真剣でハンターと恋しなさい!   作:まじ恋は良いぞ

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ガールズラブのタグがありますが主人公初キスは女性じゃなかったりします


0-3

「おいルー。気付いたか?」

「いいヤ。今ノ今まで、気を感じナカった」

 

 煙幕と爆音による奇襲を受けて不覚を取ったのは明確な2人の落ち度ではあるが、それでも周囲の気を探ることを怠ってはいなかった。

 

 それでも女性には気付けなかった。

 薄い障子1枚隔てた向こう側から様子を見られていたことにも気付けなかった。

 

 師範代の2人が揃いも揃って、である。

 

「なるほどな……ジジィが真正面から出し抜かれンのも納得だわ。ボケてなかったんだな……って、おいおい」

 

 鉄心が目の前で逃げられたというのもあながちおかしくは無いのか。そう納得しかけた釈迦堂の目が、有り得ない光景を捉える。

 額をツーっと一滴の汗が伝った。

 

 あの超重量の大太刀が動いている。

 位置が変わっているどころか、女性が腰に装備している。

 

「……バカな」

 

 ルーも目を見開いている。

 

 腰に佩くこと自体がまず無理だ。200kgを超える超重量にあることは機械を使って測定しているのだから確定している。

 

 それを動かした。

 目の前にいる女性が、それも隻腕であり負傷していたはずの。

 

コイツ…ヤベェぞ……

 

 目付きからして敵意が無いことは分かるが、それでも脅威だと釈迦堂は戦慄する。

 冷や汗が止まらない。背中は汗でぐっしょりと濡れていた。

 

 彼女に敵意がないからまだ良かった。

 これが敵意、或いは殺意を抱いていたとなれば煙幕と大音量によって行動を封じられている間にあの巨大な武器でルー諸共に一撫でで斬殺されていただろう。

 

「ルー! 釈迦堂! 大丈夫か!」

 

 二度の大音量とその後に放たれた禍々しい気は鉄心にも届いており、二人に何かあったのではと血相を変えて部屋に飛び込んだ。

 

 そんな彼もまた、冷静にこちらを観察しているその目に射抜かれて動けなくなる。

 

こちらを観察しておるのう…

 

 眼帯によって隠されている左目の分も補おうと奮起しているかのように、見開かれている右目によって行われる観察。

 

 手足の動き、瞬き、姿勢の僅かな変化、息遣い、風による髪の揺れ、筋肉の僅かな反応、それ等全てを観察され、見抜かれているのが理解出来た。

 

 鉄心が何かアクションを起こせば、それがどれほど小さくて些細なものでも即座にそこへ注意が向く。

 そして即座に何をするのか、どういう状態なのかを見抜き、注意が必要か否かを取捨選択している。

 

下手な動キは、返っテ悪手カ

 

 そんな観察を女性は3人相手に同時並行で行っている。

 

 鉄心に注意が向いているからとルーか釈迦堂が何かしらの動きを見せると、すぐに注意が向けられる。

 同時に動きを見せた場合はその両方にそれぞれ一瞬だけ視線を向け、脅威度を判断して対処の必要性が高いと判断した方により注意を向けている様子が見て取れた。

 

 視線を離す際も巨大な大太刀の柄を握る手に力を込めて見せ、すぐにでも振るえるぞと脅しをかける。

 

二人は警戒しているからか、妙な動きと気配は無いな

 

 生身の人間ではどう足掻こうとも勝ち目のない大型モンスターとの生存競争に明け暮れて数十年間も生きてきた彼女の感性は、肉体に刻まれた古傷が極限まで磨き上げらていることを物語る。

 

 未知の相手が、持ち上げることすら叶わないと思った武器を持ち上げて、目の前に堂々と座っている。

 警戒して当然の光景だ。実力の程も分からない相手に無策で突っ込むなど自殺行為であり、入念な用意をしてから望むべき。

 

 故に、彼女は鉄心とルーを懸命な武芸者だと評価した。

 

「〜〜〜ッ、面白ェッ!! 行けよリングッ!!」

 

 そして畏怖しつつも抑え切れない戦闘衝動に突き動かされた釈迦堂を、生存競争に明け暮れた己と重ねてこれまた好印象に思っていた。

 

