魔改造ダガーでC.E世界を駆け抜けたい【完結】 作:萩月輝夜
紅に染まる海
地球のとある場所。その一室にて。
一人の男性が報告を受け興味無さそうに受け取った。
「ふーん…”アークエンジェル”と”ストライク”…そして”ダガー”が無事に第八艦隊に合流したんだ。其れにしても連中”へリオポリス”を破壊するか…やっぱり連中は野蛮だねぇ…」
秘書官から受け取った書類に目を通す男性…その名はムルタ・アズラエル。地球連合の母体とも言える【ブルーコスモス】の盟主であり若くして地球の財閥のトップを務めており入ってくる情報は有用であると判断したものは必ず目を通すようにしていた。
「送られてきているデータで一応の量産化の目処は立っているけど生のデータが欲しいところではある…まぁ”連中”が搭乗する
デスクの上には様々なシルエットが見えるモビルスーツが写っている。
一応受け取り目を通すと
「せっかく作ったXナンバーもコーディネイターに乗られちゃ意味ないでしょ…んでこっちの”ダガー”は……?」
データファイルをスライドしている”ダガー”の情報が記載されていた。
Xナンバー開発の際に戦艦が搭載しているビーム兵器を縮小携行させて戦場でどれ程運用できるのかを確認するための機体でそのテストが終わった後局地戦のデータ収集の為特殊部隊へ送られる筈だった…のだがなぜかそのままで”アークエンジェル”で運用されてしまったらしい…が男性は「まぁそう言うこともあるか」と呟きその戦績を見て間の抜けた声を出してしまった。
「は……………?なん…だ、これ…?」
ソコに記載されていたのは”へリオポリス”から第八艦隊合流までの戦績…撃墜数に使用した各種ストライカーパックの運用データ…どれもこれも”短期間で残せるものでなかった”のだ。
「おいおいおい…!これはどう言うことだ?此方もコーディネイターが乗ってるのか…?!」
残った”ダガー”もコーディネイターに運用され結局は”僕たちじゃコーディネイターに勝てない”と突きつけられたような感じがした男性は胸の怒りを抑えつつ何故かある
「え、あ、は…?」
ソコで繰り広げられるのは”ダガー”が”ジン”を一方的な蹂躙…所謂”無双プレイ”している様子が移っており男性は食い入るように見つめていた。
「はぁ!?今の機動で二機落とした!?どうなってるんだこれは!!一体誰が乗っている!?」
映像を確認しながら”ダガー”のパイロットデータを確認するためにデータベースを高速でスクロールしその項目を見て唖然とした。
「な、ナチュラルだって…?!はぁ!?この無茶苦茶な機動をしてるのに乗ってるのがナチュラルなのか…?」
映像には”ダガー”の腰椎部に増設されたテールブースター…それを吹かし一気に戦線に突入する姿が映し出されあからさまに人間の身体を無視した挙動を見せていた。その後普通にジン六機を相手に立ち回り奪われた”イージス”と互角以上に渡り合っているのを。
それは”ナチュラル”が”コーディネイター”を圧倒していることの”事実”だった。
データベースの詳細を確認した男性の眼と手が止まる。
「…エアリス・A・レインズブーケ…レインズブーケ?…って先生の娘さん?」
その名前を見つけ男性は一瞬誰だ…?と”レインズ”の名前と写真を見てハッとなる。
