一般からのはぐれ者
真っ暗な空間に、自分は浮かんでいる。
そこで、自分は夢を見ているんだと理解する。
ただ空間をぷかぷかと漂っている。
俺は──何をしてるんだろうか。
覚えてない、思い出せない。
夢だから、当然なのかもしれないが。
ふと、光が見えた。
其処で、理解した。
此処は暗いだけの空間だったのだと。
足元を見下ろせば、見えるのは……分からない。
巨大な、ロボットの残骸……?
それも、無数にあるように見える。
【ナンバーワン……】
声が聞こえる、脳に響くように。
光を見つめれば、何かが天に指を掲げてるのが見えた
後光さえ見えるような、そんな…不思議な存在。
【ナンバーワン……!】
五月蝿い程に、その言葉は良く聞こえた。
自分に何を求めているのだろうか、ただの一般人である俺に何を目指せと?
俺は……そう、ただのはぐれ者。
何かの1番になんて、なれる訳が無いのに。
【──ナンバーワン!!】「フォウ?」
──ふと、視界に白い…謎の生き物が視界に入る。
それだけで、ロボットの残骸も、声も聞こえなくなった。
夢だから、この位唐突な展開もあるのか?
いや、にしては随分とはっきり考えられてるような気もする……
「キュウ……キュウ?」
何やらふわふわとした感触が肌に伝わってくるような……嫌な感触では無いが、気になる。
夢なのにこんなにリアルなのか?
「フォウ!」
たぶん、今頬を舐められた。
俺はペットなんて飼ってない筈、ああいや夢だからか……?
いや、夢じゃない。
もう、夢見る時間は終わったのだろう。
暗闇が無くなり、視界が開ける
「あの……朝でも夜でもありませんから、起きてください、先輩」
未だボーッとする頭を起こすように目を擦り、眼前の眼鏡を掛けた、薄紫の髪の少女を見つめる。
いや、年齢的には同じくらいなのだろうか……何故か、少女と呼びたくなってしまった。
取り敢えず、先ずは質問をしなくてはなるまい。
場所と眼前の人物……何方を尋ねてみるべきか。
うん、取り敢えず自身を先輩と呼ぶ少女について聞くべきだろう。
「──君は?」
と、ごく普通の事を尋ねたつもりだったのだが
少女は何故か困った表情を浮かべれば
「いきなり難しい質問なので、返答に困ります。
名乗るほどの者ではない──とか?」
……第一印象:不思議な子。
そんなダンディな台詞を言われる時が来るとは正直思ってもいなかった。
まさか名無しや聞いたら不味いタイプの人種ではあるまいし……何故名乗らないのだろうか?
不審者とでも思われてたりするのか、自分。
と、首を傾げている様子で察されたのか
少女は少し慌てて言葉を紡ぐ
「いえ、名前はあるんです。
名前はあるのです、ちゃんと」
大切な事らしく、2回も言われた。
いや流石に本気で無名だとは思っちゃいない…今の時代でいたら相当驚きだし…
のだが、たぶん冗談も本気で捉えるタイプなのだろう。
本当にそう勘違いされる事を心配してるように見えた。
「でも、あまり口にする機会がなかったので……
印象的な自己紹介ができないというか……」
成る程、自己紹介は確かに──小さい頃は良くするが、成長すると案外する機会も無い。
印象的ともなると人生数回あるか無いか程度では?
因みに自分は恐らく未経験である、はぐれ者の宿命と言う奴かもしれない。
「……コホン、どうあれ、質問よろしいでしょうか。先輩」
余計な事を考えていたのがバレたのか、咳払いと共にキリッと真面目な表情をした少女を見つめ返す。
自分に質問、何を聞かれるのだろうか。
「お休みのようでしたが、通路で眠る理由が、ちょっと、
硬い床でないと眠れない性質なのですか?」
……辺りを見渡す。
うん、通路のど真ん中。此処で寝てたらそりゃ不審者とも思われるだろう。
どうやら信じられない事に、自分は此処で寝てたらしい。しかも夢を見るくらいに。
一応、後輩(?)に尋ねてみる
「俺、此処で寝てた感じ?」
「はい、すやすやと。
頭を抱える、疲れが溜まっていたにしても通路で寝るのは我ながらどうかと思う。
俺は不審者ナンバーワンにでもなりたいのか?
