真剣でハンターと恋しなさい!   作:まじ恋は良いぞ

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 言葉は通じないが、鉄心が何を言っているのかは理解出来る。

 ならば文字を用いてのやり取りではどうなるか。

 

 アイテムポーチに再び手を入れ、お目当てのものを取り出す。

 狩りに役立つ様々な情報を書き込んで作り上げた冊子 ハンターノートだ。

 

 そこから1枚ページを破り取ると続けて取り出したのは、異世界から迷い込んだという人物が立ち去る際に攻撃珠と共にくれた毒妖鳥の羽を加工した羽根ペンとインク壺。

 筆先をインクに漬け込んで吸い上げさせると、破り取った紙に文字を書き込む。

 

貴方は誰で、ここは何処か

 

 そう書き込んだ紙を鉄心へ手渡すが、彼が首を傾げる姿で筆談も効果を成さないことを理解してしまう。

 

「すまぬのぅ……読めんわい」

 

 彼の目から見れば、差し出された紙に描かれている文字はギリギリ文字として理解出来そうで出来ない、そんなラインの文字だ。

 

 ミミズがのたくった跡と呼ぶには失礼だが、かと言って文字かと言われればやはりミミズがのたくった跡に見えなくもない……そんな文字である。

 

そうみたいだな

 

 申し訳なさそうな表情で紙を返してくれた鉄心に彼女も苦笑いを浮かべる。

 

 言語の壁に当たっているのは確かにどうにかして解決すべき問題だが、少なくとも目の前にいる手練の老人が悪人ではなさそうということは今回の短いやり取りで理解出来た。

 

ジェスチャーなら通じたな

 

 言葉が通じず、文字もダメ。それでもまだ通じるものはある。

 

 アイテムポーチを持ってきてもらう時に試したジェスチャーなら通じた。これならば意思疎通を図る事ができるかもしれない。

 

 女性は鉄心を指さし、続けて地面を指さし、その後に首を傾げる。

 貴方と、ここは、何?とでも言いたげな仕草に鉄心も、相手がジェスチャーによる意思疎通を試みているのを理解した。

 

「わしは川神鉄心。ここ、神奈川県川神市で武芸を磨く川神院の総代を務めておる……これで合っておるかの?」

 

 女性は頷く。意思疎通が出来た。

 

カナガワケン…カワカミ…知らないな

 

 新大陸に渡る前まで、彼女は現大陸の各地を転々として狩りを行っていた。

 ドンドルマやメゼポルタ、ユクモやポッケ、それはもう全国津々浦々まで巡り歩いたが、そんな彼女でも知らない地名である。

 

考えるのは後にしよう。次だ

 

 気になることは尽きないが、今は必要な情報を先に集める。

 

 着用している見慣れない服に触れ、頭に触れ、目の前に人差し指で楕円を描いて握る動作をし、それをぐるんと頭上で振り回して見せて、また首を傾げる。

 

「衣類と武器はどこか、じゃな?」

 

いや通じるのかよ

 

 微妙に外れてはいるが、まぁ大体当たり。衣類ではなく防具なのだが。

 

 特に武器に関しては上手いジェスチャーが思い浮かばずそれっぽいものにしてみたのだが、どうにか通じてくれた。

 よく通じたものだと感心したが、その直後に鉄心の言葉を思い出す。

 

武芸を磨くとか言っていたか

 

 ともなれば武器を用いることも普通に有り得る。何となく行った動作に似た動きをすることがあるのやもしれない。

 

 頷いてみせると鉄心も意思疎通が連続して成立してことに喜んだようで表情を緩ませ、直ぐにそれを曇らせる。

 

「おぬし……あの武器は一体何なんじゃ? あれだけの大きさと重量、とても人が振るえる代物とは思えぬのじゃが」

 

 大きすぎて、重すぎて、振るうことが出来ない。

 そんな甘えた理由で武器を持てないとなればいつ命を落としてしまうか分からない環境に身を置き続けた彼女にとって、その言葉は少し懐かしかった。

 

 自分も最初は振り回されたものだ。

 持ち上げられない、重い、動くと邪魔、どれもかけだしハンターだった頃に抱いた感想だ。

 

私は狩人だ、問題ない

 

 グッと親指を立てて見せる。

 

 問題は無い。今では手足のように自在に操り、強大なモンスターと互角に渡り合うことを可能としている。

 最初の頃は煩わしいと思っていた重みや遠心力が乗った際の引っ張られるような感覚も、今となっては心地良さすら感じさせられる程に慣れ親しんだ。

 

「いやキメ顔でサムズアップされても……」

 