アズラエルが未だ若い…といっても二十代の時に大西洋連邦の要職に着いているレインズ家へ訪問したその際に幼い頃の”エアリス”の面倒を何度か見たことがあったのだ。あの小さいながらに大人びた嬢さんがモビルスーツに乗っているとは…と感慨深くなった。同時に”才能”があると感じていた。舌ったらずに話す子供だったがそのときに既にハイスクールの授業内容までは理解していたのが恐ろしい。
「随分と大きくなったようですねぇ…最近涙もろくなったのは年のせい…いやいやまだ僕は若いですから」
ぼそり、呟き否定した。
その後何十年と会うことはなかったが知り合い経由で十五歳ながら飛び級で大学を卒業博士号を取って地球連合の装備開発局に勧誘を受けた…と聞いていた。
Xナンバーが装備するビーム兵器の携帯縮小技術も彼女の実績の一部だ、とは聞いていたがまさか…。
データベースに写る写真は幼い頃から美しく成長したようだ。頭は良かった筈だがデータを見る限り身体は華奢であの高機動に耐えられるとは思わなかった。
が、実際に”ダガー”のパイロットである彼女は乗り回し”コーディネイター”を圧倒している。
彼女の父親は自分の恩師でもあり、ある意味で並外れた才能を持っていたので血筋だな、と感じた。
『
恩師の言葉が再生された。何かにつけて彼はスシで例えてくるのは可笑しいのだが。
「…先生が言ったことは道理でしたね」
パーソナルデータを見ながらアズラエルはほくそ笑む。
遺伝子調整されたコーディネイターがナチュラルであるエアリスに蹂躙されているのが証拠だ。
ナチュラルである、と言う事がアズラエルの自負を更に高まらせた。
彼女という”天才”を乗せた”アークエンジェル”が降下予定であるアラスカへ到着次第盛大に出迎えようと考えた男性は軍本部へ確認を取ろうとするが先ほどまでの笑い声は何処へやら、悲鳴に変わった。
「な、なにぃ!?”アークエンジェル”が”アフリカ北部”へ降下しただと…!?」
軍にコネがある男性はその事を知らされて絶望の表情に変わったがただでは転ばない。いやこれを
「…少し取り乱しましたが彼女ほどの実力があるのならアフリカを抜けられるでしょう。新造戦艦と《エンデュミオンの鷹》もいらっしゃるようですし……となると通るルートは紅海を通ってオーブ近海か?であれば丁度良い。彼女には
”JOSH-A”へ向かう”アークエンジェル”を支援するためにアズラエルは自らが持つネットワークを使いアフリカの協力者と連絡を取って航海に必須な装備と補給品を手渡すように指示を出し彼女が無事に到着できるように手配をし始めた。それはオーブへと及んだ。
「しかし、サザーランド大佐は本当に”アークエンジェル”へ増援と補給を寄越すつもりはないようですね。何を考えているのやら…」
◆ ◆ ◆
「艦長、紅海に出ます…!」
操縦席に座るノイマンが告げると砂漠の岩山地帯を抜けて行くとブリッジの眼前に青い海原が広がった。
その光景にブリッジにいるクルー達が歓声を上げた。
白亜の大天使が海面に平行するように航行すると海面からイルカの群れが飛び上がり船出を見送っているかのような光景だった。
「入れ替わりでならデッキに出る許可を出します、と伝えてちょうだい」
マリューが指示を出すと緩んだ空気が流れたがナタルが厳しい声を出した。
『マードック曹長。ソナーの準備はどうなっているか?』
「今やってまさぁ…坊主と嬢ちゃんが調整中です」
『急げよ?…其れと自分よりも階級が上の人間に坊主と嬢ちゃんというのはどうかと思うが?』
そう言われマードックは「うげぇ…」と言った表情を浮かべたが…?
