魔改造ダガーでC.E世界を駆け抜けたい【完結】   作:萩月輝夜

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果て無き輪舞

戦闘が終了し機体を後部甲板に着陸させた。

 

「ふぅ~っ…」

 

コックピットハッチを開くと籠っていた熱が潮風に流され全身が冷まされる感覚を覚える。

ラダーを掴み降下しヘルメットを脱ぐとそれを直に感じて戦闘で籠っていた熱気が爽やかな潮風で飛ばしてくれた。共に海鳥の賑やかな声が出迎えて汗で纏わり付いた亜麻色の宇宙にいたときよりも背中に掛かるくらいまで伸びた髪がふわりと風にたなびくと同時に先程の戦闘の事を思い返した。

 

「アスランめ…私を散々っぱら追いかけ回して来たな。しつこすぎるでしょう…?」

 

オーブ領海付近での戦闘でアスランは自分を執拗に狙っていたのは何故なのだろうか?と考えていたが思い当たる節がなかった。

 

「あれぐらい執拗なら…オーブ沖に出たときどうなるやら」

 

正直、種割れしたアスランとは戦いたくない。正直その状態のアスランに五体満足で勝てる気がしない。

 

「ニコルの生存が一番好ましいよね…」

 

やることが多すぎてエアリスは「むぅー」と唇をつ尖らせると息を吐いて”アークエンジェル”に乗艦してるおてんば娘の行動に対して意識が移る。

 

「やっぱりあの行動は不味いでしょ…」

 

不味い、といったのはカガリの行動だ。

”アークエンジェル”はザフトの交戦後にオーブ艦隊に囲われるように領海に踏み込み我が物顔で進んでいるのはカガリがあの場面で啖呵を切らなければ沈められた()()()があったかもしれない…しかし、あの啖呵はオーブを危機に晒す行動であることを忘れてはならない。

 

「しかし、あの啖呵切られた艦隊司令青ざめただろうな…」

 

通信を切った後に行政府に確認を取ってそこからはてんやわんや、お盆をひっくり返したような状況になったのは想像に固くない。

 

「そういや…ミリアリア達が驚いてたけど…カガリって会議とか国の行事、公務とかで表に出てないのかな?」

 

本編でミリアリア達が驚いていたのは見た目が分からなかったからだろう…名前を聞けば分かりそうなものだが。

しかし、恐らくは化粧や髪型で分からなかったのだろう。あんなにやんちゃだとは誰も思わない。

淑やかなお姫様、で民衆には思われていたのだろうか

 

「さて、どんな要求を吹っ掛けられるのか…」

 

オーブが”アークエンジェル”をザフトからの圧力を受けてでも沈めさせなかったのは自国の強化…他国から侵害されないほどの武力を持つためであることは明確だった。

 

「…だけど、なんか引っ掛かる」

 

エアリスはあのオーブ艦隊の動きが少し違っているように思えたのだ。

何が、とは言えないほどに小さい”違和感”を感じ取っていたがそれがなんなのか、分からないのだが。

ザフトに対して積極的に攻撃を仕掛けていた、ような気がした。

 

「まぁ、今は休ませて貰おうかな…この後仕事ありそうだし」

 

そんな小さな疑問は一旦隅に追いやって甲板の手摺に移動し海の上を飛行する海鳥へエサを投げるエアリス。

 

「あははっ、未だ一杯あるからそんなにがっつかなくて大丈夫だよ。それっ!」

 

海鳥と戯れ笑みを見せる少女の姿、それをキラが見たら先ほどまでの陰鬱な気分は何処へ和やかな気分になる程の笑みであった。

 

◆ ◆ ◆

 

エアリス達を乗せた”アークエンジェル”はオーブ艦隊の指示に従い群島のひとつに近付きつつあった。

 

<指示に従い艦をドックに入れよ>

 

切り立った岸壁が突如として開きその白亜の戦艦を招き入れようとしている。

ハッチの奥は島内部の秘密ドックへ通じていた。

 

「オノゴロは軍と”モルゲンレーテ”の島だ。ここは衛星からでも中を伺うことは出来ない」

 

「そろそろ、あなたも正体を明かしていただけないかしら?」

 

歩み寄ってきたキサカに鋭い視線をマリューは向けた。

 

「オーブ陸軍第二一特殊空挺部隊、レドニル・キサカ一佐だ。これでもお目付け役でね?」

 

そう告げるとCICにいたミリアリア達は「あちゃー」と声を漏らすとトノムラ達が問いかける。

 

