辻堂さんの純愛ロード IF:サマーキャンプ   作:成宮

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第2話

「な・ん・で・皆殺しも連れて行かなきゃいけないんだ!!」

 

「えー硬いこというなよ。いーじゃん別に」

 

あの弁天橋のときと変わらないほど激昂した辻堂さんが言葉と圧力マキさんにを叩きつける。

しかし当のマキさんはそんなことは露知らずといった風に、余裕を滲ませながら俺の腕を抱きしめる。

そして見せつけるように胸を押し付け、挑戦的な目で辻堂さんを挑発する。

 

「離れろ!大も嬉しそうにするな!」

 

決して嬉しそうな顔をしていたわけでは・・・あったかもしれない。

見事にその挑発に乗った辻堂さんはものすごい速度で接近し無理矢理引き離そうとするものの、マキさんはさっさと俺を離し距離を取った。

 

互いに構え、周囲に緊張感が走る。

 

辻堂さん、マキさん、どちらも一触即発の臨戦態勢である。

 

 

 

 

 

話は数分前に遡る。

 

 

梅雨も明け、からっとした本格的な夏の暑さが外を歩いているだけで汗をかかせる。

大きなカバンを持ちながら暑さと重さにそろそろエアコンの入った涼しい場所に避難したいと思いつつも、辻堂さんとの待ち合わせである駅前を近づくにつれ何やら人だかりが出来ていることに気づく。

この街では夏が近づくにつれてテレビ局がよく取材に来る。もちろん目的はあれだ。

だからてっきりそういう関係の人だかりだと思っていた。

 

「ね、あの時計下にいる人、すげーカッコよくね?」

 

「いやいや、あれは可愛いって。どう見ても乙女ゴコロ満載じゃん。彼氏でも待ち合わせしてんのかな」

 

「乙女ゴコロとか。彼女いない歴=年齢のやつに言われても説得力ねーぞ」

 

「いたよ。お前の元カノ。実は二股されてたんだ俺ら」

 

 

 

 

「「・・・」」

 

 

 

 

「ちっ、なにはともあれうらやましーな。爆発しねぇかなぁ」

 

「ちょっとまて、微妙に聞き捨てならないところが・・・」

 

どうやら違うらしい。

かっこいいとも可愛らしいとも言われてて、つまり女性ってことだけは確かだ。

 

「お、おい。あれって『喧嘩狼』じゃねえか?」

 

「ああ?駅前に辻堂がいるわけ・・・まじじゃねーか」

 

「なんだ、誰かを待ち伏せか?」

 

「いや、あの『喧嘩狼』がそんな真似するとは思えん」

 

「おいよく見ろ。大きなカバンを持っているぞ」

 

「ま、まさか死体か?!ついに殺っちゃったのか?!」

 

「『皆殺し』でも死者は出してないっていうのに・・・恐ろしいぜ『喧嘩狼』」

 

「・・・いや、普通に旅行とかじゃないのか?」

 

さらに待ち合わせ場所に近づくにつれ、今度はなにやら不穏な会話が耳に入ってくる。

そして『喧嘩狼』と言われればあの人のことしかありえない。

そう思うと自然と足も早くなり、気がつけば待ち合わせ場所である時計台を直接見える場所、つまり人だかりの最前線まで出ていた。

 

そこには辻堂さんがいた。

 

足元には旅行に使う大きなカバン、いつもより鮮やかに見える金髪に、ほんのり赤い頬、この暑い中でもそう感じさせない優雅さ。

思わず声をかけるのにためらってしまう彼女がいた。

 

「大、こっちだこっち」

 

見とれているあいだに、俺を見つめた辻堂さんが呼びながら手を軽く振り、ゆっくりとこちらに歩いてくる。

と同時に人だかりも同じように下がってゆく。

 

「おい、あれ愛さんやん。こないなとこで何してるんやろ」

 

「さあ?でもなんや、あんな楽しそうな愛はん初めて見るで」

 

「せや。愛はんってゆーとカッコイイイメージやけど、なんや今日はえらい可愛らしいな・・・」

 

「あれ、長谷ちゃう?愛はんと同じクラスの」

 

