魔改造ダガーでC.E世界を駆け抜けたい【完結】   作:萩月輝夜

29 / 53
7/9文章一部追加しています。


運命の楔

「目下の情勢で、最大の不安材料はパナマだ」

 

オーブ軍の制服に身を包み無精髭を剃り鬱陶しく垂らしていた髪を後ろで束ねアフリカにいたときに風貌とは異なり厳つさを漂わせながら理知的な雰囲気を醸し出していた。

”アークエンジェル”の外では日中問わず戦いで破損した白亜の巨体が急ピッチで修理されていた。

 

「近々予定されているザフトのパナマ攻略戦のお陰でカーペンタリア基地も随分と慌ただしい」

 

「どの程度まで分かっているのですか?」

 

オーブの情報収集能力を伺うようなマリューの口ぶりに思わず苦笑してしまうキサカだったが肩を竦めはぐらかす。

 

「さあね。オーブも難しい立場にある。情報は欲しいがヤブヘビは御免でね?…だが、アラスカに向かう君たちにとっては好都合、ではないのか?」

 

キサカの言葉にマリューはなんとも言えない表情を浮かべる。

本来の目的地である”アラスカ”…という魔窟に関してアズラエルよりの情報を得ている状態でこれから向かう連合本部が自分達を受け入れてくれるのだろうか?ということに懐疑的になっていたがキサカが知る筈もない。

だが、自分達は”ストライク”、”ダガー”…そして”アークエンジェル”のデータを連合本部へ送り届けなければならない、という使命感があった。

 

「万が一、追撃を受けたとしても北回帰線を越えれば直ぐにアラスカの防空圏ですからね。奴らもそこまで深追いしてこないでしょう」

 

ノイマンが明るい顔で言う。

地球に降下した直後は先が見えない状況だったが様々な要因が重なり最終目的地までの行程が思い描けるようになっていた。

…そもそもここ”オーブ”に寄港やアズラエルが補給手配をしていたことが信じられなかったのだ。

マリューは心の中で「長かった…」と思い掛けたがいや、と心の中で否定したのは未だアラスカに辿り着けたわけではない、北回帰線を越えるまでは気を抜くわけには行かないのだ。

ここまで話したことでマリューは気になりキサカへ問い掛ける。

 

「我々を追ってきていた例の部隊の動向は?」

 

「一昨日からオーブ近海に艦影はない」

 

「引き上げた、と見るべきですか?」

 

”へリオポリス”から執念深く追撃してきた例の部隊がオーブ政府から”撃沈”したという公表された内容を鵜呑みにして引き上げるなど今までの行動からして信じられなかったからだ。

 

「外交筋ではかなりのやり取りがあったようだが…引き上げた、と思いたいところだがね」

 

そうキサカが言う。彼も”アークエンジェル”に乗っていたこともあり追撃してきたザフトの部隊に対して懸念しているのは言葉だけではなく心から此方の行く先を案じてくれているのだとマリューは感じ胸が少し暖かくなるのを感じ取った。

不意にナタルが口を開きキサカへ問い掛ける。

 

「…アスハ代表は当時、この艦と”G”の事はご存じではなかったという噂は…本当ですか?」

 

「ッ、バジルール中尉…」

 

その問い掛けにマリューは遮ろうとしたがキサカが手を上げて冷ややかながらもそれに確りと答えた。

 

「ああ。官僚の一部が大西洋連邦の圧力に屈して行った独断だ。…”モルゲンレーテ”の癒着も判明した」

 

初めて判明した自分達の艦を巡る経緯にマリュー達は目を見張る。

キサカは苦々しく呟いた。

 

「官僚の一部は『陣営をはっきりさせるべきだ。オーブも』とな。…だがその言い分も分からなくはない。だが軍人としてこの国に住む人間の一人としては陣営を定めてしまえば巻き込まれ被害に合うのは国民だ。それだけは避けなければならない。”へリオポリス”のようにな」

 

自分達に関わりのあるコロニーの名前を出されてしまえばマリュー達は目を見張る。そして流石のナタルも思わず目を伏せた。

 

「国民達が犠牲になるのは避けたい…だからこそウズミ様は今も無理を仰って踏ん張っておられるのさ…軍人の君たちからしてみれば甘い、と断じられるかも知れないがね…」

 