『まぁこの艦内だけなら良いだろう…気を付けてくれ』
『へっ?あ、了解でさぁ…』
予想外の返答にマードックは思わずムウを見て肩を竦めた。
「あの軍規にうるさい副長が…悪いことでも起こるんじゃねーか?ああ。坊主、嬢ちゃん。急げって副長が」
「無茶言わないでくださいよ…これザフトのものですよ?」
「規格が違いすぎますよこれ…これどうやって合わせるんです?」
そう言ってエアリスは
「捕虜に頼む仕事かね?僕はデッキに出てコーヒーを嗜みたいんだが…?」
「”働からざるもの食うべからず”です。アンドリュー・バルトフェルド」
「良いじゃないアンディ。この船とは一蓮托生よ?これが墜ちたら私たち死んじゃうわ」
「ほら、アイシャさんもこう言っていますし…」
「全く、良い性格してるね君は…」
ソコには捕虜用の衣服に着替えたバルトフェルドとクスクスと笑うアイシャがソコにいた。
ザフトの物資集積所からアフリカを脱出する際に航海で必須になる装備と物資をありったけ詰め込んできたのだ。
その物資の中にあったソナーを調整するための仕事を捕虜である二人に頼んでいた。
艦内を拘束なしで歩き回らせることにナタルは猛反対したがエアリスが交渉し今現在に至る…が捕虜にした際に「明けの砂漠」と揉めそうになったが
「これが終わったら監視付きですけど甲板でコーヒーでも日光浴でもして貰って大丈夫ですから。お茶菓子も用意してるので」
そう告げると二人は「仕方がない」と言った笑みを浮かべ調整を手伝ってくれたのだった。
◆ ◆ ◆
「…」
ソナーを調整しバルトフェルド達を見張らせるための引き継ぎと話した後格納庫に戻ったエアリスはストライカーパックのメンテナンスを終えて甲板へ出ていた。
本来であれば空調の効いている自室へ向かおうと思ったが先の砂漠での一戦を思い出して引き返したのだ。
(キラ君…デュエルに対してあんな攻撃を…)
戦闘での執拗な”デュエル”への攻撃…両腕を破壊し背後からのアーマーシュナイダーを突き立て『殺してやる』と言わんばかりの対応をログを見て確認していたのだがあの行動はバルトフェルドから言われた”狂戦士”と呼ぶに相応しいものだった。
(…私がキラ君を遠ざければこんなことにもならなかった筈なのに…どうして)
甲板へ続く扉を開く前にそんなことを思うエアリスのノブを握る手に力が入る。
私にもっと力があれば彼をこんな事に巻き込まなくても済んだのではないのか?と考えてしまう。
「暑い…あ、」
そこには甲板に体育座りで膝を抱え一人泣いているキラを見つけた。
◆ ◆ ◆
ミリアリア達が立ち去った後、誰もいない甲板に足を踏み入れると強烈な日差しで思わず目をすがめた。
赤道が近いからか日差しは強いが海から吹き付ける潮風が心地が良く丁度暖められた甲板に腰かける。
ーなら、どうやって勝ち負けを決める?どこで終わりにすれば良い?
ーどうせならいっそのこと両方とも滅んでくれた方が良いかもしれませんね?
あの場での会話を思いだしギュッと膝を抱えた。
ーデュエル……お前だけは…!!
低軌道会戦、そして砂漠での戦い…と奪われた”デュエル”に対して明確な殺意を覚えエアリスから止められなければ確実に”殺していた”だろう。
手にしたナイフを容赦無く突き刺そうとして自分の行動に思わず膝ががくがく、と震えて耐えきれなくなって膝へ自分の顔を埋めた。恐ろしくなってしまったのだ敵に向ける”殺意”が日常と化していることに。
変わっていく自分に驚くと同時に怖くなり涙が溢れてぽろぽろ、と甲板と膝を濡らした。
「うぅ…うわぁ…ッ!」
ーキラ君は戦わなくても良いんだよ?私が頑張るから
ーキャアアアアアアアッ!!
「…ッ!!」
キラの脳内に少女の悲鳴がこびりつく。
自分を大切にしてくれる少し年上の異性…種族を越えて手を取り合おうとする彼女を失ったらこの世界はどうなるのだろうか?と心の片隅に思っていたことが先の事を燃料として再燃し始める。
彼女のような認識を持っている人間は他にもいるだろう…が、キラという少年の世界には特別に異彩を放っていた。
もし、彼女が失われたら…?
世界は無秩序に殺しあいを許容する世界になるのではないか?種族が違うと言う理由で暴力を振りかざすことを由とする…そんな最悪な想像が過り膝を掴む力が強くなっていくキラは頭の中では彼女は弱くない、あの砂漠での戦闘を見せつけられればコーディネイターであるとも間違われても仕方がなかったのは実際に敵の指揮官も言っていた、と。
自分や彼女が戦わなくて済むようになるのは敵を殺し尽くして死体の山を築き上げ勝者になるしか無いのか…?
