魔改造ダガーでC.E世界を駆け抜けたい【完結】 作:萩月輝夜
そして度々の誤字脱字報告申し訳ございませんと共にありがとうございます。
そして大量のコメント…執筆の持ちベが上がりすぎる…!
今回から【砂漠編】…あのお姫様が出てきます…がまだこの話では出ません。
そして今回エアリスが余りでない…!
ソレではどうぞ!
燃える砂塵
夜の空に星が輝き風が凪いでいる中、白亜の大天使が砂上にて佇む。
本来であれば地球連合軍本部アラスカへ向かう筈だったそれはハプニングで本来の目的地から大きく外れザフト勢力圏である“アフリカ北部”という砂の海へ着陸してしまったのだった。
「はぁ…はぁ…はぁ……はぁ…っ…」
「熱、下がらないね…」
「先生、エアリスは大丈夫なんですか…?」
不安げに呟き軍医に問いかけるミリアリアとフレイ。彼女達の先にいるのは医務室のベッドに寝かされ点滴に繋がれたエアリスが苦しそうにうなされている姿があった。フレイはエアリスの額から流れる汗を濡れた冷たいタオルで拭っていた。
「ああ。大丈夫だとも。ただ大気圏突入の際に軽い熱中症になってしまっているだけで内臓とかにも問題はないよ。奇跡的にって言葉が付くけど」
地球降下の際に乗り込んだ女性軍医が同じ場にいる学生組に説明する。
「まぁ、今はともかく水分取らせて体を冷やすことしか対応策がないからね…あのストライクのパイロットが抱えて盾で熱放射しなかったら多分その子蒸し焼きで死んでたよ。彼には感謝しないとね…それにしてもあのコーディネイターの少年がいたコックピットの内部だがね…サウナのような温度だったらしい。いやはや丈夫だね」
「そう、ですか…」
その事を聞いてミリアリアは複雑そうな表情を浮かべていた。
サイが女医の言葉をフォロー?した。
「でも良かったよ…キラもエアリスも無事でさ」
軍医なりのフォローを学生組に伝えていると医務室の扉が開く。
「エアリスさんの様態は…?」
「キラ?」
パイロットスーツから制服に着替えたキラが医務室を訪れエアリスの傍へ向かう。
心配そうに覗き込むその先には先程よりは呼吸を落ち着かせているが感覚短く胸を上下させているその光景にキラの顔に少しの陰りが出来ていた…が気が付くものは居なかった。
「大丈夫。命に別状は無いってさ」
「お前がエアリスの乗ってた“ダガー”を守らなかったら危なかったけど大丈夫。先生褒めてたぞ」
トールとサイがその事を伝えるとキラは苦笑する。
「そ、そっか……うん。取り敢えず無事ってことが分かって良かったよ。それじゃミリィ、フレイ。エアリスさんを頼むよ。僕これからMSを調整しないとだし…」
「あ、キラ…」
「ちょっとキラ!…って行っちゃったわ」
「どうしたんだろうな…」
「まぁ…戦闘で疲れてるんだ。休ませてやろう。エアリスもずっと戦いっぱなしだったしちょうど良い機会だよ」
そう言い残し足早にキラは医務室から出ていってしまう。
キラのエアリスに対する煮えきらない態度を取っているその理由は…。
医務室の直ぐ傍の通路でキラは壁にもたれ掛かる。目を瞑りその目蓋の裏に思い出されるのは苦しそうに荒く息を吐くエアリスの姿だった。
(僕が…僕が弱いから…エアリスさんがあんな目にあってしまったんじゃないか…?)
