魔改造ダガーでC.E世界を駆け抜けたい【完結】 作:萩月輝夜
<統合作戦室より、第八艦隊所属艦”アークエンジェル”へ通達!>
”アークエンジェル”は無事に”JOSH-A”へ入港した…が入港後直ぐ様に本部係官からの通信が入る。
通達文章は事務的なものであり温かさと歓迎を感じられない。
<発令、軍司令部ウィリアム・サザーランド大佐発、『貴艦の長きに渡る激戦を労るー』>
マリュー達に次なる指示が言い渡される。
<本日
「現状維持、でありますか?」
<ああ。此方もパナマ侵攻の噂を受けて此方も忙しくてな…大佐からは「まぁ、取り合えず休んでくれ」と言うことだ。宇宙からここまでの貴艦の無事を歓迎する>
最後に係官からの淡白であったが本心の労いの言葉が掛けられ通信が切られ同じくマリューと共にナタルは複雑な表情を浮かべる。
「やはり、アズラエル理事とハルバートン提督の言葉は正しかったのかしら…?」
「艦長…」
マリューはここに来るまでの道中に言われたことを思い出していた。
『どうやら連合の一派閥は君たちに補給を渋ってるみたいですからね…そんな戦局を一変させる可能性を沈めさせるわけに行かないでしょ?』
『地上にいる連中が宇宙での戦いの何が分かる!要らぬものに資金を使い余計な軍閥戦争をして現場で散っている兵士の事など考えていない土竜どもにはな!』
戦況を変えるほどの”アークエンジェル”と”ストライク”のデータは既にナブコムから吸出しが終了している。
多大な犠牲を払ってたどり着いたというのに歓迎されていないところを見るにアズラエル理事が言っていた事は正しいものなのかもしれない。
もし、それが事実であるのならば…
嫌な予感が脳裏を過りマリューの握った拳に力が入る。散った二人の命を無駄にさせないために。
その表情には強い意思と怒りが満ちていた。
◆ ◆ ◆
「ほら、ミリィ…ちゃんと食べないと」
「うん…」
「フレイ、大丈夫…なわけないよな」
「…」
「でもちゃんと食べないと身体持たないぞ…?」
「うん、ありがとうサイ…」
”アークエンジェル”の食堂にて男女二ペアは食事を取っていた…がミリアリアとフレイは目に見えて落ち込んでおり食堂にいた整備兵や保安要員も痛ましくみていた。
この艦を護っていたパイロットは特別その二人と交友が深かったのを知っているからだ。
だからこその”失言”が飛び交う。
「しかし、ヤマトと中尉がやられるなんてな」
「あの二機が無い状態で
「なんのためにここまで来たのやら…」
「「ッ!!」」
悪意が在るわけではない。只の話題作りの雑談だろうが今の二人にとっては傷口を触られているような状態だ。
「そういや”ブリッツ”のパイロットなんだがどうやら女らしい」
「そうなのか?”ってことはバスター”も?」
問いかけられた整備兵は首を横に振る。
「いいや、あっちは”男”だよ。保安要員の奴が言ってたがヤマトと違って嫌な奴らしいぞ?」
「ヤマト…コーディネイターだったけど良い奴だったなぁ…」
「だな。中尉も若いのに…なんでだろうなぁ…」
「ミリィ、行こう」
「フレイ、ここにいちゃダメだ。医務室へ行こう」
二人はトールとサイに連れ出され医務室へ入るとソコには軍医はおらず呼びに行くために彼氏二人は離れる。
ミリアリアとフレイは医務室にある椅子に腰かけると自分達以外の人の気配を感じとり振り向くと今出会いたくない人物とであってしまった。
「なぁセンセ!?俺はいつまでここにいればいいんだよぉ?」
「「…ッ!!」」
「あ?」
椅子に座った二人はベッドに拘束され寝かしつけられていた褐色肌の男が困惑した表情を浮かべていたが二人の様子を見て馬鹿にしたような態度と表情を浮かべる。
「ハッ、何、暗い顔してんだよ?」
二人は目の前にいる”敵”に恐怖を感じ動悸が激しくなっていく
「ッ!…ぅう…ッ!」
ミリアリアはその言葉を受け次第に目尻に涙が溜まっていく。
「なんでそんな奴が兵隊でもやってんだ?怖いなら軍人やめちまえよ?」
次の言葉に二人は愕然とする。
「それともナニか?バカで役立たずの”ナチュラルの友達”でも死んだか?」
ーコイツハイマナントイッタ?