「いえ…」

 

マリューは首を横に振る。国の指導者ならは敵を作り事を構えない、というのは優先事項だ。平穏に、平和に…この時代に生きる人間が誰しもが思うことなのだ。なにもしない、という意味ではない。

今の時代で”戦わない”という選択肢を取る方が難しい。

 

「修理の状況は?」

 

「明日中には、という報告を受けています」

 

「そうか…あと少しだな。頑張れよ」

 

「はっ」

 

「ありがとうございます!」

 

ナタルとノイマンが背筋を伸ばし敬礼しマリューも気を引き締め同じく姿勢を正して礼を取った。

 

「キサカ一佐…いろいろありがとう御座いました」

 

「いや、此方も助けて貰った。既に家族はいないがタッシルの生まれでね…一時の勝利に意味はない、と理解していても見てしまえば見過ごすことは出来なくてな…ふっ、冗談だ。…暴れん坊の家出娘をようやく連れ戻す事が出来た。感謝する」

 

そう言ってキサカは”アークエンジェル”の艦橋から踵を返して立ち去った。

 

◆ ◆ ◆

 

「ったく!どういうつもりだ!」

 

オーブ近海の小島の入り江付近に停泊するザフト潜水艦”クストー”の艦内ではイザークが毒づいていた。

同じく同室のディアッカは机に脚を乗せて雑誌をペラペラと捲りあきれた声を出していた。

 

「マジなの?本当に補給まで受けちゃってさ…どっかで”足つき”が居る…ってどう確信したのかねぇ?」

 

オーブ侵入の最にイザーク達は”アークエンジェル”が居る、という証拠を掴むことは出来なかった。

それでいてアスランは引き上げを指示した。確かに予定時刻が迫っていたためそれに対してはなにも文句を言わなかったのだが母艦へ帰ると直ぐに「”足つき”は”オーブ”に隠れている。間違いない」とだけ言い放ちカーペンタリアへ補給依頼を出してこの場に留まっているのだ。

確かにここの孤島群に留まるのは理に適っている。”足つき”が連合本部を目指すのなら北の海域に網を張るのは良い作戦である…”オーブにアークエンジェルが居るのならば”という前提だが。

 

「ここに既に二日だ!もし間違っているとしたら…俺たちはプラントの恥さらしだ!」

 

「のしちゃうつもりなら手ぇ、貸すけど?」

 

そう告げるとイザークは逆に冷静さを取り戻し苛立ちを見せていた仕草を止めて寝転んでいたベッドにディアッカとは反対側に寝転んだ。

 

「…残念だがそれほど単純な頭でもないんでね」

 

気にくわない相手ではある。アカデミーの頃から何時も自分の前に居る目の上のたんこぶ…ではあるがその優秀さは自分でも認めていた。

しかし、根拠の無い直感的な所謂”ヤマを張る”というのは評価に含まれていない。

イザークはその事に対して苛立ちを覚えたが今の隊長はアスランだ、その指示には従わなければならない。

ザフトは義勇軍ではあるが秩序が必要であり上官には従わなければ只の無法者の集まりだろう…とそう考えていた。

 

◆ ◆ ◆

 

「こんな所に居たんですか、アスラン」

 

「ニコル」

 

「補給、終わったんですね」

 

「ああ」

 

”クストー”の甲板でカーペンタリアから応援に駆けつけた補給艦が離れオーブの底すら見える海を見つめながら思考の海に沈んでいると声を掛けられ振り返るとニコルがソコに居た。

 

「あっちにトビウオが跳ねていたんですよ!信じられます?」

 

子供のように無邪気な笑みを見せるニコルにアスランは微笑ましい気分になる。

先ほどの沈んでいた気分が少し浮上するような気分にさせられ地球に降りてからというものかなり助けられていた。

 

「見に行きませんか?」

 

「いや、いいよ」

 

やんわり、とニコルの提案を断るアスランだったがニコルは彼の表情が固いことに気がついて心配するような顔つきに変わった。

 

「心配、ですか?」

 

「え?」

 

「大丈夫です!ボクはアスラン…ううん、”隊長”を信じていますから!」

 

