魔改造ダガーでC.E世界を駆け抜けたい【完結】   作:萩月輝夜

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ラクス出撃

配属が決まった戦艦の中で自分達以外のクルーがいない艦橋に二人の女性士官が向かい合う。

外では出港に向け整備兵や船外作業員が忙しなく動き回り作業を進めている。

 

「信じられん…あの状態で生きているとは、な…」

 

「まぁ…色々ありまして…」

 

艦長のナタルとモビルスーツ隊の隊長となったエアリスだ。

ナタルは未だに「信じられない…」と言った感じだったのを見て苦笑いを浮かべる。

 

「いや、あの状況を見ていたものとしては少し信じられなくてな…」

 

「なにか不味かったですか?」

 

口ごもるナタルを見て率直な疑問をぶつけると普段は見ないような動転を見せた。

 

「あ、いや!別にお前が死んでいなかったのか?というわけではなくてな…!?」

 

その身振り手振りを見て思わずクスり、と笑ってしまう。堅物な印象を最初こそ与えたが随分と丸くなったのは気のせいでは無かったようで”愛嬌”というものを身に付けたんだなーとエアリスは思った。

 

「大丈夫ですよ、そんなこと思ってません。……心配、してくれていたんですね?」

 

そう問いかけると一瞬つまり目を伏せて顔を赤くして頷いた。

 

「…ああ。心配したさ」

 

「(ナタルさんめっちゃかわいい…)ありがとうございます…死ねませんよ。未だ、ね」

 

フッと微笑んだ後真面目な表情を浮かべるのを見てナタルは息を呑む。その幼い表情からは計り知れないほどの”覚悟”を感じ取ったと同時に”アークエンジェル”で共に戦った”エアリス”なのだ。と。

 

「しかし…あの状況でどうやって生き延びたのだ?それにその見た目は…?」

 

「そうですね…まぁ簡単に説明しますけど……」

 

そうナタルは問いかけるが興味本意で聞くべきでなかった、と後悔した。

戦闘による生死を彷徨い肉体の損傷が激しく見た目が大きく成長するほどの劇薬を投与せざるを得ない状況になってしまったことを聞いてしまったからだ。

 

「すまない…」

 

「気にしないでくださいよ。まぁ…あの時の身体の方が動きやすかったのは確かでしたけどね…」

 

たはは…と笑うエアリス。本当に気にしていなかったのだがナタルは少し表情が暗くなった。

自分よりも年下の少女がそこまでしてこの戦争に身を投じていることに同じ軍属として感じるところがナタルにはあった。

アラスカでの一件で潜水艦に乗っていたときに耳に挟んだ耳を疑うような狂っているとしか言いようがないその”作戦”はあまりにも信じられなかった。

 

「それと後からアズラエル理事より説明があると思いますが…」

 

「アズラエル理事が来ているのか?」

 

エアリスの言葉に少し驚いた。

オーブで初めて遭遇して以来でナタルも彼の立場と自分の階級を考えれば早々会うこともないのだが。

…実際にこの少女はいったい何者なのか、と頭に疑問が浮かぶ。

その年齢で少佐の地位まで上り詰め”ブルーコスモス”の盟主と家族の繋がりがある…そういえば”レインズブーケ”という家名も何処かで…?

 

「これから行う作戦、艦長にも少し()()して貰います。」

 

そう呟くエアリスの表情は少し…いやかなり悪い表情を浮かべていた。

 

◆ ◆ ◆

 

”アークエンジェル”に戻りシャトルの使用許可を得たアスランはマードックが用意した連合のシャトルへ駆け寄ると今一度”ジャスティス”を見上げシャトルの傍らに立つディアッカとニコル向かってこう告げた。

 

「俺が戻らなかったら二人が”ジャスティス”を使ってくれ」

 

見送りに来たとはニコルはともかくディアッカは口にはしないがそのつもりで出てきた二人はそれぞれ反応を見せた。前者は苦笑いを浮かべ後者は顔をしかめた。

 

「ダメですアスラン。必ず…戻ってきてください。それにボクには”ブリッツ”がありますから」

 

「イヤだね。俺は”バスター”が気に入っているんだ。あんなもんはお前が乗れよ」

 

二人は遺言めいたアスランの言葉を一蹴する。ディアッカの物言いはひねくれているがそれでもこちらを案じてくれているのだと感じられて微笑んでしまう。

 

「ちょ、ちょっと待てよ!」

 