大気圏突入の際、自機が活動限界ギリギリで戦闘を行い“デュエル”を撃退した際に"バスター"に隙を晒し“ダガー”に助けられたがその後飛んできた“デュエル”のミサイルが直撃し被弾してしまった…もっと上手く、強ければこんなことにはならなかった筈だ、と。
“強くならないと”…そんな想いが自分の意志を漆黒へと染め上げていっている事に自身で気付く由もなかった。
◆ ◆ ◆
低軌道会戦の後、母艦に無事到着し今度の作戦の為待機中となっているクルーゼ隊はプラント本国へ向けて一時帰路に着いていた。
「ここにいたんですねアスラン。」
パイロット控え室にて“イージス”の機体を見つめながら物思いに耽っていると声がして顔を上げた。そこには同じ隊のメンバーであるニコル・アマルフィがおり此方を見つけ嬉しそうな表情を浮かべている。
「先ほど連絡が来ました。イザーク達無事に地球に降下した、って」
「…そうか」
相づちを打ちながらアスランは別の事を考えていた。
地球の重力に引かれて落ちていったキラの事だ。
(アイツは…無事だろうか?)
イザーク達が無事に降下出来た、と言うことは同じスペックの機体に乗っている“ストライク”ならば無事に降下できているだろうことは想像に固くない、がそれはそれとしてどうしても心が落ち着かないのは物理的な距離と心の距離が離れてしまいアスランの目が届かなくなってしまった、と言うことだろう。
既にザフトでは“アークエンジェル”及び“ストライク”、そして新たに戦場で確認された“アストレイ・ゼロ”と呼ばれる機体、そして“ダガー”の降下予想地点は既に割り出されており此方の勢力圏にあるアフリカ北部にいることが判明している。
「帰投は未定、だそうです。ジブラルタルに住まいを間借り状態になりますね」
ニコルは安堵した様子で話を続けている。部隊内でイザークのいびりにディアッカが悪乗りする形で“臆病者”だとか“根性無し”と言う言葉を貰ってはいるものの素直に仲間が無事だと言うことに心から喜んでいる姿は非常に微笑ましく思えると同時に自分の隠し事をそのままにしていることに後ろめたさを覚えていた。
「でも…」
ニコルが話題を変えたがその表情は先ほどの笑みではなく悔しい思いが溢れていた。
「結局僕らはXナンバー最後の一機と敵の戦艦…そしてあの“ゴーグル付き”を奪取はおろか撃墜することは出来ませんでしたね…」
その事にアスランの顔が強張るのを知らずに話続ける。
「同性能機体四機を宛がってもあの戦艦と“ストライク”、そして“ダガー”を落とすことが出来なかった…戦艦の火力は確かに連合軍の艦艇にしては大したものだと思います。ですが無敵の戦艦と言うわけではありません。それをどうして逃亡を許してしまったのか…あの
確かに、と思う部分もあった。運…ジンクスとも言うがクルーゼ隊の攻撃を退けられたのはその構成分布も多いだろうがそれらを退けたのはあの“ゴーグル付き”…“ダガー”と言う機体が大きい。
へリオポリスからと言うものXナンバーをあしらいジンを多数撃墜するそれは異常だった。
ふと、思い返す。
『あの艦には…守りたい人達や友達…大切な人がいるんだ!!』
『<向こうでも元気でね>』
あの場所で通信が通じる場所と言えば僚機の通信位だった筈だ…あれに乗っていたのは女で確定している。
でなければプラント本国で“ダガー”のパイロットに与えられた二つ名、いや忌み名である【彗星の魔女】とは呼ばれているそんな奴がキラに…戦いを強要させている女が近くにいる。と言うことが脅威だった。
それほどの強者を相手に兵力の損耗を惜しむとしたら駐留部隊も深追いはしない…筈だ。
だが逆にそれ程の力早めに潰してしまおう、と考えるのなら?