ニコルは力を込めてそう告げた。

アスランは自分より一つ年下の同僚の幼さを残す柔らかな笑みを見て自分が抱えている悩みを見透かされたのかとドキリ、としたが純粋に自分を心配してくれているのと同時に情けなさも込み上げてきたが。

不意にアスランは疑問に思ったことを口に出してニコルに聞いてみていた。

 

「ニコルは…どうして軍に志願したんだ?」

 

「え?」

 

「あ、いや…変なことを聞いたな…」

 

「いいえ…そうですね。『戦わなくちゃいけないな、ボクも』…って思ったんですよ。”ユニウスセブン”の出来事を目の当たりにした時に」

 

「…」

 

決して戦いに向いているとはいえないニコルが義務感で銃を手に取り自らが属する集団を守るためにその手を汚しているのだ。

 

「あの、アスランは…?」

 

「…俺もニコルと同じだよ。母親が”ユニウスセブン”の崩壊に巻き込まれたあのニュースを見てから、さ」

 

「アスラン…」

 

ニコルの表情が悲しいものに変わったが直ぐに目元をフッと和らげる。

その表情を見て何故今までニコルにキラの事を打ち明けなかったのかと後悔していた。

優しいニコルに隠し事をしていることに罪悪感を覚えてしまうと同時に戦いが終わったらニコルを地球旅行にでも連れていこう、と思った。

…親友を害してしまった自分が許されるのなら、だが。

 

◆ ◆ ◆

 

「まさか、プラント本国に帰ることになるとはね」

 

「何時までも貴方達を”こちら側”に勾留しておくわけには行きませんよ。これから向かうのはある意味で”魔窟”ですからね」

 

オーブの宇宙港のターミナルにて。

一人の少女と二人の男女…エアリスとバルトフェルド、アイシャが話をしていた。

何故、ここに居るのかと問われれば二人を”プラント”へ送り出すためである。

捕虜にしていたザフトの将校を勝手に返還する…等と軍本部に知られれば銃殺刑は免れ無いのだが心配無用でありエアリスがアズラエルとの”交渉”の末に決定した事だった。

 

「二人は死んだことになってますから入国するのに少し手間取るかもしれませんね…ソコはまぁ、頑張ってください」

 

完全に”投げた”発言にバルトフェルドは苦笑いしアイシャは笑みを浮かべる。

 

「しかし良いのかね?また俺たちが”プラント”に戻ればまた会うのは”戦場”かもしれんぞ?」

 

試すような表情を向けるバルトフェルドに対してエアリスは不敵な笑みを向け返した。

 

「…そうならないようにお願いしたいですね。出来ることなら」

 

「……ふっ、敵わないな君には」

 

バルトフェルドは肩を竦めて口角を上げる。彼女は自分がプラントに戻ったところで”ザフト”に復隊こそすれどその信念に沿って戦わない、と予知しているのだから恐ろしい。

もし戦場で会うとしたのならば今度は”味方”だろうと確信していた。

 

「隊長もアイシャさんもお世話になりました」

 

「お世話になりました、ってこちらの台詞よ…無茶しないでね?」

 

「はい。アイシャさんもお元気で。…隊長も向こうで”彼女”に宜しく、と伝えてください」

 

「分かった。伝えておく。だが君も無茶するなよ?エアリス。君が傷つけば彼女も悲しむ」

 

「分かってますよ。…追ってくる彼らがそれを許してくれれば、ですが」

 

隣に居たアイシャがエアリスに近づき別れの抱擁をすると拒まずそれを受け入れた。

暫くしてから離れ隣に戻った最愛の人と共に彼女が用意してくれた”プラント”へ戻る宇宙船のゲートへ歩き出す。

自分は一度死んだことになった人間で少し手間取るが問題ないだろう、と考え少しだけ振り向き自分達を送り出す勇敢な少女に手を上げてゲートの奥へ消えてくのだった。

 

◆ ◆ ◆

 

「…」

 

カガリはオーブにある自宅の自室にて身支度を整えていた。

防弾ジャケットにカーゴパンツ、足回りをコンバットブーツ…と言うような”アークエンジェル”に居たときの格好ではなくオーブ軍将校の軍服を身に纏っていた。

 

「…」

 

