魔改造ダガーでC.E世界を駆け抜けたい【完結】   作:萩月輝夜

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長すぎたので分割します。
感想&高評価励みになります…ありがとうございます。
誤字脱字報告毎回申し訳ない…ありがとうございます。

そして直近で日間八位になってて驚いた…そしてお気に入り登録の爆増と支援イラストを頂けるとは…感謝しかないです!

それでは最新話どうぞ!


魂の場所

”メンデル”湾口ブロックにて被弾した”アークエンジェル”を”ドミニオン”含めたクルー総出で修復する。

被弾した<ゴットフリート>と右舷ブロックに取り付く手慣れた手付きで修復作業を行う熟練のナチュラルと工学に詳しいコーディネイターが効率的な提案を行い急ピッチで作業を行っていた。

 

<しかし…此方でも確認したが”ナスカ級”が三隻とは豪勢な…>

 

そう軽口を叩くバルトフェルドであったが表情は固い。マリューも溜め息を吐いたのは戻ってこないムウとキラ達の事が気になる。ナタルも偵察に行ったっきり戻ってこないエアリスの帰投が遅いことにやきもきしていたがアズラエルはシートに座り時計を見ていた。

 

<例の連合軍艦は?>

 

キサカも同じところに至ったらしくオペレーターへ問い質す。

 

<依然動きはありません!>

 

”クサナギ”が交戦した”セラフィム”は一旦撤退したもののL4の外縁に停泊しているのは此方の追求を諦めたわけではなくザフト軍の出方を窺っているか此方との戦闘で失ったモビルスーツを補充するために援軍を待っているのかのどちらかだろうと判断していた。

 

<フラガ達が情報を持ち帰ってくれるか…くそっ、どこの部隊だ?>

 

「…クルーゼ隊です」

 

そのマリューの発言に全員が不審な顔を浮かべる。

 

「だからムウは戦線を離れてコロニー内部へ向かったんだわ……彼にはわかるのよ。なぜだか、と彼にもわかっていないようだけれど…ラウ・ル・クルーゼの存在が」

 

その話を聞いたムウを知らない者達は眉唾な話に聞こえるだろうが共に戦っていた”アークエンジェル”のクルー達は妙に納得した顔で話を聞いていた。実際にへリオポリスからの戦闘を「クルーゼの隊だ」と言い当て地上に降下しておってきた部隊に「クルーゼじゃない」と言い切っていたがその事をアスランに確認するとそれが正しいことだと分かった。

実際にその勘の良さはレーダー管制官席に座るフレイの命を救った。”JOSH-A”でムウが「やばい…」と行って連れ出されここにいる…実際に”サイクロプス”が発動していれば死んでいただろう…。

そしてマリューは最愛の男の顔を思い浮かべながらなにか不吉なものを感じていた。

 

その最中に艦内にアラートが鳴り響いた。

 

「なに!?」

 

オペレーターが驚いた表情で報告する

 

「熱源接近…これは”ファントム”です!」

 

<バカな…単騎でだと!?>

 

<迎撃急げ!戦闘準備!>

 

蜂の巣をつついたような大慌てになり迎撃で真っ先に反応した"M1アストレイ”であったが”ファントム”はそれを無視してシャフトへ続く扉へ向かっていった。停泊してる艦船等眼中に無い、と言わんばかりに。

 

<い、一体なんだったんだ…?!>

 

呆気に取られる艦長達であったがマリューは我に返り指示を出した。

 

「追撃の部隊を!それにミリアリアさん。電波障害で伝わらないと思うけど五名へ通信を繋いでちょうだい。”敵が侵入した”と」

 

◆ ◆ ◆

 

”バスター”と”ブリッツ”そして”デュエル”と”ゲイツ”が向かい合うように大地に降り立つ。

コックピットのハッチを開きラダーを掴みお互いが揃い顔を見合わせる…その顔を見忘れる事など無くソロモン諸島で行方不明になって以来の再会であった。

二人の顔を見てなんとも言えない表情になるシホを他所に此方へ向かってこようとする二人を牽制するように震える手で持っていた銃を二人へ突きつけるイザーク。

 

「ジュール様…!」

 

「銃を向けずに…等と敵の言葉を信じるほど俺は甘くない!」

 

