魔改造ダガーでC.E世界を駆け抜けたい【完結】 作:萩月輝夜
”アークエンジェル”と海中にいる”ストライク”の戦闘が一段落付く直前。
二機の”スカイグラスパー”は目的の対象物を捜索し飛翔していた。
<くそ!何処だい?子猫ちゃんはァ!?>
「こ、子猫ちゃん?」
僚機として飛んでいるカガリの通信にムウの罵る声が聞こえてきてその言い回しを聞きなれていないために顔をしかめた。
(いや、どう考えてもザフトの潜水艦を”子猫ちゃん”って…そういうものなのか?)
データを貰い形状を知っているカガリとしてはザフトの潜水艦がどう考えても”子猫ちゃん”といった可愛らしいフォルムでないことを知っているので困惑するしかないのだが。
と、そんなことを考えていると海面に”2ヵ所”色の濃い黒い影が発見された。
<見つけたぜぇ!!>
「ッ!!」
一拍遅れてムウの声で思考からログアウトし目の前の”敵”へ攻撃体制へ移るその切り替えの良さはカガリ本来の割りきりの良さもあるだろう。
<行くぜお嬢ちゃん!そっちは任せる!>
「カガリだ!任せろ!」
怒鳴りながらムウの機体に追従するように降下させ直ぐ様操縦桿の武装の安全装置を解除し格納していた対鑑ミサイルを発射。一射目は外してしまったが二射目は轟音を響かせ潜水艦のバラストタンクに直撃し大きな水柱を上げる。
「やった!」
高く上がる水柱を回避しながら上空へ高度を上げながら機内でガッツポーズを決めるカガリ。
<さぁ出てくるぞ!>
「ああ!」
バラストタンクが破損したことで艦内に侵入した海水を外へ出さなければ沈没してしまうためザフトの潜水艦は急速に浮上せざるを得なくなっていた。
浮かび上がろうとする潜水艦に対して逸る気持ちを抑えられずに接近しようするカガリに対してその行動にムウの怒鳴り声が割って入った。
<あ、こら!あまり高度を落とすな!潮を被る!>
「え…くそ!」
そういわれて咄嗟に操縦桿を引くカガリ。急速浮上する潜水艦の水飛沫を咄嗟の部分で回避する。
<バカ!ほら言わんこっちゃない!>
「ば、バカとはなんだ!?バカとは!」
急速浮上するボスゴロフ級潜水艦の上部ハッチが解放されその中にある”ディン”が外敵である二機の”スカイグラスパー”を迎撃しようと準備を始めようとしていた。
<させるかよ!>
そういうのが早いかムウの搭乗する”スカイグラスパー”が装備した<バーストストライカー>が懸架する二本の<アグニ>が火を吹き真っ直ぐ延びた光条がバイタルパートと艦橋を燃やし尽くしその巨体を海中に沈めることになる。
<うっひょー!スリーアウトチェンジだぜ!お嬢ちゃん!>
「お嬢ちゃんじゃない!…狙い通り、いっけぇーッ!!」
カガリの方の”スカイグラスパー”も装備した<ランチャーストライカー>の<アグニ>が火を吹き潜水艦の胴体を撃ち抜き爆発が起こる。飛翔しようとしていた”ディン”事巻き込み大きな爆発が起こる。
「やった!」
巻き起こった爆炎を通り抜け後ろを振り向くと炎と共に沈んでいく潜水艦より飛翔した”ディン”が此方に狙いを定めていることに気がついたカガリは咄嗟に機体を傾けると同時にその存在に気がついたムウが機体を翻し迎撃に向かう。
<チョロチョロするな!俺が撃っちゃうじゃないか!>
「なんだと!うぐっ…!?」
言い返そうとしたその時カガリの”スカイグラスパー”が大きく揺れたのは背後にいる”ディン”が構えたライフルの弾丸が機体を掠り煙を吐き出し尾を引いている。
<大丈夫か!?>