襟元を閉めたときに今一度砂漠で出会ったザフト将校の言葉、そして自分より可憐でありながら戦場に立てば誰よりもリアリストな友人の言葉を思い出す。

 

「…ふぅ」

 

自室にある姿鏡に全身を写し出し身嗜みを整える。

砂漠を越えて紅海を航海中は化粧などそんなものに気を使っている暇など無く、邪魔だとさえ思っていたがこちらに戻ったときに侍女のマーナに強制的に御用達のサロンに連れていかれ毛先や肌のケアをされてた…正直疲れていたが生き返った気分になったのはあった。

今日は”アークエンジェル”の出港の日であり”モルゲンレーテ”が総力を結集して行った補修作業は完了している。

カガリはそんな”アークエンジェル”の出港を見送るために早朝に起床し身嗜みを整えていた。

初めは自分も着いていこうと思った…が、それは変わっていた。

昨日の夕方に”モルゲンレーテ”の敷地内と外を隔てるフェンスにてキラとアスランが出会っていた場面を見てしまったからだ。

その事でオーブに”アークエンジェル”と”ストライク”の所在がザフトに知られてしまったのではないか?と彼女は彼らの元へ駆け出したがアスランは逃げ出すようにその場から離れてしまった。ちょうどそのタイミングで戻ってきたエアリスと共に問い詰めたがキラは二人の視線を避けるように「トリィを拾って届けてくれただけだよ」と明らかに誤魔化しているのが理解できたのはうっすらと目元が腫れて目が赤くなっていた。一人でまた気分が沈んでいるのだろう…があの艦にはエアリスが居る。

彼女がいるのならキラは大丈夫だ。そう、信じられた。

 

「……戦いたい訳じゃない。私は…戦争を終わらせたいんだ」

 

砂漠、”モルゲンレーテ”でのエアリスの言葉は確実にカガリの意識を変え始めていた。

戦争を終わらせる…銃を取るがイコールでは無くなってきていた。どう終わらせるのか、どうすれば良いのかを考え直感的に動くのを思考させ始めていた。

そして彼女が父に対しての評価を聞かせられたときには頭で言葉で否定していたが噛み砕きそしてその事柄を見聞きすることで理解し始めていた。

 

(お父様は…)

 

その時、不意に部屋の扉が開く音が聞こえた。

カガリは振り返ると入り口に立っているのは父であるウズミだった。

彼はカガリの服装を見て驚くような、感心するような目で見ておりウズミが口を開くより先にカガリが父へ答えた。

 

「”アークエンジェル”とクルー達への見送りへ参ります」

 

「お前はあの艦と共には行かぬのだな」

 

「はい。私はオーブの人間です。あの艦に乗る友人の見送りに参るだけです。お父様」

 

ウズミはカガリの金色に輝く意思の強い瞳を見て目を伏せた後に知られぬように口角を少しだけ上げた後娘の元へ近づき肩を叩く。

 

「…お前はアフリカや”アークエンジェル”と共に旅したことで少し、成長したようだな」

 

「…お父様」

 

褒められると思わず少しだけバツが悪い表情を浮かべるカガリを見て優しい表情になるウズミ。

 

「…実際に戦場を見て。その場で戦う人たちの意思を見て”争い”は殺して殺されて…憎しみの連鎖が続く因果なのだと少しだけ分かりました。そして自分が戦場ではちっぽけな存在だと言うことも」

 

カガリの脳内でタッシルの街の住人達の生き様、そして誇り…そしてザフト、連合の凄惨な美化など出来ない戦闘の一部始終…両陣営の意思、思想が再生されていた。

戦場での個人など吹き飛んでしまうほどのモノなのだと言うことを嫌でも理解させられた。

 

「……」

 

「友人に教えられた言葉も。だからこそ、自分は銃を取るのではなく”どうすれば争いが終わらせられるのか”…旅で見てきたことを生かして戦争の根を学びたいと思います。お父様の…”オーブの獅子”の娘として」

 

無人島でザフト兵士…アスランとの出会いが決定的なモノを教えてくれた気がしていた。

銃を撃ち合い殺し合うだけでは決して解決することなど出来ないのだ、と。

 

