魔改造ダガーでC.E世界を駆け抜けたい【完結】   作:萩月輝夜

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主人公は出ません(迫真)


まなざしの先に

"JOSH-A”にあるブリーフィングルームに集められたマリュー達はザフトによるヘリオポリス襲撃からアラスカ到着までの経緯を報告していた。

称賛の声よりも非難の声が大きくサザーランド他将校も頷いて見せていた。

だが、マリューの中での違和感が大きくなっていったのは必死に戦った少年の名前が上がらない…まるで腫れモノ扱いにしていないかのように。

 

「…だが、君たちはこの”JOSH-A”を前にして肝心な”ストライク”と”ダガー”の実機…エアリス・A・レインズブーケ中尉…いや、”特務少佐”を失ってしまっている有り様だ。それで犠牲になったもの達は浮かばれるかね?」

 

その言葉にムウもまた膝に降ろしている拳に力が入る。

 

ー理事がいなければこっちは補給なしで到着すら儘ならなかったんだぞ…!

 

そんなことを考えながらハルバートンも怒りを滲ませながら地上の地球軍本部の将校達へ向けた言葉を思い浮かべる

 

『奴らは戦場で何れ程の兵士が死んでいるのか、数字でしか知らん!』

 

オーブでもアズラエルが放った一言の件もある。

 

『一派閥は補給を渋っている様子すらみられますからねぇ』

 

…とまるで此方に来て欲しくない物言いだ。そっちの都合で補給を渋る癖に…!

 

「”コーディネイター”と戦った特務少佐の犠牲を忘れぬように我々も戦わねばならんのでね…」

 

その言葉にマリュー達に心に黒いシミのようなものが広がる。

”エアリス”を聖女として祭り上げ”キラ”…敵であるコーディネイターなど最初からいなかったかのように扱う目の前の将校達に血が通っているのか、と声を上げて問い詰めたかった。

 

「ーーでは、これにて査問会を終了とする。長時間の質疑応答。ご苦労であった」

 

将校達は立ち上がりそれぞれの仕事へ戻っていく。この査問会も面倒な事務仕事のひとつが終わった程度の認識なのだろうな、とマリューは他人事の様に思えた。

が、続く言葉にマリューは現実に引き戻される。

 

「”アークエンジェル”の次の任務は、追って通達する。それと人事部よりムウ・ラ・フラガ少佐、ナタル・バジルール中尉、そしてフレイ・アルスター二等兵以外の乗員は艦内にて待機を命ずる」

 

「では、我々は?」

 

ムウは面食らった顔で問いかける。

 

「貴官ら三名には転属命令が出ている。明朝08:00(ゼロハチマルマル)人事局へ出頭するように。以上だ」

 

サザーランドはそれだけ言い残し資料を纏めブリーフィングルームを出ていくのだった。

まるで”用済み”だ、と言わんばかりに。

 

◆ ◆ ◆

 

照明を落とした執務室でプラントの最高権力者となった”パトリック・ザラ”はモニターを前にして厳しい表情を壁ていた。

 

「”スピット・ブレイク”。全軍準備完了しました」

 

モニターに映るのは銀色の仮面を付けた腹心であるクルーゼでありその仮面の下に浮かべた微笑がどんな意図が含まれているのか…今のパトリックはその事を気にするほど余裕はなく黙っているだけだ。

同時にザフト宇宙ステーションから発進した艦艇と機動兵器群が降下用の耐熱ポッドへ乗り込み地上ではカーペンタリアや各基地から発進した潜水母艦と輸送挺が予定ポイントへ向かい待機している。

”プラント”にいるパトリックが一声掛けるだけで全軍が動き出す。司令部、兵士皆一同にその一言を待ち望んでいた。

 

「後はご命令をいただくのみです」

 

パトリック・ザラは軍回線を開く。

 

「…この作戦により、戦争の早期終結へ向かわんことを切に願う。真の自由と正義が示されんことを…」

 

彼は立ち上がり、宣言する。

 

「”オペレーション・スピットブレイク”発動せよ!」

 

その発令を各部署、各艦、各機へ通達される。

 

<”オペレーション・スピットブレイク”発動!>

 

<04:00(マルヨンマルマル)スピットブレイク発動!>

 

<事務局発、第六号作戦、開封承認!コールサイン:”オペレーション・スピットブレイク”…目標…>

 

次に作戦統合本部のオペレーターが発した”真の攻略地点”が示された。

 

<目標…アラスカ地球連合本部…”JOSH-A”!!>

 

命令書を受けた多くの指揮官、兵士達は驚愕した。

 

