明日は陽の照らす処へ   作:エビフライ定食980円

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第2話 ボーリアルコニファー

 『ボーリアル(冷帯の)コニファー(針葉樹)』。

 寒冷地に住む生き物だからか基本デカい種族だが、名前から分かる通り素体となるものは――樹木である。

 

 ボーリアルコニファーとその(つがい)が、一緒に植えた針葉樹の特別な苗木を50年間慈しみ育て続けることで、生命が宿るようになるのがこの種の大きな特徴……なのだけども。

 あまりにも不可解な繁殖方法だとは自分の種族ながら思うが、そうは言っても私や陽乃(ひの)もガッツリ木だった期間があるので、実体験として経験してしまっている以上は『そういうものかなあ……』としか言えなくなっている。

 ちなみに、ボーリアルコニファー自身は女性しか産まれず、番もほぼほぼ女性である。

 

 

 そんな感じで、元は木なので――

 

「明日葉ー? さっきの山賊団のことはコロニーには連絡しとく?」

 

「……衛兵に捕まえてもらうに越したことは無いわね。

 というか、何なら下手にばらけて逃げたら、捕縛というか捜索願になりそうだけれども――」

 

「りょー。ちょっと伝えとくねー」

 

 陽乃は、道からちょっと外れて無数にある針葉樹に手を当てながら目を閉じる。……お察しの通りだろうが私達ボーリアルコニファーは木と意思疎通ができるのだ。

 ちなみにコロニー周辺の木たちは『ホワイトスプルース』って名乗っている。前の世界にあった木かどうかは不明だ。言語体系……と言うと可笑しいけれども、木との意思疎通に使う念話語? はどうやら木の種別によって微妙に差があるらしく、私達も全部が全部の木と遣り取りができるわけではない。

 反面、地元の木とは話が通じやすいところからも、やはり言語っぽい何かがあると私は目論んでいる。

 

「おまたせー、明日葉。門番ちゃんに伝えておくっぽい感じだから多分大丈夫!」

 

「曖昧ね……」

 

 余談だが、門番はうちのコロニーでは将軍候補生がなるスーパーエリートコースなので、木々の騒めきでさわさわーって感じの伝達でも、ちゃんと受け取ってくれるはず。

 

 

 なお。

 隣町に到着する直前になって、コロニー側からであろう返信の伝言ゲームが木々の騒めきで陽乃宛てで届き、そのメッセージには了承の旨が返って――

 

「お。明日葉宛てにも、門番ちゃんから伝言が」

 

「んー?」

 

「なんでも『(つがい)を探す旅に、番同伴で行くとかめっちゃえっちだよね』……だって」

 

「……は?」

 

 人の一生に一度の旅路を『えっち』呼ばわりされるのは癪なので、門番の子がまだ木だった頃にやらかした『炭酸飲料根腐れ事件』の話を蒸し返すことにした。

 繁殖が番同士での植林なので血の繋がりが無いため、同じコロニーならなんとなく親戚くらいの距離感――というのが私たちの種族の特性らしい。

 

 

 

 *

 

「着いたーっ! とりま、宿で良いっしょ明日葉?」

 

「そうね……。もう夕方よ……」

 

 歩き始めてからおおよそ5時間程度。ついに隣町に到着した。1日で行ける距離とはいえ朝から夕方までかかるのは私たちがのんびり歩きすぎたせいではなく、単に私らのコロニーが針葉樹林の奥深くにあるからである。まあ植物由来の生き物だからね、私たち(ボーリアルコニファー)

 

 一応、この町にある陽乃の商会で鉄道に関する情報を入手するのが目的だが、こんな時間から訪ねても店じまいを始めている頃合いだろう。電気文明以前の夕方とは、前世現代の夜7時とか8時くらいの感覚にはなる。その分、朝が早いのだけれども。

 

 

 この辺りは陽乃のテリトリー内……というより、私でも稀に来ることがあるエリアなので、まだまだ旅行というよりも陽乃曰くの『出張』の領域だ。

 なので、普段使いの宿へ行く。陽乃の馴染みの店らしく、入った瞬間になんか耳が長い宿屋の女主人――多分、ハーフエルフだと思う――に話しかけられる。

 

「あっ、ヒノさんじゃないですかー、2ヶ月ぶりですねー」

 

「まーねー。

 あ、1泊できる? 2人なんだけど――」

 

 陽乃がそう言うとハーフエルフの女主人は、私の方を一瞥して軽く会釈をする。私もそれに目で答えると、彼女はこう告げた。

 

「……おふたりの場合ですと、2部屋の方が良いでしょうか? ちょうど……『お部屋』の方は空いておりますし……」

 

 あー……身長180cmのペアだもんね。そりゃ、相部屋だとは思わないか。ちなみに『お部屋』とちょっと迂遠な言い回しをしたこの女将さんの意図は、高身長種族向けのベッドや家具が大きめの特別客室のことだろう。高身長種族が来る町ではあるあるな話だ。

 そんなことを考えてたら、陽乃は私の腕を急に組んできた。

 

「えっと……ううん、1部屋で大丈夫! ……ほら、今アレの期間だから――」

 

「あら……大変失礼いたしましたわ……というか、おめでとうございます?