ウズミは目の前に居る娘の成長に驚いていた。

甘ったれで愚直なほどに真っ直ぐであった娘が”戦争”という凄惨な場面とソコで出会った”キラ”と”エアリス”…そして”アークエンジェル”がそんな娘を別人か?と思わせるほどに成長させていた。

彼ら達との出会いがなければあの白亜の戦艦にただ、心配だからと理由で乗り込んでいたに違いないと想像できていたが今目の前に居る娘は自分の知っている者とは明らかに違っていた。

 

「そうか…よく知り、よく学べ。カガリ。戦争のその本質を見極めるのだ」

 

嬉しさと真っ直ぐだった娘が変わらなければならないという事実にウズミはただ優しく微笑むことしか出来なかった。

 

◆ ◆ ◆

 

「ではエアリス。私はそろそろ戻ります。艦長達に宜しく、と伝えてください」

 

「ええ。理事もお元気で」

 

バルトフェルド達を送り届けた後各国のVIPが利用するプライベートジェットの発着場に移動し大西洋連邦首都へ帰国するアズラエルを見送りに来たエアリス。

 

「…アラスカに着いたら一度ご実家に戻った方がいいですよ?」

 

「…考えておきます」

 

乗り気ではない、とあからさまな反応にアズラエルは肩を竦めた後に踵を返してプライベートジェットへ乗り込もうとした。

 

「必ず無事に到着してください。いいですね?」

 

そう言い残しプライベートジェットのタラップに脚を掛け乗り込んでいく。

敬礼は出来ない為離陸を見送った後にオーブ軍の兵士に連れられて”モルゲンレーテ”へ戻った。

エアリスはこれから向かう”アラスカ”でどんな対応で迎えられるのか…少しだけ不安になり溜め息を短く漏らす。

 

◆ ◆ ◆

 

”へリオポリス”にて回収した”アストレイ”の各フレームを返還し寂しくなった格納庫にて。

 

やはり、と言うべきかスカイグラスパー二号機のパイロットはトールへ決まった。

”スカイグラスパー”の前でマードック、ムウ相手に懸命に訴えていたがキラは不安そうに見守っているのを戻ってきたエアリスはそれを生暖かい目で見ている。

 

「まぁ…確かにコイツが2機出られりゃ助かるでしょうがねぇ」

 

マードックが渋々、といった様子でやっとの事譲歩した。

 

「飛べる、って言っても”ジェットストライカー”だけだし地上だと”ストライク”も”ダガー”もキツいですからね」

 

「でも、トール…」

 

「大丈夫だって!”ストライク”の支援と上空監視だけだよ!俺だって!」

 

そう必死に説明するトールの言葉に口を閉じていたムウが少しだけムッとしたような感じに問い掛ける。

 

「それってバジルール中尉の命令?」

 

「志願したんですよ!」

 

「…支援だけだぞ?」

 

心外だ!と叫ぶトールにムウは頭を掻いて立ち去りながら告げたのは止めることが出来ないと判断したからだろう。

マードックも度々修理するスカイグラスパー二号機を預けることに警戒していたようだったがそんな不躾な視線にも気がつかずにトールは機体を任せられた、と喜んでいる。

キラは「本当に大丈夫だろうか…?」と不安げな表情を浮かべる。

そんな感情を知ってか知らずかお気楽にトールはキラへ話しかける。

 

「だーから心配要らないって!キラもエアリスもフラガ少佐もがんばってんだもん。俺だってちょっとはやんなきゃ!」

 

「…うん、でも本当に無茶はしないでね」

 

「分かってるって。俺たち…サイもミリィもフレイもカズイも自分達で出来ることを精一杯やってるだけなんだよ。お前もいろいろ大変だろうけどさ。あんまり気負うなよ?」

 

トールの言葉にキラは自分の隠し事をつつかれているようなそんな感じを覚えた。

一方でコーディネイターであるキラを気に掛けるのは”へリオポリス”からの付き合い…もあるだろうが根本的にその考えを改めているのはエアリスの存在が大きいことを気づいていない。

そんな友人達に隠し事をして居ることに罪悪感を覚えると同時に申し訳なさも覚えた。

 

◆ ◆ ◆

 

「注水開始!」

 

地下ドックに警報が鳴り響く。

”アークエンジェル”の両方から激しい勢いで水が吹き出し岸壁に叩きつける水量がドックに激しく響き渡る。

 

