魔改造ダガーでC.E世界を駆け抜けたい【完結】   作:萩月輝夜

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平和への対価

”ストライク”と”アークエンジェル”は”モルゲンレーテ”の技術者達によって新品同様にまで急ピッチで作業が進められていた。

エアリスの”ダガー”も何十人もの整備士が集まり機体の彼方此方に取りつきオーバーホール作業を平行している一方でそのパイロットは”モルゲンレーテ”の会議室でこの場所に裏で手を回した男に呼ばれていた。

 

「さて、君がここに来るまでどんな事が起こったのか教えてくれますか?」

 

「それは報告書でご存じなのでは…?」

 

「君の口から聞くことに意味があるんですよ」

 

エアリスは知らないかもしれないがわざわざオーブに脚を運んだのは彼女からいち早く武勇伝を聞くためであった。

 

「…あまり愉快な話にはならないと思いますが」

 

「それを判断するのは…僕ですよ?」

 

対面し机の上には冷たいコーヒーが注がれたカップが置いてあり既に雫がついている。

それと同様にエアリスは内心で冷や汗を掻いていたが勧められた手前とそう言われれば黙るわけには行かずにエアリスは”へリオポリス”からここ”オーブ”に至るまでの経緯を説明するとアズラエルはそのエピソード毎…多くは自らが関わった戦闘については興奮すら覚えているのだった。

 

「いやはや…本人の口から聞いたのと映像で見させて貰いましたが本当に君がナチュラルなのか疑いたくなってしまいたいレベルですねぇ…」

 

「それ、艦長達にも言われましたよ」

 

何処でその戦闘データを手に入れたのか?と問いかけたくなったが彼の立場ならば手に入れることは容易いだろうと想像した。地球連合軍の内部には彼のシンパも多い…手に入れるのは容易いだろう。

アズラエルへの応答を終えるとエアリスは気になっていたことを問いかける。

 

「…あの」

 

「どうしました?ここには今私と君しかいません。聞きたいことがあればどうぞ」

 

促され口を開いた。

 

「…お父様は元気ですか?」

 

エアリスの質問が予想外だったのか目を一瞬丸くしたがその表情は柔らかいモノと複雑な心境が入り交じっていた。

 

「ええ。先生は元気ですよ?元気すぎて笑ってしまいそうです。この間なんかは地球連合の高官を殴り飛ばしそうになる勢いでしたネ」

 

アズラエルの報告に乾いた笑いが出てしまう。「一応、あの人も要職についているのですから自重して欲しいものですが」とぼやいていた。

 

「(記憶の中の父親は変わっていないらしい…)そうですか…」

 

「はい。はぁ……まだ、先生とは仲が悪いのですか?」

 

「仲が悪い、というか向こうが興味が無いというか…お母様が亡くなってからそんなものだったと思います。」

 

既にエアリスの母親は亡くなっている。顔も見たことはないのだが。

物心を自覚してから父親は自分に愛情を向けたことなど一度も無い…しかし、この身体に記憶として残っている”寂しい”という感覚は既に消え去っている。

い”という感覚は既に消え去っている。

一方でその質問を受けたアズラエルは内心苦笑していた。

 

「(はぁ…娘は父親の事を案じているというのに…逆に父親の”愛情”を娘は知らないという。面倒くさいですねこの家族は)しかし、貴女があの”アークエンジェル”と共に作戦行動しているとは思いませんでした」

 

アズラエルが言い淀んだのは”アークエンジェル”と”エアリス”への補給に関しての”オーブ”へ渡りをつけたのはその父親だったのだがそれを「あの娘に言う必要はない」と釘を刺されてたからだ。

流石のアズラエルも”先生”にそう言われてしまえば従わざるを得ないのだ。

 

「まぁ、成り行きです。本来であれば早々に地球に降りて研究室に戻っていた筈なのですが」

 

「コーディネイターの少年に”ストライク”が運用されたのは想定外ですが…貴女があの”ダガー”を運用してくれたお陰で此方は”量産機”の目処が着きました。アラスカは”ダガー”と”エアリス”…貴女を歓迎してくれるでしょうが”ストライク”とそのパイロットの少年は…」

 

「…(やっぱりそうなるよね)はい」

 

口をつぐんだアズラエルの物言いにエアリスは思わず渋い顔を浮かべる。

当然だ。連合の上層部が全員ハルバートンのような人格者な訳がないし一枚岩ではない。利権とそれらが絡み合った場所がアラスカだ。コーディネイターが操った”ストライク”とそのパイロットをすんなり受け入れる筈がない。だからこそこれまで補給部隊を寄越さなかったのだ。

 

言わばアラスカはコーディネイターにとっての”魔窟”…いや地球が、だろうか。

 