その言葉に恐怖よりも先に怒りが込み上げたミリアリア。
ふと、医務室の机の上に置かれた医療用のナイフを見つけ思わず手に取り目の前の”コーディネイター”…その切っ先を向ける。
ーなんで”コーディネイター”のあんたが生きててエアリスはいないのよ…………殺してやる…!
その切っ先を振り下ろそうとした。その時。
「なんでそんな酷いことが言えるんですかッ!!」
「ぐはぁあ!?に、ニコル!?な、なんでここに…生きていたのか?!」
ミリアリアが行動を起こす前に隣のベッドの間仕切りから白く伸びた細足が褐色肌の男の顔を蹴り飛ばす。
褐色肌の男は突然蹴り飛ばしてきた人物が生きていることに驚いているらしい。
整った顔立ちの緑髪の女の子はTシャツにハーフパンツを着用しているのと手首を拘束されベッドに縛られている為捕虜であることが分かる。
この子が先程食堂で聞いた”ブリッツ”のパイロット?
年齢はエアリスと変わらないコーディネイターの少女であった。
◆ ◆ ◆
時間は少し、遡る。
「ここ、は…」
オーブ近海で待ち伏せしていた”ザラ隊”は”ゴーグル付き”に手玉に取られ搭乗機の”ブリッツ”の撃墜を許し捕虜にまでされてしまった。
目が覚めたときには既に拘束され戦闘での治療のために医務室に運ばれていた。
ニコル・アマルフィと言う
「あれ中尉?どうしました?」
「捕虜の様子を見に。治療は終わってるんですか?」
「ええ。脳震盪と打撲程度で。もう少ししたら営倉へ」
「そうですか…少し話しても?」
「…ッ」
「大丈夫ですが…良いんですか?」
「まぁ…不安で一杯でしょうし…気が紛れれば、と思って」
不安を紛らわす為掛けられたシーツを身を固めるように抱き寄せると医務室のドアが開く音が聞こえ身じろぎし間仕切りを睨み付けるように見つめるがソコにいたのは予想外の人物だった。
「えっ…おん、なのこ…?」
「えっ?お、んなのこ…?」
間仕切りを開いたのは自分と同い年…それか自分より幼い見た目の連合士官の制服を着用した少女の姿だった。
二人同時に同じリアクションを取ってしまう。
一方で間仕切りを開いた少女…エアリスもベッドの上に寝かせられている人物が本来の歴史とは異なる性別であったことに驚いていた。
(なんでニコルが女の子…?いや、でもまぁ…史実でも女の子っぽい顔立ちだったけど……私がいるから少し歴史ねじ曲がった?)
困惑していたが「まぁ…そう言うこともあるか…」と自分を納得させた。
警戒するニコルの警戒心を解くために近くにある椅子を引き寄せ隣に座った。
「こんにちわ。ニコル・アマルフィ…ちゃん、で良いのかな?」
「…ボクの名前を知ってるんですね?」
柔和な表情が特徴的な
「…まぁ、色々と有名人だから、ね。安心して、この艦の人たちコーディネイターの人に優しいから。拷問とかしないよ」
「へぇ…連合もそう言ったところは理知的なんですね」
「それよりも少し、お話しない?」
「…ええ、良いですよ」
目の前の兵士…それも同い年の少女が相手となれば多少の恐怖心も緩むと言うものだった。
同時に今自分に出来ることはナニもないのでせめて情報収集でもしてやろう、という気概だった。
「アスランを知っているんですか?」
「知ってるというかその知り合いがこの艦に乗って…というか”ストライク”のパイロットなんだけどね。その子が教えてくれたの」
言葉を重ねる度に不思議な少女だ、とニコルは思った。
目の前の少女があのザフトで悪名高い【彗星の魔女】…”ゴーグル付き”のパイロットであることには大層驚いたがあのモビルスーツで戦う悪鬼とは別人だろうと。
何処にでもいるティーンエイジャー…モビルスーツのパイロットだと誰が思うだろうか?既にニコルは絆され僅かの時間だというのに心の隙間からするすると入られ気を許してしまっていた。
何処かのタイミングでアスランに関わる話となりニコルは”ストライク”のパイロットが幼馴染みであることを知って大層驚くと同時にコーディネイター同士で戦っていたことに心がざわついた。
「コーディネイター同士で…それも、友達同士で…」
「まぁ…仕方ないよ。”戦争”だから。」