 鉄心は渋っている。

 傷が癒えたとて病み上がり。

 

 あんな常識外れの代物、彼女が剛力の持ち主とて渡すのは傷が開いたり消耗した体力的にも危険ではないかと危ぶんでいた。

 

音は確かあっちから聞こえたか

 

 鉄心の心配を察してはいるが、己をハンターたらしめる証拠でもある相棒達に出会えないのは気分が悪い。

 彼が来訪するまでに聞こえてきた足音。その出処を記憶の中から割り出した女性の動きは素早かった。

 

 重ね重ねになるが、彼女は死にかけていた身だ。

 全身に大量の傷を刻み、そこから大量の鮮血を吹き出し、右腕は殺し合いの最中で黒龍に食い千切られた。

 

 そんな文字通りの死にかけであった彼女が急に歩き出したかと思えば障子を開け放ち、ストーブで温めていた部屋から躊躇い無しに飛び出して歩き去る。

 

「…………は?」

 

 予備動作はなかった。

 一切の躊躇いなくいきなり、それでいて自然に動き出した女性に鉄心は完全に虚を突かれ、出遅れた。

 

 声が出たのは障子の向こうにいる女性の影が見えた時。

 そこから行動に移ることを可能にした彼の声は、先代武神の名に恥じる間抜けっぷりだった。

 

「ちょ、ちょっと待たんか! おぬしは死にかけてって、もう居ない!?!?」

 

 寒い廊下に飛び出してももう女性の姿はない。

 

 気配を探っても、感じ取ることが出来ない。川神鉄心という一流の武術家でもってしても。

 

「どうなっておる…気配がまるで感じられん」

 

 混乱する鉄心だが、これはある意味では当然でもある。

 

 彼女も戦闘に身を置いて生きてきた。

 一人の武芸者と呼べなくもないが、切磋琢磨する相手が鉄心達とは違う。

 己の力で秩序の無い過酷な大自然の中を生き延びて、青空の下で命ある限り戦い続けるモンスター達だ。

 

 そんな存在を相手取って何十年と生きた彼女にとって、人間に察知されてしまうようなやわな気配の隠し方は有り得ない。

 

すまないな

 

 自分を見失っている鉄心に心の中で謝罪し、彼女は見慣れない土地の見慣れない建物の探索を開始する。

 

 回復薬グレートによって苦痛が取り払われた今の彼女は冷静。

 安楽に眠れよう着替えられた寝巻きは防御力に関しては心もとないが、身軽であり装飾もなく機動性は優秀。

 

 それが彼女の隠密をより高度なものとし、物陰や影に隠れて人目を欺いていた。

 

「異常なし。そっちは?」

「同じく。寒いだけで平和な夜だ」

 

 見回りをしている門下生が交わす言葉も聞き慣れない言葉なのに、その中身は理解が及ぶ。

 

良い具合に邪魔だな

 

 巡視という大切な役割を果たしている彼等に対して失礼な感想だが、今の彼女の頭には狩人としての証明であり矜持でもある相棒達に再会したい思いしか無かった。

 

 だから今までの経験で培ってきた技術を活かし、川神院門下生の巡視を掻い潜る。

 

コロン…

 

「なんの音だ」

 

 身を潜めたまま、探索の最中に集めた手頃なサイズの物体を目当ての方向とは真逆に投げて音を立てる。

 

バタンッ

 

「なんの音だ!?」

 

 時には扉を外してわざと音を立てるように倒し、遠方にいる門下生までをも引き寄せて巡視を部分的に手薄にしてそこに滑り込む。

 

 そうやって門下生が気を取られる状況を作り出し、その隙に気配を殺したまま移動を再開。

 物音や呼吸音といった周囲の情報を集める上で欠かせない要素に最大限の気を配りながら歩を進める。

 

 日が落ちており建物の中は薄暗く、光を発生させる手持ちの筒のような物を門下生は用いていた。

 それは確かに暗い中で視界を明瞭してくれる優れものではあるものの、女性に自分の位置を知らせてしまうデメリットもある。

 

多いな……

 

 すれ違った門下生の数は百を越え、それでもなお見慣れない新たな顔が現れる。

 

 鉄心の言葉を再度思い出す。

 武芸を磨く川神院の総代……つまりはハンターズギルドにおけるギルドマスターのような立場に彼はいることになる。

 

 実力に惹かれたのか人柄が引き寄せるのか……いずれにせよ、彼の下には相当な数の門下生がいるのだろう。

 いくら捜索を部分的に手薄にしたところで、そこも直ぐに埋められてしまう。

 

とはいえ、分かるぞ

 