「…って君たちの国の国家元首でしょ?なんで知らないの?」

 

「ウズミ様とその娘も知っていますけど…その、見た目が砂漠であった時と余りにも違くて…」

 

「…っ」

 

ミリアリアの声を聞いてカガリは不満そうな漏らすが気づかれなかった。

マリューは探るような目でキサカを伺う。

 

「それで、我々はこの措置をどう受け取れば宜しいのですか?」

 

「それは此れから会われる御方に、直接お聞きするのが宜しかろう…『オーブの獅子』、ウズミ・ナラ・アスハ様にな」

 

◆ ◆ ◆

 

「こんな発表を信じろって言うのか!?」

 

バン、と机を叩く音が潜水艦の作戦室に響く。

オーブ艦隊の攻撃によって追跡を断念せざる負えなかったザラ隊の面々はオーブから発表された”アークエンジェル”の公式発表に関してだ。

 

「”足つき”は既にオーブ領海で撃沈…ね、それ俺たちが本当に信じると思ってるのかね?」

 

そうディアッカが皮肉な様子でアスランを見る。

 

「それで済むってそう思われてんの?やっぱ、隊長さんが若いからかねぇ…」

 

「……」

 

嘲るような表情をアスランに向けるとニコルが「ディアッカ!」と咎めの声を上げるが当のアスランは黙ったまま目蓋を閉じている。

イザークとディアッカが憤慨するはあれだけ追い詰めた”アークエンジェル”が中立国のオーブに撃沈された、と言うことが気に入らないのだ。

だがしかしそれだけが理由でないのはここに集まったメンバー誰しもが思っていることで”アークエンジェル”と”Xナンバー”…そしてあの通信で国家元首の娘である”カガリ・ユラ・アスハ”が乗っているのに関わらず撃沈させるのか?と言うことと彼らは大西洋連合と秘密裏に手を組んでモビルスーツを開発していたと言う不信感があったからだ。

実際に”アークエンジェル”に対し砲撃を加えている描写を見ている…それこそ本当に攻撃をしていれば、と言うことになるが。

 

そんな憤慨する二人を尻目に先ほどまで目蓋を閉じていたアスランがおもむろに口を開く。

 

「そんなことはどうでも良い」

 

テーブルの上に置かれたオーブ政府の正式回答に指差す。

 

「いくらここで俺たちが『嘘だ』と声高に叫んだところでどうにもならないことは確かだ」

 

「何を…!」

 

カッとなるイザークに対してアスランは睨み付けるように視線を合わせる。

 

「押しきって通れば本国も巻き込む国際問題になる」

 

アスランの正論に思わずカッとなるイザークだったが出掛けた言葉を飲み込むと直ぐ様嘲笑する顔つきに変化した。

 

「ふん…流石は冷静な判断だな、アスラン、いやザラ隊長?」

 

「それで?はい、そうですかって尻尾巻いて逃げるわけ?」

 

「カーペンタリアから圧力を掛けて貰うようにお願いするが…それでも解決しないようなら侵入する」

 

アスランから大胆な提案に呆気にとられるメンバー達を見てそう告げた。

 

「それで良いか?」

 

ニコルが真っ先に反応する。

 

「『足つき』の動向を探るんですね?」

 

そう問いかけられるとアスランは頷いて説明する…が途中で言葉を濁した。

 

「ああ。あの通信をおまえ達も聞いただろうけどあの足つきにはオーブの元国家元首の娘…”カガリ・ユラ・アスハ”が乗っている可能性がある。それが本当ならば”アークエンジェル”は撃沈されずどこかに匿われている可能性がある。それに強行するのは危険だ。相手は連合が中立を認める一国家…独断で物事を進めれば大事だ。”へリオポリス”の時とは違うんだ…軍の規模もな」

 

「…」

 

そう告げると流石のディアッカも黙ってしまう。それほどまでにアスランの言葉は”正論”だった。

 

「オーブの技術力の高さは俺たちが身をもって知っているだろう?表向きは中立だが裏や腹の中はどうなっているのか計り知れない」

 

そう告げると流石のイザークも白旗を挙げざるを得なかった。不本意であったが。

 

「OK…従おう」

 

が、ここで素直に引けるほどイザークは”大人”ではなく皮肉をアスランにぶつけることを忘れていなかった。

 

「流石はザラ国防委員長のご子息だ。国の将来を引っ張って立つ偉大な父上がいる隊長殿は思慮深いな?」

 

会議室から出ていくディアッカはすれ違いざまに振り返りアスランに言葉を掛けた。

 