どうやら辻堂軍団の人たちも近くにいたらしい。そんな話し声がかすかに聞こえてきた。

 

「なんだよ大。じろじろ見てんじゃねーよ」

 

「いや、なんかいつもと少し雰囲気が違ってて。うん、とっても可愛いよ」

 

「なっ、ばっ、う、うっせーよ大」

 

可愛いと褒めると真っ赤になって否定するところは、初めて言った時と変わらない。

その恥ずかしがる表情が見たいから、事あるごとに言ってしまうのだ。もちろん本心で。

 

「まだ待ち合わせ時間まで結構あるけど、もしかしてだいぶ前から来てた?」

 

「いや、さっききたとこだ」

 

周囲にかなりの人だかりができていたことを考えればそれは嘘だ。

しかし俺のためについた嘘、それが妙に嬉しかった。

さらにこの会話も恋人らしい気がする。辻堂さんとこんなやりとりができるとは全くもって想像できなかっただろう。

 

「暑いよね、さっさと行こうか」

 

さりげなく辻堂さんのカバンを持つと思った以上に重く、思いっきり腕を取られる。

その姿を見てか、苦笑いで自らのカバンを持ち直されより恥ずかしさが倍増し、カッコつけてやらなければよかったと後悔の念が渦巻く。

 

「ほら、さっさと行こうぜ。・・・せっかくの二人きりなんだしな」

 

空いた手を握られ、耳元でぼそりと囁かれ、一瞬で顔が熱くなる。その手は柔らかく、とても喧嘩で使われるようには思えなかった。

先ゆく辻堂さんの顔は見えないが耳が赤くなっていることから俺同様真っ赤になっているだろう、その顔が見れないのは少々残念だった。

 

俺たちが駅に向け歩きだそうとすると周囲の人だかりは慌てて逃げ出してゆく。

辻堂さんは特に気にした風ではなかったが、人が逃げ出すというのは少しばかりショックだった。

しかしその気持ちもすぐに失せた。なぜなら隣に辻堂さんがいるからだ。

辻堂さんが隣にいるだけでここまで気持ちが軽くなる、自分でも驚きだった。

 

 

 

「・・・・・イ・・・・どこ・・・・・だ・・・・・ーー!!!!!!」

 

 

しかしそんな幸せの絶頂があっさりと掻き消える。

どこかで聞いたことのあるような、それでいてぶっちゃけやばい声が遠くからこだまする。

 

「大!」

 

咄嗟に辻堂さんに庇われ、普通逆なんじゃないかとかこれって男としてどうなのとか疑問に思う暇なくさっきまでいた空間、目の前に空から一人の女性が舞い降りる。

物理法則に反してほとんど音もなく着地し、スカートの空気抵抗は仕事をしない。

あまりの非現実的な光景に逃げ出し始めていた人たちの足も止まって見入っていた。

 

「おいダイ!私に黙ってどこへ行こうっていうんだ!!!」

 

マキさんは目の前の辻堂さんをまるっきり無視し、鋭い目をこちらに向ける。

さすがに目の前に立ちふさがっているのにまるっきり無視されたことにムカついた辻堂さんが覇気とともに言葉を叩きつける。

 

「おい腰越。私を無視して大と話してるんじゃない!」

 

「うっせー辻堂。私は知ってるんだからな、ダイと一緒にキャンプにいくんだろ!」

 

うぐ、っと怯み、覇気も若干弱まる。

 

「私もつーれーてーけー!」

 

言っていることはまるっきり子供の言動だが、周囲に撒き散らす覇気、殺気その他もろもろが尋常ではない状況を作り出す。

実際立ち止まって見ていた人々が気絶していっているのだ、マキさんの恐ろしさを改めて認識する。でも可愛い。

 

「チッ、やっぱりさっさと決着をつけておけばよかったな」

 

荷物を置き、臨戦態勢に入る。

しかし対してマキさんは構えをとる辻堂さんをすり抜け俺に抱きついた。

 

「硬いこと言うなよ辻堂。私はダイとお前のキャンプを邪魔するつもりはない。ただ私も連れてけというだけだ」

 