 捜索している門下生の数に少し気圧されそうになったが、それに負けじと歩を進めるうちに妙な感覚が彼女の中に現れる。

 

 気配を感じる。人の気配では無い、ほんの僅かな期間の関わりだったにも関わらずしっかりと脳裏に焼き付く気配。

 

 黒龍の気配だ。

 厳密には殺し合いを演じる最中で武具に付着した黒龍の血液から、ビリビリとした威圧感を伴う気配が伝わってくる。

 

まさか黒龍に感謝する日が来るとはな

 

 1000年前にシュレイド王国を滅ぼした生きとし生けるもの全ての敵ともされるミラボレアスに、生きとし生けるものの一人である自分が感謝する日が来るとは。

 

 不思議な体験に苦笑を浮かべつつも彼女は感じる威圧感を伴う気配を辿って移動し、そして遂に目的の相棒達の気配が流れ出る部屋の前へと辿り着く。

 

「これハ……人間が扱えル武器なのカ?」

「ンなわけねぇだろ。200kg超えてんだぜ? 振り回そうもんなら腕が遠心力でもぎれっちまうよ」

 

 見慣れないながらも確かな力を感じる武具は治癒を終えた女性が目覚めた途端に暴れる可能性を考慮して回収され、師範代であるルー・イーと釈迦堂刑部によって監視されていた。

 

 2人の関心を引いているのは全長3mを超え、重量は200kg以上という武器としては巨大過ぎ且つ超重量級の大太刀。

 いや、太刀と呼ぶにしては柄も長い。形状的には長巻の方が適切なのかもしれない。

 

あの2人は強そうだな

 

 緩い空気感を纏ってはいるが、女性には2人が確かな強者であるということが伝わっていた。

 そこかしこに居る門下生も手練ではあるが、目の前の扉1枚隔てた先にいる2人はもっと格上。

 

 物音を立てたところで引き離せるとは考えにくい。

 むしろ、他の門下生を呼び寄せてしまい数的不利な場面を生み出すきっかけにすら成り得る。

 

 ともなれば、複数の大型モンスターを同時に相手取る際に大変お世話になったこの道具の出番である。

 アイテムポーチから取り出すと、それを地面へと投げつけた。

 

「ナんの音だ!?」

「あの逃げ出した女、煙幕まで持ってやがるのか!!」

 

 叩き付けた際のぼすん、という音に2人が気付いた頃には周囲を白い煙が埋めつくして視界不良を招いている。

 

 けむり玉。

 新大陸ではケムリの実を用いて作るが、現大陸では石ころにネンチャク草を巻き付けた素材玉にツタの葉を組み合わせて作る。

 その製法の違いからか、新大陸版では自分の周囲に白煙を立ち登らせるが現大陸版では周囲のかなり広い範囲を煙で埋め尽くしてしまう。

 

お次は、コイツだ

 

 けむり玉だけではまだ足りない。視覚を封じられてもまだ他の感覚で索敵が出来てしまう。

 

 取り出した別の道具を煙幕に多少驚いている二人の間目掛け、投げ込む。

 地面に触れる小さな音がした後。

 

ギャインッッッ!!

 

 強烈な大音量が鳴り響く。

 

「がァ!?」「みっ、耳がッ!!」

 

 音爆弾。

 聴覚が発達しているモンスターに特に効果を発揮する代物だが、普通に五月蝿いから人間相手でも聞くだろうという判断は的中した。

 2人はいきなり鳴り響いた大音量に聴覚をやられてしまい、耳から生じる痛みに蹲る。

 

今ッ

 

 視覚と聴覚は封じた。

 

 部屋の中へと侵入すると2人から視線を離さないようにしつつ、部屋の奥に纏められている相棒達に接近する。

 

 ついでにけむり玉をもう一つ地面に叩き付け、煙幕を追加。

 薄まりつつあった煙幕が再び濃厚になるのを視認すると、ダメ押しとばかりに音爆弾ももう一つ。

 

「なんダッ!? ドコに居ル!?」

「だぁぁぁくそっ!」

 

 収まりつつあった痛みに再度襲われる2人の姿は少し可哀想ではあるものの、女性としては早く武具を取り戻したい。

 心の中で謝罪しつつ目的の場所まで辿り着くと、再会を噛み締めるまでもなく手早く防具を身に纏う。

 

 惨爪竜の頭部、胴体、脚部防具。どれも見た目に惚れ込んだお気に入りの防具である。特に頭部の斜めに付けたお面が一際お気に入りだったりする。

 そこに滅尽龍との戦いで潰された片目を隠す為に、その滅尽龍から取れた素材を用いて作った眼帯を装備。

 