「アスラン?聞いてました?」
会話をしていた最中に考え事をしてしまっていたアスランは目の前にニコルがいることに気が付かず後ずさる。
「…あ、ああ。いや、心配ないさ。この帰投も別の作戦に関することだろうし」
「あ、そうなんですね?久々に本国に帰れる、って考えると気分が軽くなりますね」
ニコルはホッとした表情で笑った。
その後ニコルが控え室を出ていった後暫く一人でアスランは苦い顔で考えていた。
彼の頭の中には地上に降りた同僚や敗北続きの件で先んじて召還された上司も、先ほど会話を続けていたニコルとの会話も頭に残っていない。
彼の頭の中には敵になってしまった友とその優しい友を扇動し戦場に駆り立てた“彗星の魔女”の事だけだった。
◆ ◆ ◆
アークエンジェルの格納庫にて
「マニュアルは昨夜見たけどなかなか楽しそうな機体だねぇ…俺は宅配屋かぁ?」
アークエンジェルのカタパルトデッキには流線型の機体がワイヤーで固定されている。
“スカイグラスパー”…“アークエンジェル”と“ストライク”、そして“ダガー”を支援する目的で作られた地上支援戦闘機で背面とウイングにはストライクと同じコネクターが設置されておりそのまま装備することが可能であるがもう一つの側面としてバッテリー駆動である機体への迅速なエネルギー補給を兼ねていた。が
ムウの言葉に整備長であるマードックが笑って答える。
「はは、大尉――じゃねえや
そう言ってマードックは格納庫のMSハンガーに納められている“アストレイ”が鎮座していた。
“スカイグラスパー”もムウがパイロットとして運用することになるだろう。
「まぁ、ねぇ…オーブが貸してくれるって言うしデータを渡さないといけないってのは癪だけどさぁ…つかこの状況下で階級上がってもなぁ…?」
軒並み全員の階級が上がったのはハルバートンがこれまでの戦績を鑑みて、の結果だ。
「給料上がるのいいけどさぁ…いつ使えんのよ?」
「平和になれば、じゃねえですか?それにガキどもは野戦任官ってことらしいですぜ?坊主は少尉、エアリスの嬢ちゃんは“中尉”ってことでさぁ」
「まぁ今までの功績考えるとそうなるわな…しかし十五歳で中尉か…このまま佐官になりそうな勢いね?」
ムウが「やれやれ」とぼやく。
「そういや聞きましたか?ガキどもの志願理由が“嬢ちゃんを一人にさせられない”って話ですが…そう考えると嬢ちゃんもやるせなくなっちまいますな…」
「ああ…」
その話を聞いてムウも同じことを思っていたのは大気圏突入の際“ダガー”のコックピットを殴り付け悲痛な想いを呟いているのを大人二人は聞いていたからだ。
コーディネイターであるキラと学友であるナチュラルの学友達…アークエンジェル内部で姦しくしている光景を見ているだけに彼女の気持ちが分かってしまうのだった。彼らを戦いに巻き込みたくなく遠ざけたかったのだと。
「まぁ、慕われているってことにしときましょうや。嬢ちゃんだってあの年で飛び級で学校卒業してずっと軍の開発施設に居たらしいじゃねぇですか。殺伐とした軍艦にはちょうど良い緩さでしょう?」
「ハイスクールの旅行気分じゃ困るんだけどなぁ…実際アイツら優秀だからなんとも言えないんだが…」
へリオポリスから乗っている彼女、彼らの能力は目を見張るものがある。
工学系のカレッジに通っているとは言え軍艦のシステムに戸惑うことなく扱っているのは異常だ、と。
「はっはっはっ、直ぐにイッパシの軍人になりまさぁ…そういや嬢ちゃんの熱は?」
マードックはムウに声を掛けて気分を変えた。
「まだ下がってないみたいで医務室で休んでる。でもまぁ機体がミサイルの直撃受けて亀裂が入ったって聞いたけど…近くに居た“ストライク”が咄嗟の機転で大気圏突入中に耐熱フィールド展開して…と。いやはやすごいねぇ坊主は」
ムウがキラを褒めるとマードックが茶化した。
「それは坊主も嬢ちゃんにホの字って奴ですよ。だからって訳じゃねーですが仲間が目の前で死にそうになったら必死にもなりまさぁ…機体はボロボロになっちまいましたが命が助かっただけ儲けもの…ですかね。」
そう言ってマードックの視線の先には半壊…いや大破した“シャドウストライカー”の残骸がコンテナに積まれていた。
そして“ダガー”も先の戦闘で背面のスラスターとコックピット回りが破損してしまい次の戦闘に出せない状況だ。
が、その被弾に見合った戦果を出している。
「提督救って避難民守って…頑張った嬢ちゃんの為に気合い入れて修理しまさぁ…機体が増えたお陰で嬢ちゃんの仕事も増えるんですがね?」
エアリスは技術士官とパイロットそして整備要員としても働くので病み上がりでもまた倒れてしまいそうだが。
ムウは機体の調整とマードックはMSの修理、スカイグラスパーの整備を始めるのだった。
(……これは?)