「ま、潜入っての面白そうだし…それにあの”ストライク”と”ゴーグル付き”のパイロットの顔を拝めるかもしれないぜ?」

 

その言葉にアスランは顔に暗い影を落とす。しかし、そんな様子をイザーク達は知る由もなく出ていく。

残されたニコルがアスランを心配そうに見つめるがその表情を見て怪訝な気持ちになっていたのだった。

 

◆ ◆ ◆

 

「ご存じの通りオーブは中立だ」

 

(これが”オーブの獅子”…ウズミ・ナラ・アスハか…いかちいなぁ)

 

モルゲンレーテにある特別会議室にて一人男性…元オーブ、いや裏でオーブを支えているウズミ・ナラ・アスハが今自分の前にいることにエアリスは他人事のように「すげぇー」となっていた。

 

「はい」

 

マリューが固く頷いているのを他所にエアリスは有名人にあっている気分で見ており年相応?にワクワクしているのを知るのをこの場に集った”アークエンジェル”の最上級士官達の誰も知らない、気づく筈がないのだが。

 

「我々を助けてくださったのはまさかお嬢様が乗っておられたから、ではないですよね…?」

 

そうムウが問いかけるとウズミは苦笑する。

 

「国の命運と、甘ったれの馬鹿娘を天秤に掛けるとお思いか?」

 

「いえ、ウズミ様のお言葉も分かります…」

 

マリューがそう答えると両者に暫しの沈黙が広がるがそれを崩したのはウズミであり微かな笑みを浮かべながら口を開きその視線はエアリスに注がれた。

 

(え、私をなんで見たのウズミ様…?)

 

「ともあれ此方が貴艦を沈めなかった最大の理由をお話せねばならん」

 

そう告げると先ほどまでの穏和な雰囲気は消え去り鋭く重い威圧感が発せられ鷹のように鋭い眼光はこの場に集ったマリュー達に注がれ口を開いた…そのときだった。

 

「…それは君たちに補給するのを条件にこのオーブに来るまでの”ストライク”と”ダガー”の戦闘データとパイロットであるコーディネイター…キラ・ヤマトと技術士官であるエアリス・A・レインズブーケ両名への”モルゲンレーテ”への技術協力を要請してるんですよ」

 

「…え?…ッ!?」

 

閉じられていた会議室の扉が開かれるとこの場には似つかわしくない軽い声が聞こえエアリスが椅子の背中越しに視線を向けるとその表情は驚きに染まったがマリュー達は「誰だ…?」と言う表情を浮かべていた。

 

「(ど、どうしてここに”あんた”がいるんだよ!?)………!」

 

困惑と驚愕が同居した表情を浮かべるとその男性はエアリスを見て笑みを浮かべ呆然としている三名が視界に入っていないと言わんばかりに近づき親しげに話しかけた。

 

「…おやおや、随分な挨拶ですね。私の事、忘れてしまいましたか?エアリス」

 

親しげに話しかけられエアリスは困惑こそすれど()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を知っていた。原作、ではなくそれはエアリス本人が知っている。

 

「ムルタ・アズラエル…?」

 

「他人行儀ですねぇエアリス。ま、でもあったのはもう十年前ですから仕方ありませんネ?」

 

困惑するエアリスとマリュー達を他所に…ムルタ・アズラエルは満足げな表情で見つめていた。

 

◆ ◆ ◆

 

「まさか嬢ちゃんが()()男と知り合いだったとはなぁ…」

 

「隠すつもりは…なかったのですが、その…」

 

会議の後にマリューの艦長室に集合した三名の中にいるエアリスは困ったような表情を浮かべていた。

 

「あ、いや別におまえさんを責めてる訳じゃないんだ。嬢ちゃんもこっちもいきなりあんな大物がここにいることに驚いちまってるだろうしさ…俺もなんだけど」

 

「…ええ、まぁ…」

 

無理もない。ここにいる三名が驚くのは本来この場にいない人物が現れたこと…だけでなくその人物がエアリスと関係性がある()()()()()()()()()()()()()()()()であったからだ。

それを知らぬほどマリュー達も無知ではない、軍にいるのなら尚更であり今の”地球連合”と”ザフト”が戦う”お題目”を作り上げた組織の頂点に立つ男だったからだ。

 

「”ブルーコスモス”の盟主…ムルタ・アズラエル、か…随分と大物がオーブにいるじゃないの…こりゃオーブに匿われたのも”計画して”って感じだわな」

 

