カズデル。魔王を戴くサルカズの地は、常に硝煙と悲鳴に包まれている。
バベルの旗印の下、テレジアとケルシーは理想のために剣を取っていたが、その戦いは泥沼の様相を呈していた。少なくとも、数分前までは。
「……ケルシー、空を」
テレジアの震える声に、ケルシーは端末から顔を上げた。
雲を裂き、天から降りてきたのは「光」だった。それは流星などという生易しいものではない。巨大な質量を持った金属の巨躯が、重力を無視した軌道でカズデルの荒野へと着地する。
衝撃波が戦場を駆け抜け、軍事委員会の追撃手たちも、バベルの戦士たちも、等しく土に伏した。
「あれが……『招待状』の主だというのか」
ケルシーは冷汗を流しながら、その巨大な飛行構造体――AS07:HEAVY WARSHIPを凝視した。
ハッチが音もなく開く。
そこから現れたのは、重武装の兵士ではない。漆黒のコートを纏い、泰然とした足取りで歩む一人の影。
その存在が大地に足をついた瞬間、カズデルの呪われた大地から、一時的に「
「――遅くなったな、テレジア殿下。そしてケルシー女医。あなた方の歩む道に、少々混ざらせてもらう」
その声は、拡声器を通しているわけではないのに、戦場にいる全員の脳内に直接響いた。
テレジアは、その人物から放たれる圧倒的なまでの「意志」に気圧されながらも、魔王としての矜持を保ち、一歩前へ出た。
「あなたは……誰? 私たちの運命を『上書き』すると言う、傲慢な救世主かしら」
「救世主? 違うな。和多志はただの観測者であり、整理人だ」
和多志は冷徹な瞳で、バベルの陣営を見渡した。
背後のモニターには、既に「第二フェイズ」の進行状況がリアルタイムで投影されている。
「第一目標、カズデル内戦の停止。これを今、この場で遂行する。……軍事委員会、特注の『お相手』を用意した。大人しく引き下がるか、それとも塵になるか、選ぶがいい」
和多志が指を鳴らした瞬間、上空に待機していた無人機群から、白銀の「杭」が地表に向けて射出された。
それは殺戮兵器ではない。着弾と同時に広域な「体内電気信号干渉波障壁」を展開する、テラの理を覆す工学の結晶。
サルカズの戦士たちの屈強な身体が、痺れるように動かなくなっていく。
「馬鹿な……身体が、動かない……?」
「これが……私たちが受け取った『技術』の、実戦応用か……!」
ケルシーは戦慄した。彼女が数千年守り続けてきた「テラの均衡」が、目の前の存在によって、玩具のように組み替えられていく。
和多志は、驚愕に染まる彼女たちに背を向け、通信回線を開いた。
『こちら「惑星管理機構」。バベル、および軍事委員会への通告を終了。これよりカズデル全域を、暫定管理区域に指定する。……次は、海の「掃除」だ』
その目は、既にこの戦場を見ていなかった。
遥か南の深海、あるいは北の果ての「壁」。
原作知識という名の「未来視」を持つ和多志にとって、この内戦すらも、来るべき終焉を回避するための「地ならし」に過ぎない。
「ドクター……君が目覚める頃には、テラはもっとマシな場所になっているはずだ。……あるいは、君が知る絶望など、どこにも残っていないかもしれないがな」
独白は、砂嵐に消えた。
一方で、極寒のウルサス。
雪原を彷徨うタルラの前にも、一つの「影」が降り立っていた。
それは和多志が差し向けた、高度な自律型アンドロイド。
「タルラ・アルトリアス。あなたの進む先に、死と炎以外の選択肢を提示します」
冷たい雪の中、少女が手にしたのは、復讐の剣ではなく、未来への羅針盤。
運命は、もはや誰の手にも負えない速度で加速を始めた。
神の如き視点を持つ「和多志」という異物の介入によって、テラの悲劇は、一つの壮大な「
始まったのだ。
血と涙で綴られた歴史を、冷徹な理知と圧倒的な力で塗り替える、愚者の物語が。
一度新しい物語にやり直してみようと思います。
これまでの話は一応残しておこうと思います。