 手から放たれた輪に向けて、天上天下天地無双刀が振るわれる。

 重い武器を力づくで振り回すのでもなく、振り抜いた後に体が持っていかれることも無く、座った姿勢のまま左腕一本でくるんと振るわれリングを切り裂く。

 

「本当に……振リ回しタ…」

 

 いきなり攻撃を仕掛けた釈迦堂を止めるという選択肢は、200kgを超える超重量武器を片腕で軽々と取り回す光景によって掻き消されていた。

 

「おいおいマジかよスゲェなお前! ならこれはどうする!? 川神流・無双正拳突きぃッ!!」

 

 ただの正拳突きを極め、必殺技として成立するだけの威力と精度まで磨き上げた拳が釈迦堂の雄叫びに似た声と共に放たれる。

 

 それを、女性は真正面からひらりとかわした。

 同時に納刀した天上天下天地無双刀をぶつけないよう注意しつつ、釈迦堂の左脛を蹴り付ける。

 

「がッ!?」

 

 筋肉や脂肪が他の部位と比較しても少ない脛への打撃は、その衝撃が直接骨に伝わる為痛みが格段に増す。

 それは師範代である釈迦堂とて軽減も無視も出来るものではなく、苦痛の声を漏らしてそれでもなお追撃を仕掛けてくる。

 

 回避した女性の方へと軸合わせをしつつ、踏み込んでリーチを伸ばしての川神流・無双正拳突き。

 

当たればまずいが、遅いな

 

 威力は相当なものだろう。轟竜の突進と同等くらいであり、速度もそれとほぼ同じ。

 ならば見てから避けられる。ラティオ活火山で仕留めた爆狼よりかは遥かに遅い。

 

 2度目の正拳突きは回避もせず、真正面から受けた。

 直線的な正拳突きに対して関節を曲げて側面から回り込むように腕を動かして手首に掴みかかり、後方へと引っ張って投げ飛ばす。

 

「グっ、なんのッ、まだまだァ!!」

 

 柱に顔面から激突した釈迦堂は鼻血を流しているが、闘志は依然として燃え盛っている。

 むしろ自分の技を2度も見切った女性に対して、強い興味と湧き上がる闘争心を抑え切れないでいた。

 

 今の攻撃で彼は理解する。

 彼女は戦いとなれば使えるもの全てを使い、何がなんでも勝利をもぎ取ろうとする貪欲な奴だと。

 

 情け容赦なく相手を叩きのめす。

 実に単純で好ましい。

 そして、だからこそもっと戦いたくなる。

 

「イイねぇイイねぇ!! 楽しくなってきたじゃねぇか! ならコイツはどう防ぐ!? 禁じ手・富士砕ぐばぁ!?」

 

 型こそ無双正拳突きと同じだが威力では遥かに勝り、その為に禁じ手とされる川神流・富士砕き。

 

 突き出されるはずの拳は、巨大なモンスターと渡り合う為に身を包む防具や振るう武器の重みに負けぬよう鍛え上げられている足による前蹴りで潰される。

 ただの拳ではない。練り上げた気を込めて破壊力を底上げしている拳だったのに、それを単純な力技で真っ向から叩き潰された。

 

「富士砕きヲ潰シた!?」

 

 骨が軋む程度では済まない。

 砕かれたのが分かる嫌な音と感覚に顔を顰めるが、そこに女性は容赦なく猛追してくる。

 

ヤバいッッ!!!!

 

 咄嗟に身を屈めた釈迦堂の頭上を回し蹴りが掠め、屈んだのならばと追撃の踵落とし。

 

 受けは有り得ない。側転で回避し、側面に回り込むように駆け出す。

 

猪突猛進だな

 

 手を砕いてもなお止まらない姿に大猪の姿を重ねた女性はすぐに頭を左右に振る。

 

それはダメな思考だ

 

 モンスターと重ねてしまえば得物を抜く事となる。

 狩人として人に武器を向けるのは禁忌の行為であり、絶対にしてはならない。

 

 天井の梁にスリンガーを放ち、フックを噛ませて浮き上がる。

 