銃を突きつけられ動きが止まる二人。

ディアッカとニコルはやりきれない思いを表情に浮かべながら深く息を吐いた。

 

「俺とニコルはお前達の敵か…?」

 

そう問いかけられイザークは銃を握る手が揺れる。

違う…!ディアッカは士官学校では何時も隣にいてニコルは衝突するアスランとの中を諌めて時には此方を叱責してくれる”仲間”だった…なのになぜ俺は銃を向けている?!やりきれなくなる想いにイザークは叫びを上げた。

 

「敵になったのは貴様達の方だろうがッ!」

 

「…僕たちはあなたの敵になった覚えはありません」

 

「ふざけるなッ!お前達も裏切り者だッ!」

 

イザークは喚き銃を持ち直しディアッカへ銃口を突きつける。シホも拳銃をニコルへ突きつけるが二人は動じること無く銃口を睨み付けながら続けた。

 

「”プラント”を裏切ったつもりはない」

 

「なんだとぉッ!?」

 

不意にイザークにもシホにも穏やかな表情しか浮かべなかったニコルが鋭い目付きになり言い放つ。

 

「…僕たちはもう黙って軍の命令に従ってただナチュラルを殲滅させるために戦うつもりはないです!」

 

その強い言葉を受けイザークは思わず銃を下げる。

ニコルはイザークの躊躇いを見てフッと笑みを浮かべる。

 

「僕とディアッカ…<足つき>に収容されて捕虜になって色々と考えました…まぁやることがなかったのですが」

 

そう告げるとディアッカは苦い顔を浮かべていたが口角は上がっていた。

ニコルは連合の”アークエンジェル”へ捕虜として収容されどんな末路を辿るのか…自らが()()という性別ゆえに尊厳を蹂躙されるのか不安だったことを告げると隣にいたシホが苦い顔をしていた。

 

しかし、それは裏切られ一人の女性パイロットと遭遇したことを告げる。

同じ女性、同い年の”女の子”でありながらナチュラルのパイロット…コーディネイターへの理解を示し真っ先にクルーへの人道的な扱いをするように指示をしたのだ、と。

そしてその自分に良くしてくれた少女はアスランによって討たれて居なくなったときに友達であろうナチュラルの少女の涙を見てこう思ったのだ。

 

「…これまで僕はナチュラルは野蛮で卑劣な人間達の集まりだ、()()()()()()()()()と思っていましたが僕たちと同じで大切な人がいなくなったら流した涙は僕たちと同じなんだ、と上手く…言葉に表せないのかもしれませんが…僕もその少女がいなくなって胸に…ポッカリ穴が空いた気がして……要は悲しかったんだと思います」

 

要領を得ない回答であったが、その真意はこの場にいる四人に伝わる。

イザークは絞り出すように喚いた。

 

「それでっ…ナチュラルに絆されて俺たちコーディネイターを殺すことにしたのか!?」

 

「違う」

 

今度はディアッカが代わるように言葉を継ぐ。

 

「俺たちは…そんなことを全部やめさせようと思ってここに来たんだ」

 

イザークは嘗ての仲間が何を言っているのか分からなくなった。

 

「ラクス・クラインにバルトフェルド隊長…”エターナル”に乗ってる連中は全員同じさ。ナチュラルがコーディネイターを、コーディネイターがナチュラルを皆殺しにさせる前に何とかしようって集まったんだ」

 

「なんとか…って貴様達どうするつもりなんだ…?」

 

思わずイザークは問いかけてしまう。

 

「さぁ?…それはまだよくわかんねぇけどさ」

 

「バカか、貴様ぁ!?」

 

再びイザークは叫んだ。

 

「騙されているんだ貴様達はッ!たった三隻の戦艦で何が出来るというんだ!」

 

ディアッカは肩を竦めて笑い反論した。

 

「『何も出来ないって言って何もしなかったらもっと何も出来ない』…ってさ」

 

「…!」

 

「キラが…あの”フリーダム”のパイロットがそう言っていた。あいつが前の”ストライク”のパイロットさ」

 

”ストライク”…その単語は今でもイザークの胸の奥を焦がす。彼は呆然としてアラスカの地で聞いた声を思い出す。

 

ーもうやめるんだ!

