ハイスクール・フリート~Sophomore Season~ 作:梯子田カハシ
下関港に停泊する移動客船のゲートが締められ、錨が上げられる。汽笛が鳴って、ゆっくりと福岡に向かう移動客船のスクリューが回転を始める。
《本船はこれより終点、福岡港へと出港します。出港の際に船体が揺れることがございます。ご乗船のお客様はご注意ください》
「間に合ったっ~!!」
「艦長っ!! 間に合った、じゃないです!!」
アナウンスが流れる船内で肩で息をする明乃がグッとガッツポーズを決めた。
呆れたような表情を浮かべるましろがジト目を明乃に送るなか、2人の両手に握られた下関土産に入ったレジ袋が潮風に吹かれてカサカサと音を立てる。
「え~、だって船の出港時間には間に合ったよ?」
「常に5分前行動、これがブルーマーメイドの鉄則ですっ!! それに………こんなにお土産を買う必要ないですよね!?」
「クラスみんなの分を買うとこうなっちゃうんだよ~」
「はあ、艦長が空のキャリーケースを移動客船に持ち込んだ時点で指摘すべきでした。いえ、そもそも艦長がクラス全員にお土産候補を募集した段階で気が付くべきでした……」
「えへへ。シロちゃん、ごめんね?」
「……もう、こうなってしまっては仕方がありませんね」
「晴風の副長さんは意外と艦長の岬さんには甘いみたいだね。
「みやさん、何を言っとるんですか?」
「宮里先輩に能村先輩!!」
声を掛けられた明乃とましろが視線を向けた先には呉女子海洋学校の先輩である大和艦長を務める宮里十海と副長の能村進愛の姿があった。どうやら先輩の2人とも明乃とましろの一連の会話を聞いていたようで、おもしろいものを見たという表情で微笑んでいる。
「岬さんは
「2人ともやっとかめだね~。長旅で疲れたら?」
「やっとかめ? えっと、それって……?」
「もう、のむさんったら……ごめんなさい、やっとかめはひさしぶりって意味よ」
「そうだったんですね!!能村先輩、やっとかめです!! 能村先輩はたしか愛知県のご出身でしたよね?」
「だら。愛知は愛知でも三河の方なんだわ」
「
「そ、そうですね、艦長。水測員の万里小路さんが愛知県の名古屋出身だったはずです」
「え、名古屋で万里小路っちゅうことは……そう言うことだら?」
「あ、あはは……」
「RATt事件の英雄になった岬艦長に競闘遊戯会で大活躍をした宗谷副長、海洋医大創学以来の天才と言われる鏑木さんに凄腕と噂の機関長、さらには万里小路重工のご令嬢まで………晴風、やはり底が知れないクラスね」
「私らも負けてられんっ!!」
「そうね、のむさん。特に去年は競闘遊戯会の図上演習で晴風の2人に
「だら。はじめは副長って知らんかったじゃん、ビックリしたわ。でも、おかげで私も今年は図面演習に参加する決心がついたわ。見とりん、今年は呉が勝つ!!」
「ふふふ、そうね」
そう言ってグッと拳を握りしめた進愛が真っ直ぐに明乃とましろに視線を送る。進愛の熱い視線を受け止めた明乃とましろは互いに目を合わせて頷くと、進愛の視線を正面から受け止めて、真っ直ぐに進愛を見つめ返す。
「「
▼ △ ▼
明乃とましろが呉の先輩たちと合流した頃
横須賀女子海洋学校、晴風後部甲板にて
「ぶぁーくしょいっ!!! へへっ、誰かがマロンの噂でもしてるってかぁ?なあ、クロちゃん!!」
「もうマロンったら、まだ3月なのに薄着でこんなところいるからクシャミが出るのよ。釣りならいつもの桟橋でいいのに、何でわざわざ
「なに言ってんでい、クロちゃん。せっかく校長先生が春休み期間中のクラス艦への乗船許可と宿泊許可をくれたんだ、むしろここにいなきゃ損ってもんよ!!」
「そんなこと、とも言い切れないわね。他の子達も結構ここに入り浸ってるみたいだし。さっき杵崎姉妹とすれ違ったし、艦首甲板で水雷長と砲術長がキャッチボールしてたわ」
「みんな
「それはそうだけど、マロンは入り浸りすぎじゃない? 1週間以上ここにいるじゃない………って、まさか、マロン、機関をいじったりしてないわよね?」
「へっ、やっぱりクロちゃんは察しが良いねえ。今なら本気出せば40ノットは出せる」
「………艦長は知っているの?」
「わざわざ艦長と副長が出かけている間に作業してんだ、こういうのは全部終わった後に報告するに限るってもんよ。まあ、あの艦長なら前みたいに許してくれるさ、だあーはっはっ!!」
一向に獲物が引っ掛からない釣竿を傍らにお決まりの法被姿で豪快に大爆笑をする晴風機関長 柳原麻侖の姿を見て、彼女の幼馴染である晴風機関助手 黒木洋美は頭を抱える。
機関長である柳原麻侖には2代目晴風の機関に空気予熱器を取り付けたり、解体して魔改造を施した前科がある。そのおかげで競闘遊戯会で発生した海賊事件の際に晴風が活躍できた訳だが、当然ながらそれとこれとはまた別の話である。とにかく、これ以上は大事な友人である麻侖がやらかさないよう自分がしっかりしよう、と洋美はひっそりと心に誓うのだった。
「それにしても、私達もあと数日で2年生になるのよね。なんというか、あっという間だったわね、この1年間」
「初っ端から反乱艦扱いされたときは正直どーなるもんかと思ったけど、マロンは
「そうね。最初は艦長に反発してたけど、私も今は
「最初のクロちゃんは酷かったからなあ」
「もう、イジワル言わないで」
「へいへい」
のんびりと麻侖と洋美が横須賀の海を眺めていると、晴風に乗り込んでくる機関員の駿河留奈と広田空の姿が見える。2人は麻侖と洋美の姿を見つけると嬉しそうな笑顔を浮かべて駆け寄ってくる。
「あっ、まろんちゃ~ん!!機関いじるの終わった?」
「ばっちりでいっ!!」
「そっかあ、流石だね~」
「それで、あなたたちは何しに来たの?」
「えっと~…窯づくり?」
「“窯”って機関のことか?」
「えへへ、実は本当の窯を作ろうと思って。ナンが焼けるような」
そう言って留奈は少し困ったように笑うのだった。そのころ、横須賀女子海洋学校学校内の女子寮で今度は晴風電測員の宇田慧がくしゃみをした。