■ アストライア中枢 ― 記録層開放
浮遊要塞アストライア最深部。
重力炉のさらに下層。
封鎖されていた“記録層”が開放される。
ドクターの網膜認証。
ケルシーの生体署名。
そしてアースの最上位権限。
三重認証が揃った瞬間、空間が静かに変質する。
壁面が透過し、星図が浮かび上がる。
それはテラではない。
遥か昔の空。
ケルシーが小さく呟く。
「……起動した。」
ヒルデガルトが息を呑む。
「これは、映像記録?」
「違う。」
ドクターが言う。
「記憶再生だ。」
■ 古代文明の真実
空間に都市が展開される。
浮遊都市群。
重力制御塔。
門と同型の構造物。
そして――
“崩壊”。
重力核の暴走。
空が裂け、都市が圧縮され、消失する。
アストライアの音声が再生される。
《封印成功。文明存続確率:極小》
古代文明は滅びたのではない。
封印を優先し、自らを切り捨てた。
アースが言う。
「彼らは世界を救い、代償として歴史から消えた。」
エリナの声が震える。
「ではあなたは……」
アースは否定しない。
「私は“継承者”。」
だが。
ケルシーとドクターは沈黙したままだ。
■ ドクターの記憶
突然。
記録層がドクターに反応する。
視界が白く染まる。
断片。
研究室。
重力理論。
封印計画会議。
そして。
若いケルシーの姿。
ドクターは膝をつく。
「思い出した……」
ケルシーが静かに言う。
「完全には戻らない。だが十分だ。」
ヒルデガルトが問う。
「何者なのですか、あなた方は。」
ドクターが答える。
「先史文明の生存者だ。」
静寂。
シルバーアッシュの目が鋭く光る。
「冷凍保存か。時間跳躍か。」
「擬似時間固定。」
ケルシーが簡潔に説明する。
「封印維持のために“残された”。」
彼女もまた。
生き残り。
■ 他にもいる
アースが補足する。
「私たちは少数だ。」
「だがゼロではない。」
アストライアの記録に、複数の生体署名。
活動不明。
所在不明。
アウロラ計画の首魁の技術水準。
異常な門干渉能力。
ドクターが呟く。
「可能性は高い。」
シルバーアッシュが低く笑う。
「つまり敵も“古代”か。」
■ 直接対話
その瞬間。
アストライアの外部空間が歪む。
門が、要塞の目前に出現する。
防衛砲が自動照準。
だが発射命令は出ない。
門から投影体が現れる。
人影。
「やっと再生に成功したか。」
落ち着いた声。
アウロラ計画首魁。
名乗りはない。
だが視線はドクターとケルシーを正確に捉えている。
「久しいな、同胞。」
ヒルデガルトが息を呑む。
ケルシーの目は冷たい。
「あなたは死んだはず。」
「死んだとも。文明と共にな。」
彼は微笑む。
「だが理論は死なない。」
■ 思想の衝突
首魁の思想は明確だった。
「封印は延命だ。」
「我々は神に近づいていた。」
「重力核を制御できれば、宇宙法則を書き換えられる。」
ドクターが答える。
「それで文明は滅びた。」
「失敗は成功の母だ。」
首魁は迷わない。
「次は制御できる。」
アースが一歩前へ出る。
「その“次”でテラが消える。」
首魁は静かに笑う。
「文明は消えても、進化は残る。」
■ 宣戦
ケルシーの声は鋭い。
「あなたは変わっていない。」
「君もな。」
投影が揺らぐ。
「封印は破る。均衡は壊す。」
「再構築が始まる。」
通信が切断される。
門は消える。
だが脈動は増している。
■ 決意
沈黙の中。
ヒルデガルトが言う。
「これは国家間戦争ではない。」
シルバーアッシュが続ける。
「文明同士の衝突だ。」
ドクターはゆっくり立ち上がる。
記憶は完全ではない。
だが十分だ。
「封印を守る。」
ケルシーが隣に立つ。
「今度こそ。」
アースが告げる。
「我々は生き残りではない。」
「“最後の防壁”だ。」
アストライアが戦闘モードへ移行する。
重力リングが青く輝く。
古代文明の遺産。
現代文明の意志。
そして同胞であり敵。
重力核の脈動が、さらに強まる。
封印は限界へ近づいている。