◆ ◆ ◆

 

「……」

 

少し落ち着いてから自分がプラントにいることを知った。

ここに来る経緯としてあの戦闘はマルキオ導師の伝導所が近くにありたまたま用事があったジャンク屋組合の人間が”ストライク”のコックピットをこじ開け負傷したキラを届けてくれたそうなのだ。

もし通りすぎた人物が機械に疎い人物であるのなら今頃爆発で熱せられた高温のコックピットに閉じ込められ蒸し焼きにされていただろう事は想像に固くない。

マルキオ導師が和平交渉の仲介人として”プラント”に呼ばれていたこともありキラの素性を隠しシャトルに乗せてラクスの元で治療を受けさせた…とのことだ。

なぜソコまでしたのか、と言われればラクスとマルキオが父シーゲルとの繋がりで知り合いであり彼女の話を聞いて彼に興味を持ったから、と言うことだった。

海を見て黄昏ていた後ろからラクスから声を掛けられ屋敷に程近いサンルームにてお茶をすることになった。

 

平和だ、とキラは思った。

お茶をしたり隣でラクスが花の種類や名前を教わったりしたが不思議と自分からなにかをしたいと思ったことはなくただただ流されるままであった。

しかし、目蓋を閉じれば思い出すのは目の前で”イージス”が”ダガー”を撃墜する姿がちらつき獣のように叫び”親友”であった人物と殺し合うその悪夢が蘇り眠ることすら拒否したくなったが常に寄り添うようにラクスが側におり見守っている。同情からではない心からの世話を焼いているようだ。

 

「キラの夢は何時も哀しそうですわね…」

 

「うん…」

 

キラは力無く頷く。

 

「僕を…あの一人ぼっちの艦で…肯定して…守ってくれた…憧れの女の子を…僕は…ッ護れなかった…!」

 

涙が止まらない。止まること無く流れる涙をラクスがそっと拭った。

 

「それでも…護れたものはあったのでしょう?エアリスもそうだった筈です。護りたかっただけ、と」

 

否定でも肯定でもない。ただ真実をラクスは告げる。

隣にいる彼女の表情を見る、その瞳が潤んでいるのを見てキラはラクスも”親友”を失った事実に気丈に耐えようとしているのを感じとり少しだけ気持ちが軽くなったのは同じ境遇の人だからか。

素の自分を”彼女”以外にさらけ出して良いのか、と考えたキラは一歩踏み出そうとしたその時に雨が降りだした。

 

「不思議だな…」

 

「はい?」

 

「なんで僕は…ここにいるんだろうか?」

 

「キラは…何処に行きたいのですか?」

 

「分からない…」

 

「ここはお嫌いですか?」

 

「ここにいて…良いのかな」

 

「わたくしは『もちろん!』とお答えしますけど」

 

平和なここは心休まる場所でラクスもいて確かに戦うこともナチュラルの中で一人寂しく過ごすことももう無いのだろうが…それは違う気がしていた。

キラはラクスからお茶を注いで貰ったティーカップを持ち上げるとサンルームに入ってきた一人の男性へ会釈する。

男性も気がつき会釈するとマルキオに話しかけた。

 

「やはりダメですな…導師のシャトルでも地球に向かうものは全て発進停止で許可を出すことは出来ないということで…」

 

ラクスの父親であるシーゲルが姿を見せる。既に最高評議長の任は外れ要職には就いていないということだがその影響力は計り知れないということであり働きかけたらしいがダメだったようだ。

 

その最中、サンルームのガラス面がモニター画面に切り替わる。

 

<シーゲル様。アイリーン・カナーバ様から、通信です>

 

「繋げ」

 

<シーゲル・クライン!我々はザラに欺かれた!>

 

外線通信のモニターには険しい表情をした若い女性が映った。

 

<発動された”スピットブレイク”の目的地は”パナマ”ではない!>

 

次に発せられた言葉にキラは殴り付けられたような感覚を味う。

 

<”アラスカ”だ!>

 

「なんだと!?」

 

その単語にキラは持っていたティーカップを取り落としガシャン!と音を立てていたことにも気がつかなかった。

 

「キラ…」

 

ラクスが心配そうに肩へ触れているがそれにも気が付かずに痛みに喘いだ。

思い返すのは”アークエンジェル”で一緒に過ごした”友人”達と大人の顔…圧倒的な恐怖が襲ってきて自らのパジャマの胸元を掴む。

自分達が行ったような殺しあいを再び…繰り返すのか、と。

 

◆ ◆ ◆

 

