「此方だ!遮蔽物が多い!!」
オリオンの指示に従い、藤丸は疾走する。
背後より迫り来るは大英雄ヘラクレス。
幾度目かの即死の一撃を、マシュの盾が受け止める。
「くううぅ……!」
この作戦において、マシュは重要な立ち位置にいる。
ゴジュウジャーはスーパー戦隊の力を宿していると言っても今を生きる人間。
アステリオスが唯一正面から打つかり合えるが、ヘラクレスを完全に押し留める事は不可能。
他の英霊を含めても、どうしても何度かヘラクレスに追い抜かれてしまう。
そこで、守りの要となっているのが──シールダー、マシュ・キリエライト。
マシュが敗北してしまえばヘラクレスの一撃は藤丸へと通ってしまう。
それはそのまま、即作戦の失敗を意味する。
ロマンは、マシュを見て昨夜の出来事を思い出していた。
《──英霊の力を、より引き出す方法?
どうしてまた急に……》
夜、皆が寝静まった頃にマシュに呼ばれたロマンは首を傾げつつ尋ねる。
そりゃ力があれば損は無いが、急ぐ程の事ではない。
ゴジュウジャーに現地の英霊、そして2つの特異点を乗り越えた経験。
それらが自然とマシュを強くする、だから焦らなくても──とロマンは話すが、マシュは首を緩く振り
「不安だから、では無いのです。
ドクター、わたしは……役に、立ちたいんです」
役に立ちたい、と彼女は言う。
かつて彼女が居た部屋を訪ねた診察のように、ロマンはマシュに続きを促す。
「……この特異点に来て、痛感したんです。
私はやっぱり未熟だと」
始めに船長と戦った時もそうだった。
アーチャー……ダビデに手も足も出ず
ヘクトールには何度も押し留められ
そして、ヘラクレスの攻撃から先輩を守れなかった。
スーパー戦隊の力も無く、サーヴァントでも無い半端者。
この盾で、守るべき物さえ守れずに
わたしは、この場に立っていても良いのであろうか。
わたしなんかより、盾を持つに相応しい人は居るんじゃないか。
その言葉が、頭によぎって離れない。
先輩、陸王さん、角乃さん、竜儀さん。
彼等彼女は英霊で無いのに、わたしより……強かった。
力も、精神も、何もかも。
マシュの手が、静かに震えていた。
彼女の手を見て──僕は、手を力強く握り締める。
《──頑張れ、頑張れマシュ!!》
無責任かもしれない。
もう頑張っているであろう、怖いであろう。
それでも僕は、管制室からずっと応援し続けた。
「……此処で、どの位来た?」
《5合目や、5分もすればヘラクレスが来るが──それまで充分休んでくれ。
テガソードが使えりゃまた変わったんやけどな……》
各所に敷設した回復魔法陣に藤丸は横たわる。
情報を伝えるは巡。
テガソードは巨体のあまり、この誘導作戦では両者の視界を遮るという事で不採用となっている。
故に一人一人の負担も上がっており──
《バイタルは?》
ダ・ヴィンチちゃんが近くにいた職員に伺いつつも自らもチラリとモニターを見る。
ゴジュウウルフの力でも、摩耗は避けられていない。
礼装で藤丸自身も強化しているが、先の戦闘での疲労は取れておらず、いつ限界を迎えてもおかしくはなかった。
「──ヘラクレスと言うのは本当に勇者なのね。
わたしを殺して世界を救おうとするなんて」
藤丸の側に座っていたエウリュアレが、ポツリと呟く。
何言ってんだ、と言わんばかりに藤丸がエウリュアレを見上げるが
エウリュアレは溜め息一つ吐き
「私を捨てて逃げなさい。
私、そもそも弱いし──死んだって後の戦闘に影響は出ないわ。
ヘラクレスはテガソードで無理矢理拘束して、後はちゃちゃっとイアソンを倒しなさいな」
エウリュアレは冷静に言葉を伝える。
今回の作戦はヘラクレスを確実に仕留める為の物。
しかし、ある前提条件──"無犠牲"さえ外してしまえば、エウリュアレは見捨てた方が良い存在だ。
