花の魔術師もどきと英雄王もどき、神ゲーに挑まんとす   作:ロクデナシな文字書き

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 ここのマーリンは中の人がいるので人の心はあります。ロクデナシはロクデナシだけど。



今は遥か忌まわしき記憶 其のニ

 

 次に目が覚めたときには、旧ヨーロッパを思わせるファンタジーめいた港町が視界に広がっていた。そこは幾らか文明が進んでおらず、中々に不便そうだった。しかしながら、幸せに満ちた人々が笑顔の花を咲かせている。

 

 先程まで胸で蠢いていた、何とも言えない感情が吹っ飛んだような気がした。なんだ、もの凄く平和じゃないか。

 

「おかーさーん! みて、シロがキレイなお花をとってきてくれたの!」

 

「あらあら、素敵ね。押し花にでもしましょうか」

 

「わーい!」

 

 弾けるような笑みを浮かべる少女の腕には、小さな桃色の花を咥えたキャスパリーグが抱かれていた。その大きさは今と変わらず、悪性を秘めている(ビーストの邪悪さがある)ようには見えなかった。少女を見上げ、退屈そうに、けれどどこか嬉しそうに尻尾を揺らしている。

 

 

 

 ____なるほど、これはいつかのキャスパリーグ(シロという獣)の記憶なわけだ。

 

 

 

「今日も元気ねぇ。ほら、パンはいるかい?」

 

「やったぁ! ありがとう、おばちゃん!」

 

「フォウ、フォーウ!」

 

「なぁに、シロもほしいの?」

 

 

 

 暫くの間、その少女とキャスパリーグ(シロ)を眺め続ける。どうもこの街にはカルデアよろしく善性の人間しかいないらしい。キャスパリーグ(シロ)は時に少女を見上げては「フォウ!」と鳴き、少女が座り込んで動きを止めればくぁ、と呑気な欠伸をしていた。なんだ、物凄くリラックスしてるじゃないか。この記憶を見せるだなんて、惚気か何かかな?

 

「あはは! くすぐったいよぉ!」

 

「フォーウ!」

 

「こぉら、暴れ過ぎたら駄目よ! 髪の毛がぐちゃぐちゃになっちゃうでしょう?」

 

「はーい、シロ、暴れちゃメッ! だよ!」

 

「うふふ、かわいらしいねぇ」

 

「フォウ!」

 

 目の前で流れる情景は、正に理想の日々だ。

 

 誰もが優しく、暖かく、笑顔でいられる。

 

 それこそ正に、キャスパリーグにとっては最も好む世界そのものだった。

 

 

 

 ____だが、これが本当にキャスパリーグが見せたいものなのだろうか。

 

 

 

 ふと、疑念が頭をよぎる。平和な世界でした、どうだ素敵だったろう? と、いった風にあまりにもあっさりと終わるものを、わざわざ夢で見せてくるものだろうか。あんな声色で、あのようなことを言うものなのだろうか。

 

 (くそ、胸騒ぎがするな)

 

 少女が、人々が、キャスパリーグ(シロ)が、幸せそうに、楽しそうに笑う。その姿を見て、私は言い表しようもない感覚に駆られた。ああ、本当に困る。こういう時は、大抵そうと決まればそうなるんだ。

 

 

 

 その嫌な予感は、奇しくも当たってしまった。

 

 

 

「っ……ぁっ!……おかぁさぁぁぁぁん!!」

 

「逃げて、逃げなさいっ! 振り向かないで! さぁ、はやくっ!」

 

「あ、ああああ! だれか、だれかぁ!! た、ったすけ」

 

「……ぁ……ぃた……ぃよぉ……」

 

「こっちだ、火が来る前に逃げるぞ!」

 

「いやぁ! まって、待って! まだあそこに子供が!」

 

「もう無理だ! もう瓦礫が邪魔で助けられない! すまねぇ、諦めてくれ! 急いで、ほら!」

 

「ひ、ぅぇええええん!」

 

 

 

 燃える、叫ぶ、崩れる。視界に広がるのは、赤、赤、赤。錆びた鉄の匂いと潮の匂いが混じった熱い風がびゅうと吹く。悲鳴と炎がごおおと燃え上がる音が歪なハーモニーを刻む。あちらこちらで、建物が炎で崩されては人を襲う。そのたびに一つ、また一つと声が減っていく。