人事異動が発令され”アークエンジェル”も送り出される三名の搭乗員を送り出した。

フレイは納得がいかない!と喚きサイも納得がいかない…!と意思を見せていたが人事局からの辞令であればマリューであったとしても無力であった…が、その実裏で父のジョージ・アルスターから手を回されていたのは言うまでもなかった。

 

「また、会えると良いわね…戦場ではない、何処かで」

 

「終戦となれば可能でしょう…ラミアス少佐…いえ、艦長も…ご無事で」

 

「ええ。アルスターさんをお願いね?」

 

「はい、行くぞ…」

 

「艦長…」

 

ナタルも不器用ながらマリューヘ感謝の言葉を告げ最後にお互いが差し出した手を握り離し、フレイを連れ下船した。後を追うようにムウも「俺も言うだけ言ってみるかな」と冗談交じりに提案してみるが”取り合われない”事を思い返し制帽を握りしめる。

 

ムウは”アークエンジェル”を下船後にパナマ基地での教官を務めることになっていた。

 

「この状況で教官やれ、は無いでしょ…」

 

「貴方が教えれば前線での新人の損害率も下がるわ」

 

気休め程度の言葉だったかもしれないが彼は実際に”不可能を可能にしてきた”男なのだからきっと『教官』になったとしても上手くやっていけると思えた。その光景を想像すると少し面白いのだが。

 

「…ほら、遅れますわよ」

 

「あぁもう!くそっ…!」

 

「今まで…ありがとうございました…」

 

「俺の方こそ…な」

 

三人を送り出した後も補給と整備がで進められていた。

伝令役の士官が艦橋に姿を現してキビキビと司令部からの通達がなされる。

 

「…補給が完了次第、第八艦隊所属艦”アークエンジェル”は一時的な所属移管をするものでありザフトによるパナマ侵攻の噂もあるため本日付けをもってアラスカ守備軍、第五護衛隊付きへと所属を移管するものとする!ー発令、ウィリアム・サザーランド大佐」

 

敬礼しその通達を受け取ったがマリューの中で疑問が渦巻く。

同時に後ろにいたパルとチャンドラが小声で疑問を囁き交わしていた。

 

「アラスカ守備軍?」

 

「おいおい…俺たちは第八艦隊所属だって…それに”アークエンジェル”は宇宙艦だぜ?」

 

私語をする部下に咳払いをして静かにさせると通達してきた士官に声を掛けるがその士官は不機嫌そうな表情を隠しもしない。

 

「あの…!」

 

「なんだ?不服か?」

 

「いえ、そう言うわけでは…此方には休暇、除隊の申請をしている者もおりますし…捕虜の扱いに関してもまだ…それに追加のパイロットも」

 

所属に関しては第八艦隊が健在でありハルバートンの命令でアラスカに降下したのだから直ぐに戻れるだろうと思っていたがそうでもないらしい。パナマ侵攻が噂されいざとなれば此方も出撃しなくてはならないのだろう…と思っていたが既に一週間も立つというのに修理は完了しておらず捕虜の移送も行われないのは異常という他無い。追加の人員もいない状態ではマトモな戦闘すら行うことが出来ない状態なのだ。その事をマリューが指摘すると士官はつれなさそうに返した。

 

「大佐には伝えておく」

 

そう言って士官は艦橋を出ていくのを見るしか出来ずに歯がゆい思いをするしかなかった。

 

◆ ◆ ◆

 

「キラ…エアリス…」

 

”アークエンジェル”の補給と整備が進む中格納庫に訪れていたトールがカーゴに納められた”ブリッツ”と”バスター”を見つめる。

 

奪われ辛苦を舐め続けた相手がここにいてそして艦の仲間を撃った機体が修復されているのは違和感が大きい。

既に整備が完了し”ブリッツ”に至ってはデータと実物を見るのと差異がありすぎていた。恐らくエアリスが提案していた改造案を採用して修復したのだろうと。

 

格納庫には”ストライク”と”ダガー”が入っていたカーゴが空っぽになっているのを見てやるせない思いになった。

 

「せっかく”アラスカ”に到達したってのに…お前らがいなきゃ意味無いじゃないか…」

 

ブリッジにいたサイとカズイに聞いた話だが”アークエンジェル”はアラスカの守備隊に組み込まれることになったらしい…自分達の除隊申請も滞っているらしい。

トールも巻き込まれ早く抜け出したいと思っていたがキラとエアリスが護ってきたこの艦に愛着すら湧いておりぞんざいな扱いをする連合本部に不満が募っているのは彼以外もそうだった。

 

パイロットの補充すら無しに捕虜の移送すらないのは軍人として浅いトールですら”異常”だと理解していた。

踵を返して今落ち込んでいるミリアリアの様子を見に行くために居住区へ向かおうとしたその時だった。

 

「な、なんだぁ?!」

 

突然基地内部にけたたましい警報音が鳴り響き周囲にいる整備兵達も「なんだなんだ!?」とあわてふためいている

 

<総員第一戦闘配備!”アークエンジェル”は防衛任務の為発進します!>

 

格納庫に響くマリューの声に愕然とした。そんな、今少佐もキラもエアリスもいないと言うのにーー?