「憑いてく時点で充分邪魔してんだよ腰越ぇぇぇ!」

 

 

そして冒頭に戻る。

ここにきてようやく周囲も状況を把握し始めてきたようだ。

 

「お、おい。こんなとこにで『三大天』の二人が喧嘩を始めようとしてるぞ」

 

「いきなり頂上決戦じゃねーか。さっさとこの場から逃げ出さねーとやべぇ」

 

「まさかこんな早朝からおっぱじめるとはな。しかしどうしていきなりこんなとこで始めようとしてんだ??」

 

「しらねーよ。そんなことよりさっさと手を貸せって。気絶してる人達をさっさと連れ出すぞ。直に警察も来ちまう」

 

はっきりと二人を認識している人は急いで避難を開始し始める。

 

「ね、ね。これって修羅場?あの男の子をめぐってあの美人二人が取り合ってるの?」

 

「うわー、平凡な顔してやるわねぇ。二股なんて」

 

「修羅場!修羅場!」

 

全く知らない人は微妙にかすっているかもしれない想像に胸を膨らませ。

 

「おい、愛はんの邪魔しちゃあかん。さっさと一般人を非難させるんや」

 

「おう。しかしこんなんあの時以来やわ。夏に入ってすぐこんなことになるなんて」

 

「おらぁ見せもんやないで!さっさと散れやこらぁ!」

 

辻堂軍団の人たちは一般人の人たちを脅し避難させていく。

 

着々と舞台は整ってゆくがこんなところで喧嘩をさせればどのくらい被害が出るか。辺り一帯が壊滅状態になることも・・・ないと言えないのがこの二人の怖いところだ。

止められるのは当事者のひとりである俺の義務だ。

 

「とりあえず二人共落ち着いて。電車間に合わなくなっちゃうから」

 

「大丈夫だ大、少し待ってろ。すぐに済ませる」

 

「いやダメだって辻堂さん。そもそも今日は楽しくキャンプをしようって話だったよね?」

 

「・・・そう、だったな。せっかく大が誘ってくれたのにいけないなんて嫌だ」

 

さっき一度離れてしまった手をもう一度、今度は俺の方から握る。

ほんの短い時間見つめあった後、ようやく構えを解き体の力を抜いてくれた。

 

「そうだぞー辻堂。間に合わなくなったらどーすんだー」

 

「てめぇぇぇぇ!!!!」

 

「お願いします、喧嘩しないで。マキさんも火に油を注がない!」

 

朝早い駅前なのに人っ子一人いないという珍事を発生させる二人をどうすればいいのだろう。

そしてこの二人が揃うとどうしてこうなるんだろう。できれば二人共仲良くして欲しいのに。

肩で息をしていた辻堂さんは一度大きく深呼吸してようやく落ち着いたのか先程までの殺気を引っ込めた。

 

「で、どーすんだ大。というか腰越を連れて行けるのか?」

 

マキさんが引くことはないと悟ったのか現実的なことを聞いてくる。

 

「うん、チケットには何人でもって書いてあるし。それにしても九鬼は太っ腹だね」

 

「ちっ、腰越今回だけだからな」

 

「ああ、ダイとBBQ食べ放題に免じて今回は私もそう簡単に暴れたりしないさ。なーダイ」

 

「ああもう、いちいち大にくっつくんじゃねぇー!」

 

またいがみ合う二人をよそに三人分の切符を買いに行く。

どうせマキさんお金持ってないだろうしなぁ。

 

そして周囲からは安心と、そして残念なため息があちこちで漏れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふっふーん、おにくーおにくー♪」

 

右には鼻歌を歌いながら楽しそうにお菓子を食べるマキさん。

 

「・・・・・」

 

左にはムスっとしながらも俺の服の袖を摘んでいる辻堂さん。

 

周囲にはポッカリと空間ができ、離れたところでザワつきが聞こえる。

視線を床にずらすと地方のヤンキー泡を吹いて気絶しているという、それはなんとも地獄絵図だった。

 

そして電車のボックスシートにて三大天が二人『皆殺し』と『喧嘩狼』が並んで座っているという奇跡が起きていた。

 