 

 それは正に、地獄だった。

 

 先程まで確かに笑顔ではしゃいでいた少女は、その輝かしい顔を歪ませ涙と嘆きをこぼしている。

 

 その少女の視線の先にいる女性は、瞳を揺らしながらも我が子を守らんと震える身体で立っている。

 

 付近の人々は行倒れ、悲鳴をあげ、ただただ苦しんでいる。

 

 ____一体、どうして。

 

 そんな疑問が私の頭に浮かぶ。先ほどまで見ていた美しい光景は、いつの間にこんな地獄へと変わってしまったのか。ああ、なんて残酷な。

 

 確かに蓋をされていた筈の、胸に詰まっていたソレが、再び湧き上がる。思わず眉を潜めていると、ふとキャスパリーグ(シロ)と共にいた少女が視界に入った。あの子、さっき親に逃されていた子じゃないか。それに、キャスパリーグ(シロ)がいない……?

 

 まさか、と思考の海に半身を浸からせると、少女の甲高い悲鳴が耳に入る。ばっ、と顔を上げて見てみると、少女は尻もちをついていた。

 

「ぅ、うう……うぁ、ああああっ!」

 

 少女が叫ぶ。足は子鹿のように震え、瞳からはとめどなく涙を流している。その表情を恐怖で埋め尽くしながらも。

 

 

 

____それは何故?

 

 

 

 大きな影が、少女を覆う。

 

 それに気がついたらしい少女は、辺りを見回して、枯れ果てた声を必死に張り上げる。変わらず顔をくしゃくしゃに歪めながらも。

 

「だ、だれか! おかぁさ、ん! どこに……っ! ……ひぁっ、たすけ」

 

 ぐちゃり。

 

 生々しい音と共に、真っ赤なポリゴンが辺り一面に咲く。私はごくりと息を呑んだ。

 

 世界が一瞬、静寂に包まれる。

 

「……ぁ……し……ろぉ……」

 

 その声は、ひどく、か細くて。

 

 それでも、誰かに届くことはなかった。

 

 どさり。

 

 赤で彩られた少女が倒れ込んで、土埃が舞う。その瞳に光はなく、生命の灯火は尽き果てている。

 

「……っ!」

 

 言葉にならない音が、喉の奥で震える。これが、ゲームだというのか。あれほど生々しくて、感情豊かで。それが無くなったモノ(亡骸)がまるで別物のように思えて。

 

 これがゲームだというのなら、一体ボクはどうすればいい?

 

 微かに痛む胸に、つい瞳を伏せていると、ふと、視界に何かが入り込んだ。

 

 ひらり。

 

 一枚の薄っぺらい、赤に侵食された紙が宙を翻る。よく目を凝らせば、紙の真ん中のあたりに桃色の花が写っている。

 

 がさり。

 

 大きな白い影が、地面を覆い尽くす。顔を上げてみると、そこには血を浴び、悪意を飲み、巨大化した白き獣がいた。

 

 

 

ごめんなさい____!!」

 

 

 

 破壊的で恐ろしく、しかしながらもどこか悲しみを感じる表しようのない(シロだったもの)(号哭)が響く。

 

 少女は獣に喰い殺された。かつては共に過ごした心優しき獣に。

 

 

 

 ____では、何故(キャスパリーグ)恐ろしき獣(プライミッツ・マーダー)になってしまったのか。

 

 

 

 私はただ呆然と立ち尽くす。赤く染まった地を踏みしめて。

 

 人々の笑顔が咲き誇る美しい港町(善き人々の街)は、真っ赤な花が咲き乱れる静かな焼け野原(殺戮の跡地)と化した。

 

 今はもう、生命は息絶えてしまった。

 

 そこにあるのは恐ろしくも孤独な獣だけ。

 

 

 

 ボクには、どうしてキャスパリーグ(シロ)ビースト(プライミッツ・マーダー)へと変貌してしまったのか、それでいてどうして悲しむのかが分からなかった。

 

 けれど、一つだけ言える事がある。

 

 頭にずっと残っていた、あのキャスパリーグが、自分から理想を壊すという違和感。

 

 

 

 ____これは、ただの悲劇じゃないのだろう。

 

 

 





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