「戦争…」
その言葉に胸が締め付けられた。
自分の知るアスランが自分達に内緒…というよりも打ち明けることが出来ずに宇宙からここまで戦っていることに。
「キラ君が戦わなくて良いように戦場から遠ざけたかったんだけどなぁ…私の、力が足りなかったかな」
「あなたは…」
ニコルは上体起こして項垂れるエアリスに声を掛けた。
「どうしてです?”ストライク”のパイロット…その少年がコーディネイターと知ってるのなら人質取ってこの艦を護らせるように命令すれば良い…何故わざわざ戦場から遠ざけようとしたんですか?」
「え?…そうだね、戦わせたくなかった、かな」
真っ直ぐにその瞳を見る。「嘘は許さない」と確固たる意思を秘めてニコルはエアリスを見つめた。
見つめられたエアリスは一瞬戸惑った後に息を短く吐いてニコルを見つめ返す。
「だって民間人だよ?戦う能力があっても戦う意思がなきゃ意味ない。戦うのは軍人の役目であって民間人じゃない…コーディネイターの男の子も女の子も関係なく、だよ。彼は…優しすぎるから」
「力があっても意思がなければ意味がない、と?」
「うん。そうでしょ。だからニコルちゃんはこの戦争をどうにかしたい、って思って”ブリッツ”に乗ったんでしょ?」
「……」
「私も護りたかったからあの機体に乗った…まぁ、ニコルちゃんの同胞をたくさん討った私が言うのもなんだけど」
彼女の言葉にニコルの心は動かされ掛けていた。
コーディネイターもナチュラルも関係なく”平等”に見ているその視点にニコルは驚く。
「恨まれる覚悟はある。軍人だからね…だからこそ彼には離れて欲しかったんだよ」
憂いを帯びた微笑を浮かべ遠くを見るその表情に視線を奪われていた。
そこから他愛の無い会話を繰り広げる。
本当に短い期間、刹那の時間であったがニコルは充実した敵との会話をすることが出来ていた。
それとエアリスの”ストライク”のパイロット…キラと呼ばれたコーディネイターの少年に印象を聞かされニコルは少しだけ同情した。
◆ ◆ ◆
「なにすんだよニコル!?」
「何で?じゃありませんよ!ここに乗っている艦の兵士の皆さんの神経を逆撫でするんですか?殺されても文句は言えないんですよ!?」
「ニ、ニコル…?」
ニコルと呼ばれたボーイッシュな少女は褐色肌の男を蹴りを見舞い声高に叫んだ。
「何してるんだミリィ!?一体何が…!?」
「えっと…その…」
状況はかなり混沌としていた。手には医療用のナイフに鼻から血を出している褐色肌の男、そして泣きながら足を伸ばして上体を起こしている捕虜の少女どう説明しようかと悩んでいるミリアリアだったが後ろからパルとトノムラの声が聞こえた。
「おい、なんの騒ぎだ!」
「何してる!?」
騒ぎを聞き付けたクルーと軍医が駆けつけその後ミリアリア達は厳重注意を受け医務室に勾留されていた二人の捕虜は営倉へ連行される。
営倉へ入れられたそれぞれは壁越しに言葉を交わした。
「あれはないですよディアッカ…」
「…ああ。自分でも失言だと思ってるさ…まさか戦闘機にやられるとは思わなくてさ。ムシャクシャして思わずあんなことを…それより皆心配してたぜ?イザークとか。勿論アスランもな」
ニコルは複雑だった。無事であることを祝いたいのだが今ここに自分とディアッカがいると言うことは自分達が”足つき”を討てなかったと言うことだ。
それに医務室にいる時に連合軍人から「”イージス”が”ストライク”に組み付いて自爆した」と聞いてアスランも…と少しだけ複雑な胸中で営倉の壁に背を預け膝を抱いてこの艦内で聞いたことを呟く。
ー”ストライク”のパイロットはアスランと幼馴染みでした。
その言葉にニコルから表情が見えないがディアッカは「信じられない」と言ったような表情を浮かべ息を漏らす。
それから艦内で自分を撃墜した”ゴーグル付き”のパイロットと出会った事とその人となりを説明している中でふと、疑問に思っていたことが湧いてきた。
(どうして”ブリッツ”を撃墜したとき…確実に手にしていた武装で攻撃した方が早かったのに背面の実弾武装で攻撃してきたのは何故…?)