「全く、こんな時にまで襲いかかってきやがって」

 

辻堂さんがやれやれとため息をつく。

駅のホームで一度、ボックスシートに座ろうとした瞬間に二度目。

ホームの時はどちらかというとナンパに近かったかもしれない。なぜなら平然と「よう姉ちゃん可愛いね」と声をかけてきたあと辻堂さんに睨まれ速攻逃げたのだから。

 

「仕方ないさ、『三大天』は全国的に名が知られているんだ。特に辻堂、テメェの『喧嘩狼』の名と顔は特にな。実力差もわからない馬鹿が襲いかかるには格好の的ってわけさ」

 

「同じ『三大天』であるマキさんは?」

 

「私はあれだよ、日頃の行いがいいからな」

 

得意げに大きな胸を張るマキさん。

 

「・・・んなわけねーだろ」

 

ぼそっとつぶやく辻堂さん。それには俺も同意です。

マキさんの聴力と野生のカンなら恐らく聞こえていたがあえて無視していた。

よほど主導権が取れて嬉しいのか類を見ないほどの上機嫌である。

 

「しっかし、電車に座るのも久々だなー。やっぱり外より快適でいいな」

 

「は?!」

 

マキさんの突然のカミングアウトに辻堂さんが驚きの声を上げる。

 

「大、今腰越がおかしなこといわなかったか?電車の外とかなんとか」

 

「うん、マキさんは通学に電車使ってるんだけど無銭乗車なんだよね・・・屋根の上っていう」

 

「あっはっは、けっこー快適だぜ、屋根の上っていうのも」

 

「むしろマキさんが無理っていうところこそほんとにやばいところだよね」

 

ああ、辻堂さんが絶句してる。その気持ちすごいわかるよ。

初めその光景を見たとき、自分が信じられなくなっていたからなぁ。

 

「・・・ちなみに辻堂さんも出来ちゃったりする?」

 

「し、しねーよっ。そんな非常識なことできるか!」

 

「非常識って言われたのはムカツクが、頑張ればきっとダイだってできるぜ。要は気合と根性だからな!」

 

その理論はかなり間違ってますよマキさん。

 

「腰越、大にそんなことぜってーさせんじゃねぇぞ。もしそんなことさせようとしたら殺すからな」

 

「無理強いはさせねーよ。ダイがやりてーっていうなら私は止めたりはしないけどな」

 

やりません、やりませんからそんなに睨まないでください。

 

「それにしてもよくお前のねーちゃんを説き伏せることができたな」

 

マキさんは直接会ったことはないがよく俺の部屋に突撃してくる姉ちゃんの姿を目撃している。

あれを見た人なら異常なまでの過保護な姉ちゃんがよく女の子との外泊を許したものだと思うのだろう。

 

「うん大変だったよ。姉ちゃんも連れてけって文句言ってたけど補習じゃ仕方ないよね」

 

実際は文句なんて軽いものでは済まされるようなものではなかった。ある種拷問だった。

 

「大のお姉さんって長谷先生だよな?そんなにブラコンなのか?」

 

「うん、いつも心配してくれてるから」

 

かなーりオブラートに包む。まだ長谷先生のイメージを崩さない方がいいだろう。

それに知らなければ知らないで幸せだとも思うしね。

 

「ブラコンシスコンって意味なら似たもの姉弟だと思うけどな」

 

マキさんがポツリとつぶやいたが聞かなかったことにした。

蒸し返すと説明もうまくできない上面倒なことになりかねない。

 

『次は~九鬼キャンプ場前~、九鬼キャンプ場前~』

 

「お、ついたみてーだな。おにく~おにく~」

 

ちょうどよくアナウンスが流れ、マキさんが一気に上機嫌になる。

そういう俺も辻堂さんと一緒ということに胸がドキドキしてきた。

そして電車が止まるとマキさんは一目散に電車の外に出てゆく。

 

「俺たちも行こうか、辻堂さん」

 

「・・・ああ!」

 

辻堂さんが俺がそっと出した手をしっかりと握り返してくれた。




時間かけた割には全然先に進んでませんね
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