“夢”を見ている。自覚していた。これは“夢”だと。
自分の目の前に栗甘色の腰まである髪の長い幼い少女は長いテーブルの上に用意された食事を
本来であれば両親がいてにこやかにしている筈なのに。その表情は感情が薄く悲しさすら感じさせない。
食堂の燭台にある蝋燭の火すら寂しさを感じさせる。
『……』
家族の団らんである筈の食堂には幼い少女しか居ない。お行儀良くテーブルマナーを守りながらナイフとフォークを動かしている。
『………』
喋り掛ける人物も居なければ楽しくもない食事はただ少女に栄養を与えるだけの行為でしかないそれをひたすらに口へ運び終わらせようとする。
『…ごちそうさまでした。美味しかったですと伝えてください』
この食事を作ってくれたシェフへの感謝を伝えてくれと使用人に指示を出し食堂を後にする少女。
部屋に閉じ籠って彼女はひたすらに趣味である“知識”を吸収していく。その年齢では絶対に扱わない参考書や文献、学会の資料に数学書…と様々に。
不思議な光景だった。
自分が“自分”を見ている。目の前の少女の行為は
砂漠に佇む“大天使”を遠くから眺める男達がいた。
「どうかな?“大天使”の様子は?」
上官の問い掛けに赤外線スコープを覗き込んでいたザフト軍アフリカ駐留軍の兵士であるマーチン・ダコスタが顔を上げた。
「はっ!依然動きが見られません!」
仰いだ先には長身の体躯に軍服を着用し肌を日に焼けた野性味を溢れさせた男…この地の支配者であるザフト軍アンドリュー・バルトフェルドその人であった。
「“彼女”は未だスヤスヤ、か………んっ!?」
突如として上官が表情を変えたことにダコスタは「なにか!?」と問いかけたが満足げな笑みと返ってきた言葉はどうでも良いものだった。
「いや、今回モカマタリを5パーセント減らしてみたんだが…こいつは良いな!」
どうやら密かな趣味であるコーヒーのブレンドで作った味がお気に召したことの報告だったらしくダコスタはがっくりと肩を落とす。そんな部下の想いを知らずにバルトフェルドは上機嫌だ。
「うーん、今度はシバモカ辺りで試してみるとするかな…」
飲み終えたカップをダコスタに手渡して砂丘を下っていくとその麓に岩のように動かない機影とヘリコプター等の航空機、その周辺を動き回る軍服を来た男達が居た。
バルトフェルドが来たことを確認すると男達は素早く整列し彼らの隊長が口を開いた。
「それではこれより地球連合軍新造艦“アークエンジェル”に対する作戦を開始する!」
声は張っているものの口調は何処か無造作である。
「目的は敵艦及び搭載モビルスーツの戦力評価である」
「倒しては行けないのでありますかぁ?」
部下の一人がニヤニヤしながらそう告げると伝播するように周りの部下もニヤついたのを確認しバルトフェルドは少し考えた。
「まぁその時はその時だが…ただあれは
付け加えられた一言を聞いて一段とやる気が満ち溢れる部下を見てバルトフェルドは不敵な笑みを浮かべる。
「では諸君の健闘を祈る」
「総員搭乗!」
ダコスタの指示が飛び兵士達は自らの搭乗機体に向かうと同時に指揮車にバルトフェルドとダコスタが搭乗する。
呑気そうに見えた男の瞳にギラリ、と危ない光が宿る。
「さぁ…戦争をしに行くぞ!」
◆ ◆ ◆
「う、うぅん……」
エアリスは閉じていた目蓋が開き碧眼が露になり体をむくり、と起き上がらせると体に掛かる重力を感じた。
「あれ、なんで私寝てるんだろう…?」
ここは、何処だろう……場所はアークエンジェルの医務室のようだがなぜこんな場所に?と起き上がったばかりで纏まらない思考を纏め上げようとしているがなかなか纏まらずにボーッとしてしまう。
