかない。
が、しかしだ。スキルオーブの値段を調べるとクラクラする。最も安いものでも1000万円からだ。スマホを弄りながら協会のサイトでスキルオーブの価格表を見るとこんな感じだ。
強打:1000万
刺突:1000万
斬鉄:1000万
必中:1000万
毒無効:1000万
魅了無効:1000万
暗闇無効:1000万
恐怖無効:1000万
水生成:1000万
火生成:1000万
土生成:1000万
風生成:1000万
etc...
一般的に1000万のは低級スキルと呼ばれるらしいが、それでもあるとないのでは雲泥の差。スキルを持っていないエクスプローラーは初心者扱いされるとか。
どこのダンジョンでも第六階層に達したエクスプローラーは中堅とか中級と呼ばれる。その理由は第五階層にある。ダンジョンは第五階層ごとにフロアボスがいて、それを倒さないと下には降りられないらしい。
さて、それとスキルに何が関係あるのか? 大いにある。フロアボスはスキルオーブを落とす可能性があるらしいのだ。
そして! これが重要なのだが、生まれて初めてフロアボスを倒すと必ずスキルオーブがドロップするらしいのだ!
だから大抵の中堅エクスプローラーはスキルを持っている。和久津だって刺突のスキル持ちだ。
加護とはまた別の異世界要素、スキル。これを手に入れる為に俺はフロアボスを倒さなければならない。
俺は性悪ムーブでフロアボスと討伐する計画を練りながら、遅くまで酒を飲むのだった。