 

そのキラという少年はあの時から敵味方の区別はなく全てを助けようと奔走していた。

次の一言にイザークは絶句した。

 

「キラは…コーディネイターだ」

 

「ッ!?」

 

「そして…キラはアスランとガキの頃からの親友、なんだってよ…」

 

「なん、だと…!?」

 

アスランと、友達…?

イザークは背筋に悪寒が這い上がってくるのを感じた。

 

「知らずに…殺しあっていたのか…?」

 

「…いいや。最初から気づいて殺しあっていた。あの俺たちが襲った”へリオポリス”からな」

 

「そんな馬鹿な…!!」

 

イザークは何もかも忘れ叫ぶ。”ストライク”を前にしてアスランの顔に暗い影が落ちるのを思い出す。

そんな…そんな馬鹿げた悲劇があるか!

 

「…でも敵なら討たなきゃならんだろ。()()ならよ」

 

ディアッカの声は苦い。愕然としていたイザークとの視線が絡み合い気がついた。自分達が突きつけられた命題であることを。

 

「イザーク…この戦争は『血反吐を吐きながら続けるマラソン』なんだそうです」

 

「…?」

 

ニコルがディアッカから言葉を引き継ぎイザークへ話しかける。”彼女”の言葉を借りて語り掛けた。

 

「彼女…”ゴーグル付き”…いや”ディスペアー”のパイロットはこう言っていました。『この戦争…“連合”が勝とうが、“ザフト”が勝とうが勝者はいずれ同じ種族で“敵”を作り出す。人類は自らに刻まれた闘争本能を…”運命”を消すことは出来ない。“争い”をしないという選択肢を取れずに“ナチュラル”だろうが“コーディネイター”だろうが其れは変わらない。”血反吐を吐き続けるマラソンを繰り返す”』と…終わらず、最終的に互いを”敵”と見なした者達を滅ぼす為の戦争を僕たちは荷担しています」

 

”ゴーグル付き”…因縁深く何度も煮え湯を呑ませられていた相手が其が告げたことにイザークは衝撃を受ける。あの悪鬼のような存在が?と思ったがニコルの会話から同じ確かに出撃前にザフトの工廠で無邪気に発した言葉を思い出し果たしてその言葉と自分の想いが果たして同じなのか…疑問に思ってしまった。

 

「俺は…奴らほどの覚悟も業もねぇけどさ…見ちまったし聞いちまったから」

 

ディアッカは覚悟を決めた口調でイザークを見る。

 

「あいつら見て、アラスカやパナマ…オーブを見て其からザフトに戻って…上の命令通りに戦うなんて出来ねぇよ!」

 

「僕もです…もう、何も考えずにただの殺戮行為に手を貸すことは出来ません。このまま進めば、お互いにお互いを滅ぼし合う事しか出来なくなります…!」

 

「ディアッカ…ニコル…!」

 

「…」

 

イザークとシホは呆然としていた。

初めは信じられずに彼らが此方を裏切って地球連合に与したと…しかしその真の意図を聞かされ知らなければ良かったとさえ後悔している。

彼らが自らの保守的な裏切りを働いているのであれば躊躇い無く今手にしている銃の引き金を引くことが出来たのに…!しかし以前と違って落ち着きを見せるディアッカと自信なさげだったのが全体を俯瞰する視点を持つようになったニコルの変わり様を見てイザークは自分の立つ大地が揺らいだように感じた。

 

”ストライク”と”ゴーグル付き”を許すわけには行かない。奴らは多くの仲間を討ったのだから…しかし其に与するディアッカとニコルも敵なのか…?

彼の心は時計の振り子のように大きく揺れて銃を握るグローブは汗で濡れていた。

 

◆ ◆ ◆

 

奥のドアは開いていた。

ムウは奥を窺うと中からフラッシュが焚かれる。銃撃であることに気がつき咄嗟に身を屈めやり過ごした後に反撃しドアの外から身を翻した。

キラもムウを追って部屋の中を窺うと視界に部屋の持ち主だろう者の名前がプレートに刻まれていた。

 

『Prof.Ulen Hibiki M.D.,Ph.D.』

 

しかし、すぐに室内に響く銃弾の存在に気がつき室内を見るとムウが打ち掛けながら遮蔽物に飛び込み反撃するが放たれた弾丸が右肩を掠り銃を落とした。

 