背中を丸めて縮こまったキラの背後からドアが開く音がした。キラは慌てて立ち上がり手すりの方へ向かおうとするがそんな彼の背後から聞きなれた声が掛けられた。
「キラ君?」
◆ ◆ ◆
「ああ、甲板に出てたんだ」
つかつかと近づき手すりにいるキラの横へ並んで立ち海を見つめる。キラの肩を亜麻色の髪が撫で付け乱れる髪を耳にかきあげた。
「ふぅ…暑いけど海風が気持ちいいね……」
暫く海を眺めていると不意にボソり、と呟いた。
「…あ、もしかして泣いてた…の?」
「…ッ」
「あっ、ちょっと待ってよキラ君」
躊躇いがちに放たれた言葉にキラは恥ずかしくなって顔を真っ赤にしてその場から立ち去ろうとしたが手をとられてしまいその場からは逃げ出すことが出来なくなった。
「…なんですか」
「ちょっと屈んで?」
「え?」
「屈んでっ」
そう言われその行動以外にこの場から逃げ出す方法が無いためにキラは訝しげながら身を少し屈めると想像だにしていない事を行われ頭が真っ白になった。
「よしよし…キラ君は頑張ってる…頑張ってるよー…」
エアリスは両手で屈んでいる頭ごと引き寄せキラの身体に回して抱き締めたのだ。
「…え?…わぷッ?!」
突然の事にキラは身を捩ろうとするがエアリスに阻止されてしまった。
思春期の少年の顔に士官服越しでも分かる双丘を押し当てられて柔らかいもので呼吸困難と困惑、動揺するが其れよりもここから抜け出さなければ、となったが…。
「逃げないっ…はい深呼吸して…目蓋を閉じて…落ち着かせて…草原の真ん中で風を感じているみたいに…」
「…………」
逃げようとするキラの頭を押さえつけ更に柔らかいものが当たり思考を奪う。
そしてキラの思考は穏やかなモノへと変わっていた。
「……(眠くなって…きた…)」
トントン、と背中を叩かれ思考が鈍っていく。
その柔らかさと甘さに身を委ねていると不思議と幼い頃の記憶が思い出された。まるでそれは
キラは自分の中に歪み軋んでいたナニかが静まっていくのを感じ取った。
「…落ち着いた?」
どれくらい時間が経過したのか分からなかったが目を開けると此方を見上げるエアリスが柔らかい笑みを浮かべ見つめていた。
「あ、は、はい…あっ、離れないと…」
「ううん…このままで良いよ」
密着しているのにも関わらずエアリスは平気な顔をしてキラを抱き締めたまま考える素振りを見せて口を開いた
「…砂漠での事を考えてた?」
「ッ……はい」
自分が思い詰めていたことを言い当てられて驚くキラだったがエアリスは人の機微に疎いくせにこう言うことには鋭いのは少し複雑ではあった。
「…戦うことを選んだのなら誰かを恨んだり恨まれたりするのは仕方ない。私たちの平和ってのは誰かの犠牲の上に成り立っている。それを忘れないようにしながら戦うのが戦って生き残った者の”責任”だよ。君は戦うことを選んだ…仕方の無いことだよ。分かるでしょ?」
「……。」
キラは黙って聞いて躊躇いがちに頷いた。
「お父様が昔、言ったことがあってね。『自分の自由は他人の不自由だ。』って。自由を勝ち取るために他人を不幸にするのは人間の原理…戦争ってのは意見のぶつかり合い…”自由の押し付け”って私は思うよ。だからキラ君が”デュエル”に対して怒りを見せるのは自分の”自由”が侵害されたって考えたからでしょ?反撃するのは仕方ない」
「”自由の押し付け”…意見を通す…ッでも僕は」
叫ぼうとするキラを抱き締めるエアリスは告げる。
「…私が宇宙で”デュエル”に撃墜され掛けたからあの時怒ってくれた。あまりこんなこと言いたくないけどキラ君少し私に過保護過ぎるよ?」
「いや、それは…」
僕にとって貴方は”大切な存在”だから、と告げようとしたがエアリスに少し恥ずかしそうにはにかんで言葉を阻まれてしまった。
「でも、キラ君が私を守ってくれるのは嬉しいよ。…ありがとう。無茶はしないで」
キラはエアリスの言葉に少し落ち込んだ。
(貴方は…『自分を守ってくれ』とは言ってくれないんですね…僕は…貴方に守られている…今も…!)