困惑するトールであったが視界に白を基調とした支援戦闘機…”スカイグラスパー”の姿が入り握った拳に力が入る。

そうだ、あの沖合いの戦闘後時間があればシミュレーションを繰り返してきた自分の姿を思い返す。

今戦えるのは自分だけでこの艦にはもう赤の他人とは言えないほどに同じ釜の飯を囲んだ戦友と大切な…彼女がいると言うことを。

 

(必死にキラとエアリスが護った此処(アークエンジェル)を…俺が護る!)

 

トールは格納庫を飛び出しロッカールームへ走る。まるで高揚する自分を落ち着かせるために、恐怖を打ち消すために。自らを犠牲にではなく護るための戦いへ向かうために。

 

◆ ◆ ◆

 

少し時間は遡る。

 

「どう言うことだこりゃ…?」

 

ムウが唖然として呟いたのは”グランドホロー”内部の地下ドックには数隻の潜水艦が発着し、プラットホームには兵士達が長い列を作り巨大な空洞に人の声が響き圧倒される。

 

「…まだ、パナマに出る隊があるんでしょうか…?」

 

「さぁ…どうなんだろうな。丁度パナマに向かう増援部隊とかち合った…とかじゃなきゃこの混雑は可笑しいが…」

 

「少佐?」

 

ムウの脳裏にチラリ、と悪い予感が浮かんだ。可笑しい、と。

この数の人員移動はまるで”此処(JOSH-A)を”捨てて逃げ出すのではないかーーと、そんな悪い冗談を想像しているとナタルから声を掛けられ現実に戻った。

 

「ああ、いやなんでもないさ。中尉の乗る艦は?」

 

「私は…あちらですね」

 

「俺はお嬢ちゃんと一緒に此方の列だな」

 

「そうですか」

 

「ああ、此処でお別れだな。じゃ、まぁ中尉も元気でな?」

 

差し出された握手をナタルはフッと微笑み握り返す。こうも変わったのはある意味であの経験とエアリスと言う自分よりも年下の士官の影響もあるのだろうな、と。

ムウもナタルのそんな表情を見て微笑み握手を終えて手を離しそれぞれの搭乗艦への待機列へ向かうとナタルが搭乗する艦の方が早いのか暫くすると乗り込み搭乗ハッチが閉まった。

 

「少佐…私、納得できないです…」

 

「そう言うなよお嬢ちゃん?銃を取ることだけが戦争じゃないんだぜ?」

 

暫く進まない待機列にてフレイはムウへ愚痴を溢していたのはその自信の転属理由であった。

 

『アルスター事務次官のご息女が自らの意思で戦場に立つ、と言うことがどれ程大変で意味のあることかわかるかね?君の活躍は何も鉄火場のど真ん中でなくとも良いのだよ』

 

サザーランドがフレイに告げたことは即ち”絶好のプロパガンダ”と言うことだ。

フレイの言葉に心動かされた兵士達が戦場で傷つき損耗していくのを彼らは数字でしか把握しないのだろうとその場にて聞いていたムウも苦い表情を浮かべる。

確かに銃弾が飛び交う戦場の中にいない彼女には平和は約束されるだろうが意思の強いフレイには耐えきれないだろう…エアリスの言葉を理解している彼女ならばのうのうと平和な場所で戦争を経験し語る、と言うのは苦痛でしかないはずだ。戻れることなら”アークエンジェル”に戻りたいだろう…と考えているとムウも艦長を宇宙から務めた女性の送り出された最後の表情を思い返しあんなに良い女は後生出会えないだろうな、と思いを巡らせ進まない列を見ながら最後のほんの少しだけ戻って挨拶するぐらいは許されるだろ、と考えていると突如として基地内部に警報が鳴り響く。誘導員が待機列の兵士を潜水艦へ押し込もうとするのと同時に嫌な気配を感じ取った。

 

(ッ!?この感覚…奴か!?)