「…確か私、大気圏突入の際に“ダガー”で発進して戦って……あの後どうなった?」
それとさっきまで“夢”を見ていたような…思い出せない。まるで朝方の靄の様だ…と思っていると医務室にいる理由を思い出した。
「そうだ、私…シャトルを守って…!シャトルは……!」
エアリスはベッドの直ぐ近くにある艦内ネットワークの端末を起動させ直前の戦闘ログを確認する。
「良かった…無事みたいだ…」
“メネラオス”が降下させた避難民を乗せたシャトルは無事に降下したようで安堵した…と同時に自分が攻撃を受け大気圏に突入したことを思い出しハッとなって自らの身体を見た。あの身を焼かれるような灼熱のコックピットの内部にいたのだ最悪死んでいても可笑しくないのに生きている…身体の一部が失くなっていても不思議なことではないがそれを受け入れることは別だ。
恐る恐るシーツの下や病院着の下を見てみる。
「…五体満足だ」
四肢はあるし何処も怪我をしていない鏡を見ても人形のような顔も傷ついていないし病院着を捲って視線を向けると大きくて邪魔な
腹部も白い肌が覗かせ傷跡もない…外科手術を施術された様子もなく安心した。
腕には点滴が繋がれており恐らくは大気圏突入の際に機体に熱が籠って熱中症のようになってしまったその治療をしていたのだな、と他人事のように思っていた。
が、それよりも意識を失っている最中に見た夢の事が思い出せなかった。何かを見ていた筈なのだが…
「………なんだったん…ッ!!」
言葉を言い切る前にその放送を聞いて“ここが砂漠なのだ”とエアリスは自覚する。
<総員第二戦闘配備発令!繰り返す、総員第二戦闘配備発令!>
突然の警報が鳴り響き兵士達は持ち場に着く。それを聞いた睡眠を取っていたマリューやムウが急いで身支度を整え飛び起きて来ていた。
それと同時に今医務室には自分しかいない。咎める者はおらず身体は少し怠いが戦えないわけではない。
ベッドから降りてエアリスはロッカールームへ急いだ。
◆ ◆ ◆
一方でキラも宛がわれた士官室から飛び出してロッカールームへ駆け出す。
彼の怯えたような表情は一瞬にして捕食者のような表情に変わってその瞳に鋭いものを宿していた。
砂丘の向こうから多数のミサイルが接近し“イーゲルシュテルン”で迎撃すると艦内に鈍く爆音が響き渡る。
右舷のカタパルトデッキではムウが“アストレイ”に向かうのを確認しながらパイロットスーツに着替えたキラが重力にもどかしく思いながら“ストライク”に搭乗して通信回線を開くと艦橋でのやり取りを聞いて通信を繋げる。
「敵は何処ですか!?“ストライク”発進許可を!」
<キラ?待って未だーーー>
ミリアリアが驚いた声を上げるがもどかしい、と思いながらハッチを閉めヘルメットのバイザーを下ろす。
「このままじゃなぶり殺しですよ!…このままじゃ!」
苛立つキラを宥めるクルー達だったが実際にどのくらいの勢力が此方を狙っているのかも分からず波状攻撃を受け続ければジリ貧になるのは確実だった。
<…言う通り出て貰う他ないわ。此方の攻撃オプションでは小回りが効かない。発進させて!>
ハッチが解放されてカタパルトへ誘導される。背面には“ランチャーストライカー”が装備されキラはカタパルト野上で身構えるとナタルから通信が入る。
<“ストライク”敵戦闘ヘリを排除せよ。重力があることを忘れるな!>
「了解!キラ・ヤマト。“ガンダム”行きますッ!」
リニアカタパルトが“ストライク”を打ち出す。ナタルに言われていたにも関わらず急速に近づく地表に戸惑う。