「オーブ軍より通達。周囲に艦影無し。出港は定刻通り。」

 

「了解した、と伝えてちょうだい」

 

パルの報告にマリューが返答するとサイが驚いたようにトノムラに問い掛ける。

 

「護衛艦が出てくれるんですか?」

 

「隠れ蓑になってくれるってことだろ?艦数が多い方が特定されにくい。それにデータでなら幾らでも誤魔化しは聞くのさ」

 

「…それに今日はオーブ艦での演習が予定されている。今の時刻から出港しても方々から追求される可能性は低い。だからこそオーブは今日を出航日に選んだのだろうな」

 

トノムラの回答にナタルが答えるとCICに居た面々が驚く。

今までなら「作戦行動中だぞ!」と叱責を受けていた筈だがナタルも”アークエンジェル”での生活で少しだが変化しているのかもしれない。

生暖かい目でナタルを見ているとそれに気がついたのか「んんっ!」と咳払いしてその空気を吹き飛ばすがそれを見ていた艦橋のメンバーは声には出さずとも笑みを浮かべていた。

 

ドッグに水が注水され底部を覆い隠す。

 

「艦長。ドック内にアスハ前代表がお見えです。…あ」

 

「どうしたの?」

 

パルが不審な表情でマリューを見る。

 

「ヤマト少尉並びレインズブーケ中尉を上部デッキに上げて欲しい、と言われていますがどうしますか?」

 

「そう…ヤマト少尉とレインズブーケ中尉に通達してちょうだい」

 

その通達は直ぐ様カタパルトデッキに居たエアリス達にも伝わりキラは分からずに上部デッキに上げられた。エアリスも何故上げられたのか分からなかった。

 

(キラ君はちゃんとご両親に会っていたしそのイベントは無いんじゃ…?)

 

二人は言われた通りに上部甲板に出ると桟橋からこちらへ懸命に駆けてくるカガリの姿があった。

 

「エアリスーッ!キラーッ!!」

 

「カガリ?」

 

今日のカガリの服装は軍服姿だ。

もしかして…とエアリスがカガリが無理矢理着いてくるんじゃないかとヒヤヒヤしたがその服装を見て一安心した。

カガリは息を上げながらタラップを昇りきった。

 

「カガリ、どうしたの?そんなに急いで」

 

「お前っ…私に…別れを告げる前に…勝手にいっちまう…気かよっ…!」

 

少し怒り気味のカガリに困ったような笑みを浮かべるやはりなにも言わずに出航するのは彼女にとっては気に食わなかったらしい。そのいじらしい反応に思わず笑みを浮かべてしまう。

 

「お前もだぞっ…キラ!」

 

「ご、ごめん…ぷっ」

 

「ふふふっ」

 

「あははっ!」

 

三人がそれぞれの顔を見て笑い出す。一頻り笑った後キラとエアリスは踵を返し”アークエンジェル”へ戻ろうとするとカガリは堪らなくなって二人を抱き締め引き寄せた。

 

「カガリ?」

 

「う、うわっ!?か、カガリ…?」

 

「お前ら…死ぬなよ…!」

 

カガリは抱擁…というには少し乱暴な手付きで抱き寄せて二人の体を揺さぶる。

 

「大丈夫。私は死なないから。キラ君も死なせやしないから」

 

エアリスもカガリを抱き締めそう宣言した。そうだ、絶対に死なせない。

 

「だから…カガリも頑張って」

 

「ああ…私もこの国で戦争がどう言うものなのか…もう一度向き合って勉強する」

 

「…ッ…カガリも元気でね」

 

思いも掛けない言葉に一瞬息を飲んだエアリスだったが彼女の真剣な眼差しに納得した。

彼女はもう、只の世間を知らぬ子供から抜け出そうとしているのだ、と。

 

「キラ、エアリスを頼む。…コイツなんでも一人で出来ちまうから一人で無理しないように見張っておいてくれ」

 

「うん…任せて」

 

「酷いなぁ…私ってそんな風に見られてるの?私はそんなんじゃ…」

 

「いや違わないだろ」「違うと思います」

 

「君たちが私をどう見てるのか分かったよ…ふっ」

 

「あははっ」

 