「大丈夫だ!ナビゲーションシステムがやられただけだ!」
そういって機体を立て直し戦列に参加しようするカガリであったがムウの邪険にするような声が届いた。
<被弾した機体で飛ばれたって邪魔だってのが分からんのか!とっとと帰投しろ!俺が抑える!>
その言葉に思わず反論したくなったカガリだったがグッと飲み込んだ。彼の言うことが正しいと理解していたし敵の母艦である潜水艦は既に撃沈している。ムウと対峙している”ディン”も既に帰る場所を失くしているため”敗北”といっても差し支えないのだ。此方は既に戦闘目的を果たしている。が、しかし帰投しても問題ないがカガリの心情的に敵に背を向けて撤退する、という行為が気にくわなかった。
「っ分かったよ!」
そうも思いながらも此方の機体が被弾している事とムウの言うことが正しかったので不承不承ながらもカガリは”アークエンジェル”へ帰投するべく機首を巡らせ高度を引き上げた。
そして幸か不幸か、帰投の途中でカガリは
◆ ◆ ◆
ザフト軍地上拠点、カーペンタリア基地で新たに”ザラ隊”結成が命令され母艦を受領するためにジブラルタルより移動することになったアスランであったが…。
「はい、待機室。アスラン・ザラです」
<すまない。君を乗せる輸送機でトラブルがあった。少し待機していてくれ。準備が完了次第連絡する>
「了解しました。待機します」
そういってアスランは受話器を置いて待機室の窓の外を見る。
既に空にはイザークと搭乗機を乗せた輸送機が大空に飛翔しているのを確認できていた。
(俺が隊長、か…)
待機室に備え付けられたソファーに腰掛け先程クルーゼに命令されたことを思い出す。
『次、”ストライク”と”ゴーグル付き”…本気を出して撃たねばやられるのは君か…それとも部下になった彼らかもしれんぞ?アスラン』
(ッ…!)
へリオポリス襲撃からキラ…”ストライク”と”足つき”を追いかけ仲間達。ミゲルやゼルマン艦長…バルトフェルドが散って行くのを目の当たりにして
(アイツは…キラは…戦いを好むようなやつじゃない…出来るのにやろうとしない面倒くさがりで甘えん坊で…そんなアイツがどうして連合の…ナチュラルの軍でモビルスーツで戦っているんだ…)
何度目か分からない親友が自分と戦っているその理由を考え出すアスラン。しかし、”ストライク”によってモタらされた被害は甚大だった。
しかし、それ以上に…。
「”ゴーグル付き”のパイロット…お前の戦闘データを見てみても到底”ナチュラル”とも思えない…お前は一体何者なんだ…?」
【彗星の魔女】とザフトでその悪名が広がり始めている”ゴーグル付き”のパイロット…実際に遭遇し顔を見てはいないがクルーゼが言うには年若い女性だ、という話を聞いてアスランはにわかに信じられなかったが宇宙で救出したラクスが”ヴェサリウス”で楽しそうに話してくれていたことを思い出しあながち本当なのでは無いのか?と思い始めていた。
(キラが戦う理由…アイツはもしかしてその”ゴーグル付き”のパイロットを守るために戦っている…?そのパイロットはナチュラルではなくコーディネイター?)
そうなれば合点が行く。
そう言うことならばキラが連合に残って戦っている理由にもなる。
確実ではないが負傷させずにキラを戦いから遠ざけるためにアスランは
といってもその脳内で組み立てた作戦は非常に困難であった。
(”ゴーグル付き”…それを無力化してしまえばキラは此方につくんじゃないのか…?)