あの時”ブリッツ”で突撃した時に”ダガー”は手にしていた対艦刀を腰に戻して背面の武装で攻撃していたのだ。
敵の艦内で知り合った同性のパイロット、と言う不思議な立ち位置の人物ともう少し話してみたかった…と戦場で敵であった奇妙な”友人”にそんな想いを向けるのだった。
◆ ◆ ◆
夕日が射す窓の外から”ゾノ”と”シグー”が忙しなく搬入されているのをカーペンタリアの軍病院の病室からも見て取れる。
地球連合側に残った最後のマスドライバー破壊作戦、”オペレーション・スピットブレイク”が計画されており分散しているザフト軍基地からここカーペンタリアに集結している。
「……」
ベッドの背もたれに背中を預けその緑色の瞳はただただそれを映すだけで何も感じない。
ノックの音がして反射的にドアの方向へ顔を向ける。
「クルーゼだ。入るぞ」
「隊長…」
ベッドに入ったままのアスランは入ってきた人物が敬意を払うべき相手であることに気がつき起き上がろうとするがクルーゼは手で制止する。
「そのままで良い」
「申し訳…ありません…」
アスランが咄嗟にその言葉を発したのは”失わせてしまった”と言う行動に対しての謝罪の言葉であった。
ニコルを機体を…そして自分の手でキラとキラを護ろうとした少女の命を奪ってしまったことに反射的に項垂れるがクルーゼは首を振った。
「いや…報告は聞いた。君は良くやってくれたよ」
「…いえ」
尊敬する上司の言葉も今のアスランにしてみれば何も感じない只の虚飾に過ぎずに右が左へ流れていく。
「私こそ対応が遅れてすまない…しかし、犠牲は大きかったがそれも止む得んよ。」
部下の痛みを自らの自分の傷のように噛み締め優しい声色で告げた。
「それ程までに強敵だったと言うことだ。”ストライク”と”ゴーグル付き”は」
「…ッ!」
「辛い戦いだったと思う。ミゲル、ゼルマン、バルトフェルド隊長…多くの兵士達が彼女らによって奪われたのだ。それを討った君は本国でも高く評価されているよ」
クルーゼは身を屈め俯くアスランの耳元で囁いた。
「君にはネビュラ勲章が授与されるそうだ」
「え…?」
「それと…私としては残念だが本日付で君は国防委員会直属の特務隊への転属の通達が来ている」
「そんな…隊長ッ」
俺が称賛されている…?その事にアスランは怖気を感じていた。クルーゼはその事に気がつかず言葉を重ねる。
「トップガンだなアスラン。君は最新鋭機のパイロットとなる。その機体受領のために即刻本国へ戻って欲しいそうだ」
「しかし…!」
この人は何をいっているのかアスランには分からず混乱しながら上官、いや元上官を見上げる。
勲章、トップガン…どれもこれも自分には相応しくないモノばかりだ。
キラを…その大切な友人をこの手に掛けた自分がーー?
「お父上が最高評議会議長に就任されたのは知っているね?」
「あ、はい…」
「ザラ議長は戦争の早期終結を切に願っておられる…早く終わらせたいモノだな」
その言葉にアスランは再び項垂れる。
そうだ、自分はこの戦争を少しでも早く終わらせるために、祖国を守るために銃をとった…筈なのに。
「その為にも君もまた、力を尽くしてくれたまえ」
クルーゼは最後にそう告げ部屋を出ていった。
アスランはその事にも気がつかずシーツを握りしめる。
自分は”兵士”だ。敵を倒すために戦う…そのために自分は戦って…誉められることをした筈なのだ。
それを理屈として受け入れようとするが心と頭がそれを拒絶していた。
目蓋を閉じると鮮明に思い出す獣のように叫び相手を殺せるのなら自らの命すら惜しくない…怪物のような自分の姿を思い返すと悪夢でしかない…しかしあれが現実だとクルーゼの言葉によって再認識させられた。
その直視したくない事実にアスランは荒く息を吐きシーツを掴み医務室で一人悔いる事しか出来なかった。
◆ ◆ ◆
腕を固定されたままザフト制服に着替え制服に袖を通すことは出来なかったが肩に掛け鞄を下げ病室を出て”プラント”へ向かうシャトルの通路を重い足取りで歩く。
通路はオレンジ色に照らされオーブでキラと最後に向かい合った情景を思い出し込み上げるものがあった。
ーそんなことを思い出す権利すら俺にはないって言うのに
ふと人の気配に気がつき顔を上げると通路の途中で壁にもたれ掛かっているイザークが此方を見ていた。