そんな中シャトルに乗り込もうとするアスランに待ったを掛けたのはカガリだった。

”クサナギ”からいつ移動したのか分からないが格納庫に飛び込みアスランへぶつかると二人は慣性で奥まで流されていく。

 

「アスラン、お前…どうして…!なんでプラントに戻るんだよ!」

 

「ごめん…」

 

「ごめんじゃないだろ!?それにお前…”アレ(ジャスティス)”をここに置いていったりしたら…」

 

「”ジャスティス”はここにあった方が良い。どうにもならないときはキラが…どうにかしてくれる」

 

「そういうことじゃない!」

 

カガリが叫び返すのは彼女も理解しているからだ。

本国から”フリーダム”の奪還命令を受けているのにも関わらずここに”ジャスティス”を置いて戻ればその責任は重大なものになるということ。

しかし、ウズミの意思を。こちらで成し遂げようとしている事柄にこの二機は必要となるということも分かっておりむざむざ”ザフト”に再度渡してやろうと言う気はなかった。

 

アスランは自分でも無謀だと分かっていたが…。

 

「…でも、俺は行かなくちゃ…」

 

「アスラン!」

 

「このままには…できないんだ…!」

 

父を止めなくてはならない…血を分けた不肖の息子だとしても…あの優しい母親の子供なのだ。

最後の肉親を間違った方向に進もうとする父を止めなくてはならない…言葉でも止められなければ…或いは。

 

「カガリ…わかるだろ?」

 

脇から飛んで来たカガリの肩をキラが触れる。

カガリはキラの顔を見て再びアスランの表情を見て再び泣きそうになる。

もう既にカガリの言葉ではアスランの考えを変えることはできないのだと理解した。

もう一度父と腹を割って話そうとするアスランの気持ちを彼女が理解できない筈がないのだ。

 

アスランがカガリと分かれシャトルに乗り込みキラも”フリーダム”に乗り込んだ。

 

「シャトル護衛のために”フリーダム”発進します」

 

<分かったわ。気を付けて…>

 

カタパルトが起動し”フリーダム”とアスランの乗ったシャトルがL5へ向け発進するのを”アークエンジェル”の艦橋にてマリューとカガリが見送った。

 

◆ ◆ ◆

 

<ラクス・クラインは利用されているだけなのです!平和を望むその心を…>

 

TV画面で訴え掛けているのはパトリック・ザラの腹心であるエザリア・ジュールであった。その映像を見ながら男と女は官舎の一室でその放送を見ながら呟く。

 

「なるほどな…この手で来たか」

 

「議長閣下も手段は選んでいられない、ってことネ?」

 

<そのことを私たちは知っています。だから私たちは彼女を救いたい。彼女までも騙し利用するナチュラルどもの手から…>

 

そうすると備えられた受話器が鳴るのを確認し男は電話を取った。

 

<その為に手がかりを!どうか彼女を愛する人々よ!>

 

パトリック達は人々の善意に訴えて”誘きだそう”としているのだ。ラクスはナチュラルに利用されている、だからこそ皆であの優しいラクスを救おう!と。

 

受話器からはすっかりと聞きなれた声が聞こえる。パトリック・ザラである。

 

<”フリーダム”の居場所が分かった。”オーブ”だ!>

 

「”オーブ”でありますか?なんでまたそんなところに…どんな経路で渡ったんでしょう?」

 

<分からんよ…アスランがなにか情報を得たのかも知れんが…あのバカめ。連絡一つも寄越さん>

 

苛立ちを含むその言葉は今にも癇癪を爆発させかねないものだ。男はうんざりしながら女を見ると「付き合って上げて」と肩を竦めるのを見て「仕方がない…」と言って自らも肩を竦め宥めた。

 

「極秘で動いているのでしょう?下手な通信は情報漏洩の元ですからな」

 

<月基地に続々とナチュラルの部隊が上がってきておる…今度こそ叩き潰さなくてはならん…徹底的にな!>

 

「分かっております…存分に働かせて貰いますよ。死んだ筈の我々を拾ってくださった議長閣下の為にもね」

 

宥めるような言葉を掛けると満足したのか通信を切る。男は少しあきれながら受話器を戻すと自らで淹れたコーヒーに口を付ける芳醇な香りが鼻腔を突き抜け彼の疲労を癒していく。

 

「うーん…やっぱりコーヒーはモカに限る…でもまぁ地球で飲んだモノの方が美味いかな?」

 

「貴方の淹れ方じゃないの?」

 