「なにっ!?」

 

 バランスを崩すべく放った足払いは回避され、お返しとばかりに女性は天上天下天地無双刀の鞘のみを釈迦堂目掛けて落としてきた。

 

 鞘も武器となる。

 巨人の武器と呼んでも良い大きさの天上天下天地無双刀の鞘が重力に従い落ちてくるともなれば、それは最早ちょっとした質量兵器の類だ。

 

 回避を強いられて距離を取った釈迦堂の前で、落下してきた鞘は床にしっかりと突き刺さって見せる。

 受け止めようとしたらどうなっていたか……想像するだけでもゾッとする。

 

 天井から降りてきた女性は赤い刀身を納刀した。

 

「やりよるのぅ」

 

 ゴテゴテとした防具に身を包み、凄まじい重量の武器を持ちながらもその身のこなしは軽やか。

 初見の技を容易く躱す動体視力もかなりのもの。

 2度目に関しては真正面から受けておきながら無力化し、投げ飛ばしていた。

 

 回避や受けだけではなく、技を出掛かりから潰しに向かう技術と胆力もかなりのもの。

 感心した鉄心の声に女性は僅かに微笑み、付けていたお面を外す。

 

「かたっ!?」

 

 姿勢を立て直した釈迦堂に目掛けて飛来するお面を、彼は咄嗟に殴り返した。

 

 ガンッ、という鈍い激突音。お面は破壊されることなく、そのまま弾き返されて行った。

 

嘘だろおい! 割かし本気で殴ったんだぞ!?

 

 不意打ち気味に飛んできたお面への打撃は多少の動揺こそ含まれていたが、それでも並の武芸者程度なら一撃で気絶に追い込めるだけの威力は籠っていた。

 

 それを受けてもお面は割れる所か、亀裂すら入らない。

 軽いのに極めて頑丈。少なくとも、祭りの露店で売られているようなお面とは材質から異なる。

 

「うおっ!?」

 

 お面に気を取られていた釈迦堂の顔を何かが覆う。

 

 女性が身に付けていたマフラーだ、そう気付いた時には背後に回り込んだ女性が両膝の裏を蹴り飛ばして姿勢を崩していた。

 いきなり頭の位置が下降する感覚に思考が止まり、床に思い切り打ち付けた両膝から伝わる痛みに顔を顰める。

 

 そこを、狩人は見逃さない。

 

人間として見て、人間として相手取るッ!

 

 手練のハンターとして生きてきた彼女はその実力を見込まれ、ギルドナイトとしての勧誘を受けたこともある。

 結局その話には乗らなかったのだが、興味があって対人戦闘のノウハウは学ばせてもらった。

 

 攻め込む絶好の機会と突くべき弱点をみすみす見逃していては、狩人として生き残ることは出来ない。

 

「むんッ!!」

 

 釈迦堂が着用している衣類の後ろ襟を掴むと、自身の頭上を弧を描くように肉体を持ち上げて地面へと叩きつけた。

 

 大の大人を、片腕だけで浮かせて振り回す。

 目を疑いたくなる光景だが彼女なら出来て当然。如何に鍛え上げて脂肪よりも重い筋肉を搭載しているとはいえ、彼は狩人が振り回す相棒と比較すれば遥かに軽いのだから。

 

「ガハぁっ!?!?」

 

 叩き付けられた釈迦堂の口からは苦悶の声と血液が出るが、女性は攻め手を緩めない。

 

金獅子ならここから更に攻め立てる

 

 導きの地で遭遇した超危険生物、古龍級生物と呼ばれることもあった金獅子ならば、しかもそれが激昂した歴戦の金獅子ともなれば、まだまだこんなものでは終わらない。

 

 仮にあの金獅子が人間大の大きさとなり殴り合いをするとなれば、その時にどんな動きをするだろうか。

 そんな想定をしながら、金獅子らしい荒々しさを体現した戦い方をする。

 

 叩きつけた釈迦堂を強引に引き起こすと、今度は顔面を掴む。

 200kg超えの超重量武器を振り回すに必要な握力で掴んだ顔面を締め上げることで四肢を自由にさせながらも反撃の気力を削ぎ落とし、そのまま走り出して壁に後頭部を叩き付ける。

 

こっ、コイツ…ヤベェ!?