守るべき存在に守られていることにキラは思わず拳を握りしめてしまった。
◆ ◆ ◆
「お願いします隊長!
宇宙からザフトの地上拠点であるジブラルタル基地へ無事降下し制服へ着替えたアスランとニコルはブリーフィングルームへ足を踏み入れるとそこには先に向かっていたクルーゼとイザーク…そのイザークがクルーゼへ食って掛かるように懇願している様子に驚いて思わず足を止めてしまった。
「落ち着けイザーク。傷に触るぞ?」
クルーゼがやんわりと宥めていたがそれよりもアスランはイザークの顔半分を覆う包帯の存在に衝撃を受けた。
「イザーク、その傷は…どうしたんだ…!?」
「先の砂漠での戦闘で”ストライク”と交戦して負傷した。本来ならば安静にしていなければならないのだがね…見ての通り戦意が高まっている。このままベッドに寝かせていても看護婦を殴り付けそうな勢いなものでね。こうしてここにいるという訳だ」
そうクルーゼに補足され気まずそうに顔を背けるイザーク。説明した彼らの隊長も呆れたような表情を浮かべているようにも見えるが仮面を着けているため窺い知ることは出来なかったが声色で判別が着いた。
「なに、命には別状無い。”ストライク”と”ゴーグル付き”を討つまでは休みたくないそうだしな」
イザークから発せられる”覚悟”に思わずアスランは息を飲んだ。
「さて、『足つき』がデータを持ってアラスカ入りするのはなんとしても阻止しなくてはならない」
クルーゼは続けた。
「が、既にそれはカーペンタリアのモラシム隊長の任務となっている」
上官の言葉、というよりも軍本部からの指示に噛みついた。
「我々の仕事です!隊長!
「私も同じ気持ちです!隊長!」
いつもは熱くなった面を見せないクールな少年であるディアッカも声を揃えて意思表明をする同じ隊のメンバーにニコルが驚いたような表情を見せると顔をしかめる。
「…俺もさんざんアイツに屈辱を味わわされたんだよ」
二人の言葉を受けてクルーゼは
「…ふむ。”スピットブレイク”の準備もあるため私は動くことは出来ないが…そこまで言うのなら君たちだけでやってみるかね?」
そう告げるとイザークは勇んで「はい!」と答えた。
「で、あればイザーク、ディアッカ、ニコル、アスランで隊を結成し、隊の指揮は…そうだな」
クルーゼが突如として振り返ってアスランを見た。
「指揮はアスランに任せよう」
「ーえ?」
「カーペンタリアで母艦を受領できるように手配しておく。直ちに準備にかかれ」
「隊長…私が、ですか?」
「色々と因縁のある艦だ…難しいと思うが君たちならば出来ると私は信じている。ーアスラン、以上だ」
「ー了解しました」
そう言われてアスランは上官の命令に背くわけには行かず敬礼し受け入れた。
が、実際に下に付くイザークとディアッカは面白くないのか。
「ふん、『ザラ隊』ね…」
ディアッカは鼻で笑った。
「ふん!お手並み拝見と行こうじゃないか…ザラ隊長?」
イザークが憎々しく吐き捨てアスランを睨み付けてディアッカと共に荒々しく部屋を出ていく。ニコルとアスランが退出しようとすると呼び止められる。
「アスランは残れ。まだ伝えることがある。」
「分かりました。アスラン…いや
ニコルは笑って二人の後を追いかけるように部屋を退出した。
部屋にはアスランとクルーゼだけがいる。
「”ストライク”と”ゴーグル付き”…ミゲルやゼルマン、そしてバルトフェルド隊長も既に敗れた…この意味が分かるかね?」
「…ッ」
「次、”ストライク”と”ゴーグル付き”…本気を出して撃たねばやられるのは君か…それとも部下になった彼らかもしれんぞ?アスラン」
アスランはギクリとして足を止める。その様子を見ながらクルーゼは仮面の下で酷薄とも言える笑みを浮かべていた。
◆ ◆ ◆