嫌だなその方面のナンバーワンは。
いやいやそもそもナンバーワンを取るつもりは無いのだが
あの変な夢のせいで、刷り込まれてるに違いない。
「フォウ!キュー、キャーウ!」
と、自分の存在をアピールするかのように白い……改めてなんだ?
兎なのだろうか、分からん。
白い獣が自分たちに向かって鳴く。
「……失念していました。
あなたの紹介がまだでしたね、フォウさん。
こちらのリスっぽい方はフォウ。
カルデアを自由に散歩する特権生物です」
どうやらこの獣はフォウと言うらしい。
リスっぽい。まあ、言われてみれば確かに。
と言うか結局なんなんだこの生物は、特権生物と言われてるから恐らくペットの類なのか……?
うん、まあ害はきっと無いだろう。
「わたしはフォウさんに此処まで誘導され、お休み中の先輩を発見したんです」
遭難犬かな?いやこの言い方だと自分が遭難してる事になるのだが。
どうやら自分を発見し、人を連れて来てくれたのはフォウらしい。
随分と賢い生き物だなとどこか自慢げに鳴いてるフォウを見つめていると
そのまま何処かへとトコトコと歩き去ってしまった。
少女はフォウを見送りつつ
「……またどこかに行ってしまいました。
あのように、特に法則性もなく散歩しています」
随分と自由きままな猫のような感じで生活しているらしい。
ならきっと固定の飼い主はおらず、施設全体で可愛がられてる感じであろう。
本当に特権生物であるとは恐れ入った。フォウさんと呼ぼうかこれからは、呼ばないけど。
「不思議な生き物だな」
と、何気なく呟けば
「はい、わたし以外にはあまり近寄らないのですが、先輩は気に入られたようです。
おめでとうございます。
カルデアで二人目の、フォウのお世話係の誕生です」
微笑みつつ、喜んでいいのやら分からない事を伝えられる。
どうやら知能が高い分、フォウは人を選ぶタイプらしい
選ばれた事はまあ嬉しいのだか、お世話となるとちょっと困る。
何をすれば良いのかさえ分からない、ご飯とかあげれば良いのだろうか?
──と、フォウのお世話方法について考えていると
自身の耳に男の声が聞こえた
「ああ、其処に居たのかマシュ。
だめだぞ、断りもなしで移動するのはよくないと……」
モスグリーンのタキシードとシルクハットを着用し、
ぼさぼさの赤みがかった長髪で鼻が高い男が現れる
【ナンバーワン!!】
何故か、夢で聞いた声が脳内に響き渡ったような気がした。
確かに……眼前の相手は絵に描いたような"ナンバーワン"なのであろう。
どっからどー見てもエリートだろうし……
と、微笑んでいる緑の男は此方を向けば
「おっと、先客が居たんだな。
君は……そうだ、今日から配置された新人さんだね」
「私はレフ・ライノール。
此処で働かせて貰ってる技師の1人だ。」
紳士らしい態度で自己紹介をするレフ・ライノール。
良かった、流石に名乗る程の者では無い2連続は無かった。
いやまあ、有ったら自分は夢を見てるんだと思ってしまうのだが。
「君の名前は?」
と、尋ねられて漸く自己紹介をしていない事に気付いた。
思えば眼前の少女にもしていない。
自己紹介をしなかった事を言える立場では無かったらしい。
うっかりであった。うーんこの。
「藤丸立香です」
取り敢えず無愛想な表情で自身の名を告げる
昔から表情筋が硬いと言われる。
別に一人で居る時は笑えるのだが、愛想笑いやらがどうも苦手なのである
どうか許して欲しい。
「ふむ、藤丸君と。
召集された48人の適任者、その最後の一人というワケか」
「ようこそカルデアへ、歓迎するよ。」
相変わらず和やかの表情で此方を歓迎してくれるレフ・ライノール。
まあ、この時点で此処でのナンバーワンになるのは到底不可能であろうと察する事が出来る。
所詮はぐれ者には不可能な夢であった。完。
と、何度目かの諦めをしていると
「一般公募のようだけど、訓練期間はどれくらいだい?