隣に立つ美女が呆れたようにそれでいて愛おしそうに見るのを男は微笑みながら見つめた。

しかし、パトリック・ザラも人の子だと言うことが分かる。

”プラント”と言う国の最高権力者となりへりくだる者や媚びへつらうものに安心感を覚えるのは権力者の悪い癖であるし”アラスカ”と”パナマ”…”ビクトリア”そして”フリーダム”という核動力機の強奪とクライン派閥の行方…と最高評議会議長の精神力をすり減らしていくが”ナチュラル憎し”で動く彼には付け入る隙となる。裏を返せば”コーディネイター”には甘いということだ。

 

「…議長閣下殿には悪いが付け入らせて貰おう」

 

「悪い顔、してるわよ?」

 

「僕は悪人なんでね…さて、そろそろか?」

 

◆ ◆ ◆

 

「キラ…」

 

シャトルに繋げた”フリーダム”の有線通信からアスランの声が聞こえて来る。

 

「そろそろ”ヤキン・ドゥーエ”の防衛網に引っ掛かる。戻ってくれ」

 

既にザフト最終防衛ラインの一つである宇宙要塞”ヤキン・ドゥーエ”の警戒防空網に程近い場所に来ておりアスランはここから入港し首都である”アプリリウス”へ向かい国防委員会本部へ向かう予定だ。

 

<わかった…僕はここの付近で待機するよ>

 

「いや、先に”アークエンジェル”へ戻っていてくれ」

 

アスランはその申し出を断るとキラは溜め息を吐いた。「まるでわかっていない」と言った感じにこう告げた。

 

<アスラン…>

 

「ん…?」

 

「君は()()死ねない…分かるでしょ?」

 

アスランは息を呑む。キラのその言葉は胸を突き刺す。

 

「僕も…君も…()()死ねない…」

 

戻れないかもしれない、ということを既にこの友人は看破しているようで自分よりも成長しているようで少し悔しかった。

共にあの組織に必要とされている。自分やキラはあの意思を託された者の中で。

 

「わかった…覚えておく」

 

<忘れないで。カガリも君が無事に帰ってくるのを待ってるから>

 

「…ああ」

 

有線を外し並走していた”フリーダム”は制動を掛けてみるみる内に離れていく。

アスランは遠くに離れていく機体を後ろに今度は正面に迫る”ヤキン・ドゥーエ”へ通信を掛けた。

 

「此方国防委員会直属、特務隊アスラン・ザラ、認識番号二八五○○二。”ヤキンドゥーエ”応答願う…繰り返す…」

 

そうだ。未だ死ぬわけには行かない。父への問いかけもこの戦争への行く末を確認していない…そして。

 

ー護ってもらえ。お前、危なっかしい…

 

金色の髪の少女の言葉を思い浮かべ、無意識に胸元の赤い護り石を手繰り寄せていた。

すがるように。祈るように。

 

◆ ◆ ◆

 

ダコスタは周囲を警戒するように裏路地へ入る。

ここは”アプリリウス”の市街から少し外れた寂れた市街地の裏手にあるビルであり裏口から入り階段を駆け上がり一室の扉を開くとそこにはラクスと情報収集を行う数名の同志の姿があった。

 

「ご苦労様です。それで…街の様子は?」

 

ラクスが柔らかな口調で問いかける。落ち着きを払っているのは父であるシーゲルが特務隊に見つかり銃殺され駆けたところを地球連合第八艦隊の部隊が救出したという報せを受けたからだ。

最初こそ焦った同志の通信が入りラクスも気落ちするのを見せたが”無事”という報せを受け持ち直していた。

 

「よくありませんね…エザリア・ジュールの演説で街は混乱しています」

 

「そうですか…では?」

 

「ええ。少し予定より早いですが、動かれた方がよろしいかと。シーゲル様は保護され連合の第八艦隊と合流した、と報告がありますので」

 

「わかりました…そろそろ『時』なのでしょう。わたくしたちも動かなくては…」

 

ラクスの決定により拠点は慌ただしくなった。機材を纏め各所へ連絡が飛び交うと端末の一つを扱っていた同志の男性がとあることに気がつきラクスへ声をかけた

 

「ラクス様!これを…」

 

報せを受けラクスとダコスタは端末に示された名前に眉をひそめる。ラクスは「あらあら」と困ったような表情を浮かべてそれぞれがリアクションを取った。

 

「これは…いけませんね」

 

そう呟き隣に立ち画面を覗き込むダコスタを見る。そこに記された名前を見て嫌な予感がしたダコスタだったが案の定であった。

 

「どうにかできませんか?」

 

「えっ…?」

 

