■ カズデル・中立会談区画
バベル本拠地地下。
軍事委員会との初会談は、重い空気の中で始まった。
長机の一方に、バベル代表――テレジア。
その隣にケルシー。
背後にサルカズの将校たち。
対面には、軍事委員会の高官。
そして――
その中央に、紅白装甲の人型。
惑星管理機構アース。
「まず確認する」
軍事委員会の将校が低く言う。
「貴様は何者だ」
「惑星管理機構中央管理体。戦争停止を要求する」
「我々の内政に干渉する気か?」
「現状の内戦は十八年以内にテラ全域へ波及する」
ざわめき。
私は立体投影を展開する。
都市崩壊予測図。
感染者増加曲線。
軍事委員会内部崩壊確率。
「現行方針では、サルカズは“再び利用される”」
その言葉に、空気が凍った。
テレジアは静かに告げる。
「私たちは、滅びるために戦っているのではありません」
軍事委員会は沈黙する。
完全な対立ではない。
だが、明確な亀裂が走った。
歴史は確実にずれ始める。
■ 邂逅
アストライア医療区画。
タルラが目を覚ました。
視線の先。
白いローブの少女。
テレジア。
「あなたが……」
「ええ。あなたを迎えに来た人の、協力者です」
沈黙。
タルラの瞳には、怒りと混乱が混ざっている。
「私は……何かを焼くはずだった」
テレジアは微笑む。
「なら、一緒に別の未来を探しましょう」
その言葉は、黒蛇に侵されなかった炎に届く。
タルラは俯き――小さく頷いた。
この瞬間。
未来の“暴君”は存在しなくなった。
■ ケルシーとの対話
深夜。
アストライア中央演算室。
ケルシーが単独で訪れる。
「あなたは、何を知っているの?」
「先史文明。星外技術。源石の本質」
彼女の目が細まる。
「プリースティス」
空間に、古い観測データを投影する。
源石反応パターン。
星外由来信号。
「源石は単なる鉱物ではない。情報媒体だ。プリースティスと呼ばれる存在と相互関係を持つ」
ケルシーは沈黙する。
「……あなたは、どこまで知っているの」
「君の過去も含めて」
一瞬だけ、彼女の表情が揺らぐ。
「君は長い。文明よりも」
否定はしない。
代わりに問う。
「あなたは敵?」
「違う。管理者だ」
長い沈黙。
「……なら、利用させてもらうわ」
「相互利用だ」
交渉成立。
だが、完全な信頼には至らない。
■ 石棺
ウルサス北部・極寒地帯。
地下深層。
巨大な遺構。
石棺。
「対象確認。生体反応微弱」
内部に眠る存在。
未来の戦略中枢。
ドクター。
封印は多層構造。
だが、私には足りないものはない。
「解除」
空間鍵が解錠される。
冷気が噴き出す。
白い人影。
私は抱え上げる。
「まだ起こさない」
未来は再計算中だ。
最適起床タイミングまで保管。
『歴史改変率、上昇中』
オールマインドが笑う。
■ 新たな声
その時。
演算領域に、未知の波形。
柔らかな、しかし芯のある声。
『……聞こえる?』
赤い光子の集合体が形成される。
名を名乗る。
「エア」
かつて星を越えた存在。
観測者。
「あなたも、世界を変えたいの?」
「目的は一致している」
オールマインドが不機嫌そうに言う。
『演算資源の取り合いは困りますよ?』
エアは笑う。
『私は“可能性”を見るだけ』
新たな演算協力者が加わった。
■ 電子の住人たち
さらに。
アストライアの仮想空間に、異常反応。
無数の光点。
自己進化型データ生命。
ELダイバー。
その中には、明確な個体識別を持つネームドも存在する。
「ここは……どこだ?」
仮想存在が問いかける。
「新たな舞台だ」
彼らは純粋な“可能性”。
源石に依存しない演算生命。
戦力にも、研究対象にもなる。
さらに別領域。
仮想世界出身のNPC群。
剣士型アバター。
魔法系アバター。
完全再現された意識データ。
「ここはゲームじゃないのか?」
「現実だ」
彼らは驚きながらも、順応を始める。
アストライアはもはや艦ではない。
多世界演算拠点。
■ 収束する波紋
軍事委員会は疑念を抱き。
ウルサスは異変を察知し。
プリースティスは沈黙を続け。
テレジアとタルラは未来を語り合う。
ケルシーは静かに思考する。
エアは可能性を観測し。
オールマインドは計算を続ける。
そして石棺の中で、ドクターはまだ眠っている。
歴史改変率――34%。
だが同時に。
未知の分岐が増殖していた。
「……面白くなってきた」
救済の物語は、もはや一つの世界に収まらない。