此方が近づくとイザークは組んでいた腕を解いて壁から背を離し通路の真ん中で少年二人は向かい合った。
「俺もすぐに、そっちへ行ってやる」
「……」
「貴様が特務隊とはな…!」
イザークには自分の表情がバカにされた…!と思ったのかその端正な顔にムッとした表情を浮かべ目を逸らしたが今はその何時も通りの対応に心癒されていたアスランは持っていた鞄を降ろし手を差し出す。
「…色々、すまなかった…今までありがとう…」
差し出した手を無視されるかと思ったがイザークは黙って手を握ってくれていた。
「…じゃ」
名残惜しみながら手を離し地面に置いた鞄を手に取りイザークの横を通り抜けた。
「今度は俺が部下にしてやる!」
イザークは背を向けながらそう告げた。
「…それまで死ぬんじゃないぞ!」
彼の不器用な暖かさを感じると同時にそれを受けとるには資格はないと後ろめたさを感じ取って頷く。
「…ああ、分かった」
二人の少年は分かれ別々の道を歩む。再会の時は分からぬまま…。
◆ ◆ ◆
小鳥の囀ずりと柔らかな少女の声が聞こえ微睡みの中にあった意識を覚醒させた。
「あら、ピンクちゃん?だめですよぉ…そちらに行っては…」
何処かで聞いたことがある声だ…と目蓋を開けるとそこは天国だ、と確信した。
四方が芝生に囲まれ吸い込んだ息の匂いは甘い爽やかな花達の水々しい香りと視界に広がるのは青空と呼べるほどに突き抜けた青さ…そしてピンク色の髪をふわふわと漂わせ自分の顔を覗き込む柔らかな笑みは正に”天使”と表現する以外になかった。
「まぁ…おはようございます」
「ラクス…さん?」
「あら…ラクスとお呼びになってくださいな、キラ」
どうやらここは天国でないことを覚醒していない頭でノロノロと考えていると此方へ向かってくる足音を聞いた。
「おや、彼が目を醒ましたようですね」
「はい、マルキオさま」
マルキオと呼ばれた杖を持つ盲目の男性はキラの元に近づく。
「驚かれたでしょう。このような場所で」
「だって此方の方が気持ちがいいじゃありませんか。ねぇ…?」
確かに、と思った。目が覚めたときは驚いたが花の香りと空気を感じて落ち着く…が何か、大切なことを忘れている気がする。
「…ぼくは」
「貴方は傷つき、私の祈りの庭に辿り着いたのです…そして、ここに。ラクス様の元へお運びしました」
突如としてここに来るまでの前の出来事を思い出しこの場所の色鮮やかな花の色と香りが一瞬にして色褪せた。
コックピットの熱、そして慟哭を…。
ーア"ァ"ア"ア"スラア"ア"ァ"ァ"ァ"ァ"ア"ン!!!!!!!
喚きながら”イージス”へ突撃する。
その弱気な心は何処へ、その胸の中には大切な存在を奪った憎き敵を滅ぼさんとする怒りが渦巻いて目の前に乗っている人物が幼き頃からの友人だと言うのにそれを忘れ叫びサーベルを振り下ろす姿を。
ーエアリスさんを…エアリスさんを…!!!
”イージス”も反撃してきて苛烈さを増していき互いの光刃が交差し装甲を傷つけ合いながら死闘を演じる。
キラはがむしゃらで尚且つ正確にサーベルを振るうと”イージス”の左腕が斬り飛ばされ宙を舞った。
ー
「あ、あぁ…!」
「キラ…?」
キラは全身に這う痛みに震えシーツを強く握りしめる。隣にいるラクスが心配そうに覗き込むのに気付いていない。
「ぼくは…目の前でエアリスさんが…殺されて…」
その言葉にラクスの目が大きく開かれた。
「アスランと殺し合いを…して…」
大切な人を殺されて憎しみをぶつけた相手は親友…”だった”アスランだ。
今も尚その身を燻る”憎悪”がキラの心とエアリスを目の前で失ってしまった、と言う悲しみが一気に襲いかかった。
「どうして…ぼくは…生きているの…?」
エアリスを護れず自分だけがのうのうと生き残ってしまった…咄嗟に出た言葉は自罰的なものだった。
「アスランは貴方と殺し合いをしたのですね?…エアリスも」
隣にいるラクスにようやく気がついたキラは視線をシーツに落としたのはラクスとアスランが婚約者だと言うことを思い出して申し訳なさと罵倒されることに耐えきれずにそうしたのだ。
「でも、それは仕方の無いことでは有りませんか?」
「えっ…?」
「
キラは衝撃を受けてラクスの顔をまじまじと見る。ただ、ある真実を告げて悲しみを見せない毅然とした態度で言い放つ。
柔らかい笑みを浮かべそう、告げた。
「三人とも、
その言葉にキラは自らの内の疑問が激しく渦巻いていた。