 

 全力で握られたら握り潰される、そんな感想を抱かせるだけの激痛に苛まれながらも釈迦堂は歯を食いしばった。

 

 力が人間のそれではない。大の大人で肉体を徹底的に鍛える武芸者の釈迦堂を、子供がおもちゃを弄ぶが如く軽々と振り回している。

 それでいて、攻めの手に情けが無い。凄まじい怪力と、それを効率的に用いて反撃の手を生じさせないという獰猛な戦い方。

 

 気を少しでも緩めてしまえば、すぐにでも意識を刈り取られてしまいそうだ。

 

 後頭部から伝わる鈍い激痛に耐えながらも顔を掴んでいる女性の手首を掴み返し、渾身の力を込めて握り込む。

 同時に蹴りを放つ。腕を捕まえているのだから逃げる事は出来ない。

 

 当たる。

 そう確信したが、彼の足は虚しく空を蹴った。

 

見え透いたことを

 

 顔を掴んだまま、女性は跳躍して両足を引き絞る。

 蹴りの威力を最低限担保する為に釈迦堂が右足を軸足として力んだことで、彼そのものが支えになってしまっている。

 

 肘を曲げて肉体を引き寄せ、伸ばした両足で釈迦堂の腹部を力任せに蹴り付ける。

 

「ごお、おぉっ」

 

 胃の内容物が逆流し、女性の手のひらを汚染するがそれを気にする様子もなしに猛攻が続く。

 

 腹部への蹴りで踏ん張りが利かない釈迦堂の体を持ち上げる。

 腕を真上へ上げて彼の両足を地面から離れると真上へ軽く投げ、素早く胴体に腕を回してジャーマン・スープレックスの形で顔面と胸部を床へと激突させた。

 

止まるまで、叩きのめす

 

 手を砕いても怯まないとなれば、行動不能に追い込まないと止まらないと即座に判断を下した女性は手を緩めない。

 激しい殺し合いを楽しませてくれた激昂した歴戦の金獅子のように、攻めの手を耐えさせることなく徹底的に叩きのめす。

 

「そこまでじゃ!」

 

 日頃から精神面での精進が足りていない彼にとって良いお灸となるだろうからと静観していた鉄心も、流石に止めに入る。

 うつ伏せの釈迦堂の後頭部目掛けて右足を振り上げる姿勢で固まった女性の視線が、冷や汗を流す鉄心に向けられた。

 

 予想以上なんて陳腐な言葉では言い表せない。

 

 自分が助けた人物は師範代を一方的になぶり倒せる程の高い戦闘能力を持ち合わせている。

 それも、ただ強いだけではない。情け容赦なく攻め立てる躊躇いの無さも持ち合わせている。

 

釈迦堂が殺されてしまう

 

 師範代としては問題のある人物だが、それでも大切な同じ流派で心身を鍛えて来た同門だ。

 それを避ける為にも鉄心は止めに入った。女性の怒りの矛先を向けられる可能性があるとわかっていながらも、釈迦堂を殺させない為にも。

 

「……ふぅ」

 

 女性はすんなりと構えを解いた。

 振り上げていた足をゆっくり下ろし、アイテムポーチを開くと回復薬グレートを二つ取り出す。

 

 蓋を開いて口に含むと、気絶している釈迦堂を仰向けに寝かせて唇を重ねた。

 

「ナッ!?」

 

 恋愛素人童貞のルー師範代、その光景に赤面。顔を逸らす。

 

「……羨ましいのぅ」

 

 助平じじいの川神鉄心、その光景に嫉妬。ガン見している。

 

 そんな2人に目もくれず、女性は口に含んだ回復薬グレートを釈迦堂に流し込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これがわし等と彼女が出会ってからの最初の一大イベントじゃったよ。ほっほっほっ」

 

 鍛錬において見慣れない女性がいることに気付いて鉄心に聞いた百代は、自分が山篭りさせられている間にそんな珍事が起きていたとは知らずに可愛らしいマヌケ顔を晒していた。

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