故にエウリュアレはそういった、のだが──
「バカ言え、俺ぁ走らなきゃ行けねえんだよ」
藤丸は起き上がり、再びエウリュアレを抱える。
何よ、とエウリュアレは抗議のために口を開こうとし──
《藤丸君!エウリュアレ!ヘラクレスが来るぞ!!》
ロマンより緊急通信。
瞬間、眼前より飛び出てくるはマシュとヘラクレス。
盾の殴打をヘラクレスは片腕で受け止め──
【オオグマキュータマ!】
ヘラクレスの棍棒が巨大化し、マシュへと直撃。
そのままマシュは地へと凄まじい勢いで叩き付けられる。
「マシュ──ッ!!」
「その暇はないよ、走って!」
船員にキュウレンジャーの力を付与していたのは目にしていた。
故にヘラクレスに付与してないはずは無いが──絶望的すぎるのと、考慮した所で何が仕込まれてるか分からない以上気を付ける以外の対策は出来なかった。
そしてそれは裏目に出た。
ダビデがマシュの方へと向かおうとした藤丸を投げ飛ばし、ヘラクレスの拳を杖で受け止めようとする──が、杖にヒビが入り、ダビデもまた吹き飛ばされる。
「パワー、シュート!!」
「ユニコーンドリル!」
チェンジドラゴンとなっているアステリオスと、ゴジュウユニコーンが共に飛び出し、額の伝説獣のマークから放たれるビームとドリルがヘラクレスへと迫る。
しかしヘラクレスは正面からビームを薙ぎ払えば、ドリル諸共棍棒で二人を纏めて斬ろうとし──アステリオスが咄嗟に盾になって角乃を守るが、それでも二人纏めて近くの木へと叩き付けられてしまう。
《……一瞬で、此方の戦力が半分に……!》
黒髭とドレイクがが藤丸達の前へと並ぶが、それでも状況は最悪。
アタランテとアルテミスの射撃は難なく避けられ、足止めにさえなっていない。
「アタランテ!二人を連れて逃げな!」
「此処は俺に任せて先に行けって奴ですぞ!」
ゴーカイレッドであるドレイクがゴーカイガンをヘラクレスへと向け、黒髭が鉤爪を鳴らす。
「──仕方、あるまい!」
狙いが悟られるかもしれないが、此処まで来たらどうしようもあるまい。
故にアタランテは藤丸ごとエウリュアレを抱えて跳躍しようとする。
しかし、藤丸はドレイク達へと手を伸ばす。
「おい、待て!!」
ユニバース戦士であろうが、聖杯を持っていようが──ドレイクは、英霊では無く人間だ。
そんな彼女が足止めをする、と言うのなら──それは、死を
「マジ・マジ・マジ・マジカ!!」
【マジレンジャー!】
「ザングラソード・快桃乱麻!!」
【ドンブラザーズ!】
「オージャスラッシュ!!」
【キングオージャー!】
炎の鳥がヘラクレスへと直撃し、虹色の切先を描いた斬撃が切り裂き、キングスウエポンが遠くへと吹き飛ばす。
藤丸達の前に降り立つはマジレッドへと変身した陸王、ドンモモタロウへと変身した角乃、そしてクワガタオージャーへと変身した竜儀。
「此処は僕達に任せて、先に!」
「さっきの攻撃まだ痛んでるんだから……許さない!」
「安心しろ、死ぬ前には撤退する!」
各々が武器を構え、ヘラクレスへと向けて駆け出す。
聖杯すら持って居ないゴジュウジャー達。
もしも、もしも命を落とせば──それで、終わってしまう。
「撤退!!」
ドレイクが即座に藤丸を連れて走り出し、後を黒髭達が続く。
何とか走り続ける事で、再びある程度の距離を取る事が出来た。
ふと空を見上げれば、手の形をしたテガソードが飛んでいるのがチラリと見えた。
変形──は作戦により使えない。
となれば、アレは撤退の証。
……誰も、死んで無いよな?と一抹の不安が過るが、強引に頭から振り払う。
再び藤丸は立ちあがろうとし──がくり、と膝をつく。
その様子を見たドレイクが流石に限界が近いか、と肩を貸そうとし──
「良い加減にして!」
エウリュアレの、悲鳴に近い声が響く。
「皆んなして、私を守るために必死になって!
