ラテラーノ、極秘区画。
イヴァンジェリスタXI世は、沈黙のまま三名の来訪者を見つめていた。
ヒルデガルト。
エリナ。
そして、イェラグの若き盟主――
エンシオデス・シルバーアッシュ。
教皇が静かに言う。
「あなた方は、真実を知る覚悟があるか?」
ヒルデガルトは迷いなく頷く。
エリナの瞳には警戒と好奇が混ざる。
シルバーアッシュは微笑む。
「情報は力だ。力は均衡を生む。」
その言葉に、教皇は小さく息を吐く。
「ならば、PCAの本拠地へ向かうがよい。」
■ 移動 ― 空を裂く影
テラ氷原上空。
雲海のさらに上。
空間が歪む。
巨大な影が姿を現す。
それは島でも艦でもない。
空に浮かぶ要塞。
PCA本拠地――
【アストライア】
白銀の装甲、重力制御リング、空間安定塔。
まるで空そのものを支配する存在。
ヒルデガルトは息を呑む。
「……都市一つ分。」
シルバーアッシュの瞳が細まる。
「これは国家を超える。」
ドクターが静かに告げる。
「だから秘匿されていた。」
■ 中枢区画
アストライア内部は静謐だった。
騒音はない。
ただ低く響く重力炉の鼓動。
巨大ホログラムがテラ全図を映す。
門、巨大構造物、各国勢力圏。
アースが中央に立つ。
「ここがPCAの真の本拠地だ。」
ヒルデガルトが問う。
「なぜ隠していた?」
アースは迷わない。
「これは、現代文明の産物ではないからだ。」
室内の空気が変わる。
■ 先史文明の遺産
アースは天井を指す。
装甲が透過し、内部構造が露出する。
それはテラの既知技術体系とは根本的に異なっていた。
源石ではない。
非源石でもない。
第三の系譜。
「アストライアは先史文明の遺産だ。」
沈黙。
エリナがかすれ声で言う。
「……そんな文明は記録にない。」
ドクターが答える。
「記録は消された。」
アースが続ける。
「彼らは重力核を封印し、門を管理していた文明だ。」
巨大構造物。
封印装置。
光の管理者。
すべてはその文明の残響。
■ シルバーアッシュの洞察
シルバーアッシュは歩み出る。
「つまりPCAは、その後継組織か。」
「違う。」
アースは首を振る。
「我々は継承者ではない。」
「管理を“引き継いだ者”だ。」
アストライアの中枢に映る記録。
古代文字。
断片的な映像。
崩壊する空。
重力の暴走。
文明の終焉。
ヒルデガルトの拳が震える。
「彼らは……失敗したのか?」
「いや。」
アースの声は静かだ。
「封印には成功した。」
だが代償は文明そのもの。
■ 真実の共有
イヴァンジェリスタXI世の通信が入る。
「これが、星の檻の正体か。」
「ええ。」
教皇は深く目を閉じる。
「ならば、均衡を守る責務は重い。」
シルバーアッシュが笑う。
「面白い。世界の均衡は、山より高い位置にあったとは。」
彼はすぐに現実へ戻る。
「だが問題はアウロラ計画だ。彼らもこの真実を知っている。」
アースが頷く。
「だから封印を破ろうとしている。」
■ 選択
ヒルデガルトが言う。
「なぜ私たちに明かした?」
アースは正面から答える。
「均衡はPCAだけでは守れない。」
「国家、宗教、企業――全てが理解しなければならない。」
エリナが静かに言う。
「そして、裏切りも増える。」
「だろうな。」
アースは空を見上げる。
アストライアの天井越しに広がる宇宙。
そこには、かつて文明を滅ぼした“何か”があるのかもしれない。
■ 新たな段階
アストライアが静かに高度を上げる。
重力制御リングが光る。
テラの空を巡回し始める。
象徴だ。
PCAは地上組織ではない。
星の監視者。
シルバーアッシュが言う。
「均衡を守るには、時に刃も必要だ。」
ドクターが応じる。
「そして知恵も。」
アースは最後に告げる。
「我々は文明の終焉を繰り返させない。」
アストライアの主砲ではない。
観測塔が起動する。
星を監視する目。
封印を見張る者。
だが同時に――
遠く、門の内部で。
重力核が、わずかに脈打った。
古代文明の遺産は目覚めつつある。
そしてアウロラ計画もまた、動いている。
均衡は、まだ危うい。