「…たしかまだ赤道連合は中立の筈だが」
”アークエンジェル”の艦橋ではキサカがマリュー達と共にモニターの前で航路の再検討を行っていた。
「しかし…呆れたものだ。連合軍もアラスカに自力で来い、と言っておいて補給の一つも寄越さないとは」
痛いところを突かれてマリューは苦い顔を浮かべる。
総司令部は援軍どころか補給部隊も送ってくれないのはこの”アークエンジェル”と”ストライク”、”ダガー”の存在を重要視していないのではないのか?とハルバートンとの会話をしているときにも薄々感じていた。
現場の切実な願いを叶えるために作られた戦艦とモビルスーツ…それを軍上層部は未だにその重要性を認識していないのだろうか…。
「戦闘は極力避けた方が良いだろうねぇ」
同時に砂漠戦にて捕虜になったバルトフェルドがモニターに映った地図を指差して航路をなぞる。
「しかし、本当に協力してくださるのですか?貴方だってこれがバレれば重罪は免れないのでは…」
「僕とアイシャは既に死んでることになってるしね。それにプラントに愛国心がある訳じゃないしこっちの船旅の方が楽しそうだ」
そう言ってバルトフェルドは笑う。
「分かりました…ご協力感謝いたします。」
ザフトに所属していた彼は嘗ての情報を使い警戒網が一番薄いインド洋のど真ん中を突っ切っていく事を提案したのだ。そのための装備を資材集積所から持ってきたのも彼だ。そんな彼の言葉を信じられなかったクルーだったが協力的な姿勢と飄々としたその姿に次第に心を許していた。
ここにエアリスがいたのならばバルトフェルドが本国では広告心理学者であるからだろう…と答えるだろうが。
そんな中でナタルが警戒しながら当たり前の事で反論する。
「だが、インド洋のど真ん中を行く、と言うのは此方にとっても厳しいぞ。何かあった場合逃げ込める場所もない」
ザフトの勢力下を航行する、と言うことは即ち敵の庭を歩き回る他ならない。分け行って進むことに落ち着かなさを感じるがバルトフェルドが肩を竦めた。
「ザフトは領土拡大を狙って戦争をしているわけではないよ。全ての領域に目が届く筈もない。何せザフトは人手不足だ…データでなら幾らでも言い訳は付く。この艦一応衛星欺瞞用の装備は付けているんだろ?なんとかなるさ」
そしてマリューに皮肉目いた笑みを浮かべる。
「まぁ、後は運も関係あるだろうが…この艦なら問題ないさ。船旅にはハプニングが付き物だがな?」
バルトフェルドの言葉にマリューは大きく溜め息を吐いた。
が、彼の言うことも一理あるだろうと思っていたのはへリオポリスから襲撃を受けたが大きな犠牲もなくここまで進行しているのはかなりの強運ではないのか?と。
願わくは誰一人の犠牲もなくアラスカ本部までたどり着けるように、と。
◆ ◆ ◆
「違うよ、そうじゃないんだってば!パッシブソナーは基本的に」
「いやそんなこと無いって」
パルとチャンドラが音波探知機の操作盤を前にあーでもないこうでもない、と議論しているとソナー担当であるトノムラから「二人ともうるさいよ!」と声を荒げる。
水中の索敵、探査のためにバナディーヤから仕入れてきたソナーであったがここにいる士官全員宇宙戦闘での訓練しか受けておらず仕様書と手引書片手に悪戦苦闘しながら生き残るために手探りで熟知しようとしていたその光景にミリアリアとサイは苦笑しナタルは「やれやれ…」と言ったような表情を浮かべていたが今は敵が来ていないのでそこまで鬼ではなかった。
「レ、レーダーに感ありッ」
咄嗟に対空監視をしていたカズイがマリューへ報告する。
「また民間機じゃないのか?」
下のCICにいたパルが上へ駆け上がりチャンドラも自らの席に着席しモニターをみてハッとした。
「速い…ッ撹乱酷く特定は出来ませんが、これは民間機ではありません!」