「まぁ此方としては貴女達が沈められると困るので、こうしてあれやこれや手を回したり…ここにワザワザ足を運んだわけですが」

 

そう言われてエアリスは砂漠での補給の手回しにはアズラエルが関わっていることに気がついて少し驚いた。

そして彼がいう今の地球連合本部の状況を聞いて苦虫を潰したような心情になった。

 

(そうするとキラ君をこのままアラスカに連れていくわけには行かない…)

 

このまま行けばキラが”不慮の事故”で亡き者にされても可笑しくない。

想像していなかった訳ではなかったが、ここで無理矢理キラをオーブに降ろしたところで着いてきてしまうだろう。

へリオポリスで、あの低軌道でキラや彼女達を降ろすことが出来ていればこんなに悩むことはなかったが既に時遅しだ。

 

「…分かりました。それと理事、お願いしたいことがあります」

 

このタイミングで”アークエンジェル”に乗艦しているある意味でのVIPの事を告げる。

今のアズラエルからは”コーディネイター”に対する劣等感や悪感情を感じられなかったからだ。

”父”の力を借りるつもりだったが問題ないだろう。このままにしておけば命の危機すらあり得る。

 

「…珍しいですね。ええ、ですが良いでしょう。僕に頼みごとですか?」

 

エアリスからのお願いにアズラエルは口角を上げた。

 

◆ ◆ ◆

 

「新品同様になったなぁ…」

 

アズラエルとの会話後に”モルゲンレーテ”に戻ってきたエアリスは、新品同様となった”ダガー・アーキバス”を見て感嘆を漏らしたのは先の戦闘で破損したPS装甲が修復されていた為だ。

極力攻撃を受けないようにしていた”ダガー”であったが完全回避…と言うのは不可能でビームや弾丸が掠めた装甲材を”アークエンジェル”内部では完全修復出来なかったのだ。

 

「うわっ電磁流体ソケットの磨耗が酷いな…」

 

「駆動系がもう全部ボロボロですよ」

 

「機体全体が悲鳴を上げてるな…フレームもガタが来てるぞこれ…これに乗ってるパイロットはとんでもねぇな」

 

(一応、乗ってるパイロットここにいるんだけどなぁ…)

 

陰口?を叩かれながら随分無茶を愛機にさせてしまったなと反省するエアリスであったがここで新品同様の状態になったのを確認しエアリスはコックピットに潜り込んでOSや計器類の調整を行うためにキーボードに指を走らせる。

 

(…やっぱり反応速度が遅い、いや私が()()()()()()()のかな…)

 

先のオーブ領海での戦いで”イージス”の頭部を貫ける筈であったがそれは叶わずに反撃を受けてしまったことに技術士官としてその原因を探るが思い行き着くのが”機体が自分の操縦技術に追い付いていない、抜いてしまったのでは?”と言うことだった。

 

(マグネットコーティングもサイコフレームなんて便利材質もない…一先ずOSのシナプス融合値をあげてコーディネイターの神経接続付加を上げるためにイオンポンプの分子構造を…)

 

一先ず反応速度の改善のためにOSの構築を進める。これを怠って撃墜されるなど恥ずかしいにも程があるからだ。

作業を進めているとコックピット上部に黒い影が差し込まれる。

 

「うわっ、キラのも見たけどお前も早いなー。キーボード打つの」

 

聞いた声と台詞が耳に届き顔を上げるとそこにはキャットウォークから普段のようなタンクトップにカーゴパンツというラフな姿のカガリが覗き込んでいた。

 

「カガリ?何してるの?」

 

「ん…?お前私と会ったことあったっけ?」

 

エアリスの見た目が変わっていたため気づいていないらしく、頭に疑問符を着けている。

 

「…ああ、メガネと髪結ってるから気がつかないか…よっと…はいっ」

 

そう言ってコックピットから作業を中断し這い上がってキャットウォークに上がり顔付近に手を掛ける。

今着用しているのは周りに作業している作業員と同じく”モルゲンレーテ”の作業服に白衣を着用し、ブルーライトの野暮ったい伊達メガネをかけ髪をヘアピンとシュシュで纏めている。メガネと髪をほどくとその姿は明らかになった。

艶やかな髪が絹糸のように流れ落ちる。

 

「…ってエアリスか…別人過ぎて気がつかなかった。制服も着てないし」

 

「うん、工廠内部を連合の制服を着用したままじゃダメでしょ…」

 

「なるほどな…つかお前達根詰め過ぎだろ…休憩しろよ?おーい!キラー!休憩しよう!」

 

「あっ…うん。わかった」

 