 

ぞわりとした”エンデュミオン・クレーター”の戦場で感じる因縁じみた悪寒気を感じとり無意識にフレイの手を取り来た道を逆走することに決めた。

 

「え、少佐?」

 

「”アークエンジェル”へ戻るぞ!…どうやら…ヤバそうだ…!」

 

勘は良く当たる…ムウは自らの直感を信じフレイの手を取って”アークエンジェル”へ向けて走り出した。

 

◆ ◆ ◆

 

突然鳴り響いた警戒音に艦橋は騒然としてマリューはCICへ視線を向けると当直のクルー達も顔を見合わせ困惑する表情を浮かべたが外で作業をしていた兵士達も慌てて駆け出していく姿が見て取れた。

そんな中でパルが声をあげる。

 

「統合作戦室より入電!」

 

モニターに写し出された将校の顔を見てマリューは問い掛ける。

 

「サザーランド大佐これは…!?」

 

<守備隊は直ちに発進、迎撃を開始せよ!>

 

その言葉にマリューとクルー達は虚を付かれ呆然とする。

 

<してやられた…!奴らは直前でこの”JOSH-A”へ狙いを変えたのだ!>

 

”焦っている”サザーランドの言葉がマリューの混乱する脳内で理解していく毎に次第に背筋が凍りついていくのが感じ取れた。

 

<此処を敵の手に渡すわけには行かん…!なんとしても死守せよ!厳しい状況ではあるが各自健闘を…!以上だ>

 

そう告げたきりモニターは切れてしまった。マリューは固く唇を噛んだ。

頼みの綱である”ストライク”、”ダガー”は失われ”スカイグラスパー”の乗り手も経験の浅い新兵しかおらず回収した”バスター”と”ブリッツ”は既に改修修理が完了していると整備班から聞かされていたが操縦できるものがいない中で機動兵器がない戦艦で持ちこたえられる筈がない。いくら”アークエンジェル”が特装艦だと言え限度があるのだ…しかし。

 

「この状況で戦え、と言うのも酷な話だけど本部を失うわけには行かないわ…!」

 

「艦長…」

 

ノイマンがパイロットシートから後ろを振り返る。その表情は絶望感に染まっていた。

 

「そんな…キラもエアリスも…少佐もいないのにどうやって…」

 

そう言葉を発したのはカズイだった。こちらにも絶望の色が濃く色づいているのが見て取れる。

 

<艦長、俺が出ます!>

 

そんな中艦橋のモニターが点灯する。そこに映し出されていたのはパイロットスーツ姿のトールがいた。

 

「トール君…?」

 

「トール…ダメよ…!」

 

CIC席に戻ったミリアリアはその姿を見て言葉を失う。この地球連合本部を襲撃すると言うことは彼らが今まで対峙したことがない程の数の敵が押し寄せる事に他ならない。そんな地獄へ恋人を送り出すことを先の戦闘で友人を失ったミリアリアからしてみれば拒否反応を示すのは当然だった。が。

 

<少佐もいない…キラとエアリスも…わかってます!俺が未熟で犬死するだけだって!でも…!>

 

モニター越しに映る少年の瞳は真っ直ぐであり戦うべき”戦士”であった。

 

<此処で怯んだら死んでいった二人に顔向けできませんよッ>

 

「トール…」

 

「…わかりました、決して無茶はしないように。良いわねッ!」

 

<了解ッ!>

 

威勢良く放たれた了承の言葉を受けた後通信が切られマリューは正面を見据え自らを奮い立たせるためにただ、告げた。

 

「”アークエンジェル”発進せよ!」

 

◆ ◆ ◆

 

”オペレーション・スピットブレイク”が発動した。

地上へ向け宇宙から降下したポッドから”ジン”や”シグー”が降下し”ディン”が輸送機や潜水艦から飛翔し基地から発進した連合軍の航空部隊を蹴散らしていき海からは”グーン”と”ゾノ”が艦隊を破壊しながらアラスカへ近づきつつあった。

地上では”ザウート”とバクゥが地上を走る連合の戦車部隊を蹂躙する。

その中で低空で接近するシルバーグレーのカラーリングが施されたクルーゼのディンが基地の滞空迎撃を交わしながら手にした機銃で砲座を潰し滝へ機体を突っ込ませると基地内部へ通じる通路を飛翔した。

 

「ほう?寄越した情報は確かなようだな」

 

何処からか入手した”JOSH-A”の詳細な見取り図がありこれを手にするのは骨が折れたが最終的には相手と自分双方が満足に至る有効な取引になったと言える。そしてついでと言わんばかりに知りたかった情報を得て『一石二鳥』になったのだが…。

