「はぁはぁはぁ」
俺は第2階層を走っていた。後ろからゴブリンが3体、追って来ている。
「はぁはぁはぁ」
もうこれ以上道はない。行き止まりだ。
俺は壁を背にしてゴブリン達と対峙する。先頭のゴブリンがゆっくりと錆びた剣を構えた。俺の手にショートソードはない。
「ゴゲゲゲゲ!」
追い詰められた俺を見て、笑っているのだろう。こいつらモンスターは嗜虐的だ。俺をいたぶるのが楽しみなのだ。
「ゴギャー!」
先頭のゴブリンが剣を振り上げた。そろそろだな。
「ゴブ、ゴビ、やれ!」
「「ギギギ!」」
後ろのゴブリン2体が先頭のゴブリンの脚を切りつけた。両脚の腱を切られたゴブリンはそのまま地面に倒れ込み、喚いている。
「ははは!おい、ミドリムシ!何が起こったかわかるか?」
ゴブリンは這いつくばりながらも此方を威嚇する。
「ゴブ、ゴビ、こっちへ来い」
ショートソードを持ったゴブリン2体が俺の方へやって来て跪く。
「ゴギャゴギャゴギャ!」
裏切り者。そう叫んでいるのだろうか?
「ゴブとゴビは最初から俺の仲間だ。お前が勝手に味方と勘違いしただけだ」
「ゴ、ゴギャ……」
ゴブリンの顔から表情が抜け落ちる。
俺はゴブからショートソードを受け取った。
「充分絶望しただろ。もう死ね」
首を切られたゴブリンは煙になり、そこには魔石と召喚オーブが残った。
「よし!ゴブ珠ゲットだ!」
「「ギギギ!」」
俺は先の階層に進むのを一旦取りやめ、第2階層で召喚オーブ集めをしていた。通常だとまずドロップすることのない召喚オーブだが、性悪ムーブがハマると1割ぐらいの確率でドロップすることが分かっている。
ただ、普通に罵倒したりする程度ではドロップしない。もっと性悪なムーブが必要なのだ。
そこで俺が考えたのが、裏切りのゴブ作戦だ。
やり方は簡単。召喚オーブで召喚したゴブリンを他のゴブリンと合流させる。そしてその集団の前に武器を持っていない状態で俺が現れる。
ゴブリンは単純なので武器を持たない人間を見つけると必ず襲い掛かってくる。俺はマップを見ながら行き止まりまで走り、後はさっきの通りだ。
「よし。目的は達成だ。ゴブ、ゴビ、戻れ」
ゴブとゴビの身体が光って消え、手元の召喚オーブに熱が籠った。ゴブとゴビというのは俺が召喚したゴブリンの名前だ。最初に手に入れたのを、ゴブ。次に手に入れたのはゴビと名付けた。今回のはゴバと名付ける予定だ。
さて、もう第2階層でやることはない。当初の予定より大分遅くなったが、次は第3階層だ。
#
第3階層から現れるモンスターが変わる。
今までゴブリンオンリーだったが第3階層ではコボルトがメインになる。ゴブリンは小学生3、4年生ぐらいのサイズでコボルトはそーだな、5、6年生ぐらいだろうか。まぁ、その程度の差だ。
コボルトで注意すべきはその敏捷性と嗅覚だ。犬っぽい見た目の通り、ゴブリンよりずっと素早いし鼻も効く。少しでも血を流しているとわらわらと寄ってくる。
ちょうど俺の目の前にもそのような光景が広がっている。
ダンジョンのどん詰まりに横たわるのは血塗れの小柄なヒト。フードを被っていて顔はよく見えない。辺りには血の臭いが広がり、息をするのも躊躇われるほどだ。
その周りには血の臭いに誘われたコボルトが5体。今にもヒトに齧り付きそうだ。
「ゴバ、戻れ」
俺は召喚オーブを握ってそう念じた。そうするとコボルトに囲まれていたヒトが光を放ち、フッと姿が消えた。残ったのは血塗れのフードだけだ。突然の光にコボルト達が驚き、周囲を警戒する。
「おい、犬畜生!これでもくらえ!」
俺は着火しておいた火炎瓶をコボルトの群れに向かって投げつけた。
「キャンキャンキャン!」
火炎瓶が直撃したコボルトが叫んで暴れ、次々と周りに引火していく。フードにも引火し、一気に炎が広がる。1分もすると5体とも焼け死んで煙になり、後には魔石が5個とコバルトの結晶が3個残った。コボルトのレアドロップはコバルトだ。今回のレアドロップ率は6割なのでかなりうまい。
「血塗れゴバ頭巾ちゃんが完璧にハマったな。気持ちの良い勝利だ」
魔石とコバルトを拾い上げてリュックに入れる。コバルトの結晶は世界的な供給不足の中で高騰していて、1個10万以上で売れる。
「しかし嵩張るのが問題だなぁ。マジックポーチ買わないと」
血塗れゴバ頭巾ちゃん作戦は準備に手間がかかるし荷物も増える。今回は一発で30万以上の稼ぎがあったもののもう少し効率のよい性悪ムーブを考えないとマジックポーチには手が届かない。なんせマジックポーチは安いものでも500万はするのだ。
「リュックも満杯だし、引き上げるか」
俺は独りごち転移石に向かう。
このままのやり方ではゴブリンを罵倒狩りしている方がパフォーマンスがいい。何かある筈だ。考えなければ。