そう言われエアリスはカガリに手を引かれ、”ストライク”のコックピットで作業していたキラを連れ出し併設されている休憩室へ連れだって向かった。

その道中でエアリスは思ったことを口に出す。

 

「それにしてもカガリ、この国のお姫様なのにこんな場所にワザワザ来るなんて…物好き?」

 

そう問いかけるとカガリは唇を尖らせた。

 

「悪かったな!それに姫、何て言うな!全然そう思ってない癖に!」

 

その言葉にキラがプッと吹き出すとカガリは更に激怒した。

 

「笑うなって!そう言われんの本当にキライなんだ!」

 

いたたまれない表情でキラにカガリは言うがエアリスはそうは思わなかった。

天真爛漫すぎるのは珠に傷ではあるがその所作、時折見せる育ちの良さは”お姫様”と言っても差し支えないだろう。

元気じゃないカガリはカガリじゃない…とエアリスはそう思っている。

 

「(劇場版で声変わっちゃうけど…あれはあれで大人しくなったカガリで好きだよ…?)そんなこと無いよカガリ?」

 

「えっ…?エ、エアリス?」

 

唐突にエアリスはカガリの両手を包み込むように握り金色の瞳を碧眼に瞳が覗き見る。

カガリは困惑している。

 

「お転婆が過ぎるのは致命的だけど…所々に見える所作はお姫様。その金髪と強い意思を秘めた両の金目…色白でスタイルが良い…即ちカガリは可愛い」

 

「あ、うぅ…そ、それを言ったらお前の方が可愛いじゃないか…色白だし…顔良いし…ちっちゃいけど胸でかいし…性格は…良いのか?」

 

「そういうのは思っても言わないで…」

 

真っ正面から素直に真顔でカガリを誉めると恥ずかしそうにしている。

エアリスは思った。「カガリみたいな娘は真っ正面から誉めるのが効果的である」と。

その効果はテキメンであり顔を真っ赤にしてプルプルと震えている。

逆にカガリに褒められたが最後の方は言い淀んでたけど。

 

「私の事は良いや。お転婆なところが無くなればカガリは最高にお姫様だよ?可愛いし」

 

包み込んだ両手でカガリの手の甲をゆっくりとなぞり上げると「ひうっ」と可愛い声を上げる。

どうやらカガリは攻めに弱いらしい。新たな発見だ。

 

「や、やめろぉ……ってお前さっきから”お転婆””お転婆”煩いなっ!?」

 

このまま褒め殺して恥ずかしがるカガリを脳内フォルダに納めようとしたエアリスだったが枕詞で使っていた台詞に気がついたのかハッとなって騒ぎ始めた。

 

「バレたか…」

 

砂漠からの”当て付け”というわけではないが逆襲できたので満足していた。

 

「ったく…お前も本当はそんなこと思ってないんだろっ」

 

「心外な…私は本当にカガリがお姫様、だと思っているよ?」

 

カガリを攻めるためにその言葉を紡いだがそれは心からの言葉だ。嘘は言っていない。

それを証明するように眼前に顔を近づけ、エアリスの碧眼が揺らぐこと無くカガリの金色の瞳をまっすぐ見つめる、彼女もそれを悟ったのか未だ収まらぬ顔の赤さを見せぬように逸らした。

 

「(あ、可愛い…普通にアスランにあげるの勿体ないな…)?…キラ君?どうしたの?顔を真っ赤にして突然明後日の方向を見て」

 

「…あ、いえっ!なんでもないです!?」

 

「???」

 

視線を感じてキラを見るとカガリと同じように顔を真っ赤にして明後日の方向を見ていたのを質問するのをカガリは呆れた表情を浮かべ呟いた。

 

「お前って本当に…そう言うところ鈍いよな…」

 

「????」

 

そのやり取りを挟みながら休憩室へ向かう三人。

その道中でキラがカガリに”へリオポリス”にいる理由を聞くやり取りがあった。

カガリは許せなかったのだろう自国が地球連合にモビルスーツの開発に手を貸していることに対して彼女なりに”へリオポリス”が危険に晒される事を危惧して行動を移した…とキラはそれを聞いて「若いのに国益の事を考えていて偉い」と思っている。

エアリスもそれに関しては「首長家の人間だな」と思ったがそれ以降の行動がダメだろ…と感じていた。

 

「父に…『お前は世界を知らない』と言われた。だから見に行ったのさ」

 

「だからって砂漠でゲリラする?一歩間違えたら貴方、国際指名のテロリストよ?」

 

そうカガリに告げると詰まったように「うぐっ…」と言葉を漏らす。

自分でも「不味かった」と思っているようなので原作より成長しているな、と少し感心した。

 