「くっ…!?」
着地するがサラサラと流れる微細な砂が“ストライク”の足場を崩し体勢が定まらない。
ソコへ砂丘の向こうから戦闘ヘリが現れて咄嗟に迎撃行動に移ろうと立ち上がり掛けたが再び細かな砂地に足を取られてバランスを崩し“ストライク”の装甲にミサイルが直撃し機体を揺らす。
「このぉ!!」
腰に構えた超高インパルス砲“アグニ”を素早く戦闘ヘリへ向けるが砂の丘へ消えてしまう。発射の際に再び砂が流動し発射体勢を保つことが出来ない!
キラは顔を歪め舌打ちし“ストライク”は上空へ飛翔するためにスラスターを吹かしヘリの後を追うが地球の重力内では機体を飛び続けさせるほどの推力はなく直ぐに着地してしまう。そして再び砂の斜面を麓まで滑り落ちてしまう状況にキラはもどかしく唇を噛む…と同時に敵機接近を知らせるアラートが鳴り響く。砂の丘の向こうから黒い影が躍り出た。
無限軌道を駆動させ砂の上を疾走し宙に浮いた機体は直ぐ様四足歩行へ変更し地表を蹴って此方へ近づく。
「…ッ!?モビルスーツ?」
接近するその機体はザフト軍モビルスーツ“バクゥ”だった。その機体は悪路を走破するための装備が備え付けられこの“砂漠”において王者と呼ぶに相応しい性能を備えていた。
実際に今の“ストライク”は不安定な足場に苦労し懸命に取り回しの悪い“アグニ”の照準を定めようとするが“バクゥ”に蹴り付けられて体勢を崩しキャタピラで接近するもう一機の“バクゥ”がミサイルを放った。
蹂躙される”ストライク”を見ながらCICにいるナタルがギリッと歯噛みした。
「“スレッジハマー”撃て!」
「“ストライク”に当たります!」
ナタルの指示にトノムラがぎょっとするがナタルはピシャリと言い放った。
「あれにはPS装甲がある!」
「しかし!」
「あれではどうにもならん!」
ナタルの言葉にクルーも同意する部分があった。このままではストライクが落とされる可能性すらある。
だが、この状況ではどうにもなら無い事をクルーの全員が理解しておりそれを聞いたトノムラは断腸の思いでミサイル発射のボタンを躊躇いがちに押した。内心で戦っているキラに謝罪しながら。
「キラ!避けて!」
次の瞬間に“ストライク”の周辺に向けて“スレッジハマー”が発射された。
が、ソレを確認した“バクゥ”の集団が離れていき地面にミサイルが着弾、砂埃を巻き上げ視界を覆った。
「うわぁああああああっ!?」
そしてその一発が“ストライク”に直撃しコックピットを揺らす。
シートベルトで身体を固定している筈なのにその衝撃でキラの頭がコンソールにぶつかり呻きながら頭を押さえ正面を睨み付けるように見据えると“バクゥ”は嘲笑うように挑発しているようにすら見えた。
「くそぉっ!!」
“バクゥ”が背面のミサイルランチャーからミサイルを発射すると体勢を整えた“ストライク”が飛翔し肩部ガンランチャーを発射、しかし既に回避され逆に着地のタイミングを狙われ攻撃をされたキラは仕方なく再び機体を飛翔させ別の場所に着地させた。端から見れば攻撃を避け続けているようにすら思われるだろうがソレは違った。
飛翔から着地までの瞬間にキラはあり得ない速度でキーボードを叩いていた。
「接地圧が逃げるんなら合わせりゃ良いんだろ!!………逃げる圧力を想定し、摩擦係数はマイナス十五に設定………ちっ!未だダメかっ。ならマイナス二十に修正っ!」
“ストライク”が着地した瞬間に“バクゥ”がその隙を突いて仕留めようと接近する…がその相手は体勢を崩さなかったのだ。