『青き清浄なる世界のために』…ナチュラル至上主義を掲げる元は環境保全団体だった組織は今では反コーディネイターの過激派組織に変わっている…と言うのがこの世界の住人の認識、だがここでは少し違っているらしい。

 

”エアリス”はそれを知っていた為に補足する。

 

「あれは一部の過激派が勝手に嘯いてるだけです。盟主である彼は真っ当に()()()()に尽力してますよ」

 

そう告げるとマリューやムウ、ナタルは怪訝な表情を浮かべていたが目の前にいる彼女が嘘を言う筈がないのを知っている。しかし、それでも信じられない、と言った表情だ。

 

「それで?その盟主と嬢ちゃんはどういう関係?驚いてたみたいだったけど」

 

「少佐ッ」

 

探りを入れるような質問にマリューが声を上げて嗜めるがその当人は肩を竦めた。

 

「だって気になるじゃない?嬢ちゃんが盟主と知り合いなんてさ?結構なお家柄だったりする?」

 

ムウらしい壁を作らない気安い質問…人によればデリカシーの無い、と言われてしまいそうだった。

マリュー達もジト目でムウを見るがエアリスは「今更だな」と納得させて説明した。

 

「まぁ、”一般家庭”ですよ…彼とは家族ぐるみでの付き合いがあったんです。彼は父の弟子…と言うか教え子と言うか、そんな感じです。幼いときにあった時以来顔も見てなかったので向こうも顔を覚えているとは思わなかったからあの場所で驚いてしまったんです」

 

かなりは省略した説明になってしまったが大体はそんな感じだ。

しかし、アズラエルとそういう関係だったのは”エアリス”自身も驚いていた。

彼女から出た説明にムウは眉を上げて見つめる。

 

「”家族ぐるみの付き合い”、ね…」

 

「ええ。”家族ぐるみの付き合い”ですよ」

 

普段通りの表情を浮かべムウの視線を浮かべると追求を諦めたのか肩を竦めマリューへ向き直る。

 

「ま、そういうこともあるわな。しかし、艦長。アズラエル理事がこうお膳立てしてくれるんだからありがたく補給と整備を受けようぜ?先の戦闘でこっちも随分被害を受けたしな」

 

「…ええ。そうですね」

 

ムウの言葉にマリューは複雑な心境で答えたのは彼女が技術畑の人間でありその技術が”オーブ”に渡ってしまうのは自分の作り上げた技術が他国に広まってしまうということだ。

しかし、この孤立無援の状態で補給と整備は先の戦闘で被害が出た今の自分達にとっては正に”渡りに船”だろう。

 

「私は反対です!この国は危険だ!」

 

そのムウとマリューの会話に待ったを掛けたのはナタルだった。

 

「そう中尉は言うけどさぁ…もう連合のお偉いさんが向こうのお偉いさんと話し合って決まったことだぜ?じゃあどうする?艦降りてみんなでアラスカまで泳ぐ?」

 

「そういうことを言っているのではありません!修理に必要な代価をと言うことです!我が軍の最重要機密を易々と他国に供与するなどと…!」

 

「分かるけどねぇ…」

 

ナタルの言うことも尤もだった。

地球連合が保有している”ストライク”と”ダガー”の戦闘データ…それにキラとエアリスの技術協力…それと引き換えにウズミの言葉を借りるとするのならば「かなりの便宜」を図ってくれているという。

それがアズラエルとウズミが交わした”密約”というのなら一軍人とすればそれを此方でいくら声高に叫ぼうとも”上が決めたことだ”と言われれば反論することは出来ない。

軍上層部、ではなく軍需産業理事…ブルーコスモスの盟主に言われたのと”ストライク”の開発元である”モルゲンレーテ”に言われてしまえば微妙な所ではある。

が、”ダガー”は純粋に地球連合が開発した試作量産検討機だ。そのデータをオーブに流すことは利敵行為と捉えられても仕方がないのだが…それをしてでも得るものが大きい、ということか。

 

「…アズラエル理事もウズミ様も仰らなかったけど当然ザフトからの圧力もあった筈よ?それでも庇ってくれている理由は言わずとも分かるでしょう?」

 

マリューがムウの言葉を引き継ぎ口を開く。それは金銭に代えられないものを此方が持っているから、という答えに他ならない。

 

「それにアズラエル理事の指示がなければ此方はザフトに追われて艦は被弾して航行もままならずに撃沈、または拿捕されている可能性もあったわ」

 

「それになぁ…”アラスカ”は俺たちを歓迎してくれてないみたいだしさ?まさに渡りに船じゃねーの?」

 