「ふふふっ」

 

再び三人が笑いあってキラとエアリスは艦内に戻りカガリが離れると直ぐに”アークエンジェル”がメインエンジンに火が入る。

 

「メインゲート解放、固定アーム解除、メインスラスター点火、微速前進。”アークエンジェル”発進!」

 

地下ゲートが解放されマリューの指示によってノイマンがエンジンを始動させる。

白亜の巨体は朝靄の掛かる海へ歩を進めオノゴロ島を離れ先に外洋にて待機していたオーブ艦隊が合流し”アークエンジェル”は旅の目的地へ向け最後の航海へ漕ぎ出すのだった。

 

◆ ◆ ◆

 

「演習、ですか」

 

「ああ。スケジュールにはあったが目標海域に向かうには少し早すぎる…北東か。艦の特定未だか?」

 

”クストー”の発令所にて艦長がオペレーターへ促すのを見ながら踵を返す。

 

「戦闘準備に入ります。特定急いでください」

 

アスランは素早く着替え”イージス”のコックピットへ飛び乗る。無論他の隊のメンバーも既に着替えそれぞれの搭乗機のコックピットに座り待機している。

 

<艦隊より離脱する艦艇あり…艦種特定…「足つき」です!>

 

待ちわびていた知らせがそれぞれのコックピットに届くとディアッカは口笛を吹きイザークは一瞬だけ驚いたような表情を浮かべるが直ぐ様不敵な笑みを浮かべニコルは「やりましたね!」と喜んで見せアスランは瞑目するが直ぐ様覚悟を決めたような表情に切り替わり指示を出す。

 

「出撃する!今日こそ…”足つき”を落とす!」

 

◆ ◆ ◆

 

「間もなく領海線です」

 

「周囲に敵影無し」

 

「警戒を厳に。艦隊離脱後離水、最大戦速」

 

「オーブ艦隊より入電『我此より帰投す。貴艦の武運を祈る』とのことです。」

 

「『エスコート感謝する』と返信して」

 

艦橋ではオーブ艦隊離脱の報告を受けマリューが返信を指示する。

今、艦橋で副パイロット席に座っていたトールに変わってフレイがその席に着いておりミリアリアは不安そうにトールの事を思っていた。不意にチャンドラが呟く。

 

「何事も…このまま無事にアラスカにたどり着きたいぜ…」

 

それがクルー全員の総意であった。

…しかし、格納庫の”ストライク”と”ダガー”のコックピットへ向かうパイロットスーツを着用する二人の姿を見てマードックが目を丸くする。

 

「なんだぁ?未だ警報は出てねぇぞ?」

 

キラはすたすたと”ストライク”に向かっていきエアリスはマードックと顔を合わせる。

 

「恐らくですけどこっちを追ってきたあのXナンバー達の部隊…領海を越えたら襲撃してきますよ」

 

「なんでぇそりゃ…」

 

「勘、ですよ。そう簡単にあの部隊が諦める、とは思えないので。まぁなにもなければそれに越したことは無いですけどね?」

 

「ははっ!心配性だな嬢ちゃん」

 

それだけ話してエアリスは”ダガー”へ向かう。

彼らが襲撃を仕掛けてくるのは”確定事項”であることを伝えたところで信じる筈がない。

キラも自分に”アスランがオノゴロ島に居た”等と言っても信じてくれないと思っているからか此方へはなにも言ってこなかった…むしろ相談されたらどうしようかと思っていたところだったが。

 

その時だった。艦橋にて叫びが上がる。

 

<レーダーに反応!数三、いや四!>

 

その通信を聞いた瞬間にエアリスの意識は切り替わりキラは顔を上げそれより先の続きは聞かなくとも理解した。

 

<機種特定!”イージス””ブリッツ””デュエル””バスター”!!>

 

<待ち構えていた…!?網を張られていたのか!>

 

<対潜、対モビルスーツ戦闘用意!逃げ切れれば良い!厳しいとは思うが各自健闘を!バジルール中尉!>

 

次々と”アークエンジェル”の戦闘体勢が整っていく。

次に遮るものの無い戦闘になるため目眩ましとしてエアリスが”万が一戦闘になった場合”の手段としてナタルに打診していた戦闘方法だった。

 