キラはモニターを睨み付けペダルを押し込み機体が深く沈み込んで回避、襲いかかってきた“バクゥ”は“ストライク”から回し蹴りを喰らって地面へ仰向けに倒れ込むともう一機が襲いかかるがアグニの銃床でカウンター気味に殴り返し倒れたところを銃口をコックピットに突きつける。
次の瞬間破壊された機体の爆発が砂の海をあかあかと照らし出す。
倒した“バクゥ”から目を離し未だに健在な敵機を穏やかな表情から一変し底冷えするような瞳で敵を見つめる。
「“アークエンジェル”と…エアリスさんをやらせはしない…!」
キラが“バクゥ”を一機倒したその直後艦橋でチャンドラが報告した。
「南西より艦砲射撃!」
「離床!緊急回避!」
マリューが素早く命じると艦が離床すると着弾する鼻先にイーゲルシュテルンが迎撃に成功し艦体が揺さぶれる。
グラグラ、と揺さぶられる艦橋にてマリューとナタルがアームレストにしがみつきながら叫んだ。
「何処からだ!?」
「南西二十キロと推定!」
「本艦の装備では対応できません!」
サイの報告にトノムラが反応し純然たる事実を告げた。Nジャマーでレーダーが阻害され誘導兵器は使えない。
ナタルは悔しそうに唇を噛もうとする、その時だった。
<スカイグラスパー出るぞ!>
ムウからの通信に驚くマリューだったがソレを無視しながら告げる。
<俺が出撃して敵艦にレーザーデジネーターを打ち込む!ソレを目標にミサイルを撃ち込め!>
「そんな!今から索敵しても間に合いません!」
<やるしかねぇだろうが!俺が戻るまで墜ちるなよっ!>
反論するナタルを苛立った語気で封殺し発進するスカイグラスパーを見送るしかなかった。
その直後艦橋に声が響く。
「第二波接近!来ます!」
「回避ッ!総員衝撃に備えよ!!」
◆ ◆ ◆
「──“アークエンジェル”が…ッ!!」
その事に気が付いたキラはアークエンジェルの方向を見る。
彼の脳内に浮かぶのは機体の制御を失い頭から墜ちていく“ダガー”、そして医務室で魘されている“エアリス”の姿が過る。
彼女は…僕が……!!
その瞬間、キラの遺伝子に刻まれた<
次の瞬間地面に向けて肩部ガンランチャーを発射し砂を巻き上げ煙幕としてスラスターを吹かせるキラは飛び込んできた“バクゥ”を右のマニュピレーターを拳にして殴り付け“アークエンジェル”に接近する艦砲射撃の射線の前に放り出した。
次の瞬間そのミサイルが直撃し機体を爆散させたのを気にもせずにアグニを構え接近するミサイル群の弾道が被ったその瞬間にトリガーを引き絞った。
次の瞬間赤と白の荷電粒子が狙った艦砲射撃を全て叩き落とす。その神業めいた光景に驚く敵味方がいたがそんなことはキラには関係ない。“ストライク”のコックピット内部ではキラが殺気の籠った表情で呟いた。今彼の心を支配するのは────。
「────彼女を傷付けさせはしない………!」
そう決意するキラは迫る“バクゥ”へ高エネルギー砲を向ける。
が、次の瞬間警告音が鳴り始めた。ランチャーを撃ちすぎた、攻撃を受けすぎたせいで機体駆動以外の攻撃リソースのバッテリーゲージがレッドゾーンに突入していたのだ。
「“アグニ”を使いすぎたッ…くそっ!」
キラの視界には攻撃ヘリ多数に未だモビルスーツは三機もいる。この残りエネルギーではとてもではないが戦えないし逃げるのも容易ではない。
今まさにミサイルが殺到し迎撃するためにイーゲルシュテルンとガンランチャーを発射するが全弾を打ち落とすことは出来ずに少ないエネルギーが更にごりごりと削られていくことにキラは焦った。
──こんなところで──死ぬわけには行かないっ!