彼は順路を進み”グランドホロー”内部に到達すると既に内部の兵士は逃げ出している…と言うか”察知した”ようでもぬけの殻であった。

 

クルーゼは確認するために管制室へ走り出す。

◆ ◆ ◆ 

 

「くそ…ッ!敵襲かよッ」

 

”アークエンジェル”へ戻るためひた走るムウ達の耳に飛び込んできたのは”JOSH-A”が攻撃を受けている、と言うことだった。

嫌な予感がする、と同時に先ほどドッグで感じた”気配”を無視するわけには行かずに拳銃を確認しその”気配”の方向へフレイと共に向かうと開け放たれた管制室の扉の影から内部を見て驚いた。

 

(おいおい…!?どう言うことだ?ひとっ子一人もいないじゃねーか……ッ)

 

迎撃発令中だと言うのに管制室は薄暗く人一人もいない…そんな中で此処に何処からか入り込んだザフトの指揮官用制服を着用している人影が見えた。あれがザフトの仮面の男…ラウ・ル・クルーゼなのだと直感がそう囁く。

ムウはその後ろ姿に警戒することも忘れ身を乗り出すとその影がザフトの指揮官の視界に入り、素早く振り返り手にしていた拳銃で発砲する。

 

近くにいたフレイが短い悲鳴をあげながら物陰に隠れ手にしていた拳銃で応戦する。

 

「久しぶりだな…ムウ・ラ・フラガ?せっかく会えたのに残念だが貴様に付き合っている時間ないようだ」

 

コンソールの影に隠れるムウに牽制するように発砲する。

 

()()()()()と言うことは既に()()()()()()と言うことか?墜ちたものだな『エンデュミオンの鷹』も」

 

そう揶揄する声が聞こえ人影がサッと動いたのを感じとりコンソールから拳銃を構えながら飛び出すが既に奴は室内から出ており出ていった自動ドアが閉まった。

 

「少佐…今のはザフトの?」

 

「ああ…追いかけたいが今はそれどころじゃなさそうだ。奴がなぜここにいて何を調べていたかだ…」

 

ムウはフレイと共にクルーゼが見ていたとされるデータパネルを確認するとそこに写し出された情報に驚愕し目を見開くがフレイには何がなんだかわからなかった。巨大なレーダーアレイのようなものがトンボの複眼のように集まって気持ちが悪いぐらいの感想だったが隣にいるムウは嫌な予感がして再度データを読み直し怪訝な表情を浮かべるフレイの手を掴み管制室を飛び出す。

 

「え、えっ?少佐?」

 

「急ぐぞっ!(なんてこった…くそッ!!)」

 

このままでは間に合わなくなる。急いで”アークエンジェル”にこの事を伝えなければ…!

 

◆ ◆ ◆

 

瀑布を割り”アークエンジェル”が姿を現すとその姿を視認したザフト軍のモビルスーツは砂糖へ群がるアリのように接近するのを確認したマリューは指示を出す。

 

「”ウォンバット”、”バリアント”てぇーッ!!」

 

放たれたミサイルに片腕をもがれその場から回避しようとする”ディン”だったが放たれたリニアカノンの弾丸が胴体部分を貫き爆発し墜ちていく残骸に目もくれずに無数に飛び交うモビルスーツを相手に艦搭載の機銃とミサイル、主砲、副主砲で蹴散らしていく…がそれに追い付かないほどに空中を飛び交う敵機が”アークエンジェル”、そして味方の守備隊が攻撃を受けてジリジリと磨り潰されていく光景が広がる。

 

「”スカイグラスパー”ケーニヒ機発進どうぞ!」

 

<トール・ケーニヒ、二号機出ますッ!>

 

”アークエンジェル”からランチャーストライカーを装備した”スカイグラスパー二号機”がカタパルトから射出され”ディン”や”グゥル”に乗った航空戦力と対峙する。

早速すれ違った際に”ディン”の胴体を”アグニ”で貫き接近する敵機をミサイルとバルカン砲で敵機を蹴散らしていく姿は”アークエンジェル”のクルーからしてみても心強いものだった。

しかし、呆けてばかりもいられない。

 

「ミサイル来ますっ!」

 

艦橋ではトノムラが声をあげマリューが叫んだ。

 

「回避ッ!!」

 

指示を受け必死の操舵をするノイマンだったが”ディン”が放ったミサイルが”イーゲルシュテルン”の迎撃を逃れ右舷蹄部に炸裂し艦体が大きく揺れチャンドラが報告する。

 