誰もそんな事頼んで無いわよ!仲間意識のつもり!?
私は女神!貴方達は人間!元々のモノが違うのよ!!
私はアナタ達のことなんて何とも思ってない!
────アステリオス、だってアレに近付いたのは打算だったのよ!!」
召喚されて最初に思った事は、どうやったら苦しまずに消えられるかだった。
冗談みたいな状況。
神霊なのに英霊になって、戦う力も無かったのに持たされて。
強い願いがあれば強い力を手に入れられたのか、と存在しない指輪を想起した。
それても最初に出会ったサーヴァントは流石に気持ち悪すぎて、殺されたく無かったから逃げ出して。
そうして、アイツと出会った。
守らせようと思った。
守られる女神だもの、そう思うのは当然。
──けれども、アレは……アイツは。
バカみたい。
ただ名前を呼んであげただけなのに、自ら命を放り出すような真似をしちゃって。
……センタイリング。指輪の力。
同じ神だもの、ある程度の事は分かるわ。
強い願いに応えて、指輪が答える力。
…………私を守る為に、彼は英雄になった。
「……だか、らっ…………」
けれども彼は大英雄じゃない。
いつ殺されてもおかしくはない。
だから、だから。
誰かが犠牲になってしまうのなら
私が──私だけで、終わらせてしまいたかった。
女神の目から流れる、熱く透明な液体──涙を見て、ドレイクは笑う。
「アンタらは綺麗だね。
別れを惜しめる、別れたくないって思える
海での別れなんて唐突さ、砲弾喰らって、波に攫われて、果ては行き先見失って
それとは逆に、ダチを殺す決断に迫られることもあるだろうよ」
ヘラクレスが、再び藤丸達の背後へと降り立つ。
もう話してる時間は無いか、とドレイクは両手にサーベルと銃を持つ。
「黒髭、後は頼んだよ。
──さて、アタシも見せるとするか。海賊の生き様って奴を!!」
ヘラクレスが走り出し、ドレイクもまた駆け出す。
黒髭はドレイクを一瞥すれば、藤丸を掴んで走り出す。
アタランテとアルテミスが矢を放って援護をするが、やはり意味を成すことは無い。
──また、失う。
手が届かずに。
オルガマリーへと届かなかった手を瞬間的に思い出した藤丸は、声にならない声と共にドレイクへと手を伸ばし──令呪の、輝きを見た。
強くなりたいのはそれだけじゃないんです。
願いを、わたしはまだ見つけていません。
皆さんが焦がれて、手を伸ばすような願いがわたしにはありません。
──ですが。
先輩を、皆さんを護りたい。
どれだけ怖くて辛くて痛くて泣きたくて逃げたくても
護りたい。
──それが、今のわたしの願いなのかもしれません。
「──アンタ、その格好」
大英雄の一撃は、揺らぎなき盾により遮られる。
シールダーの姿は新しくなり、黒き盾がより増している。
《霊基、再臨……!》
願いを裏切らない為に
例え指輪が無くとも、わたしは護り続けます。
それがマシュの答えであった。
英霊が力を貸したのか、マシュの経験の積み重ねか。
全ては不明、されど力は確かに増した。
盾が大英雄の一撃を跳ね返し──盾の一撃が、ヘラクレスを吹き飛ばした!!
区切りの良い場所まで書いたら少し長くなりました