ハイスクール・フリート~Sophomore Season~   作:梯子田カハシ

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夜の佐世保散策と怪しい影

 

3月23日、午前1時12分

佐世保女子海洋学校中庭広場にて

 

 

「先輩たちの卒業式、すごくよかったね、シロちゃん」

 

「艦長……そうですね。なんと言いますか、こんな機会に恵まれて幸運でした」

 

「うん、本当に。委員会のみんなに感謝しなきゃだね」

 

「はい。………我々もあんな風になれるだろうか」

 

「? シロちゃん、何か言った?」

 

「いえ、なんでもありません」

 

 

月明かりと電燈に照らされた深夜の佐世保港を明乃とましろは2人で歩く。日中は卒業生やその親族で活気に溢れていた中庭広場も、今はシンと静まり返っている。それもそのはず、今夜は教職員を覗くと佐世保女子海洋学校には明乃とましろの2人しかいないのだ。2人のローファーがレンガ造りの道を進む足音と港から聞こえるさざ波の音だけが中庭広場に響いている。

 

 

「それにしても、まさか我々が最後になるとは思いませんでした」

 

「卒業生たちは寮を空けてて卒業式が終わったら帰っちゃったし、宮里先輩と能村先輩も半日で呉に帰れるからって卒業式後に別れちゃったからね……他校に私たちだけしかいないって、なんか不思議な気分」

 

「ええ、本当に。1週間後にはこの場所が、この艦隊(ふねたち)が新入生達の住処(いえ)になって、そうやって海洋学校の歴史は積み重なっていくんですね」

 

「先輩たちの寄せ書き、どれも素敵だったなあ」

 

「卒業式のスカーフ投げ、そして後輩達への寄せ書き。女子海洋学校の卒業式の恒例行事ですけど、いい伝統だと思う。晴風は……」

 

「うん。RATt事件の後に沈んじゃったよね」

 

「…………」

 

「そうだっ!!」

 

「どうしたんです、艦長?」

 

「良いこと思いついたっ!! せっかくだし、みんなの“好きな言葉”で寄せ書きを作ろうよ!!」

 

「それは…………いいですね。帰ったらクラスのみんなに相談してみましょう」

 

「うん。ありがとう、シロちゃんっ!!」

 

「………ちなみに艦長は何と書くんですか?」

 

「へ? うーん……何が良いかな……“なんとかなる”とか?」

 

「ふふっ、艦長らしいですね」

 

「あー!! シロちゃん笑った!! むう~!!」

 

 

楽し気に会話を交わす2人は中庭を抜けて佐世保所属艦が並ぶ桟橋を歩く。

月が優しく海を照らして、穏やかな波が(ふね)にぶつかる音が心地よく響く。

 

 

「……静かだね。横須賀も今頃はこれくらい静かなのかな?」

 

「うーん……どうですかね。横須賀(あっち)佐世保(こっち)と違って生徒がいますから。それに、春休み期間ですし、夜更かししている子は多いかもしれませんね。」

 

「たしかに。もしかしたら野間さんとかが起きてるかも」

 

「野間さん、ですか?」

 

「うん。星を見るのが好きみたいで、(おか)にいる時も寮を抜け出して夜空を見てるみたい」

 

「……なんというか、改めて晴風(ウチ)のクラスは自由人が多いですね」

 

「ふふっ。そうだね、シロちゃん」

 

「岬艦長、あなたがその自由人の第一人者ですからね?」

 

「えへへ。顔が怖いよ、シロちゃん……って、ん?あの人達……」

 

「どうかしま……あれは?」

 

 

2人の視線の先にはスーツを着た男性の集団が歩く姿がある。

5人組の男達はそれぞれ大きめのスーツケースを片手に佐世保所属艦に向かって歩いていき、明乃とましろは花壇に植えられた生垣に隠れるようにしてその様子を伺う。

 

 

「ねえ、シロちゃん。あの人達、何してるのかな」

 

「分かりませんが……あのスーツケースに描かれているのは国土保全委員会のロゴですね」

 

「国土保全委員会? ってことは政府官僚の人達ってこと?」

 

「そうですね……一応ブルーマーメイドとは関係深い組織ではありますが、なぜこんな時間にいるんだ?」

 

「政府関係者なら学校の許可があっているんだろうし、私たちは部屋に戻ろうか」

 

「……そうですね。もうこんな時間ですか」

 

 

ましろが手元の腕時計を確認すると時刻は既に深夜2時に迫ろうとしていた。

後ろ髪を引かれるような気分で桟橋を進む男達に視線を向けたましろは先に部屋へと向かう明乃の背を追って佐世保女子海洋学校の校舎へと引き返していくのだった。

 

 

△ ▼ △

 

 

同時刻、横須賀女子海洋学校学校

 

桟橋の一番手前に停泊している晴風の見張り台では晴風見張り員の野間マチコが星々の輝く夜空を眺めていた。……そして当然ながら、夜空を眺めるマチコを眺める晴風主計長の等松美海(みみ)の姿もある。

 

 

「はあ、マッチ……かっこいい…」

 

「ミミちゃんは相変わらずっスねえ」

 

「これさえなければ完璧なんだけどね~。ね、美波さん?」

 

「応急長、暑苦しいから抱き着くのを辞めてくれないか?」

 

「美波さん、諦めるっすよ。美波さんへのヒメちゃんの距離感はバグったままっす」

 

「……むう、進退両難(しんたいりょうなん)

 

「そんなこと言いつつ一緒に晴風に泊まってくれる辺り、美波さんも優しいっすね」

 

「マッチ……素敵……」

 

「ミミちゃん……ダメだ、マッチしか見えてない」

 

 

賑やかな甲板の声を聴きながらマチコが夜空から視線を落として桟橋の方を見ると、見慣れないスーツを着た男たちの姿が目に入った。男たちは周囲の様子を気にしているようだが、距離があるためか晴風の甲板にいるクラスメイトのぞんざいに気づいていないようだった。

 

 

「何者っ!!」

 

 

マチコは咄嗟に見張り室に置かれた大型懐中電灯を男達に向けて照射する。

航海中の簡易哨戒灯としても使用するだけあって懐中電灯の光に男達も気づいたようで、彼らは周囲を見回してから桟橋を迂回して校舎の方へと戻っていく。マチコは少し首を傾げつつも、セキュリティの厳しい海洋学校に一般人が入ることはないため学校か政府関係者なのだろうと結論付ける。

 

 

「マッチ~、どうかしたっすか~? もうそろそろ部屋に戻るっすよ~」

 

「分かった、今行く」

 

 

マチコはそう言って見張り台を降りると美海、媛萌、百々、美波と合流して晴風艦内へと向かう。晴風艦内へと入ろうとしたところで、5人は晴風砲雷員メンバーの小笠原光、武田美千留、日置順子、松永理都子、姫路果代子の5人と入れ替わるようにすれ違う。

 

 

「おつかれっす~。ヒカリちゃんたち、どこいくっすか?」

 

「おつかれ~、私たちは甲板でスーちゃんと寝るんだ~」

 

「甲板で?」

 

「うん。スーちゃんが後部甲板にテント張っててそこで一緒に寝るの。昨日は機関メンバーと寝たみたいだよ」

 

「そうなんすね~。前方甲板にいたから気付かなかったっす」

 

「そゆこと。それじゃ、おやすみ~」

 

 

互いに手を振ってそれぞれ5人は反対方向へと別れる。横須賀の夜はゆっくりと更けていくが、それぞれ晴風第五兵員室と晴風の甲板に立てられたテントからは少し遅くまでワイワイとした賑やかな声が漏れ出ていた。

 

 

 

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