そう思い付き今自分の立場が”隊長”であることに感謝した。
その”作戦”を実行できる立場に有るのだから。
(”ゴーグル付き”のパイロットをどうにかしなければキラを取り戻せない。)
親友とゴーグル付きのパイロットを良いように扱っている地球連合に対しての怒りが溢れる。
暫くして準備が終わった輸送機に乗り込んだアスランは機長に挨拶して座席に座り海を眺めどうするべきか考え事をする。
しかし、その極端な考えが互いを苦しめる”出来事”になろうとは想像もしなかった。そして直ぐにアスランを変える運命の出会いが待ち構えていることを知らない。
◆ ◆ ◆
「うっ………気を失っていたのか」
蒸し返るような暑さに目を覚ましたカガリはボーッとした頭で温室のようになっている”スカイグラスパー”のコクピットで今どうしてこのような状況になっているのかを思い出してハッとした。
「そうだ私途中でザフトの輸送機と遭遇して…」
潜水艦攻略中に被弾し”アークエンジェル”へ帰投中に雲の上でザフトの輸送機と遭遇したのだ。
その際に敵の増援かと思い撃ちかけられた機銃に対抗するために応戦したのだが…こちらが放った銃弾が向こうの輸送機を捉えたのだがこちらも向こうの弾丸を受け被弾してしまい墜落してしまったのだ。
計器のボタンを押して”アークエンジェル”に通信を行うが故障しているのか通信が繋がらない。
カガリは通信を諦め救難信号をセットしたまま島へ向かうためにキャノピーから這い出るが軽い熱中症になっていたのか足元がおぼつかず足の着かない海中に踏み入れてしまい体勢を崩してしまう。
「あっ……!」
その際に手にしていたサバイバルキットが手から離れてしまい沖へと流れていってしまう。
「くそ…ッ」
流れるサバイバルキットを恨み目がちに見送り島を目指し海を掻き分け白い砂浜に到着し周囲を見渡し人の気配や建物があるかどうかを確認するために島の奥へ分け入って進むが直ぐ様同じような景色が広がっていた。
「小さい島なんだな…」
この様子では川や泉も存在していないようで水の確保をする必要もある。
幸い凍えて死ぬような気候ではなく既に服は乾き始めており一日其処らで干物になる可能性がないが電波が宛てにならない状況では救助が何時来るのか分からない…カガリは一先ず自分が生き残ることを考え島の構造を把握するために島の高台へ足を向ける…そのとき彼女は目の前に飛び込んできた光景に思わず息を呑んでしまう。
「ッ…!?」
特徴的なツインアイに突き出したV字のブレードアンテナ…灰鉄色に変わっている四肢、背面から突き出した突起が攻撃的な印象を与える機体…それはカガリがへリオポリスで見かけたこともあったものだった。
慌てて岩棚のすぐ下を見ると機体から離れる赤いザフトのパイロットスーツを着用した兵士の人影を視界にとらえ彼女は直ぐ様ホルスターに手を掛けて拳銃を取り出すと物音に気がついたザフト兵士が上を見上げカガリと目が合ってしまった。
ーザフト兵ッー
目があった瞬間にカガリは咄嗟に引き金を引くと銃弾の音が小さな島に響き渡った。
しかし、ザフト兵士は寸前で身を沈め銃撃を避わすと凄まじい身体能力で岩棚を掛け上り姿を隠した。それを見たカガリはその姿を追って岩の斜面を滑り降りると先程までその兵士がいた場所へ警戒しながら近づくとそこには残されたサバイバルパックが残されており袋口には拳銃が残されており相手は丸腰だと少し安堵しそれを拾い上げようとしたそのときだった。
「…ッ!」
背後に気配を感じて素早く拳銃を向けようとしたがそれよりも早く兵士は接近しカガリが手にしている拳銃を蹴りで弾き飛ばし巴投げ要領で後ろへ投げ飛ばされてしまい砂浜へ叩きつけられて押さえ込まれてしまう。
カガリは閉じていた目蓋を開けると自らの頭上に兵士が持つカランビットナイフが振りかざされそうとしていた。
殺される…!そう咄嗟に判断したカガリは本能で反応してしまう。
「キャアアッー!!」
「…女?」
呟きを漏らした敵の顔を震えながら見上げた。
年の若い…いや自分と同い年の黒髪の少年が困惑した表情で此方を見下ろしておりその表情は砂漠での戦いで知り会ったエアリスやキラと同じように無邪気に見える程でとても人に害する行動をする人間には見えなかった。