ダコスタは顔をひきつらせその後慌ただしく隠れ家を出ていった。

 

◆ ◆ ◆

 

執務室にてパトリックの顔が端末の光に照らされる。

画面にはパラボナアンテナのような巨大構造物が映し出され”最重要極秘”と記される。

 

”ジェネシス”とーー。

 

<………。…………、…………。…!>

 

「ああ。そうだ。お前の部隊はヤキン・ドゥーエ防衛とこの”ジェネシス”の護りだ。」

 

<……………。………。>

 

「頼むぞ…()()()。」

 

<………、………。………!>

 

「…よせ。私とお前の仲だ」

 

そう告げパトリックは画面に映る白服を着用した女性士官は敬礼をして通信を切った。

その直後に”ヤキン・ドゥーエ”の管制室から通信が入る。

 

「なんだ」

 

<ハッ!先程アスラン・ザラが単身地球軍のシャトルで帰還したのですが…>

 

その通信にパトリックは声を荒げる。

 

「なに!?地球軍のシャトルだと!」

 

なぜアスランが地球軍のシャトルで帰還を!?それに”ジャスティス”は一体何処に…!?

 

<事態が事態ですので…此方で拘束でしておりますが…>

 

「今すぐ此方へ寄越せ!……アスランめ!…一体何を考えておる…!?」

 

苛立ちを隠さずに通信を寄越した兵士にそう怒鳴るように告げ通信を切る。

今の彼はアスランを命じた任務を全うできない”兵士”としか認識していなかった。

 

”ヤキン・ドゥーエ”に到着したアスランは直ぐ様拘束された。

それは地球連合のシャトルに搭乗していた為とその搭乗理由を頑なに語ろうとしなかった為でありアスランは左右を兵士に固められながら連行され国防委員会本部に向かい執務室へ入ると薄ぐらい空間にいる父親の視線は鋭くアスランに突き刺さった。

 

「…アスラン」

 

「父上…」

 

「お前達は良い!下がっていろ!」

 

対面するアスランを鋭く睨み付けるパトリックは兵士達に命じて執務室を退室させる。

兵士達はパトリックに敬礼し退室し扉が閉まるのを確認しパトリックは尋ねた。

 

「どういうつもりだ!何があった!?」

 

アスランはゆっくりと父へ近づく。パトリックは相変わらず彼の表情などに気にも留めずに矢継ぎ早に問いかけた。

 

「”フリーダム”と”ジャスティス”は!?どうしたというのだ!?」

 

「父上は…この戦争についてどうお考えなのですか?」

 

「なんだと…?」

 

予想外の問いかけにパトリックはまるでプログラムエラーを吐き出すPCを見るかのように純粋な不審を浮かばせ息子をみる。アスランはその父へ真摯に問いかけた。

 

「俺たちは一体いつまで戦い続ければいいのですか?」

 

その問いかけに我に返り怒りを顔と声色に乗せて怒鳴り付けた。

 

「そんなことよりも任務はどうしたのだ!?報告をしろ!」

 

激昂する父の反応に臆することなくアスランは問いかけ続けた。

 

「俺は…今一度父上に確認したく、戻りました…」

 

「アスラン貴様…!」

 

ついに我慢の限界、と言わんばかりにパトリックは執務室の机を拳で叩きつけると締め切られた執務室に鈍い打撃音が響き渡り立ち上がった。

 

「いい加減にしろ!なにも分からぬ子供が分かった風な口をきくか!」

 

「なにも分かっていないのは父上の方ではないのですか!?」

 

アスランも激しく言い返した。

 

「アラスカ、パナマ、ビクトリア…撃たれては撃ち返し…今や戦火は広がるばかりです!」

 

「一体何処でそんな馬鹿げた考えを吹き込まれた!?あの女、ラクス・クラインにでも誑かされたか!?」

 

父には自分の言葉は届いていないのかと絶望すら首をもたげ始めたが懸命に言葉を尽くす。

 

「そして力と力でぶつかり合って、本当にこの戦争が終わるとお思いなのですか父上!」

 

その問いかけにパトリックは確信を込め力強く叫んだ。

 

「終わるさ!」

 

「ナチュラルどもが全て滅びれば戦争は終わる!」

 

その言葉にアスランの背筋は凍りつき息を呑んだ。父は本当に…!?