が、その憤怒も無情にも頭上からミサイルが降り注ぐ。
咄嗟に防御の姿勢を取る“ストライク”はPS装甲が切れてしまえば撃墜されてしまうことは明白だった。
キラは身構えた…が。
「―――えっ?」
次の瞬間、攻撃ヘリが緑色の光条に貫かれ撃墜される、続けざまにヘリが、“バクゥ”が撃ち抜かれていく。
その攻撃の先を見るとソコには“アークエンジェル”甲板にてビームスナイパーライフルを膝立ちで構えセンサーリンクを覗き込む“アストレイ・グレーフレーム”がソコにいたのだ。
驚くキラ、それと同時に地上からもたらされた火線によって“ストライク”を囲んでいた戦闘ヘリが撃墜された。
その正体は砂丘の向こうから現れたバギー…歩兵用のランチャーを持って続々と榴弾を浴びせ始めるその光景を見て
“アストレイ”のコックピットに座る人物は一息吐いた。
「危なかった…」
◆ ◆ ◆
「撤収する。この戦闘での目的は果たした。残存部隊を纏めあげろ」
一夜にして五機の“バクゥ”が失われたことにダコスタは呆然としていたがバルトフェルドはそんな素振りを見せずに副官に撤収指示を出す。
「しかし、あのパイロット…」
彼はこのバギーから敵を見ていた。
初めは砂に足を取られて無様に動くことしか出来なかったのに戦闘の際中に突如俊敏な動きになっていた。
あれは戦闘中にプログラムを書き換えたのだ、五機を相手取りながら。そして発射された艦砲射撃を一瞬で打ち落としたそれを見て呟く。
「あれがナチュラルの仕業、だと?」
冷静であっても出来るか分からない離れ技をやって見せた、と思えばエネルギーギリギリまでそれに気づかずに戦い続けたことにバルトフェルドは「奇妙な奴だ」と笑みを見せた。
「いずれにせよ、久々に手応えのある相手のようだ…」
ソレに、最後に出てきた機体はクルーゼ隊が宇宙で遭遇したという機体に良く似ていた。
あの高速で動く“バクゥ”を一発で仕留める射撃技術…何者なのだろうか?
そのグレー色の機体のパイロットもバルトフェルドは気になったのだった。
◆ ◆ ◆
“アークエンジェル”は危機を脱した“ストライク”の無事な姿に一同が安堵していた。
そのときミリアリアにムウからのレーザー通信が届いた。
「フラガ少佐より入電!<敵艦艇確認するも攻撃を断念、敵母艦は“レセップス”!>」
電文を読み上げるとマリューは驚いた声を上げる。
「“レセップス”!?」
「─<繰り返す!敵母艦は“レセップス”これより帰投する>です!」
マリューの顔に深刻そうな表情が浮かぶとナタルがそれに気が付いて問いかける。
「“レセップス”とは?」
「“レセップス”…アンドリュー・バルトフェルドの母艦よ。…敵は“砂漠の虎”ということになるわね。」
その夜明け前の砂漠の空を見つめるマリュー。その先を見通せない暗闇を見つめているようだった。