少年は押さえていたカガリの胸から戸惑いながらも腕を放すと詰めていた息をようやく吐き出すことが出来たカガリは震えながらも腹立ち気に怒鳴った。
「い、」
「?」
「いい加減にしろよぉ、お前らぁッ!!」
◆ ◆ ◆
戦闘が終了し”アークエンジェル”に帰投したエアリスは格納庫が騒がしいことに気がついて一人コックピットで謝罪した。
(ご免なさいマードック曹長…「言わんこっちゃねぇ!」って怒ってるんだろうなぁ…)
カガリの身と大事な機体が帰ってこないとなればそうもなるだろう。どっちの方に比率が高いのかは前者の方が高いと願いたい。
それを許可したエアリスにもその原因の一因をになっている為に余計な口出しをすることは出来なかった。
当然艦内通信でムウとマードックの会話が艦橋とコックピットにも聞こえている。
<ロストした場所は何処なの!?無線は?>
<ダメです!応答ありません!>
艦橋ではマリューとミリアリアがやり取りしている。
<レーダーの撹乱酷く、戦闘空域を離脱したところまでは確認できましたが…>
<M・I・Aと判断されますか?>
ナタルが淡々と問うとマリューは眉をひそめた。その聞き慣れない言葉にサイが小声で聞き返すとトノムラが声をひそめて答えた。
<戦闘中行方不明…まぁ『確認してないけど応答無し、所在地不明で戦死扱いで良いでしょ』ってことだ。軍人的にはな?>
それに艦橋にいる学生組はぎょっとし顔を見合わせマリューはムスッとした表情でナタル睨み付けようとしたが…
<パル軍曹、日没までどのくらいだ?>
そう言ってナタルはパルに向き合う。
<え?は、はい後一時間ほどです>
ナタルの行動に驚くマリューであったが関せずに言葉を続ける。
<該当空域に我が軍の機体があっては現在地と予定航路を特定される可能性があります。そのまましておくわけには行きませんので>
<バジルール中尉…>
マリューがナタルを見つめるとバツの悪い表情を浮かべそっぽを向いた。
<んんっ!…それに此方の制止を振りきって機体に乗り込んだ民間人にお灸を据えなければなりません。規律は守らねば。この艦に乗っている以上それは民間人であってもです>
(中尉…そんなことも言えるんですね…って基本優しい人だからね)
軍規にうるさいナタルであったがエアリスと関わることでその根底にある優しさが現れ始めてきていた…が元より砂漠で子供を気に掛けたり”ドミニオン”でフレイに優しくしていたのもある為そう可笑しくないのだが普段の厳しい印象を与えているからか艦橋の空気が弛緩しナタルへ生暖かいような視線が注がれ咳払いをして指示を出す。
<んんッ!上空からの捜索はもう辛い…簡単な整備と補給を済ませたら”ストライク”、>
そこでエアリスが通信に割って入った。
「海中からの捜索の方が良いでしょう。中尉、捜索は私が行います。元はと言えば私が彼女に機体を預けたのが発端です」
<だが…>
エアリスは渋るナタルを言いくるめるためにそれらしいもっともな理由を告げる。
「本来”ソリッドストライカー”は”ダガー”で運用される装備です。”ストライク”に合せるには調整の時間が必要ですから」
<…分かった。”ストライク”が戻り次第換装、補給を行ってから出撃してくれ。艦長よろしいですか?>
<ええ。お願いできる?>
「了解しました。」
<無茶は禁物よ。あなたも大部隊を一機で大立回りして疲労も溜まっている筈なんだから…>
母親のように心配してくれるマリューに困ったように笑みを浮かべるエアリスその純粋な心配に自らが
通信を切り終えると”ストライク”が帰投し直ぐ様カガリが行方不明の事を聞かされると出撃しようとしたがエアリスに止められ艦内待機となり装備していた”ソリッドストライカー”を解除し”ダガー”に補給と整備しながら装着していく。
<エアリスさん大丈夫なんですか?今からでも僕が…>
「大丈夫。カガリに”スカイグラスパー”に乗せて戦場に送り出したのは私だから。自分の不手際は自分で何とかするよ」
キラへ心配しないでくれ、ということを告げ通信を切るとナタルからの通信が入れ替わりで入ってきた。
<…救難信号も出ている筈だがNジャマーの影響でそれも望めない。撃墜シグナルが出ていないと言うことはその付近小島が点在しているらしい。そちらに運良く墜落したかも知れない>
「了解。しかし意外でした」
<???>
「カガリの事心配してくれたんですね」