「『世界を見てこい』って言われたら普通さ…同盟関係にあるスカンジナビア王国とかに留学で良かったんじゃない?なんで砂漠で”バクゥ”相手にランチャーぶっ放してんのさ」

 

休憩室に到着しエアリスがソファーにキラと共に腰かけると自販機に近づいたカガリは口を開く

 

「それでも…向かった砂漠にはみんな…必死に戦っていた。あんな砂ばかりの土地で…その土地を守るために…」

 

「…そう」

 

その言葉を改めて聞かされ呆れ半分感心半分だった。

留学、という安易な選択をせずに実際に戦争と過酷な環境で過ごし戦う人々達と同じ目線でモノをみる…将来為政者となるカガリには立派な経験値になるのは確かであったが、もう少しまともな手段を取れ無かったのかと保護者であるウズミに文句の一つでも言いたくなったが堪える。

それは彼女なりに考え、選択したゆえの行動だったのだと。

 

「なのに…オーブは…」

 

カガリは休憩室から見える”ストライク”と”ダガー”のメンテナンスベットを見下ろす。

 

「これだけの力を持ち、あんなことをしたくせに、未だに”連合”にも”プラント”にもどっちにも良い顔をしようとする…ずるくないか?!」

 

カガリはエアリスに挑みかかるように見た。

 

「それで良いのか?こんな中途半端で!?」

 

彼女は一本気なのだ。自らの陣営がクロなのかシロなのかはっきりさせたい。

実際に現地で貧弱な装備でザフトのモビルスーツと戦う人たちの姿を見て憤るのは理解できる。富栄え、平和を貪る自国を恥じる気持ちはエアリスには理解できなかったが。

 

だからこそ、エアリスはあの砂漠で敵将へ告げたことをカガリへ向ける。

 

「…じゃあカガリは敵であるものを全て滅ぼしたいの?」

 

「違う!私は…戦争を終わらせたいだけさ!」

 

「戦争はそんな簡単なものじゃない…意思、思想、理念、利益…全てが絡み合った混沌とした一種のテーブルゲームだよ。カガリ……オーブがどちらかの陣営につけば確かに戦争は終わるかもしれない。でもーー」

 

カガリとキラはエアリスが見せた横顔に背筋がゾッと震えた。

 

「荷担した陣営が勝利したとしても必ず平和を齎してくれる、とは限らないよ?同族同士で滅ぼし合う、旧暦の人類がこれまでに行ってきた…人の業だよ。戦争ってのはさ…どこまで言っても終わることはないんだ」

 

暗く影を落としたエアリスの雰囲気に反論しようとしていたカガリ、そしてその話を聞いていたキラは寂しげにエアリスの横顔を見つめるしかなかった。

 

◆ ◆ ◆

 

場面は移り変わりオーブ秘密地下施設にて。

ガラス張りの向こうにいる”M1アストレイ”の動きは昨日と劇的に変化していた。

腕を素早く振り下ろしぎこちない動きだった二脚は豪快な音を立てて地下施設の地面を蹴り上げ走破しスラスターを吹かせ後方へ飛び脚部バランサーが作動させ転倒すること無く着地した。

 

「新しい量子サブルーチンを構築し、シナプス融合の代謝速度を四十パーセント向上させ、一般的なナチュラルの神経接続に適合するよう、イオンポンプの分子構造を書き換えました。」

 

実際に滑らかに、人間に近い動きで動く”M1アストレイ”の動きを見たエリカが感嘆の声を上げる。

 

「良くこんな事を短時間で!スゴいわね。本当。」

 

「ナチュラル用OSの基礎はエアリスさんが作ったものを僕がブラッシュアップした奴になるのでそこまで時間がかかってませんよ?これを弄るとコーディネイター用…というかエース用に反応速度を向上させたOSにアップデートできますけど…」

 

キラがエリカに褒められるとばつの悪そうな表情を浮かべるのは元になったデータはエアリスがムウの”アストレイ・ゼロ”を動かすために乗せたOSがベースだ。

褒められるのは自分ではない、とそう思っているからである。

 

「そう…先日、中尉に"M1アストレイ"に乗って貰ったけど…良いデータを取ることが出来たわ~」

 

「???」

 

「これを見て貰った方が良いわね」

 

そうってエリカがデータをキラに渡しそれに目を通すとぎょっとした。

 

「なんですか…これ」

 

表示されたデータには稼働データ…即ち機体のポテンシャルを確認するための数値が示されていたが何れもかしこも駆動系の数値が異常であり何れもレッドスコアを叩き出していた。

 

「うちの”M1アストレイ”も装甲材に合わせて機動力に割り振っているんだけど…彼女に機体速度が追い付いていないみたいなのよね…見てよこれ、一瞬動いただけで10Gよ?普通の人間なら失神してるわ」