「ムウさんッ!」

 

奥にいる筈の敵へ向けながら射撃しムウのいるソファーへ飛び込む。ソファーには呻きながら撃たれた場所を押さえるムウの姿があり肩を押さえた手から血が滴る。

 

「大丈夫ですか!?」

 

「…殺しはしないさ…」

 

嘲笑うように暗闇の奥から男の声が届く。キラは負傷するムウを守るために銃を突きつける。

 

「せっかくここまでお出で願ったんだ…全てを知って貰うまでは、ね…」

 

そう告げて銃弾…ではなく地面をスライドしながら投げ渡された何かを確認するキラは其を見て驚く。

写真立て…そこに写し出されていたものは一人の女性が赤ん坊を二人抱いている姿…其はカガリが持つウズミより手渡されたモノと同じだった。

 

「えっ…?」

 

同時に写真立ての横に分厚いファイルが投げ付けられそこから数枚の写真が散らばると写真の一枚を見て今度はムウが驚く声を上げる。

 

「…親父!?」

 

「え…?」

 

そこには今の雰囲気と顔立ちを感じさせる幼い金髪の少年が同じ雰囲気を持つ少年を肩車して笑みを浮かべる男性の姿が写し出されていた。

 

「君も知りたいだろう…?」

 

暗闇の奥から姿を現した男が銃を突きつけながら近づく。

キラは改めて狙いを定めるが男は意に介せずに近づきねっとりと語った。

 

「ヒトの飽くなき欲望の果て…進化の名の元に狂気の夢を追った愚か者達の話を…」

 

差し込む光が男の…ラウ・ル・クルーゼの仮面を照らしキラリと輝かせた。

 

「君もまた、その()()なのだから…」

 

キラは身体が強張る。この男は何を言っているのだーー?

 

「ここは禁断の聖域…神を気取った愚か者達の夢の跡…キラくん、君は知っているかな?今のご両親が本当の両親ではない、ということを」

 

「なっ…ッ!?」

 

その言葉にキラは身を凍らせムウが反応する。

 

「貴様、何をッ!」

 

反論は銃声に掻き消されキラはハッとして目の前に立つ男に狙いを定め引き金を引く…が其は何かが引き留め引くことを出来ずにいた。

 

「…だろうな。そうであればそのように育つ筈もない…」

 

その声色には羨望と嫉妬の色が乗せられていた。

 

「なんの影もないただの子供に…」

 

ラウが語る”本当の親”ではない…キラの脳裏には穏やかな表情を浮かべる父としっかり者の母の姿が浮かぶ。

カガリから写真とその話を聞かされたときに可能性を考えており、どちらかの親が本当の家族ではない⋯再婚して生まれた子供が自分達なのか…と片方、または両方がそうなのか…でなければ写真に写る女性の存在…自分達の出生の秘密をこの男は知っているというのか?

 

キラはその真実を知りたい…と思ってしまった。その後に自分が背負う”業”を知らずに…。

 

「てっきり死んだものだと思っていたよ…()()()()、特にきみはね…」

 

キラの思考を揶揄するようにクルーゼは言葉を口にする。

 

「その生みの親であるヒビキ博士と共に当時”ブルーコスモス”の最大の標的だったのだから…」

 

「な、にを…」

 

声が掠れる。しかしラウは其を楽しむように言葉を続けた。

 

「だが、君は生き延び、成長し、戦火に身を投じながらも存在し続けている…何故かね?…其では()()()()()存在でも信じたくなってしまうではないか。彼らの見た狂気の夢を…!」

 

「僕が…僕がなんだって言うんですか!?あなたは何を言っているんだ!?」

 

キラは激しく問いかける。

標的?生みの親…?

まるで自分がこの世に存在してはならないのだと突きつけられているようで酷く怯える。

その光景をラウは笑みを浮かべながら答えた。

 

「君は…人類の夢…最高のコーディネイター…そんな願いの中で生まれたヒビキ博士の人工子宮によって産み出された彼の息子…失敗に終わったきょうだいたち…数多の犠牲の果てに産み出された唯一の成功作…其が君だ」

 

ラウは残虐な笑みを浮かべる。

キラの脳裏にこの研究所に入ってから目に入った使用用途分からない機械達の意味を知る。

人工子宮…あれが自らを産み出したもので棚に並んだ標本死んだ胎児達が”きょうだい”…!?