<なっ!?お、お前っ>
慌てるナタルが声を掛けようとしたが割り込んできたマリューからの通信に返答する。
<疲れているところ悪いけどお願いね。二時間で必ず戻ってきてちょうだい>
固い声でエアリスに念を押したのは機体の稼働限界ギリギリで捜索を続けるだろうと危惧したからだ。
本人もそのつもりであったが釘を刺されてしまった。
「…了解。エアリス機発進します」
換装と補給が済んだ”ソリッドダガー”はカタパルトで射出され海中を進む。
「…さて」
エアリスは機体のコックピット内部で
装置が作動しモニターに表示される調査範囲に記された小島の1ヵ所が赤く点滅しだした。
「うん、上手く動作してるみたいだね…ここから数百キロ先の小島にいる、か…で、近くにいるのは”イージス”…まぁアスランもいるか」
砂漠での際に整備を兼ねての”事前準備”としてカガリが搭乗する”スカイグラスパー”に新型の量子送受信発信器をこっそりと取り付けていたのだ。
使い方としてはカガリが”アークエンジェル”に救難信号を発信すればそれで受信し暗号化された量子通信がエアリスの”ダガー”へ届くようになっている。そして小島の位置データには”GAT-X303”の型式も表示されている。
しかし、直ぐ様救助に向かうとアスランと鉢合わせしてしまうしカガリが結ばれない可能性もあった。
流石に命令無視をして彼女達のやり取りを物陰から覗き見しているわけにも行かない。
「…カガリには申し訳ないと思うけど成長するために必要なイベントだからね」
心の中でカガリに謝罪しながら時間まで捜索する振りをすることにした。
◆ ◆ ◆
「お前本当に地球軍の兵士か?認識票もなければ戦場であんな悲鳴を上げるなんて…聞いたこともないぞ?」
「わ、わるかったなぁ!!?」
カガリはザフトの兵士に捕まり手足を拘束され手にしていた拳銃を分解されて海に投げ捨てられてしまう。
先程兵士が落ちている自分のサバイバルキットを開き撃たれた脇腹を治療しながら問いかけた。
「俺たちの乗っていた輸送機を落としたのはお前だな?向こうの浜に機体があった」
「私を落としたのはお前達だろうが!」
「所属部隊は?どうしてお前はあそこを飛んでいた?」
そう問いかけられてカガリは真実を話した。
「私は軍人じゃない!それにあそこを好きに飛んでいた訳じゃ…うわっ!?」
ザフト兵士に食って掛からん勢いで話そうとしたカガリだったが体が動きバランスを崩して仰向けに転がってしまう。その姿を見て少年は可笑しくなってしまい笑いを堪える。
笑いだしそうになった少年の瞳を少女の金色の瞳が彼を射貫く。
「…お前あのときへリオポリスを襲撃した連中の一人か?」
そう問われ息を呑む。
「…私もあの時へリオポリスにいた。お前達がぶっ壊したあの場所にな!」
「…俺たちだってあのコロニーを壊すつもりなんて無かった。オーブだって中立国を吟いながら連合と手を組んでそのモビルスーツを開発していたじゃないか」
そう言って少年は立ち上がり降機状態の”イージス”へ近づき腕を突きだしレーザー通信中継器を沖に向けて発射する。通信を試みるがホワイトノイズがだけでありどのチャンネルも返答がない。
”イージス”に搭乗したまま下を見下ろすと縛った少女が芋虫のように這い回って逃げ出そうとしていたがその光景が面白くて吹き出してしまう。
その内に遠雷が轟き湿った風が吹き抜けると照らしていた太陽が雲に隠れると大雨が駆け足気味に降り注ぐ。
「スコールか…」
”プラント”に住むザフト兵士は空を見てそう思った。
天候管理しているコロニーではお目にかかることの無い計画性の無い雨であり今自分がいる場所が”地球”なのだと理解するのだった。
「ん…何をやってるんだアイツは…」
ふと気がつくと先程まで地面に這っていた少女は砂浜に穿たれた溝に転がって身動きが取れなくなっており大雨で水嵩が増した水面と流れ込む大雨に溺れそうになっておりその姿に呆れると同時に吹き出す。
「ぷはっ…うっぷ………あれ?」
少年は”イージス”を動かしてシールドを装備した腕を彼女のいる溝付近へ突き出すと影になり雨の侵入を抑えコックピットから降りた。
「何をしてるんだお前は…」
「見て分かんないのかよっ。溺れてるんだっ、助けろよっ」
