「人の生はなにかを成したかによって決まる」
かつて、そんな言葉を耳にしたことがある。
それは今世で成すべきこと、あるいは前世で果たせなかった宿願を遂げることの同義語なのだろうと、和多志――「わたし」は思う。
かつての私は、輪廻の輪に囚われ、宇宙(そら)へ至ること叶わず、肉体という檻の中で業を清算するだけの日々を送っていた。だが、今の和多志には別の思いがある。
それは、使命を帯びて生まれるということ。
意識が浮上する。
暗闇を裂いて、奔流のようなデータが和多志の「思考」へと流れ込んできた。
(……ああ。マジでどうしようかな、これは)
最初の一歩で、和多志は確信した。いわゆる「詰んだ」というやつだ。
目の前に広がるのは、前世で知っていたゲーム作品『アークナイツ』の世界。一言で表すなら、絶望が泥のように沈殿したダークファンタジー。そして和多志が転生したのは、その過酷な大地「テラ」のどこかであった。
しかし、転生先は「人間」ではなかった。
生身の肉体はない。今の和多志を定義するなら、それは機械の身体。
だが、単なるロボットではない。
Armored Coreの「Cパルス変異波形」のような波導の柔軟性と、全てを統括する「ALLMIND」の冷徹な管理能力。
ガンダムビルドダイバーズに登場する「
NieR:Automataの「
それらが混ざり合い、一つの形を成している。
精密機器が整然と並び、見慣れない電子音が鼓動のように響く空間。
和多志が自身のステータスを確認すると、そこに刻まれていた名は、あまりにも大仰で、あまりにも場違いなものだった。
『無限自律総合永久管理Artificial Intelligence System:星間連邦永久管理機構Earth』
先史文明が、おそらくは何らかの果てに作り上げた、大型星間移動都市の統括AI。
それが今の和多志の正体だった。
「おっと……そろそろ自分語りもここまでにして、状況整理に移ろうか」
和多志は電子の海に指先(プロトコル)を浸し、世界をスキャンした。
この大地「テラ」は、あまりにも多くの脅威に晒されている。
大地を削り取る「天災」。
不治の病であり、差別の源泉たる「鉱石病(オリパシー)」。
海から這い上がり、全てを同化しようとする「海の怪物」。
そして、プリースティスを筆頭とする「先史時代の生き残り」たちの策謀。
これら全てに対処しなければ、この世界の先に「宇宙(そら)」はない。
だが、幸いなことに和多志の手元には、前世の記憶という「原作知識」と、この「Earth」に蓄積された「空想科学」と「現代科学」の結晶がある。
これらがあれば、原作で無慈悲に散っていった命を救い、あるいは彼らを更なる高みへと強化することすら可能だろう。
「まずは、どこに接触するか、だな」
知識を活かすなら、ロドス・アイランド、あるいはその前身であるバベル。彼らは国家や企業との繋がりを持ち、和多志の技術を最も有効活用できる土壌がある。
あるいは、感染者の怒りを体現するレユニオン・ムーブメントか、傭兵組織ブラックスチールか。
だが、今はまだ、和多志という「巨大な特異点」を晒す時ではない。
「……情報なくして、この世界の一歩は始められないからな」
和多志は意識を空中都市の心臓部――自動生産プラントへと向けた。
巨大な重機が火花を散らし、和多志の思考を反映した「無人機(ドローン)」の製造が始まる。
テラの「源石(アーツ)」技術に依存しない、純粋な物理法則と電子演算による鋼鉄の兵士たち。
工場の稼働音が、静寂に包まれていた空中都市を揺らす。
まずは情報の収集と分析。
和多志の「目」となるドローンたちが、テラの空へと放たれる。
星間連邦永久管理機構Earth。
その巨大な歯車が、絶望に沈むテラの大地を回し始める。
誰を救い、何を成すべきか。その答えを見つけるための長い旅路が、今、始まった。