あのうちの一つが何かの掛け違いで自分だったかもしれないと考えると吐き気が込み上げる

 

「ーキラ!」

 

気がついたときには床に突き飛ばされていた…ムウによって突き飛ばされたらしく応戦するために拾った拳銃を撃ちかけるが、すんでのところでラウは消え研究所内部に銃弾が響く。

呆然とするキラを引きずるように物陰に押し込んだ後に数発ラウに向けて撃った後に無反応を示すキラの腕を掴み奥にあった階段へ降りていく。

 

「しっかりしろバカ!ヤツの与太話を信じてどうする!」

 

デスクの影に隠れ拳銃のカートリッジを交換するがその表情は優れていない。

救急キットを使ったと言っても応急処置程度であり傷口が開き掛けているからだ。

しかし、そんな状態のムウの様子も視界に入らずにただ呆然としていた。

 

なにかが違う、なにかがずれている、なにかが外れている…。

決定的に他のヒトとはナニかがずれていることに妙に納得している自分がいた。

 

何故、へリオポリスで”ストライク”を動かしアスランとの死闘で自分は生きていたのか…。

キラはここに来て水槽に浮かぶ胎児の標本…”きょうだい”達の姿を見てナニかが繋がった気がした。

 

…しかし。

 

 

ーキラくん。

 

 

混乱し頭のなかを掻き回され混沌とする脳内に響くクリアーな少女の声が静寂をもたらすと同時に銃声が鳴り響いた。

 

◆ ◆ ◆

 

「カビ臭いな…」

 

”ファントム”から脱出した”エアリス”を追って研究所へ足を踏み入れる。

空調が死んでいるのか空気が若干カビ臭いが呼吸できない訳ではなくメットを背面のアタッチメントに備え付け外すと二重螺旋のモニュメントが置かれたロビーを見てここが”メンデル”なのだと不本意ながら少し感激していた…と同時にここが諸悪の根元であることを自覚しに苦い顔を浮かべる。

気配を感じられないのは殺気を出していないのか上手く隠れている為か…分からないが用心して進むと一つの部屋…そのドアプレートが目に入りその名前に思わず二度見してしまう。

 

『Prof Cecilia・Avalon・Pendragon M.D.,Ph.D』

 

「セシリア…?これってお母様の名前…メンデルの研究員だったの…?」

 

セシリア・A(アヴァロン)・ペンドラゴン…記憶にある母親の旧姓がそこにあったからだ。しかし、其は自分のミドルネームとは異なっていた。

 

A(アヴァロン)?…A(アハト)じゃなくて…?」

 

疑問を浮かべつつ周囲を警戒を解かずに導かれるようにその開いた扉から無人の室内へ入り込む。

室内は大荒れの研究室…戸棚からはファイルが飛び出し地面に散らばりガラスケースは割れて散らばっているのはここを襲撃した”ブルーコスモス”が荒らしていったからか…それと地面には黒いシミのようなものが点在している。

 

「これは…」

 

ジャリ、と割れたガラス片が踏み鳴らされる。

ふと、この部屋の持ち主の研究資料なのだろう納められていたファイルが散らばっているのが視界に入りその内容に目を細める。ここでも遺伝子研究…究極のコーディネイターを生み出すための手助けをしていたようで専門用語の羅列…そして目を引いたのは細胞寿命…つまりテロメアの件についての記載があった。

 

「……」

 

肉親が悪魔の研究…ラウ・ル・クルーゼの誕生に手を貸していることに目眩すら覚えたが書類を読み進めるとページを手を止めてしまった。

 

『人間の意識データアーカイブ化、人格移植…魂の保管。その移行における素体の脳容引継限界値について』

 

その表題を見て思わず目を留めてしまう。記憶のデータ化?素体?一体…これは…嫌な予感がするがそのページをめくる指を止めることが出来ない。

 

【研究レポート:セシリア・A(アヴァロン)・ペンドラゴン】

 