 

スラスターを全力で吹かしても人体になんの異常もない…そして機動力に重点を置いている”M1アストレイ”が一回の出撃でレッドスコアを出すのは異常だった。

 

「流石は”彗星の魔女”ね。良いデータを取ることが出来たわ」

 

「(エアリスさんの能力に機体性能が追い付いていない…?)な、なるほど…」

 

そんなことを考えているキラは不意にガラス張り付近にいるエアリスに視線を向けるが此方に気がついていない。

熱心に動いている”M1アストレイ”に関心が向いているようだ。

 

新しいOSを導入した”M1アストレイ”のデモンストレーションが終了しアサギを除いたパイロット二名…ジュリとマユラがエアリスの側へやって来て話したり髪を弄られたりしてある意味で”みんなの妹”と化していた。

見た目と喋り方、エアリスが身長が低いためマユラ達より頭一つ分の差があった為オモチャにされている。

 

「………」

 

「やーんエアリスちゃん可愛い!」

 

「髪サラサラー。で頬っぺたもちもち…お顔可愛いー!」

 

「これで連合の”彗星の魔女”って言うんだから驚きよねー。人って見た目によらないわー」

 

ひゃめてくだひゅあぃ(やめでください)…あ、ヒャヒャリ(カガリ)ひゃふけて(助けて)…!!」

 

「…ふん、そのままオモチャにされてろよ」

 

「~~~ッ!!」

 

カガリに助けを求めるがその光景を少し、面白くない、と思っていた彼女に見捨てられ少しだけショックを受ける。

見捨てられエアリスが声にならない悲鳴が監視ブースに響くが作業員達は微笑ましいものをみる目でそれを見ていたしカガリも少し笑みを浮かべていたので本心からの言葉ではなかったようだ。

 

◆ ◆ ◆

 

(キラ君には聞いてなかったけどちゃんとご両親に会ってるみたいで良かった…)

 

ジュリとマユラ達から解放された後エアリスは”モルゲンレーテ”の外へ出ていた。

といっても”モルゲンレーテ”から出れる訳でなくあくまでも地下区画から出た表向きの一般ブロックである。

一般ブロックは表から出ている区画である為作業員と車両が忙しなく動いているのが視界に入る。

なぜここにエアリスがいるのか、というのは作業の一息、休憩で地上にある売店を利用しに来た為である。

 

(しっかり”両親に会ってきます”って言ってくれて助かった…あの原作での言葉は心破壊されちゃう…)

 

今、学生組は両親達と久々の再会を軍本部で行っていることだろう。

学生組含めキラ達が憂いなく両親と会話している光景は微笑ましいのは間違いない

 

「さて食堂へ…ってここ何処?」

 

何故今エアリスが一人なのかは単純にカガリ達とはぐれてしまったからだ。決して迷子などではない。

いつの間にか地上の市街地方面へ続くゲート近くへと出てしまったらしく食堂らしいものは見当たらない為に「どうしたものか…」と迷って周囲を見渡すと不意に地面に転がっているピンク色の物体が視界に入る?

 

「携帯電話…?」

 

不意に近づき持ち上げるとそれはピンク色の折り畳み携帯であり宝石…というか合成プラスチックで出来たストラップがひも付けされているそれを首を傾げながら見つめる。

 

(…このデザインを何処かで見た気がする)

 

微かに頭の片隅に残っている記憶を呼び覚まそうとしていると不意に向こう側の道から声が聞こえてきた。

 

「うーん…ないなぁ。どこにいっちゃったんだろう…」

 

「”マユ”…ここは探したんだろ?ここにないってことはもしかしたら守衛室に落とし物として届いてるかも知れないぞ?」

 

その声と二人の姿を見て思わず「あっ…」と声を漏らしてしまう。

 

(まさかこのタイミングであの二人に出会うとは…)

 

拾った携帯を持ちながら整えられた街路樹付近を捜索している二人の兄妹へ近づいて驚かせないように声をかける。

 

「ごめんね突然」

 

「…っ///」

 

「貴女が探しているのは…これだったりする?」

 

声に近づき警戒する素振りを見せた男の子だったがエアリスの見た目に見惚れているのか顔を赤くしているが後ろにいた女の子はそれには気づかずに手にしている携帯電話に意識を注がれていた。

 

「あーっ!マユの携帯」

 

「そこの道に落ちてたんだ。はい、どうぞ」

 

「ありがとうございます!お姉さん!」

 

「もう…()()()()()()()()()?」

 

エアリスの視線は優しさを含ませ少女と少年に注がれていた。

 

「うんっ!あっ…えへへ」

 