ムウが肩を竦めるとナタルが「うっ…」と言葉を詰まらせたのは先の会議室でのアズラエルの言葉を思い出したからである。

 

『どうやら連合の一派閥は君たちに補給を渋ってるみたいですからね…そんな戦局を一変させる可能性を秘めたハルバートンの秘蔵っ子達と連合のエースを乗せた戦艦を撃沈させるわけにいかないでしょ?ま、先行投資って訳ですよ』

 

アズラエルの言葉を聞き集ったマリュー達はここに来るまでの地球連合本部の動きに腑に落ちると同時に憤慨も覚えていたがエアリスは別の事を考えていた。

 

(アズラエルは”アークエンジェル”を子飼の部隊にしたいのか?…それにあの説明だとサザーランドとは敵対している?それだと…こっちの味方になってくれそうだけど…)

 

アズラエルの動きを見れば此方に敵対する様子は見られないし此方に不自然なまでに好意的なのは怖いが彼が味方ならばやれることが増えるだろう。

…が、サザーランドがどのような動きを見せるのかが予想が出来なくなってしまうのだが。

 

「っ…分かりました。それがご命令ならば従いましょう。しかし、この件は……っ、いえ、なんでもありません…失礼します!」

 

マリューやアズラエルの説明に納得のいく様子を見せていないナタルは慇懃な調子で語気も少し荒く踵を返し艦長室を出ていくが途中で良い淀んだのは先ほどの会場でアズラエルより全員が”釘を刺された”からだ。

 

『因みにですが…このお話を”外”に漏らした場合…どうなるかお分かりですね?聡明な貴殿方であれば、ね?』

 

(えげつないなぁ…本当に)

 

裏でどれ程の”交渉”が行われたのかは分からないがただ一言だけ言えるのは自分達の知らない舞台の裏で権力者達が

火花を散らし利権を得ようとしていることだけでありそのとばっちりを真に受けるのは現場で戦っている軍人達なのだとそれに憤るナタルの気持ちも分からなくはない、と何とも言えない表情で立ち去った扉を見つめた。

 

◆ ◆ ◆

 

翌朝”アークエンジェル”の周辺には”モルゲンレーテ”から派遣された機材や技術者が車両で乗り付け修繕に勤しんでいる一方で霧に包まれた早朝をキラとエアリスは”モルゲンレーテ”のバギーの先導に従ってオノゴロ島の木々に囲まれた沿岸の道路を移動していた。

移動し岸壁のような場所へ到着するとゲートが開き大型貨物のエレベーターとなっており並んで搭乗し降下し暫くすると地下へ到着したのか扉が開くとそこには広大な工場区が現れた。

 

(オーブって地下に秘密基地作るの好きだよなぁ…ああ、ここで”ストライク”のデータ使って”アカツキ”を作るのか…凄いな)

 

<そちらのケージにいれて頂戴>

 

バギーに乗ったエリカからの指示に従い二人はモビルスーツのメンテナンスベッドに預けコックピットから降りると先ほど指示してくれたエリカが近づいてここの説明をしてくれていたがエアリス的には

 

(うわぁ…美人)

 

と説明など右から左へ聞き流してしまっていた(大体の流れは把握している為問題なし)

 

「私はエリカ・シモンズ。貴方達に見て貰いたいものがあるのよ。着いてきて?」

 

自己紹介しキラとエアリスはきびきびと動くエリカの後を着いていき薄暗い通路を抜けゲートをくぐるとそこには威容な、壮観な光景が広がっている。

 

「ガンダム…?」

 

「アストレイ…?」

 

「中尉の方が近いわね。この機体はオーブ軍正式採用機”モルゲンレーテ”社製モビルスーツ、”M1アストレイ”よ」

 

二人が其々の機体名称を呟くとエリカは苦笑する。

”ストライク”のような頭部に”アストレイ”のような胴体パーツを見てそう素直な感想が出てきたのだがエアリスは内心で思わず正式名称を言いそうになったが。

モビルスーツハンガーに鎮座する”M1アストレイ”の並びに興奮していたのもあったが。

 

「これが中立国オーブという本当の姿だ」

 

そんな感想を持っていると不意に後ろから声が届く。聞きなれた少女の声だ。

 

「カガリ?」

 

普段のようなTシャツにカーゴパンツというラフすぎる格好にエアリスは思わず苦笑いを浮かべそうになったがそれは一旦棚上げしておく。

この場に連れてこられモビルスーツを見たキラは疑問に思った事をエリカへ質問する。

 

「オーブはこの機体をどうしたいんですか?」

 