パトリックは凍りつき動かなくなるアスランへ詰め寄り襟首を掴み上げ揺さぶった。

 

「言えアスラン!”フリーダム”と”ジャスティス”はどうしたのだ!?返答次第はお前とて許さんぞ!?」

 

「父上!本気で仰有っているんですか!?ナチュラルを全て滅ぼすと!?」

 

「その為の戦争だ!我らはその為に戦っているのだぞ!?その事すら忘れたか!!」

 

「違うっ!」

 

アスランはパトリックの瞳をまっすぐに見据えて叫んだ。

 

「滅ぼすための戦争ではなかった筈です!母上が…”ユニウスセブン”が崩壊したときに…こんなことをもう二度と引き起こさせまいと立ち上がった筈でしょう!?」

 

「アスラン…!?」

 

母、レノアの話題が出てパトリックはその掴み上げる手を緩める。

今度は逆にアスランがパトリックの服を掴みかかり鋭い剣幕で捲し立てる。

この…分からず屋が!!

 

「幼少の頃、家を空けてコペルニクスでご近所のヤマト夫妻…ナチュラルのご家庭に預けてくれた母上のご近所付き合いにも嫌な顔をせずに認知してくれていた筈でしょう!?」

 

「貴様にレノアの何が…!」

 

必死に食らいつく。揺らぐパトリックに必死の攻勢を仕掛けた。

 

「俺の母上でもあります!目を背けているのは父上なのではないのですか!?」

 

「なんだと…!?」

 

「地球にも”コーディネイター”を受け入れる”ナチュラル”はいます!その逆で”ナチュラル”を受け入れる”コーディネイター”がいることも!それら全てを滅ぼしてしまったら俺たちは分かり合えない!その事すら忘れてしまったのですか父上!!俺の母上が…貴方が愛した女性はそんな世界を望む筈がない!!」

 

「ッ!?だ…黙れぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

次の瞬間に激情したパトリックはアスランを突き飛ばす。

激しく床に叩きつけられたアスランは絶望にうちひしがれそうになったが未だ諦めていなかった。

きっと父は今、揺れ動いているのだ。

 

「お隣のヤマト夫妻のように全てのナチュラルが聖人であれば”ユニウスセブン”…”血のバレンタイン”も起こっておらん!奪ったのだ…レノアを!!奴らが全ての悪の根元だ!だからこそ全て滅ぼさなければならん…”ナチュラル”を!!」

 

「ち、父上…!」

 

アスランは床から起き上がり目の前に父がいることに気が付くがその手に握られているものを見て愕然とする。

パトリックの手には黒く冷たい鈍い光を放つ”拳銃”が握られておりその銃口が此方へ向けられている。

 

「この愚か者が!下らぬ事を言ってないで答えろ!”ジャスティス”と”フリーダム”は何処へやった!?答えぬと言うのならお前も反逆者として捕らえるぞ!」

 

アスランは込み上げそうになるナニかを必死にこらえる。

やはりこの人は血の繋がった息子を…”駒”の一つとしか見ていないのだと絶望する。

だからこそ父は自分に躊躇いなく銃口を向けているのだ。

ふと父の足元に散らばったガラス片が視界に入りそこに一枚の写真…そこには幼い頃の自分と存命だった頃の母の写真が落ちている。それは笑い合いながら父が写真に納めたものだ。

どうしてなのだ…!と思っているといつの間にか執務室には待機していた特務隊が自分に自動小銃の銃口を取り囲むように突き付ける。

軋轢は決定的なものであった。止めなくてはならない…狂気に染まった血の繋がりのある唯一の肉親を…!

アスランは鳩尾の辺りに冷え冷えとした決意が固まる。

 

「うぉおおおおおおおおおッ!!!」

 

立ち上がり刺し違える覚悟でパトリックへ向かう。突き付けられた銃口への恐怖よりもここで父を止めなくてはというものに上書きされた。

 

「ッ!?」

 

次の瞬間に執務室に銃声が響き渡ると同時に肩に灼熱の痛みが伝わる。ああ、俺は父に撃たれたのか、と。

 

「殺すなッ!これには未だ聞かねばならんことがあるッ」

 

その言葉にアスランはそうか、と痺れた頭で考えた。

 

「連れていけ!”フリーダム”と”ジャスティス”の所在を吐かせろ!多少手荒でも構わん!」

 

父にとって自分の価値はそれしか残されていないということを突き付けられ兵士に力づくで連行されていく。

執務室を出る前にパトリックは吐き捨てるようにこう告げた。

 

「…見損なったぞ…アスラン」

 

「俺もです…父上…!」

 

兵士二人が隣を固め執務室から出てくると受付や国防委員会のロビーに集っている人々の視線が突き刺さる。

きっと自分は父へ錯乱し襲いかかり連行されたというカバーストーリーを立てられ自分は自白剤や拷問を受けた後に殺されるのだろう…と頭を過る。

 

ー父を…止められなかった。

 

その後悔が自分の思考を覆い被りそうになったその時友人の言葉を思い出した。

 

ー君は…未だ死ねない。分かるだろ?