『…クローンの肉体が寿命を向かえるのが早熟するのは元となる細胞が劣化している、歳を取りすぎていることが起因であり十歳未満の健康な対象の体細胞にてクローニングを行えば問題は解決する。しかしクローニングを行う対象者は自らの知識、能力を引き継がせる為に行う為にこれは現実的ではない…どちらかと言えば引き継がれたギフテッドを最大限に活用させるために子供の両親が希望するものだろう。より良いものを引き継がせたい、残したいと…しかし其は別部署での”遺伝子検査”天職や得意なモノが分かるようになる仕組みを作っているらしいけれど…其はさておきその早熟な記憶引き継ぎの問題点を解決出来る方法として”知識のデータアーカイブ化”である』

 

「なんだ…これ…」

 

段々と倫理的なものから外れそうになる其に絶句する。

 

『子供の引き継がせたい能力、記憶をデータ化して…通称”本棚”に記録し素体となる成長一年に満たない自己というものが定まっていないクローンへ”本棚”を取りだし、書き換えを行う。その時点でそのクローンは”本人”となる事が出来るがまだ油断は出来ない。その発現させたい能力が発揮できるかテストを行い実行できれば成功だろう。時間は掛かるがこれが確実な方法だ。脳へ直接データを送信する機材はこちらを用いて実際にクローンでテストし結果を…』

 

「…!?」

 

ページを見て臓腑から込み上げる吐き気を必死に堪える。母だった人物は一体ここでどんな研究をしようとしていた…?!

そこに掛かれていたのは明らかな非人道的な実験内容…ここでは言葉に現せない凄惨なモノだった。

この悪辣な研究を成功させるためにどれ程の命を消耗されて為されたのか…想像もしたくない。

これ以上…見たくないものだった。

 

「……?」

 

レポートを読み進めているとページが切り替わる。先ほどまでが研究成果を納めたレポートらしい。

ここからはメモ帳…いや。

 

「日記…?」

 

日記…なのだろうそのページを恐る恐る開いて見せる。

しかし、ある意味で其は裏切られた。

 

『私は自らが研究した結果に恐怖した。』

 

一文は懺悔から始まった。

 

『おぞましいほどの命を消耗して得られた研究データは自らのちっぽけな自尊心を満たしてくれるだけであったのだ』

 

其は…自らが研究したテーマへの後悔だ。

 

『理解した…ヴィア博士が告げた”命は生まれるものであり、創り出すものではない”と…彼女が妊娠しそれこそお腹を痛めその手に赤ん坊を抱く姿を見て私は神を気取った只の愚か者だったのだと…人の腹より生まれる命…其はどれよりも強く美しく…また、生命として酷く歪なものだった。自然ゆえに…美しいのだ』

 

「…」

 

『…私は地球へ一度戻った。

今地球では”ブルーコスモス”…コーディネイターへの排斥運動が大きくなっているらしい…あまり長居は出来ないだろう…と思っていたが地球で出会った男性と恋に落ち結婚し妊娠した…その男性はナチュラルでありながら志高く勇気ある男性でその才能も素晴らしい人物で自らの知識欲と好奇心で満たされた私には勿体の無い人だったが猛烈なアプローチを受け承諾してしまった…初めてだ。研究一筋だった私が根負けしてしまうなんて…』

 

「惚気…?」

 

思わず文章に突っ込んでしまう。コーヒーが欲しくなる程に甘ったるい。

続けてページを捲るとそこには後の事が語られる…事実を突きつけられ目を驚愕に見開いた。

 

『暫くして彼との間に出来た()()()()()()…両方ともに女の子だ。目に入れても痛くないだろう。名前はエアリスとエミリアと名付ける事にした。どちらも彼に似て可愛らしい…本当に天使のように愛らしい姿に今ならヴィア博士のあの笑みを浮かべる理由が理解できる。彼との宝…彼も喜んでおりきっと健やかに引き継がれた才能を開花させて世界にその存在を知らせてくれるだろう。暫くしたら子供を連れて研究所へ戻るつもりだ。長女と次女は才能著しく既に読み書きを行い数式に興味を示している…これは確実に彼の才能が引き継がれているだろう。彼女達の将来は優秀な科学者か…果ては大統領かもしれない』

 

『この子の才能は神様からの贈り物かもしれないわね?』

 

『果ては学者か…大統領かな?』

 

その言葉は自分達……あの朧気な夢は自分とエミリアの事だったらしい。

 

母は…双子の誕生を喜んでくれていたらしい。其は父も同じようであるのが文面でも読み取れる。

しかし、その次のページの日記は不穏なものに変わった。

 

『メンデルでの生活で私と双子の姉妹が事故に巻き込まれた。コロニー内での交通事故で人の命がこんなにもあっさりと…私は…受け入れられそうにない』

 

「妹…エミリア…?」

 

ーお前と私は元々一人だったのだ。

 

ー姉、と言うべき存在かな?エアリス・A・レインズブーケ!