 腕部はオトモ探検隊が集めてくれる禍々しい布を用いて作られる防具。これはオトモアイルーが格好良いからと薦めてくれた防具だった。

 腰部は熔山龍の素材を用いた防具。自分が新大陸に渡る理由となった巨大な古龍を忘れない、その覚悟の表れでもあり上記の防具達と見た目の噛み合いも悪くないと彼女は感じている。

 

よし、動く

 

 腕を保護する防具に取り付けられているスリンガーの動作確認も問題なく終わる。

 直ぐにスリンガー閃光弾を装填し、最後の防具を纏う。

 

 防具というカテゴリーに入りはするが、その見た目は風がなくともたなびくマフラーである。

 これもオトモが似合うと言ってくれた代物の一つ。どうも彼女はオトモの発言に弱かった。

 

……馴染む

 

 使い込んできたからこそ、纏った途端にしっくりくる。

 自分が黒龍討伐を成し遂げたその時まで連れ添ってくれた、大事な大事な相棒達だ。

 

 そして、武芸者としてはかなりの上澄み寄りでもある2人が『人間には扱えない』と判断したもう一つの相棒に触れる。

 

 柄を握ると、これもまた握り慣れた感覚を彼女に与えた。

 赤い刀身に大小様々な棘を刀身の背中側に生やした一振りの太刀。

 

手放して済まなかったな

 

 新大陸に渡る過程で紛失してしまったものを二期団の親方と連日連夜意見を交わしながら現地の素材で、どうにか初期段階のものを再現した。

 そこに魚竜種や角竜の牙、渡りを行った古龍の素材を使うことでより強く、鋭く、飾り気がないながらも美しく仕上げてもらった。

 

 渡りの凍て地を発見した後もより強力となったモンスターの素材を用いて更なる強化を行い、黒龍討伐の立役者となった彼女の相棒 天上天下天地無双刀。

 柄を強く握り締めた。隻腕になったとしても、感覚は何も変わらない。

 

 鍛え上げた肉体が、狩人としての矜持が、人間の扱えるものでは無い武器を持ち主のみが扱える武器へと変貌させる。

 凄まじい重みの天上天下天地無双刀が彼女によって長くはあるが中身がスカスカの木の枝を持つかのように、すんなりと持ち上げられた。

 

今までと場所は違ってしまうが、悪く思わないでくれよ

 

 以前のように背負うのは無しだ。隻腕となった今、持ち上げることは出来ても抜刀に手間取りかねない。

 背負うではなく佩く。居合の構えを取る時のように右腰に鞘を取り付けて、直ぐに刀身を引き出せるようにする。

 

 ズシッとくる重みも彼女にとっては心地よい。

 軽く振ってみるが、隻腕となった今でも問題なく振るうことが出来ると確信した。

 

……私は、成し遂げたんだな

 

 こうして装備を身に纏い武器を手にすると、あの時の感動や感覚が蘇る。

 強烈な鉤爪や尾や火炎を受けた激痛も、強大な存在に相応しい防御力を誇る頑丈な鱗や甲殻を切り付ける感覚も、全部を覚えている。

 

 彼女は成し遂げた。命と引き換えに黒龍ミラボレアスを打ち倒し、誇張表現ではなく世界を救った。

 

 "運命の戦争”や“運命を解き放つ者”、“運命の始まり”など様々な形で伝承され、かの存在を統括し表す言葉、あるいはそれらを取り巻く現象そのものを指し示した言葉が長い時を経て「特定のモンスターを表す呼び名」に変じるという常軌を逸した存在を、仲間や先人の助けを受けながら超越した。

 

「「ッッ!?!?」」

 

 目くらましと爆音によって混乱させられていたルーと釈迦堂両名は、ここでようやく気付く。

 

 ()()()()()()()()()()()()()ことに。

 彼女が防具に身を包み、天上天下天地無双刀の柄を握り締め、黒龍との生存競争を競り勝ったと再認識した途端、彼女から放たれた強烈な気。

 

 禍々しかった。

 強烈な憎悪や敵意が込められ、灼熱を思わせる強烈な熱を伴う異質な気だった。

 

 部屋に侵入された、そう気付いた時にはもう遅い。

 

 煙幕が空気の流れに乗って押し流された部屋の中で、鉄心から逃げおおせた人物が、監視していた武具を身に纏って胡座をかいて座っていた。

 

 




頭:ガロンβ+竜王の眼帯+封印の龍骸布
胴:ガロンα
腕:デスギア(右手の手甲部分を左手甲側に移植したイメージ)
腰:ゾラマグナα
足:ガロンα+β(膝下まではβ、上はα)

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