<ECM最大強度!スモークディスチャージャー投射!両舷煙幕放出!目を眩ませろ!>

 

一方カタパルトデッキにて。

 

「上空から監視とキラの援護だ。大丈夫だそう心配しなくて良い」

 

「は、はいっ」

 

「良い返事だ!…落ちるなよ!ムウ・ラ・フラガ”スカイグラスパー”出るぞ!」

 

ムウの”スカイグラスパー”は”エールストライカー”を背負い出撃する。続けて二号機に搭乗する”スカイグラスパー”は”ソードストライカー”を背負い発進した。

 

煙幕を張り外部から視界を遮りカタパルトから上部デッキに出た”ストライク”はランチャーストライカーを背負い船体から出てきたケーブルを掴み<アグニ>へ接続する。

 

「コンジット接続、補助パワーオンライン。スタンバイ完了」

 

一方煙幕に包まれた”アークエンジェル”を見て驚きの声を上げるディアッカとイザーク。

 

「煙幕!?」

 

「ふざけた真似を……二機…!?」

 

”アークエンジェル”から飛び出してきた”スカイグラスパー”が一機ではなく二機であることをに驚くイザークだったがモビルアーマーだから、と油断しなかったのはその性能を実際に戦場で見たからだ。

手にしたビームライフルを発射するが避けられてしまい苛立ちを隠せなかったイザーク。

 

一方でトールは出撃した瞬間体に掛かるGに思わず操縦桿を倒すと直ぐソコにビームが通りすぎたのをみて肝が冷えたが通信機からのムウの声で自分がやるべき事を思い出し戦闘空域上部へ躍り出る。

 

「此方スカイグラスパー二号機!”ストライク”聞こえるか!敵データの座標を送信する!」

 

「了解…!」

 

送られてきたデータを確認しスコープを引き出し狙いを付ける。

センサーリンクが重なったときキラは引き金を引いた。

 

「「「「…ッ!!!!」」」」

 

次の瞬間煙を切り裂いて二色のビームがXナンバー達を掠める。

敵からしてみれば”ストライク”の位置は分からずに一方的な攻撃を受けるだけであった。

 

しかし、ニュートロンジャマーによってレーダーは使えない。煙幕によって視界も防がれているため上空…他人の目を借りるしかないのだがそれは向こうも同じことでありデータだけでは流石のXナンバーを捉えることは出来ない。

 

「くっ…!」

 

「なにッ!?」

 

「くそぉッ!?」

 

キラは<アグニ>から補助ケーブルを引き抜きPS装甲をオンにして煙の中を飛翔する。

直ぐ様に”バスター”と”デュエル”が射撃をしてくるがキラは難なく回避して落下しながら<アグニ>のトリガーを引くとそれぞれが乗る”グゥル”を貫き海へ落下していく。

 

「エアリス、発進どうぞ!」

 

「了解!エアリス・レインズブーケ、”ヴァリアブルダガー”行きますッ!」

 

カタパルトから射出され飛び出す。

煙の中へ消えようとする”ストライク”を追って”イージス”と”ブリッツ”が迫ったその時。

 

「「ッ!!」」

 

遮るようにビームが放たれる…煙の中から三本の光条が迫る二機を牽制したのは”アークエンジェル”の<ゴットフリート>であった。

そして一条の光が放ったビームを飲み込み影が煙を突き抜けると同時にモビルスーツが飛翔した。

煙が晴れるとそれはモビルスーツが背負うには大きすぎるシルエットだった。

アスランはその特徴的な頭部をみて戦意を滾らせる。

 

「…ッ!!”ゴーグル付き”!」

 

ニコルが飛び出してきた”ダガー”の姿をみて驚きの声を上げる。

 

「また装備がこの間と違う…!?」

 

「悪いけど…君たちに構っている暇はないんだ…通らせて貰うよ!!」

 

バイザーが輝き目の前に展開する”イージス”と”ブリッツ”を見据える。

”ジェットストライカー”…では無く統合兵装ストライカーパック(Integrated Weapons Striker Pack)…通称”I.W.S.P”を装備した”ヴァリアブルダガー”が”ストライカーに小型化に成功し装備された”アーキバス”…高出力ビームランチャーを発射しながら突撃した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。