一年?半年?それとも最短の三ヶ月?」
……一番答えに困る質問が来た。
そもそも、訓練ってそんなやるんだ?とは聞けない感じである。
素直に言ってみるのも良いが…してないから強制送還とか普通に有り得そうだ。
いや別に帰っても良いが、放浪の旅は少し飽きた故になるべく此処に居たいのも確か。
よって誤魔化させて貰うとしようか。
「さぁ?ご想像にお任せしておきますよ」
と、答えればレフ・ライノール。長いからレフと呼ばせて貰おう、心の中までは読めまいだろうし。
レフは何処か愉快そうに笑えば
「おや、早くも競争意識に目覚めたのかな?
他のライバルたちに向けて情報は隠匿するのかい?」
良し、誤魔化せた。
何でもかんでも煙に巻くように話せば、相手は勝手に此方を過大評価してくれる。
取り敢えず1年レベル……最低でも半年レベルと認識してくれたか……と内心ほっとすれば
「レフ教授。藤丸さんの訓練期間は数時間レベルです。
単に恥ずかしがってるだけかと」
うん、全部言われた。
何?俺の事嫌いなの??
其処は嘘だと分かっても黙ってる場面では?
不思議っ子の思わぬ攻撃に内心悶絶していれば
レフは納得したように頷き
「おや、それは……そうか。
数合わせの為に緊急で採用した一般枠があったな
君はそのひとりだったのか。
申し訳ない、配慮に欠けた質問だった」
と謝って来た。
何故48人なんだ、数合わせるなら50人で良くないか?キリも良いだろうし。
と言うか謝られると何か惨めになるから辞めて欲しい。
と、そんな内心を察されたのかは不明だが
「けど一般枠だからと言って悲観しないで欲しい。
今回のミッションには君達全員が必要なんだ。
魔術の名門から38人、才能ある一般人から10人。
何とか48人のマスターを集められた。
これは喜ばしい事だ。
この2015年において霊子ダイブが可能な適性者全てをカルデアに集められたのだから」
ふふ、と本当に心から嬉しそうにレフは笑った様な気がした。
随分とカルデア思いな事だ、まあ才能ある人間が集えば嬉しくもなる物なのか?
「分からない事があったら私やマシュに遠慮なく声を掛けて……おや?」
ふむ、とレフがふと首を傾げる。
「そういえば、彼と何を話してたんだいマシュ?
らしくないじゃないか、以前から面識があったとか?
「いえ、先輩とは初対面です。
この区間で熟睡していらしたので、つい」
「熟睡してた……?
藤丸君が、此処で?」
反論したいが、事実なので何も言えない。
正直に答えるのは少女の特権なのだろうが、ちょっとはオブラートに包んでくれ
ても良いんじゃないかと先輩は思うワケ。
「ああ、さては入館時にシミュレートを受けたね?
霊子ダイブは慣れてないと脳にくる。
シミュレート後、表層意識が覚醒しないままゲートから解放され、ここまで歩いて来たんだろう。
一種の夢遊状態だ、藤丸君が倒れた所で、丁度マシュが声を掛けたのさ」
言われてみれば、確かに此処に来る時に何やら受けさせられた。
青い剣士、青い槍兵、赤い弓兵と共に戦ったような。うーん、あまり覚えてはいない。表層意識云々の所為なのだろうか?
ふむ、と思い出さないか記憶を遡ろうとしていると
「見たところ異常はないが、万が一という事もある。医務室まで送ってあげたいところなんだが……
すまないね。もう少し我慢してくれ。
じき所長の説明会が始まる、君も急いで出席しないと」
どうやら二度寝はお預けらしい、まあそれは仕方ないと割り切るとして、後方列だったら眠れるか?