「どうって?」

 

「この機体は、オーブの護りだ」

 

「オーブの護り?」

 

「ああ。お前も知ってるだろ?『オーブは他国を侵略しない。他国の侵略を許さない。そして、他国の争いに介入しない』…その意志を貫く力さ」

 

キラとエアリスはそれを聞いてカガリを見ると左頬が赤く腫れているのを見て前者は誰かと取っ組み合いでもしたのか?と思っているが後者は

 

(ウズミ様にぶたれたんだろうねぇ…ま、残当だけどさ)

 

カガリの言動がどれ程危険なものだったのか、と自覚するには安い授業料だろうとそう思った。

 

「オーブはそういう国だ…いや、そういう国の()()()()()。父上が裏切るまではな!」

 

「えっ?」

 

「…はぁ」

 

その言葉にキラが驚くような声を上げたがエアリスは呆れた声を漏らすと聞こえなかったのかエリカも同じような声を漏らしカガリを嗜める。

 

「あら、まーだ仰っているんですか?そうではない、と何度も申し上げているでしょう?”ヘリオポリス”が地球連合のモビルスーツ開発に手を貸していた、なんてことウズミ様はご存じなかった」

 

遮るようにエリカの声を遮って喚く。

 

「黙れ!国の最高責任者が”知らぬ”とそんな言葉で通じると思うのか!?」

 

「だからこそ責任をお取りになって首長を辞任なされたではないですか」

 

エリカもうんざりしながらウズミを弁護したがカガリは受け入れようとしない。

 

「叔父上に職を譲ったところで後ろからあーだこーだと口を出して!結局なにも変わっていないじゃないか!」

 

「……(何かムカついてきたな)」

 

カガリの癇癪と言い分に苛立ちを覚えたエアリスはこめかみをピクリ、と動かす。

 

「仕方がありません。今のオーブにはウズミ様のお力が必要なのですから」

 

「あんな卑怯者のどこがッ!」

 

父親をバカにしたような言い方、彼女の幼稚とも断言できる《目の前しか見ていない》物事の視界の狭さにエアリスは思わず行動に移しそうになったがグッと堪える。

 

(昨日の考えなしの行動でウズミ様に打たれるのは当然でしょうが…それに今までの行動も合わせたらね…卑怯者?国内外から非難の的になっている父親をそんな風に言うのは見当違いでしょ。踏ん張ってこのオーブが焼かれないように自分の手を汚しているんだよ?どうしてそんな狭い視野でしか世界を捉えられないの?国の指導者が()()()だけで国家運営出来るわけないでしょうが…)

 

内心でカガリに対する”甘さ”に憤慨しているとエリカが代弁した。

 

「やれやれ…あれほど可愛がっていらしたカガリお嬢様がこれではウズミ様が報われませんわね。確かに、頬の一つぶたれても仕方ありませんわ」

 

そう言われたカガリはバツが悪そうに顔を逸らすがその事情を知っているエアリスとしてはウズミが彼女を折檻しても文句を言われないレベルにまで到達している”やらかし”だろうと思っている。

目を白黒させているキラと思案していたエアリスににこりと微笑むのはエリカなりのカガリへの当て付けなのだろうか。

 

「さ、このおバカさんは放っておいて…来て。見せたいものがあるの。着いてきて。」

 

「は、はい」

 

「分かりました」

 

エリカの先導にエアリスは肩越しに後ろをチラリ、と視線を向け戻し後を着いていく。

暫く歩くと突き当たりのエレベーターに乗せられ目的地へ到着すると最下層…オーブの地下に作られたガラス張りの視察ブースに入ると目の前の大きな空間は試験場になっているのか三機の”M1アストレイ”が並んでいた。

 

「…成る程。地下実験場ね」

 

「ああ。大っぴらに稼働実験も出来ないからな」

 

ガラスに近づきエアリスはカガリの右隣に立つ。

キラも黙ってガラスの側へ近づくのを確認したエリカは笑みを浮かべてインカムを取って声を掛ける。

 

「アサギ、ジュリ、マユラ!」

 

<はぁーい!>

 

「(!?こ、この声は…!)」

 

甲高い声を聞いてエアリスはハッとなる。

指令室に設置されたモニターに映るは癖っ毛のある金髪にミディアムヘアーの青髪と快活そうなショートボブの少女達がいた。

 

<あ、カガリ様?>

 

<あら、本当!>

 

<なぁに?本当に帰ってきたの?>

 

「悪かったな!」

 

モビルスーツという武骨な兵器にそぐわない華やかなで姦ましい声が聞こえキラは「似つかわしくない…」と思ったが隣にいるエアリスもあの”ダガー”に乗っていることを思い出して「可笑しくは…無いのか?」となっていたがそれよりもエアリスは聞こえてくる声に興奮していてそれどころでは無かったが。

 

(ヤバイヤバイ…かわいすぎるでしょう?!)