 

(そうだ…俺は未だ死ねない…!)

 

脳裏に思い浮かぶ言葉と自分を案じてくれた金髪の少女の顔を思い浮かべた。

気が付くとホールの入り口に護送車両が待機している。あれに乗れば戻ってこれない。アスランは意を決した。

 

「乗れ」

 

兵士の視線が一瞬逸れた瞬間に一人蹴飛ばしもう一人をタックルでなぎ倒し逃走した。

 

「おいっ!止まれ!」

 

兵士の一人が逃げ出そうとするアスランを背後から撃とうとして銃を向けようとしたがその後ろの兵士が銃床で殴り飛ばした。

 

「あぁ!なんなんだよもう!!」

 

銃を向けていた兵士を殴り飛ばしたのはラクスの命でアスランを救出するために特務隊に紛れていたダコスタであり逃走するアスランを援護するために走り出した。彼からしてみればプランをぶち壊されて「ナニしてくれてんの?!」となっているが仕方がない、と援護した。

 

「あぁもうめちゃくちゃだ!…こっちだ!」

 

接近する兵士達を手にしている自動小銃で牽制し腰部に付けたポーチから発煙弾を投げつけ視界を遮ってアスランを援護した。ビルの物陰に隠れながら説明する。

 

「一先ず手錠を撃ちます!背中をこっちに向けて!」

 

銃弾がアスランの手錠を撃ち壊し手を自由にさせる。

 

「無茶しますね、あんたも!死ぬ気ですか!?」

 

ダコスタはアスランを叱り付けてホルスターから拳銃を渡す。彼は自分が誰かなのか分かっておらず困惑している。

 

「こっちのメンバーも一人蹴倒しちゃうし…」

 

「すまない…君は?」

 

「所謂”クライン派”ってやつですよ。段取りがめちゃくちゃだ!」

 

「すまない…知らなかったんだ」

 

「そりゃそうですが…全く無茶を振られるこっちのみにもなって欲しいですよ!」

 

「ダコスタ急げ!」

 

車を回したダコスタの仲間が急かすように声をかける。実際に時間はない。逃げ出した、ということは父に伝わっているだろう。

 

「さ、急ぎますよ!」

 

ダコスタに車に押し込まれてアスランはプラントから脱出する事になる。

 

◆ ◆ ◆

 

”アプリリウス”の宇宙船格納庫にて⋯一隻の淡い色の新造戦艦が補給を終えて出港するのを待っていた。

その戦艦の薄暗い艦橋にて艦長席に座り込み、そしてもう一人の女性はその傍に立っていた。

二人は精悍な顔立ちで日焼けした肌を持つ男性で女性の方はペルシア猫を思わせる美女であった。

 

「そろそろ時間よ”アンディ”?」

 

「そうだな”アイシャ”…あーテステス…()()()()()()()()()()()()()()…」

 

男の声が艦内に響き渡る。

唐突に尤もらしい艦内放送が入るが知らされていないクルー達は頭に疑問符を浮かべるが当然だった。

 

「…では、()()()()()()!!」

 

その号令の後()()()()()()()()()()一部のクルー達は行動を開始する。

何も知らないクルー達は知っているもの達から銃を突き付けられ困惑し始めたが艦の外へと追いたてる。

 

「お、おいっ!なんの真似だ…!?」

 

「ちょ、ちょっと…」

 

「大人しく従えば、危害は加えないさ…」

 

「ただ、降りてくれればいいんだよっ」

 

部外者達は外へ追いやられ代わりに入艦してきたのは新たなクルー

 

「お待たせしました。バルトフェルド隊長、アイシャさん」

 

涼やかな声を艦橋に響かせたのはその覚悟を示す様に戦国時代の武将が使用する陣羽織のようなデザインの服を着用し長いピンク色の髪を結い上げたラクスであった。

 

「いえいえ、ご無事で何よりです。では、行きましょうか?」

 

「はい」

 

ラクスは頷いて迷うことなくバルトフェルドより一段高い指揮官席に腰を下ろしアイシャは射撃指揮官席へ腰を下ろしたのを確認しバルトフェルドは命令を下すとエンジンが始動する。