携帯を渡すために近づきその手に受け渡すと自然な流れで頭を撫でると一瞬呆けた表情を浮かべたマユだったが嬉しそうに目を細めていた。

一拍置いて少年が我に返りどぎまぎしながら此方に申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「そ、その…ありがとうございました。さっきからずっと探してて…助かりました」

 

「良いよ。偶々だから。君たちは”モルゲンレーテ”の関係者?」

 

見た目にそぐわない大人っぽさに面食らったのか男の子は”モルゲンレーテ”を指差していた。

 

「え?えぇ…彼処の建物で両親が研究をやっていて…」

 

(そうか、この子達の両親で”モルゲンレーテ”で働いてて…か。だからあの冒頭…)

 

エアリスの脳内で()()()()()()()()()()()()()。…その事を考えるとこれも阻止しなくてはならない。

 

「そっか…じゃあ私はこれで…っと」

 

二人に別れを告げ立ち去ろうとしたが目的を思い出して振り返った。

 

「売店、何処にあるか教えてくれる?私ここに配属になるの初日なんだ」

 

◆ ◆ ◆

 

「お姉ちゃんばいばーい!」

 

食堂に案内してくれた兄妹に手を振って別れを告げその後ろ姿を見送る。

仲睦まじいその後ろ姿をみると心が締め付けられる想いがした。

戦場で不運に見舞われて死亡する妹、憎しみと怒りを糧に敵を撃滅する悲しき少年…

 

「マユ・アスカとそして…”シン・アスカ”か…」

 

彼ら達に不幸(続編)が起こらぬように今の戦争《今作》でどうにか解決したい、とそう願うのだ。

 

「さて…その前に昼食を取ろう…久々に日本食を食べたくなってきた…」

 

もう視界になくなったその後ろ姿を網膜に焼き付けその場を立ち去る。

 

◆ ◆ ◆

 

「……」

 

「お兄ちゃん!さっきのお姉ちゃん美人で可愛かったね!」

 

「うん…そうだな」

 

用事を終えてモルゲンレーテの敷地内へ出ようとする兄妹は先程携帯を拾ってくれた少女の事を話していた。

一方で話しかけられた少年は少しだけ上の空だったのをからかわれた。

 

「はは~ん?お兄ちゃん…さっきのお姉ちゃんに惚れちゃったの?」

 

「ば、バカなこと言うなよっ」

 

その事を指摘され慌てて否定するが実際に彼の考え事は先程妹の携帯を拾ってくれた少女の事で支配されていた事もあり反応が一拍遅れてしまった。

 

「でもさっきのお姉ちゃん色白で可愛くて美人さんだったもんねぇ…マユもああいう人がお兄ちゃんの彼女ならいいなぁ。でもお兄ちゃんには勿体無いかも…」

 

ニヤニヤ、と意地悪な笑みを浮かべながら失礼な物言いに少年は流石に怒って先に言ってしまった妹を追いかける。

 

「こらっ!」

 

「あ、お兄ちゃんが怒ったっ!にげろーっ」

 

妹を追いかけながら少年は先程の少女の事を思い浮かべまた、会えるだろうか?とそんなことを考えていた。

 

◆ ◆ ◆

 

「見事に平穏ですね…」

 

オーブに侵入し二手に別れたニコルとアスラン。

ニコルが繁華街を抜けると隣にいるアスランへ投げ掛けると頷いた。

 

「ああ。先日自国の領海であれほどの戦闘があったというのに…」

 

「中立国、だからですかね…」

 

「平和の国、か…」

 

潜入し周囲を注意深くみていると誰も彼もがのんびりと平和に穏やかに暮らしているのはコロニーのように外壁に穴が開けば死に至るという危険性はないし核の雨が降り注ぐ、といった恐怖がないと言うのもあるのだろうがオーブという国は”平和の国”と言われるのだろう。

別れて”アークエンジェル”に続く情報を得ようと足を棒にして一日中探し回ったが”モルゲンレーテ”にも入り込む隙が見つけられずに途方にくれていると別れて捜索していたイザーク達も集合地点に戻ってきていた。

 

「そちらはどうだ?」

 

そうアスランが問いかけると苛立つようにイザークは首を振って否定する。

 

「…まぁ、そう簡単にあのクラスの艦艇が見つかるとは思えないけどさぁ…?」

 

「あのクラスだ、そう簡単に隠せるものではないが…」

 

「まーさーか……本当にいないってことはないよねぇ?」

 

イザークが苛立ちを見せディアッカがうんざりしたような様子で、ニコルは不安そうな表情を浮かべアスランに答えを求めてみやる。

 