「右舷フライトデッキ被弾ッ!」

 

「”オレーグ”撃沈!」

 

右舷蹄部が破壊されそこから発進する機体は今はないが眼下に展開する艦隊はモビルスーツに抵抗できず炎をあげていた

 

「”オレーグ”の抜けた穴を埋める!」

 

「なおも”ディン”接近!数、六!」

 

「この陣容じゃ、対抗しきれませんよ!」

 

トノムラの報告に思わずのノイマンが抗議の声をあげる。

 

その事にマリューも分かっており唇を強く噛む。この戦力ではモビルスーツの大部隊に対抗できる筈がない。

チャンドラが悪態をつく。

 

「くそッ!まんまとやられたモノだぜ!司令部も!」

 

チャンドラの吐き捨てた悪態にサイが狼狽えた声で問い掛ける。

 

「主力部隊はパナマなんですか?戻ってきてくれるんですよね?」

 

トノムラが叫び返した。

 

「此方が全滅する前に戻ってきてくれればな!」

 

基地から発進した戦闘機がモビルスーツと交差するが続々と落とされ、眼下でも戦艦がモビルスーツに取り囲まれ持ちこたえることすら危うい。

 

「ミサイル接近!」

 

「回避ーッ!!」

 

マリューが叫び”イーゲルシュテルン”が接近していたミサイルを全弾打ち落とし至近距離で炸裂した爆発の振動が艦橋を襲う。

 

◆ ◆ ◆

 

管制室から飛び出し見つけたバイクで2人乗りしながら人気の失せた基地内部を疾走させゲートに到着し乗り捨てると発進前の戦闘機がおかれ戻ってきた被弾した戦闘機から負傷した兵士が運び出され人の怒号が飛び交うのを聞いて隣にいるフレイが顔をしかめている。

近くにいる整備兵へ問い掛けようとしたが爆発が遮られてしまう。

”ディン”と”シグー”がゲートを突破して侵入しそれぞれが持つ機銃で駐機中の戦闘機を破壊して爆発音が響き渡りモビルスーツは兵士達を無視してゲート奥へ向かうのを冷めた目でムウは見た後に呆けている若い整備兵に「此処を離れるように!」と告げ転がっているヘルメットを拾いフレイへ投げ渡し運良く被弾を免れた複座型の”スピアヘッド”に乗り込む。

 

「お嬢ちゃんしっかり掴まってろよ!」

 

「え、ええ!?これに乗って”アークエンジェル”に?」

 

「これしかねぇんだよ!たくっ…ヒーローは柄じゃねぇってのに!…むっ!」

 

発進する進路上に”ジン”が立ちふさがり発進する”スピアヘッド”に銃を向けるより先にミサイルが直撃し爆散した。

 

「な、ナビゲーションしますっ」

 

「頼んだぜッ!」

 

散乱する残骸を巧みに避けて機体を発進させた。

 

◆ ◆ ◆

 

"JOSH-A"で必死の防衛戦を行っている味方がいるその最中、アラスカ近海の海を潜航する潜水艦の1隻に将校達が集結していた。本来であればザフトの襲撃に必死に指揮をださねばならぬ存在達だ。

その中にはウィリアム・サザーランドの姿もあった。

 

「第四ゲートが突破されました。基地内部の侵入が始まりましたよ」

 

サザーランドは予め()()()()()()()()()()()()()段取りのように淡々と告げると将校達は複雑な表情を浮かべる。

 

「ふん、もう少し持ちこたえるかと思えば…」

 

「ユーラシアの連中も弛んでおるのではないかね?」

 

同盟国の兵士達を嘲る言葉に微かな笑い声が漏れ聞こえる。

 

「余り奮戦されても困りますからな」

 

「メインゲートも間もなくでしょう…”アークエンジェル”が良い的になってくれていますからね…最低でも八割方を誘い込みたいものです…」

 

サザーランドはそう呟き机の上に置かれたジュラルミンケースを開くと鍵が挿入できるユニットとボタンが置かれたものが二つある。

そのボタンを押した後の『戦果』を想像し邪悪な笑みを浮かべていた。

 

◆ ◆ ◆

 

「少佐!あれ!」

 

ムウは”スピアヘッド”を駆って基地上空へ躍り出ると砲火に曝された白亜の戦艦が浮かんでいるのを指摘され確認した彼は肩から力を抜く。

 

「おっしゃ!まだ生きてたな!!」

 

”アークエンジェル”は既にあちこち被弾し煙を上げていたが健在であり接近しようと機体を旋回させようとする、がそれに気が付いた”シグー”と”ジン”がこちらに向け機銃を撃ち掛けてきた。