それを異変として確認した管制室が動き出そうとする戦艦へ通信を繋げた。

 

<おい、何をしている!?貴艦への発進命令は出ていないぞ!>

 

無論バルトフェルドは無言を貫いた。わざわざ此方の行動目的を明かしてやる必要はない。

 

<どうしたバルトフェルド隊長!?応答せよ!>

 

呼び掛けに応じない”エターナル”に異常事態が発生したのだと管制室は声を荒げた。その直後、アイシャがバルトフェルドに振り向いて報告した。

 

「メインゲートの管制システム書き換えられたわ。優秀ね?」

 

茶化すような報告にバルトフェルドは舌打ちしながらも笑いながら返答した。

 

「チッ、そのままにしてくれれば良いものを…少々荒っぽい出港になりますが宜しいですかな?」

 

「仕方がありません…わたくしどもは行かねばなりませんから」

 

その言葉を受けバルトフェルドは矢継ぎ早に指示を飛ばす。

 

「主砲発射準備!照準メインゲート!発射と同時にスラスター一斉噴射!」

 

「”エターナル”発進してください!」

 

「てぇーッ!」

 

主砲が火を吹きゲート溶解させる”エターナル”は管制官の声を無視して突っ込み視界の先には星の海が広がりバルトフェルドは荒々しく笑い飛ばす。

”エターナル”の処女航海はインパクトのあるものになった。

 

「よぉし!ダコスタは!?」

 

「未だです!」

 

「チィ!グズグズしていると置いていくぞダコスタ!」

 

◆ ◆ ◆

 

「あれは…!?」

 

「うぉおおおおっ!隊長!」

 

車からシャトルに乗り換え宇宙へ出る通路を通り抜けると見慣れた宇宙へ出るとアスランの視界には淡いピンク色の戦艦…”ナスカ”級とは異なるように見える。

 

「新造艦…!?」

 

「隊長ーっ!」

 

<遅いぞダコスタ!>

 

新造戦艦の後部ハッチへ回り込むとゲートが開き収容される。

 

<シャトル収容後最大戦速!空域を離脱するぞ!>

 

シャトルを収容後アスランは体に急速な荷重が掛かることを確認しこの艦がかなりの高速艦だと分かる。

一先ず銃弾による怪我を治療する為に医務室に向かい応急処置を受けダコスタに付き添われ艦橋へ向かうと驚く人物がそこにいた。

 

「アスラン。大丈夫ですか?」

 

「ラクス!?」

 

「いよう?初めまして”歌姫の艦”へ。アンドリュー・バルトフェルドだ」

 

「はぁい坊や。傷は良いの?」

 

艦橋にはラクスと奇跡の生還を遂げた『砂漠の虎』とそのパートナーであろう女性がそこにいた。

問い掛けるようにラクスを見ると柔らかな笑みを浮かべ頷く。

まさか彼女の同志としてバルトフェルドがいるとは…自分を逃がすために動いた人員や艦のメンバーなど全員がラクスによって動いていることに目の前で微笑む彼女に底知れないなにかを感じとり唖然とするが同時に希望を見せられた。実際に自分と同じように世界と戦おうとしている者達がいるのだ、と。

 

アスラン達を乗せた”エターナル”は暫くすると艦内にアラートが鳴り響いた。

 

「前方にモビルスーツ群!数五十!」

 

「ちっ、”ヤキン”の防衛部隊か。まぁ出てくるとは思ったが…主砲発射準備!CIWS起動!」

 

モビルスーツとの戦闘を行う事にアスランは問い掛けた。

 

「この艦にモビルスーツは!」

 

「生憎全部出払っていてね。この艦は”フリーダム”と”ジャスティス”の専用艦なんだ」

 

「えっ…!?」

 

驚くアスランを尻目にラクスがバルトフェルドへ命令した。

 

「全チャンネルで通信を」

 

「了解!」

 

「わたくしはラクス・クラインです。願う未来の違いからザラ議長閣下と敵対することとなりました…ですがわたくしたちはあなた方との戦闘を望みません」

 

<この声…ラクス様!?>

 

<隊長これは…!>

 

<ええい。惑わされるな!自分達が命じられたのはあれの撃沈だ!>

 

困惑するもの、狼狽えるもの、そして命令を実行しようとするもの…様々な意識が飛び交う戦場でラクスは凛とした佇まいで呼び掛ける。

 

「どうか艦を行かせてください…そしてどうか、貴殿方が本当に戦わなくてはならぬ相手をもう一度、考えてください…」

 