「欲しいのは”確信”だ。ここに”連中”がいるのならいる、いないのならいないという、な…」

 

そう告げるとその場から移動し始める。

モルゲンレーテの制服を着用している以上通りがかりの人物達に声を掛けられ不審がられるのはよろしくない。

彼らはフェンス沿いに移動し低い声で侵入経路の検討をし始めた。

 

「沿岸沿いの侵入は難しいな…システムチェックの撹乱は?」

 

「ダメだ、何重にもプロテクトが掛けられていて物理的に難しい…流石、と言ったところか」

 

「全く…何重にも厄介な国だな本当に!」

 

苛立ちにイザークがまた吼える。

 

「システムに手を出すより、通れる人間を捕まえる方がはやいんじゃないか?」

 

「って誰がそうかわかんの?」

 

彼らが途方に暮れそうになりながらヒソヒソと話し合っているとアスランの耳に聞き覚えのある音が耳に入り顔を上げる。

 

《ートリィ…》

 

頭上をかすめた影に気がつき空を見上げその姿に思わず目を見開いてしまう。

 

(トリィ…!?まさか…何故、ここに…!?)

 

それは嘗て親友にあげた自分が手掛けたメタリックグリーンの機械鳥のトリィだった。

思わず旋回しているトリィに手を伸ばすと気がつきアスランの指を止まり木にするために降下し指に留まり首を傾げる仕草を見せると近くにいたニコル達もなんだなんだとそれを見るために近づく。

 

「なんだこりゃ?」

 

「へぇ…ロボット鳥だ…あ。あの人のかな?」

 

ニコルの言葉にアスランはギョッとしてフェンス越しの向こうを見つめる。

その向こうから作業服を着用した少年が駆けながら空を見上げ誰かを呼んでいる。

既にアスランは周囲のことなど忘れてしまい今、この世界にいるのは向こうから来る少年だけとなっていたのだ。

 

(キ、ラ…?)

 

◆ ◆ ◆

 

「父さんと母さん…元気そうで良かった…」

 

面談出来る、という今地球連合の軍籍を持っているキラ達が許しを得て出来る最大限の譲歩、夢のような時間が終わりを告げ名残惜しそうに”アークエンジェル”へ戻るサイ達の背中を見つめた。

 

再び自分達はアラスカを目指しオーブを出る。そうなればザフトと再び戦闘に入る…それはアラスカに到着して以後も戦いに巻き込まれるのだろう。

唯一の安らぎが遠ざかっていくことにキラは心に陰りが出来るような感覚を覚えた。

このまま逃げ出してしまいたい、と思うがそれを自分が許せなかった。

 

(ここで逃げ出したら…エアリスさんは一人でも戦う…きっとそれは”戦争”が終わるまで…)

 

エアリスという少女に傷ついて欲しくない、ならば、自分が…という想いが彼の心を支配していた。

だからこそ最初は両親に会わないでおこうと思ったが宇宙での言葉を思い出し両親に会うことにしたのだ。

 

『希望を込めて、ご両親は君をコーディネイターにしたんだと思うよ?』

 

(…『どうして僕をコーディネイターにしたの?』なんて言えないよ…)

 

戦争に巻き込まれ”ストライク”を動かしたときにそんなことを思ったがエアリスに言われてそんな考えなど霧散していた。

再会した瞬間に母から抱きつかれ号泣されてしまった。父はうんうん、と頷くだけで深くは言わなかったが安堵しているのが理解できた。だからこそ育てて生んでくれた両親にそんな言葉など掛けられなかったし掛けたくなかった。

むしろ感謝しているのかもしれない、とさえ思ったほどだ。

 

だから自分がコーディネイターでなくナチュラルなら彼女と同じ立場にいられたのかもしれない。

しかし自分がコーディネイターだからこそ彼女は僕を気に掛けてくれたのかもしれない、と。

 

<トリィ>

 

「あっ…トリィ!何処に行くんだよ!」

 

”ストライク”のある格納庫へもう一仕事…と戻る道中で肩に乗っていたトリィが突如として翼を翻しハッチを突っ切って行ってしまう。偶然開いていたゲートから外へ飛び出してしまったようだ。

 

「こらトリィ!」

 

トールがその事に気がつき声を掛けるがキラはそれ所ではない。

今の自分達はこのオーブにはいない事になっており”モルゲンレーテ”の敷地内より外へ出ることは許されていない。

翼のあるトリィがフェンスを越えて出ていってしまうとここに置いていくしかなくなる。

あれはアスランから貰った大切なものだ。置いていくわけには行かない。

飛び立ったトリィを追いかけ敷地内の地上外へ出るが落ち始めた夕日に視界を遮られ思わず目を細めてしまい見失いそうになるが反射した光がトリィの体を照らすのを確認しそれを目印に追い掛けた。

 

「はぁ…はぁ…トリィー!」

 

暫く”モルゲンレーテ”の敷地内をトリィを追いかけて走っていると境界のフェンス付近まで走っていることに気がつきトリィがフェンス越しに飛び立ったのを確認し不味い、と思ったがそのフェンス越しにいる少年の一人の指に留まっているを確認し安堵した…がその止まり木になっている人物の顔を見て思わずキラは次第にその向かう足が重りを付けられたように重くなりフェンスに到着する数歩前で凍りついたように身動きが取れなくなってしまった。

 

(ま、さか…!?)