まあ席次第だな、と思い
気になった単語を尋ねさせて貰おう。
「……所長って?」
「所長は所長さ。
此処カルデアの責任者にして、
君は一般公募で来た新人だけど、ひょっとしてパンフレットしか見ていない?」
「そのようですね。所長のプロフィールは一般公開されていませんから。
先輩と所長に接点はありません。
アニマスフィアの名に敬意を表すのは、百年以上の家系の魔術師だけです」
「そうだね。ま、所長を知っていようが知らなかろうがマスターとしての仕事に影響はないし、問題ないな。」
パンフレットには公開されていない所長さん。
結構雑な扱いをされてる辺り、なんとなく人物像が想像出来た様な気もした。
取り敢えず怒ると怖いのは間違いあるまい。
「だが些細な事で目を付けられるのも良くない。
今後、君が平穏な職場を望むなら急ぎたまえ。
5分後に君たち
偉い人の偉いお話。
まあ要するに校長先生やらPTA会長の「それ要るの?」って感じの話だろう。
不味い、ますます寝落ちする可能性が上がって来たな。
どうにかサボらないだろうか──
「レフ教授。
わたしも説明会への参加が許されるでしょうか?」
「うん?まあ、隅っこで立ってるくらいなら大目に見て貰えるだろうけど、何でだい?」
「先輩を管制室まで案内すべきだと思ったのです。
途中でまた熟睡される可能性があります」
第一印象って大事だなあ、おかげで俺は後輩から道端で寝るとんでもない寝坊助だと思われてしまっているのだから。
「君を1人にすると所長に叱られるからなぁ……
結果的に私も同席する、と言う事か」
レフは微笑みを絶やさなかった表情から一転、露骨に嫌そうな表情を浮かべた。
……微笑みを絶やさない人が嫌な顔をする所長とは……もう帰りたくなって来たな。
「まあ、マシュがそうしたいなら好きにしなさい。
藤丸君もそれで良いかい?
他に質問がなければ管制室に向かうけど、今のうちに訊いておく事はある?」
と、嫌な顔から気を取り直した様に微笑んで此方に尋ねてくれるレフ。
……そう、ずーっと気になってた事が一つだけある
受け入れていたが、よくよく考えると絶対的におかしい事。
それは
「……なんでこの子、俺の事を先輩呼びしてくるんですか?」
少女……マシュは何故か照れた様な表情を浮かべていた。
レフは自身の質問に対して笑って答える
「ああ、気にしないで。
彼女にとって、君ぐらいの年頃の人間は皆んな先輩なんだ。
でも、はっきりと口にするのは珍しいな。
いや、もしかして初めてかな?」
生後数ヶ月じゃあるまいし、何故俺くらいの年の人間を先輩と呼ぶのだろうか?
と、思っていたがどうやら呼ぶのは自分が初めてらしい
何が琴線に触れたのか、気になってマシュを見つめると
レフも同じ事を考えていたのか
「私も不思議になってきたな、ねぇマシュ。
なんだって彼が先輩なんだい?」
と尋ねてくれた。
まあ不思議っ子のマシュだし予想外の回答が来そうだが……
「理由……ですか?
藤丸さんは、今まで出会ってきた人の中でいちばん人間らしいです」
────人間らしい。
はぐれ者の俺が、人間らしいとマシュは言う
何がどうしてそう思ったのか─
「ふむ、それはつまり?」
と、レフがまたしても尋ねてくれた
するとマシュは
「全く脅威を感じません。
ですので、敵対する理由が皆無です」
ずっこけなかった自分を褒めて欲しい。
脅威を感じない!それはもう一周回って舐められてるのでは?
たぶん悪意やら一切無いのが本当にタチが悪い
レフはその回答に愉快そうに笑えば
「なるほど、それは重要だ!
カルデアにいる人間は一癖も二癖もあるからね!
私もマシュの意見には賛成だ。
藤丸君とは良い関係が築けそうだ!」
と、たぶんフォローをしてくれた。
本当に良い人だなレフ……内心呼び捨てにしてるのは許して欲しい、教授呼びだといずれ被りそうなのである。
「レフ教授が気に入るという事は、所長が一番嫌いなタイプと言う事ですね」
そして絶望した。
何がどうして相手が1番嫌っているタイプが自分だと分かった上で向かわねばならないのだろうか。
「あの……このままトイレにこもって説明会をボイコットする、と言うのはどうでしょうか?」
マシュが何とも魅力的な提案をしてきた。
不思議っ子かと思ったが思ってるより気が合うのかもしれない。流石俺の後輩である。
しかしてレフは
「それじゃあますます所長に目を付けられる
此処は運を天に任せて出たとこ勝負だ
虎口に飛び込もうとしよう藤丸君。
なに、慣れてしまえば愛嬌のある人だよ」
どうやら逃げられないらしい。
キッチリ人数確認をするタイプなのだろう、普通に詰みである。
まあ目を付けられないように大人しくしてるか……と、大きく溜め息を吐けば
腹を括って管制室に向かう事にした。