ムウは回避するために機体を傾けるが一射が翼を掠め火を吹く。

 

「くそっ…!」

 

体勢を整え離脱しながら”アークエンジェル”へ通信回線を開く

 

「こちらフラガ!”アークエンジェル”応答せよ!応答せよ!”アークエンジェル”!」

 

Nジャマーの影響か帰ってくるのは耳をつんざくノイズだけだ。

 

「やっぱダメかッ!…掴まってろお嬢ちゃん!!」

 

「え、えぇ!!?」

 

機体を翻しムウは”アークエンジェル”の破損している右舷フライトデッキへ向け機首を向けた。

一方で艦橋では絶望的な報告ばかりが上がってくる。不自然なまでに司令部との通信は一方通行なもので『臨機応変に対応せよ』と言ったものばかりだ。

 

「友軍機被弾!こちらに接近してくる模様!」

 

「着艦しようとしているの!?ー整備班!どっかのバカが此方に突っ込んでくるわ!退避ッ!」

 

「退いてくれよぉ!皆さんッ!うぉおおおおっ!!」

 

吹き飛んだフライトデッキに突入し逆制動を掛け緊急着艦用のネットに絡め取られた機体は動きを止めた。

動きを止めた”スピアヘッド”のキャノピーを吹き飛ばさん勢いで跳ね上げメットを取りコックピットを飛び出すムウをマードックが唖然とした表情で見ていた。

 

「少佐?!それに嬢ちゃんも!?」

 

二人は脇目も振らず艦橋へ向かうエレベーターへ飛び乗った。

エレベーターの扉が開き艦橋へ殴り込まん勢いで二人の姿が現れるとマリューは驚く。

 

「少佐にアルスター二等兵!?どうしてあなた達いったい何を…!?」

 

「そんなことはどうだって良い!」

 

ムウは駆け寄りフレイは空いているサブパイロットシートへ体を滑り込ませた。

 

「それよりも撤退だ!」

 

「な…!?」

 

「こいつはとんだ作戦だぜ!守備軍はいったいどんな指示をうけてやがんだ!?」

 

「少佐いったい何を…」

 

「良いか良く聞け!…本部の地下に”サイクロプス”が仕掛けられてる…!発動したら半径数十キロは溶鉱炉になるってサイズの代物がな!」

 

マリューの目が大きく見開かれる。

 

「この戦力では防衛は不可能…!パナマからの救援は来ない…やがて守備隊は全滅しゲートを突破され本部は施設の破棄を兼ねて”サイクロプス”を起動させる…!それでザフトの大半の戦力を奪うつもりなんだよ…それがお偉いさんが描いた”シナリオ”だ…!」

 

「そんな…!」

 

マリューはやっと言葉らしい言葉を発した。

 

「俺とお嬢ちゃんでこの目で見てきたんだ!司令部はもうもぬけの殻さ!残って戦ってるのはユーラシアの部隊と向こうの都合で切り捨てられた奴らばかりだ!」

 

「そんな…」

 

力が抜け艦長席に背を預けるマリュー。

 

「そんな…俺たちに此処で死ねってことですか…?」

 

ノイマンの言葉にムウが苦々しく答えた。

 

「撤退を悟られないように奮戦して、な…」

 

「こ、こういうのが作戦なの…?」

 

震える声を上げ泣きそうな表情でミリアリアがマリューとムウを見る。

 

「戦争だから?私たち…軍人だから、そういわれたら…死ななきゃ行けないの?」

 

マリューはその問い掛けに答えられなかった。眼下では今の瞬間にも兵士達の命が戦場で散っている…しかしその死の責任を持つ者達は此処から遠くはなれた安全な場所でその瞬間を待っている。

 

「…ザフト軍を誘い出す、と言うことがこの戦闘の目的ならば…本艦は既にその目的を果たしたものと判断します…!!」

 

誰にも文句は言わせないとマリューは強い口調で宣言する。

 

「なお、”アークエンジェル”艦長であるマリュー・ラミアスの判断であり乗員には一切、この判断に責任はありません!」

 

「そう気張るなって」

 

「本艦はこれより戦闘海域を離脱する!僚艦に打電!『我に続け』!」

 

「脱出もかなり厳しいかも知れないが諦めるな、俺も前に出る。トールも頑張ってるしな?」

 

「少佐…」

 

おどけたような口調で緊張しているマリューへ声を掛けるムウ。

 

「心配しなさんな、忘れた?俺は不可能を可能にする男だって」

 

 

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