 それなら1部屋ですわね――」

 

 陽乃の迂遠な言い回しでも、『番同士の旅』の期間であることが伝わることからも、ボーリアルコニファーの文化に理解があるエリアであることが分かる。まだ隣町だからこんな感じだが、遠くに行くにつれてそういう配慮は無くなるんだろうなー、と目の前のハーフエルフの主人の知り合いの恋人を前にしたときの生暖かい視線を無視しながら『お部屋(・・・)』へと向かった。

 

 

「――確かにベッドはしっかりサイズ感あるわね。……それでも、2人で寝るにはちょっと狭くない?」

 

「あー……ちょっと縦の長さだけ足した感じの人族用のダブルベッドみたいだし」

 

「へえ。前世までなら2人で寝ても余裕がありそうだったのに……」

 

「別に詰めれば、今でも2人で寝れないことも無いっしょ?」

 

「……。ま、いいけれど」

 

 よくよく考えてみれば前世の頃から普通に家族旅行のときは一緒に寝ていた。

 なので、別段真新しくも無いな、と思いつつこれから出歩くのも面倒だったので、宿屋の食堂で夕飯は済ませて、風呂とか入ってそのまま寝た。

 

 

「あ。そう言えば、中世ヨーロッパ的なのに風呂やシャワーもあるのって陽乃は気にならなかった?」

 

「明日葉……今更すぎない?

 ま、ウチらみたいな『記憶持ち』が、普通に溶け込んでる時点で今更っしょ?」

 

「……お。冴えているわね、陽乃。

 となると、『記憶持ち』で生まれることも別段珍しくはないのかしら――」

 

「いや、そりゃそうでしょ。……ってか、そろそろマジで寝るよ?」

 

「あー、はいはい……」

 

 言われてみれば、そりゃ番同士とはいえ植林で繁殖できるのだから、文字通りの『神からの授かり物』感はすごいかもしれない。それなら異世界からの魂が紛れることも稀にあったりするのだろう。ならば、そういう子育てノウハウが発達しているのかもね。

 期せずして、これまで割と普通に生きてこれたことの一端を知ることができた。

 

 だが……今はそれよりも明日に備えて寝るべきかな。そんな詮無きことを考えている間にベッドに先に陽乃が入ったせいで、私は陽乃に圧迫されるように眠ることになってしまった。

 ……ま、陽乃に押しつぶされたように寝る方がいつもより遥かに快眠だったのは、多分こいつが『番』だからなんだろうなあ、とは思う。

 

 

 

 *

 

「陽乃ー、私の上に乗って寝るとかあり得ないでしょ、ねえってば」

 

「ごめんごめんって、明日葉ー。ウチだってわざとでやってたんじゃないから、許してよー」

 

 翌朝。安眠できたとはいえ、少なくとも布団より重いことには違いないので、朝から陽乃には不満を表明することにした。

 ……そうすると、陽乃のスキンシップが普段の2割増しで増えるのは250年以上前――つまりは前世からとっくに証明済みである。

 

 私はそんな感じで頭を執拗に撫でようとしてくる陽乃の手を、照れ隠し半分で振り払いながら、陽乃のくっつく感じそのままにしていると目的地が見えてくる。

 

 

「あ。ここが陽乃の商会の支店?」

 

「そだねっ! 確かここで鉄道のことは聞いたはずだったと思うけどなー」

 

 そう言いながら店内に顔を出すと、周囲の店員さんから『商会長!?』って感じで驚きの声とともにすぐに奥の部屋……というかバックヤードと思しき場所へと私も一緒に移動する。

 

 朝とはいえ、開店時間からちょっとずらしたことで一番混んでいる時間からはずらせたようで、バックヤードには休憩している人がそこそこ居た。

 

 

 人が集まっていることを確認した陽乃は言葉を紡ぐ――

 

「ねえねえ。前に『鉄道』の話を聞いたと思うんだけど――」

 

 

 

 *

 

「――陽乃、いくら何でもそれは無いんじゃない?」

 

「ま、まあ行き先が、分かったから良いじゃん! 貿易公国のフィオレンゼア! ちょっと遠めだけれども、いいとこだよ!?」

 

 貿易公国とかいう重商主義と商業共和制に喧嘩を売っているような国家の主要都市、それがフィオレンゼアである。

 由来は『商業が花開く都』というところからだったかな。この世界の実家の書庫にあった地誌なり年代記の写本で読んだ記憶がある。

 名前が前世世界イタリアのフィレンツェに似ている気がするが花の女神語源だったはずなので、花繋がりだから似ているのもむべなるかな、という感じである。どうでもいいけど言語体系も似ている辺り、本当に魂混入が普遍的という陽乃仮説が正しそうだ。

 

 ただ、今は。

 それよりも、陽乃の糾弾をする方が先だ。

 

 

「――いくら前に聞いたことがあるって言っても。

 それが60年前で。その話をしてくれた職員がもう死んでいる……って、仮にも前は人だったのだから、もう少し配慮とかしなさいよ……」

 

「いやー、あはは……」

 

 たまたまその職員の孫が支店に居て、孫にもよく話していたことから奇跡的に繋がったけれども。

 一応商会で定命の種とも関わる陽乃がそれを忘れちゃダメでしょう……。

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