その報告にマリューは自ら思っていた運を試されることになるのか、とブリッジ要員に檄を飛ばした。
「総員第二戦闘配備!」
◆ ◆ ◆
<総員、第二戦闘配備!>
マリューの声が”アークエンジェル”に響くとすぐさま行動する。
「キラ君!」
「はいッ!」
甲板にいた二人は扉に駆け寄りロッカールームへ急ぎ着替えながらブリッジへ通信する。
「ミリアリア!敵は!?」
<敵はザフト軍大気圏内用MS”ディン”が二機接近してるわ!フラガ少佐が先陣を切って出撃するわ。エアリスも急いで!>
通信を切って格納庫に繋げ指示を出す。
「了解!…マードック曹長!大気圏内用のストライカーとザフトから頂いた装備の準備を!」
<分かった!>
着替えが完了し格納庫へ向かおうとすると艦内が揺れた。
攻撃ではなく回避のためと艦搭載機発進、装備の立ち上げが起こったからだろう。
急ぎ格納庫に向け走り出した。
”ディン”が攻撃を仕掛けてきたのを回避し”イーゲルシュテルン”と”ウォンバット”で応戦していると音波探知機をモニタしていたトノムラが当てていたヘッドオンからの音にハッとした
「ソナーに感あり…二、いや四!」
「なに!?」
その報告にナタルが振り返る。
「…このスピード…推進音…モビルスーツです!」
トノムラの報告に皆戸惑った。水中から…?
間髪入れずに報告が上がる。
「ソナーに突発音!これは…魚雷です!」
「回避ッ!」
「間に合いません!」
「推力最大!離水ッ!」
ノイマンが操縦桿を渾身の力で引き上げると”アークエンジェル”が持ち上がり海面すれすれに魚雷が通過していく。が、息つく間もなく海中から放たれたミサイルが艦体を掠める。
海中から現れたのはイカのような流線型のデザイン、オフホワイトの機体色が特徴的なモビルスーツ。
「ライブラリ照合…ザフト軍水中用モビルスーツ”グーン”です!」
◆ ◆ ◆
<APU起動、カタパルト接続!レインズ機スタンバイ!>
ミリアリアのアナウンスで”ダガー”がカタパルトに運ばれていく。
エアリスは手慣れた付きで機体の立ち上げを行い今回装備するデータを再確認した。
「キラ君の”ストライク”じゃ空は飛べ無い!射出口から援護を!空中の敵は私とフラガ少佐で対応します」
<了解!>
<ストライカーパックは”ジェットストライカー”を装備します!>
お馴染みのガントリークレーンから運ばれ背面に接続されたのはこの時代にある筈の無い
今”アークエンジェル”を襲ってきている”ディン”の背面ユニットを参考とした四対のウイングに大推力の”エールストライカー”のスラスターを搭載しニコイチのようなデザインではあるがシミュレーション上問題なく飛行できることになっているようでウイングにはミサイルユニットを懸架できるハードポイントが搭載されているが今回は装備しない。
ある意味で別物である”ジェットストライカー”それを背中に背負い空中での戦いに準備する。
(この時点で空戦できる装備あるのは…不味いような…でもまぁ使わせてもらう!)
右手には破壊力重視のヘビーバレルを換装したヘビービームカービン、左手にはシールド、そして右マニュピレーターにはザフトの物資集積所から”頂いた”対空散弾銃を装備する。
威力と面制圧で”ディン”を攻略するためであった。
<レインズ機発進どうぞ!>
準備が整いエアリスはスロットルレバーを押した。
「エアリス・レインズブーケ、”ジェットダガー”行きますッ!」
勢い良くカタパルトで大空に射出されスラスターを吹かすと鋼鉄の巨人はその重さを感じさせずに飛翔し”ディン”へ向かっていく。
”ダガー”のゴーグルアイが敵機を捉え光輝く姿は獲物を捉えた”隼”のように鋭いものだった。
「試させてもらうよ…この装備がどれぐらい通用するかを!」