ハイスクール・フリート~Sophomore Season~ 作:梯子田カハシ
3月22日 佐世保女子海洋学校 紀伊甲板にて
佐世保女子海洋学校 卒業証書授与式
《まもなく式典を開会いたします。ご来席の皆様はご着席ください》
紀伊の甲板には約400人の卒業生と教員来賓一同が、紀伊に接舷した大型艦の日向と愛宕には卒業生の親族が乗艦している。表敬参加をしている宮里、能村、明乃、ましろも来賓として来賓席に着席していた。式次第を確認して、明乃が小声でましろに声を掛ける。
「ねえ、シロちゃん?」
「なんですか、艦長」
「私達はこの“在校生送辞”の時に立ち上がればいいんだよね?」
「そうです。あとは来賓紹介ですね」
「うん。ありがとう、シロちゃん」
「式が始まりますよ、艦長」
《ただいまより、第20回 佐世保女子海洋学校卒業証書授与式を開式いたします。それでは佐世保女子海洋学校 白洲教頭より“開式のことば”を頂戴します》
快晴の佐世保港の波は穏やかで、卒業生の背中を押すように暖かな潮風が優しく吹き抜けていく。卒業生たちの表情は様々で、胸を張るもの、涙を流すもの、思い出を噛みしめるものなど、各々が人生の岐路となる、この特別な日を味わっている。
国歌斉唱、卒業証書授与、学校長式辞、来賓紹介・式辞と卒業式は順調に進行していき、いよいよ在校生送辞となる。
《続いては“在校生送辞”です。呉女子海洋学校より宮里大和艦長、能村大和副長が、横須賀女子海洋学校学校より岬晴風艦長、宗谷晴風副長に表敬参加いただいております。在校生を代表して、呉女子海洋学校 宮里艦長、よろしくお願いいたします。》
「「はい」」
司会のアナウンスと共に宮里、能村、明乃、ましろが立ち上がる。
宮里に合わせて4人で礼をして、宮里が特設壇へと上がる。
「冬の寒さが和らぎ、春の訪れが感じられる季節となりました。本日、晴れて佐世保女子海洋学校の卒業式を迎えられた第20期生の先輩の皆様、ご卒業おめでとうございます。在校生を代表し、心よりお祝い申し上げます。先輩方との初めての出会いは2年前、呉女子海洋学校にて開催された競闘遊戯会でのことでした。そこでは~」
壇上で宮里が穏やかな表情で送辞を読み上げていく。
呉での競闘遊戯会での思い出や、2校合同演習での思い出、横須賀での競闘遊戯会、そして海賊事件でともに作戦行動をした思い出。少ないながらも、同じ女子海洋学校の後輩としての先輩たちとの思い出を、改めてなぞるように宮里は送辞を読み進む。
「~これからそれぞれの
送辞を読み終えた宮里が一礼し特設壇を降りる。
拍手の中で来賓席に戻った宮里に合わせて能村、明乃、ましろも再び礼をして着席する。宮里と目を合わせた千葉沙千帆がニヤリとした笑顔を浮かべてウインクする。宮里もそれに軽い会釈で応えた。
《宮里艦長、ありがとうございました。それでは、これで最後となります。“卒業生代表の言葉”、卒業生代表 千葉沙千帆さん、よろしくお願いいたします。》
「はい」
スンと澄んだ千葉の声が紀伊の甲板に響き渡る。
千葉は堂々とした表情で特設壇に登ると深く一礼をした。
「快晴の中に暖かな陽の光が降り注ぎ、穏やかな佐世保の海が春の訪れを感じさせる今日、私たち佐世保女子海洋学校第20期生は卒業の日を迎えました。まずは本日、お忙しい中、私たちのためにご臨席くださいました皆さま、誠にありがとうございます。また、3年前の入学式の日から、優しく、時に厳しく、私たちに接してご指導を頂いた教職員の皆様、そして、いつでも私たちを見守ってくれた家族に、心からの感謝を。本当に、ありがとうございました」
そこまで言うと、壇上の千葉は改めて来賓席、教職員席、そして家族の乗艦する日向、愛宕へと深々と礼をする。顔を上げた千葉は悪戯っぽくニヤリと笑うと読んでいた答辞文を折りたたんで胸元にしまう。
「さて、ここからは私自身の言葉で話したい」
千葉はそう言って目の前にいる同期達の顔をゆっくりと見渡す。
千葉の同期達も千葉の送る視線にしっかりと応え、頷き、微笑みを浮かべる。
「まず、みんなと一緒に卒業式を迎えることが出来て、私は今、まさに万感の思いだ。……3年前、私が紀伊の艦長としてクラスメイト達から推薦されたときに、私は紀伊クラスの皆とある約束をした。それは、「私は何があっても紀伊という
そう言うと千葉は、振り返って自身の背後にそびえるようにその勇姿を称える紀伊の艦橋を見上げる。新緑にカラーリングされた佐世保所属艦を象徴する緑は、眩しい陽光を反射して輝きを放っている。
「大和型である紀伊の艦長として、そして佐世保女子海洋学校の代表として、みんなと過ごしてきた日々はとても楽しく、そして充実したものだったと思う。そして今日、この日を迎えて、みんなの充実した顔を見て、私はあの日、入学式の日の約束を果たすことが出来たと、そう感じている。それと同時に、クラスメイトを始め、各艦のクラス委員や同期のみんなに支えられて、今日の私がいることを改めて実感することができた。みんなの存在は私の誇りだ。みんなに心からの感謝を伝えたい。ありがとうっ!!」
「「「イエス、サニー!!」」」
「みんな、ありがとう。佐世保の地に集った私たちは、これからそれぞれ違った
鳴り響く拍手の中で特設壇で誇らしげに胸を張る千葉の姿は堂々としており、その小さな身体には漲らんばかりの自信が満ち溢れている。拍手が鳴りやむのを待って…………少しの静寂。
千葉は軽く息を吸って胸元のスカーフを解く。千葉に倣って他の卒業生たちも胸元のスカーフを解き、壇上の千葉を見つめる。
「いよいよ、これで最後だ。スカーフを投げる準備はできたか?」
不敵な笑顔を浮かべた千葉が同期達に視線を向けて頷く。
「それじゃあ…………卒業だっ!! 我らの進む
「「「ヨーソロー!!!」」」
千葉が赤いスカーフを空へ放り投げる。
それに続くように卒業生たちのスカーフも佐世保の青空を舞う。
ひときわ強い風が吹いた。
赤いスカーフは、まるで卒業生たちの門出を祝うように、自身の役目を終えたことを悟ったかのように、風に乗って佐世保の海へと舞い散っていく。
「海に生き、海を守り、海を往く—―」
「「「それが、ブルーマーメイドっ!!!!」」」
晴れて卒業した生徒達は歓声を上げて各々の
千葉をはじめとする紀伊クラスの生徒達も
《以上をもちまして、第20回 佐世保女子海洋学校 卒業証書授与式を終了いたします。ご列席頂きました皆様、ありがとうございました。》
アナウンスが流れて、明乃とましろは呉の先輩たちに続いて席を立ち上がる。どこまでも澄み渡った青空を映す青い海の中で、佐世保グリーンが眩しく輝いていた。