 

戦闘で告げられた”エアリス”の言葉が反響する。その先の事を…「バカな」と笑い飛ばせれば良かった。

 

『エミリアが死んだ。

 

エミリアが死んだエミリアが死んだエミリアがしんだエミリアが死んだエミリアが死んだエミリアが死んだエミリアが死んだエミリアが死んだエミリアが死んだエミリアが死んだエミリアがしんだエミリアが死んだエミリアが死んだエミリアが死んだエミリアが死んだエミリアが死んだエミリアが死んだエミリアが死んだエミリアがしんだエミリアが死んだエミリアが死んだエミリアが死んだエミリアが死んだ…』

 

「………」

 

狂気が詰まっていた。文字の羅列。最愛の娘が死んだことで壊れたのだ。

暴走はそれだけに止まらない…母は”禁忌”に手を出してしまった。

 

『エアリスは無事だったがエミリアは……私は諦めない。私は亡くなった末の娘…その人格データと能力を引き継がせるため…いや、エミリアを蘇生させるために実行に移す。肉体の器は遺伝子レベルで同じ長女…エアリスの細胞を用いてクローンを創る事にした。クローニング技術はユーレン博士の技術を使わせて貰う事に身体活性は…ア…博…の…』

 

「クローン…記憶…まさか…そんな…」

 

日記を持つ手が震える…母は禁忌の領域へ足を踏み入れてしまった。

 

『エミリアは目を醒まさない。ナニが原因で目を醒まさないのか分からない…もう既に数十回と繰り返しているのに成功の兆しが見えない…こんなことは今まで無かったと言うのに…ナニが…ナニが原因なのか調査する必要がある』

 

日記の最後のページとなった。狂気の果ての結果が示される。

 

『全てが遅かった。

最後にこれを記しておこうと思う。既にこの研究所が”ブルーコスモス”によって襲撃されて銃撃と悲鳴、爆発音が響いている…それも段々近くに。もう助からない、そう判断するのが的確で私の研究は娘一人助けられないで終わる、と言うことだ。最後に連れてきたエアリスとエミリアの記憶データ…はこの襲撃前に彼に預けた…私の最後の仕事はこのデータが悪用されないように研究資料を完全に破棄することだ』

 

「……」

 

『最後に…この日記を見ているものが娘でないことを祈る。ろくでなしの母親でごめんなさい…エアリス、そしてエミリア…もし再会できるのならその人生に幸あらんことを…』

 

ここで日記は終わっている。恐らくこの直後に踏み込まれ”ブルーコスモス”の構成員に射殺されたか運良く逃げ出したのか…その後の末路は分からない。

 

その直後だった。

 

「どうだ?私たちの母親はロクデナシだろう?」

 

「(気配を感じ取れなかった…!?)ぐっ…!?」

 

弾かれるように振り返るが手にしていた拳銃が弾き飛ばされる…撃たれたのだろう手が痺れたが怪我をしていないのは射撃が正確であり()()()()()()()()()()()()()。その気になれば眉間を撃ち抜いて殺せた筈だ。

殺さなかったのは彼女が自分に用がある…その為生かしたのだと理解し振り返った先には自分と同じ見た目の少女”エアリス”…いや母の日記で記された名前を呼ぶ。

 

「エアリス…いや、エミリア…なの?」

 

感情の薄い表情に貼り付けたような笑みを浮かべる。不気味だった。

 

「エアリス…いや姉さん。改めて名乗ろう…エアリス、いや私は…エミリア・A(アヴァロン)・レインズブーケ…だ」

 

エミリア、と名乗る少女は此方へ軽機関銃の銃口を向けている。

其は(エアリス)(エミリア)双子の姉妹は…望まぬ形で再会することになった。

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