 

脳内では”あり得ない”と思いつつその姿を見間違える筈がないと知っていた。

 

(ア、スラン…!)

 

キラの脚は先程まで重石を付けたように重く動かなかった筈が今目の前にいるのが”アスラン”であることを認識すると解かれたようにフェンスに近づく。

フェンス越しの網目越しにはっきりと顔がわかる。

 

「き、みの…?」

 

ぎこちない問いかけにキラはハッとする。アスランは硬い表情で手に乗せたトリィを差し出すのとアスランらしからぬよそよそしい呼び方は恐らく…というよりも確実に彼の所属する部隊の隊員なのだろうとキラは察すると同時に此方を想ってと向こうの仲間を憚っての事だろう。

アスランは仲間たちに自分の存在を知られたくない…いや知られてはいけない、彼なりの”親友”への対応だったのだ。

勿論キラもその事を感じ取り苦悶し震える唇をぎゅっと噛み締め小さく頷き異常なまでに乾いた喉から声を振り絞る。

 

「うん…ありがと…」

 

アスランの調子に合わせ他人行儀に応じるとキラは本当にアスランと他人になってしまったようで悲しい気分になったが今ここで不審な行動をしてしまえばアスランの仲間たちに感づかれてしまうだろう。

トリィを乗せたアスランの手がフェンスを越えて目の前に差し出されるのを確認しキラは手を出すと乗り移りそのトリィは我関せずと言わんばかりに首を傾げたそれに思わず両者は懐かしさを感じ笑みを浮かべそうになったが顔を見合わせその感情は霧散してしまう。

 

「……」

 

「……」

 

お互い黙り込みここで声を大にして互いの名前を呼びたかったが許されない。

 

「おい!行くぞ!」

 

アスランの後ろ側から声を掛けられ踵を返す。ここで別れたらまた明日…ではなく次会う時戦場で”殺し合い”をしなくてはならなくなってしまう。

 

「昔、友達に…!」

 

思わずキラはその後ろ姿に声を掛けてしまう。その言葉にアスランは思わず弾かれたように振り向く。

震える声で言った。

 

「大事な友達に…貰った、大切な…モノなんだ…!」

 

「そう、か…」

 

二人は暫しフェンス越しにお互いの顔を見つめ合った。

キラとアスラン、このフェンスを越えることは許されずほんの少し、あとちょっと手を伸ばすだけでその指先が触れることが出来るのに関わらず二人を隔てるフェンスは物理的は鉄板一枚だと言うのにそれは無慈悲にも立ち塞がる”心の距離”すら思えた。

 

アスランは短く呟き悲しげに微笑み踵を返して仲間達の元へ立ち去ってしまう。

その後ろ姿にもう一度!もう一度振り返って此方を見てくれ!と懇願するがどんどんと離れて行く。

 

「キラ!」

 

「キラ君!」

 

背後から声を掛けられ振り返ると立木の向こう側から金の髪と亜麻色の髪を揺らしながら駆け寄ってくるカガリとエアリスが此方に走ってくるのを目撃し慌てて正面に目を戻すとアスランは逃げるように仲間達の元へ戻っていく。

 

ーアスラン!!

 

昔は下らないことで笑い合って怒って怒られて…日常を謳歌していた筈のなのに…!今の自分達は敵同士だ。

どうしようもない理不尽がキラの心を荒み蝕んでいく。

近づき握りしめたフェンスの固さがこれが無慈悲に”現実なのだ”と突きつけられた気がして泣きたくなった。

 

ーあんなに一緒だったのに、どうして…!

 

二人を照らす夕暮れはもう違う色へ変わっていた。一方は夕日に照らされ、一方は夕闇の色へ沈み込む。

明確な対立が記されていた。

 

「あいつ…」

 

「…さ、帰ろう。余り私たちが表に出て良い訳じゃないからね」

 

その光景をカガリと共に彼女はアスランがいたことをわからずにキラが落ち込んでいるのを確認しエアリスはその場面を悲しげな表情で見つめるしか出来なかった。

 

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