 

アサギ・コードウェル、ジュリ・ウー・ニェン、そしてマユラ・ラバッツ…その姿を見たエアリスは一人勝手に限界化していた。

 

<隣のコ、なに?ちょっと可愛いじゃない!>

 

<カガリさまったらどこでそんなオトコノコ見つけてきたのよォ!意外に隅に置けないわね!>

 

<家出かと思ってたけど実は……ってカガリさまの右隣にいるコ誰!?ちっちゃ!?>

 

「え?わ、私?」

 

右隣?と頭に疑問符を浮かべて首を傾げ声に聞き入っていたエアリスは”M1アストレイ”の方を見るとブースの方に視線を向けると「きゃー!」という黄色い悲鳴が聞こえてきた。

彼女達の意識はキラからエアリスに移った。

 

<本当!お人形さんみたいでかわいい~!>

 

<ちっちゃいー!でも連合の制服着てるのはなんで?>

 

<うわっ!肌しろーい>

 

(わたしのこと?わたしよりあなた達の方が可愛い、と思うんだけど…?)

 

オーブ三人娘に褒められ「何故?」と首を傾げるエアリス。

 

「はいはい、そこまでにして。今日は”お客様”がいらしているのよ」

 

<え、『お客様』ってその子達のことだったのー?>

 

<やだーあたしてっきりカガリさまが家出の道中で誘拐してきちゃったものかとばかり>

 

<あ、そう言えば連合の制服着てる…主任、その子達が?>

 

エアリスは「私は猫か?」と疑問符を浮かべているとエリカが指示を出す。

 

「さ、始めて」

 

エリカが指示を出すとアサギ、ジュリ、マユラが<はぁい!>と元気な声を出して”M1アストレイ”達は動き出す…がそれをみたキラとエアリスは唖然とした。

ノロノロと腕を突き出して太極拳のようなモーション…無理矢理にみれば、という枕詞がつくどう見ても二人が動かすような機敏ではない動作を見ているとカガリも落胆したような声を上げた。

 

「……相変わらずだな」

 

「これでも速くなったんですよ?あれから新しいOSを入れましたから」

 

「…あれで?」

 

「本当だな…お前達二人と比較すると”雲泥の差”だな。これじゃあっという間にやられちまうぞ?」

 

思わずエアリスが口に出してしまうとカガリが苦い顔をして同意するとオーブ三人娘から「あーッ!」と声を揃えて抗議してきた。

 

<ひっどーい!>

 

<人の苦労も知らないで!>

 

「本当のことだろうが!それにそんなこと敵は知ったこっちゃないだろ!」

 

カガリの言葉も一理ある。戦場で敵は待ってくれないのだから。

 

(この三人娘も生き残れるように頑張らないと…)

 

エアリスがそんなことを思っていると三人娘とカガリがギャイギャイ言いあっている。

 

(原作でムウさんも何処かで言ってたっけ…『ノロクサ動かすにも四苦八苦してた』って。それ考えると私とキラ君…そしてそれ言ってたムウさんも簡単に動かしてるのって相当なのでは?)

 

キラはコーディネイターだとして自分はコーディネイター用のOSを代償無しに扱えていることを棚に上げるとするのならナチュラルであれほど動かせるムウはやっぱりスーパーナチュラルなのでは?と思うエアリスだった。

 

(それを改良してナチュラル用のOS作っちゃうキラ君やっぱりすごいなぁ…)

 

これからエリカにお願いされる”仕事”の結果を思い浮かべキラへ感心するような視線を向けると同時にエリカが微笑みながらキラへお願いした。やはりというか「サポートOSの開発」の依頼がされるのを他人事のように聞いているとその矛先は此方にもやってきた。

 

「それと…中尉には”M1アストレイ”に搭乗して技術協力して欲しいの。具体的にはサポートシステムのOS開発にアストレイに使用するオプションパックの幾つかに意見を貰いたいのよ。」

 

そんな提案に思わずエアリスは目を丸くしてしまう。

 

「え?これって国家機密ですよね…良いんですか?そんなのに自分を乗せて」

 

「ええ。勿論よ。戦場で様々なストライカーパックを運用してきた貴女なら現場の意見を聞けると思ってね。それに

…」

 