ラクスの真摯な願いは裏切られる事になる。言葉だけでは彼らを止めることはできない。

無情にも”エターナル”を撃墜せんと”ジン”達が進行しモニターにはミサイル発射を知らせる光点が点灯した。

 

「ま、そういわれても難しいよな…迎撃開始!」

 

「コックピットは避けてくださいね?」

 

「それも難しいことで…主砲、てぇーッ!!」

 

「アイアイ、キャプテン♪」

 

アイシャが武装を操作し正面から接近する”ジン”達を蹴散らすと左右に散ってそれぞれが装備する武装が嵐のように接近する。

いくらザフトの最新鋭艦とは言え数の暴力、モビルスーツの速度に戦艦が対応できる筈がなく一気に窮地に立たされた”エターナル”は迎撃しきれない拠点攻撃用の大型ミサイルが直撃しようとしていた。

 

「総員衝撃に備えよ!」

 

モニターの光点が”エターナル”へ集中するのを確認し被弾の衝撃に身構えたクルーだったが次の瞬間に対鑑ミサイル

が緑の光条によって貫かれ爆発した。

そして間を置かずに飛来する機体から放たれた複数の光条がミサイルや機体の頭部、武装、手足を貫き行動不能にさせていったのを確認しそんなことが出来るのは一人しかいなかった。

 

<こちら”フリーダム”キラ・ヤマト!>

 

「キラ!」

 

<ラクス…!?>

 

「よう、少年。助かったぞ」

 

「ハァイ坊や。元気だった?」

 

「バルトフェルド…さんに…アイシャさん…!?」

 

艦橋にいるバルトフェルド達をみて驚くキラ。その光景にアスランはなぜ驚いているのか、不思議だった。

 

◆ ◆ ◆

 

”ブリーダム”に護衛されながら”エターナル”はコロニー・メンデルに合流した。

それぞれが話し合い意見交換を行いこの果てなき戦争を終わらせるために集ったのだ。

暫くしてアスランは湾内のスペースで集った艦艇達を見つめている。

 

「いつも傷だらけだな」

 

そこにカガリがやってきてアスランを気遣う言葉を掛けた。

ーこいつ、私と会う度に傷だらけでやってくるな…。

 

チラリ、と自分が上げたネックレスが顔を見せて上げた甲斐があったと。

 

「ああ…石が護ってくれたよ」

 

「そっか…よかったな。…それにしてもスゴいなあの子。戦艦で飛び出して来るだなんて」

 

「え、ああ…」

 

「良いのか?」

 

「えっ?」

 

「お前の婚約者、なんだろ?」

 

「元、ね…」

 

そう告げる視線の先のラクスの表情は自分がみたことがない等身大の少女そのままでお似合いだな、と思ってしまった。

 

「俺は…バカだから…」

 

「今気づいたのなら良いじゃないか」

 

「え?」

 

「お前もそうだがキラもバカだ。うん」

 

「え、いやそれは…」

 

「お前じゃなくてもコーディネイターにもバカはいる。きっとそうだ」

 

「……」

 

慰めているのかバカにしているのか分からなかったが彼女のその気遣いが今のアスランには嬉しかった。

 

「ああ…そうかもしれない」

 

◆ ◆ ◆

 

「ラクス…?」

 

合流し先程まで楽しそうな笑みを浮かべていたラクスであったが次第にその表情は曇り一人の少女の名前を告げたとたんにその目尻に涙が浮かんでいた。

 

「エアリスが…戦場で…死んでしまいました……!」

 

「ラクス…」

 

「あっ…ああッ…!」

 

必死に堪えていたのだろうその感情はキラを前にして決壊してしまった。

今目の前にいる少女は皆を導く御旗の聖女ではなく何処にでもいる親友の死を痛む少女でしかない。

キラはラクスに近づき抱き締めると彼女もまた受け入れるように胸の中で涙を流し嗚咽を溢す。

 

(エアリスさん…こんなにも貴女を慕っている子がいるんです…それを…)

 

キラの脳裏には”オーブ”で響いたあの声が忘れられずにいた。

その事を知らせたかったがそれが確証でなければ今胸の中で泣いている少女をぬか喜びさせてしまう危険性を孕んでいた。そして自分も立ち直れなくなってしまうかもしれない、とキラとラクスはお互いを慰めあうしか出来なかったのだ。

 

生きていれば即ち今度は”エアリス”が自分達の敵として立ち塞がることになることを理解していた。

 

 

運命の悪戯か。それとも奇妙な偶然か…程近く”絶望”はやってくる。

 

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