花の魔術師もどきと英雄王もどき、神ゲーに挑まんとす 作:ロクデナシな文字書き
ここのマーリンは中の人がいるので人の心はあります。ロクデナシはロクデナシだけど。
次に目が覚めたときには、旧ヨーロッパを思わせるファンタジーめいた港町が視界に広がっていた。そこは幾らか文明が進んでおらず、中々に不便そうだった。しかしながら、幸せに満ちた人々が笑顔の花を咲かせている。
先程まで胸で蠢いていた、何とも言えない感情が吹っ飛んだような気がした。なんだ、もの凄く平和じゃないか。
「おかーさーん! みて、シロがキレイなお花をとってきてくれたの!」
「あらあら、素敵ね。押し花にでもしましょうか」
「わーい!」
弾けるような笑みを浮かべる少女の腕には、小さな桃色の花を咥えたキャスパリーグが抱かれていた。その大きさは今と変わらず、
____なるほど、これはいつかの
「今日も元気ねぇ。ほら、パンはいるかい?」
「やったぁ! ありがとう、おばちゃん!」
「フォウ、フォーウ!」
「なぁに、シロもほしいの?」
暫くの間、その少女と
「あはは! くすぐったいよぉ!」
「フォーウ!」
「こぉら、暴れ過ぎたら駄目よ! 髪の毛がぐちゃぐちゃになっちゃうでしょう?」
「はーい、シロ、暴れちゃメッ! だよ!」
「うふふ、かわいらしいねぇ」
「フォウ!」
目の前で流れる情景は、正に理想の日々だ。
誰もが優しく、暖かく、笑顔でいられる。
それこそ正に、キャスパリーグにとっては最も好む世界そのものだった。
____だが、これが本当にキャスパリーグが見せたいものなのだろうか。
ふと、疑念が頭をよぎる。平和な世界でした、どうだ素敵だったろう? と、いった風にあまりにもあっさりと終わるものを、わざわざ夢で見せてくるものだろうか。あんな声色で、あのようなことを言うものなのだろうか。
(くそ、胸騒ぎがするな)
少女が、人々が、
その嫌な予感は、奇しくも当たってしまった。
「っ……ぁっ!……おかぁさぁぁぁぁん!!」
「逃げて、逃げなさいっ! 振り向かないで! さぁ、はやくっ!」
「あ、ああああ! だれか、だれかぁ!! た、ったすけ」
「……ぁ……ぃた……ぃよぉ……」
「こっちだ、火が来る前に逃げるぞ!」
「いやぁ! まって、待って! まだあそこに子供が!」
「もう無理だ! もう瓦礫が邪魔で助けられない! すまねぇ、諦めてくれ! 急いで、ほら!」
「ひ、ぅぇええええん!」
燃える、叫ぶ、崩れる。視界に広がるのは、赤、赤、赤。錆びた鉄の匂いと潮の匂いが混じった熱い風がびゅうと吹く。悲鳴と炎がごおおと燃え上がる音が歪なハーモニーを刻む。あちらこちらで、建物が炎で崩されては人を襲う。そのたびに一つ、また一つと声が減っていく。
それは正に、地獄だった。
先程まで確かに笑顔ではしゃいでいた少女は、その輝かしい顔を歪ませ涙と嘆きをこぼしている。
その少女の視線の先にいる女性は、瞳を揺らしながらも我が子を守らんと震える身体で立っている。
付近の人々は行倒れ、悲鳴をあげ、ただただ苦しんでいる。
____一体、どうして。
そんな疑問が私の頭に浮かぶ。先ほどまで見ていた美しい光景は、いつの間にこんな地獄へと変わってしまったのか。ああ、なんて残酷な。
確かに蓋をされていた筈の、胸に詰まっていたソレが、再び湧き上がる。思わず眉を潜めていると、ふと
まさか、と思考の海に半身を浸からせると、少女の甲高い悲鳴が耳に入る。ばっ、と顔を上げて見てみると、少女は尻もちをついていた。
「ぅ、うう……うぁ、ああああっ!」
少女が叫ぶ。足は子鹿のように震え、瞳からはとめどなく涙を流している。その表情を恐怖で埋め尽くしながらも。
____それは何故?
大きな影が、少女を覆う。
それに気がついたらしい少女は、辺りを見回して、枯れ果てた声を必死に張り上げる。変わらず顔をくしゃくしゃに歪めながらも。
「だ、だれか! おかぁさ、ん! どこに……っ! ……ひぁっ、たすけ」
ぐちゃり。
生々しい音と共に、真っ赤なポリゴンが辺り一面に咲く。私はごくりと息を呑んだ。
世界が一瞬、静寂に包まれる。
「……ぁ……し……ろぉ……」
その声は、ひどく、か細くて。
それでも、誰かに届くことはなかった。
どさり。
赤で彩られた少女が倒れ込んで、土埃が舞う。その瞳に光はなく、生命の灯火は尽き果てている。
「……っ!」
言葉にならない音が、喉の奥で震える。これが、ゲームだというのか。あれほど生々しくて、感情豊かで。
これがゲームだというのなら、一体ボクはどうすればいい?
微かに痛む胸に、つい瞳を伏せていると、ふと、視界に何かが入り込んだ。
ひらり。
一枚の薄っぺらい、赤に侵食された紙が宙を翻る。よく目を凝らせば、紙の真ん中のあたりに桃色の花が写っている。
がさり。
大きな白い影が、地面を覆い尽くす。顔を上げてみると、そこには血を浴び、悪意を飲み、巨大化した白き獣がいた。
「ごめんなさい____!!」
破壊的で恐ろしく、しかしながらもどこか悲しみを感じる表しようのない
少女は獣に喰い殺された。かつては共に過ごした心優しき獣に。
____では、何故
私はただ呆然と立ち尽くす。赤く染まった地を踏みしめて。
今はもう、生命は息絶えてしまった。
そこにあるのは恐ろしくも孤独な獣だけ。
ボクには、どうして
けれど、一つだけ言える事がある。
頭にずっと残っていた、あのキャスパリーグが、自分から理想を壊すという違和感。
____これは、ただの悲劇じゃないのだろう。
誤字脱字報告ありがたいです!!