エリカはソコで言葉を区切りエアリスとキラに対して視線を向け不敵な笑みを浮かべた。

 

「連合のエースパイロットに…それを適正化させたOSを乗せたモビルスーツ…素晴らしいデータが取れると思わない?」

 

エリカにそう問われアズラエルが”協力”することを良し、としているのであれば断る理由もないし”今後”の事を考えるのであればオーブの強化は必須、オーブが連合とザフトに対して防衛するのなら”質”に重点を置かなければならない。

 

「…分かりました。快く協力させて貰います。」

 

そもそもここにいる時点で拒否権など無い…それに”M1アストレイ”一度乗ってみたかったのもあった。

その後にエアリスが連合の謎多きエースパイロット”彗星の魔女”であることが知られカガリと言い合っていたオーブ三人娘から三者三様の反応をされて困惑する表情を浮かべざるを得なかった。

 

(どちらかと言うと私が貴女達からサインを貰いたいんだけど…?)

 

自分がキャイキャイ言われることが信じられない、と言った感じなのだが。

エリカ曰く「ナチュラルであり、尚且つ開戦してから軍でも屈指の撃墜数を誇る貴女がビジュアルが出ていないとは言え有名じゃないわけないでしょ?」とのことらしい。

各国でもその戦闘と代名詞である愛機”ダガー”は目立っていたらしく苦笑いを浮かべる。

ビジュアルを公表しなかったのはアズラエルが手を回していたのは後になって気がついたことだが。

 

◆ ◆ ◆

 

翌朝、オーブ領海内。

操業している漁船の縁に伸びる男の手があった。

それを見た釣り人は声を上げることもなく腕時計を一瞥してその縁を掴んできた男の手を掴み引き上げるとそれを契機に続々と同じダイバースーツを着用した男達が物音を極力立てずに乗り込んでくる。

乗り込む姿を確認した釣り人は運転する乗員へ視線を向けると岩棚へ向けて動き出す。

スキューバへ手を掛けキャップを脱ぐと現れたのは端正な顔立ちと少し濡れた黒髪の少年…アスランだった。続けて装備を脱ぐ三名の兵士達…いうまでもなくニコル、イザーク、ディアッカのザフトの”ザラ隊”だ。

 

()()()()()、アスラン・ザラだ」

 

”ザラ隊”と名乗らなかったのは気恥ずかしさとクルーゼの名前を出した方が物事が円滑に進むからだろうという判断だった。

釣り人…に偽装したザフトの連絡員がニヤリと笑みを浮かべ腕時計を見る。

 

「ようこそ、”平和の国へ”」

 

「行き先は?」

 

「オノゴロ島、あんたらの”探し物”は十中八九そこにある、もしあるとするのならば、な?」

 

「他に何か無いか?」

 

アスランは”アークエンジェル”に関する情報は?という意味で問いかけたが男は肩を竦める。

 

「俺の耳にははいってこないねぇ…連中、よほど念入りに隠しているか…それとも公式発表が正しいかのどちらかだな」

 

それを聞かされたアスランは肩を同じく竦める。それを確認するためにオーブへ密入国したのだ。アスラン達をのせた漁船は人気の無い入り江へ入り込むと船の中で手渡された変装用の”モルゲンレーテ”の作業服に着替えオノゴロ島と”モルゲンレーテ”の曖昧な見取り図を受け取った後にIDカードを差し出された。

 

「これがあれば工場の第一ゲートを通ることが出来るがそれから先は完全な個人情報管理システムでね。急拵えではこれが限界でね…我慢してくれ」

 

「…いえ、此方からお願いしたことです。協力感謝する」

 

アスランは一礼入れた後に顔を上げると連絡員がアスラン達を見て肩を竦めた。

 

「ま、あまり無茶はしてくれるなよ?”獅子”は眠らせたままにしておきたい。騒ぎは御免だからな」

 

そういって男は漁船へ戻る。夕暮れになればまたここで回収してくれる手筈になっている。

イザーク達が会話をしているが今アスランの心は別の場所へ向かっていた。

 

(この島に…キラが、カガリがいるかもしれない…)

 

その事を考えるとアスランの胸が苦しくなる。

 

(そして…あの艦と”彗星の魔女”もいる筈だ…)

 

見つめるその島に後者がいるのなら必ず”キラ”と”カガリ”がいることになる…彼らを見つけたいのか、それとも居なければ良いと思っているのかアスランの心と瞳は揺れていた。

まるで振り子のように。

 

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