威勢良く偉そうに、それでいて溺れまいと必死にもがいている姿が犬を思わせてどうにも可笑しくて腹が立つどころか笑えてしまう。まるでテレビでのペットのハプニング映像を見ているようだ、と思った。
「良いから早く助けろよッ!!」
「威張って言える立場かよお前」
「良いから早くしろってばぁっ!!」
きゃんきゃんと喚く少女を溝から拾い上げると睨み付けられた…が直ぐ様それは笑いに変わってしまうのは髪の中から蟹が出てきてパイロットスーツの手を伝って水の溜まった地面に落ちる。
そんな光景が可笑しくて少年は堪えきれずに吹き出してしまうと少女は憤慨して叫ぶが笑いを止められない少年は笑ったままだ。
「何がそんなに可笑しいんだよ」
「いや、失礼。あまりこういうのになれていないものでな」
「”プラント”に蟹はいないのか?」
少女は顔をぷい、と横に背け雨が降りしきる砂浜へ向かう。
「おい、何処へ行くんだ」
少年はまた目の前の少女が溝に嵌まるんじゃないか?と心配したが杞憂だった。
「洗うんだよ!ちょうど良いから………ふぅ…気持ちいい…」
少女は雨に打たれながら仰向いて気持ち良さそうな声を上げる。まるでシャワーを浴びているように。
その姿に少年は目を奪われる。自然体で感情を露にする等身大の少女の姿に先程まで敵意を向けていたのか?と自分で自分を疑いたくなった。
「……」
「お、おいなんだよ…」
少年は近づき水浴びをしている少女の手を拘束しているバンドを切り裂き自由にしてやった。
「…武器の無いお前が暴れたところでなんの脅威でもない」
「なんだとぉ!?」
「服のなかにもカニがいるようだぞ?」
「えっ!?」
少女は自分が脅威ではないということを言われ憤慨していたのだが少年からの指摘でそれを忘れ服をめくり上げるとカニがポロリ、と落ちていったと同時に白い肌と胸の膨らみが殆ど露になっていることに少年はぎょっとして顔を背ける。
こいつ、自分が女だということを分かっていないのでは?と。
真っ赤になってその場から離れようとした少年は気を取られ先程まで少女がいた溝に足を滑らせた。
◆ ◆ ◆
カーペンタリアに置かれたザフト軍基地の一室にて所在無さそうにしているニコルはふと同じ室内にいるディアッカが雑誌を見ていることに少し不満げにしており一度ソファーへ腰を下ろすが直ぐ様立ち上がり室内を歩き回る。
「おい、気が散るからやめろ」
「す、すみません…でも、心配で…」
ニコルが落ち着かなくなっているのは遅れて発進した輸送機がインド洋で消息を絶った…ということを聞かされたためであった。その事をイザークが司令部へ確認しに行ったのをまだかまだか、と待っていた為だ。
「今ごろ南の島でお姫様とアバンチュールでも楽しんでいるんじゃないか?」
「ディアッカ!こんなときに冗談は止めてください!」
ニコルが声を荒げると同時に外の扉が開くと司令部に向かっていたイザークが入ってきた。
「イザーク!アスランの…」
言い掛けるニコルの言葉を遮るように仰々しく両手を広げ芝居掛かった口調で告げた。
「ザラ隊の諸君!さて、栄えある我が隊の最初の任務を通達する!それ以上無いと言う程重要な…」
そこでディアッカがイザークにチラリと目配せする。
「…隊長の捜索である!」
イザークが言い終わるとディアッカと共に腹を抱えて笑い出す光景を見てニコルが憤慨する。
「笑い事じゃありませんよ!」
「乗ってた輸送機が落っこちちまったのならしょうがないだろ?生身で落ちたって訳じゃない。機体と一緒なら大丈夫さ」
「自分達の隊長は自分達で探せだとさ。本部もソコに人を割くほど暇じゃないってことだ。ディアッカの言うとおり”イージス”があるのなら死ぬことはない」
「やれやれ…最初の任務が『自分達の隊長の捜索』ね…中々愉快じゃない」
「と、言ってももう今日は日が落ちる…捜索は明日からだな」
「そんな…!」
「ま、そう言うことだ。今日は宿舎で休みだ。明日になれば母艦の手配も完了する。慣れない地球での活動になる。少しは体を休ませておかないとな?」
薄情とも取れる言葉にニコルは唇を噛んだが彼らの言うことも確かであった。
”イージス”と共に居るのならアスランが死ぬことはないだろうし彼らの発言もアスランをライバル視している彼等なりの信頼の言葉であったからだろう。
ニコルは溜め息を吐いて水平線に沈んでいく。まさにそれは今の心情を表しているようであった。